星=コンパスとしての、死んだ父~『流れ星』第5話
地味ながら、初回からここまでジワジワと人気上昇。第4話で遂に視聴率
15%に乗せたフジ・月9『流れ星』。第5話も、あの内容なら少なくとも14%
前後だろうと思ったら、まさかの過去最低、12.6%に下落。しかも別に、
強力な裏番組が出現した訳でもないのだ。
う~ん、キレイな星空が強調されなかったからか、あるいは梨沙(上戸彩)
の太腿サービスが無かったからか♪ 瑞希(川口春奈)のセーラー服コス
プレや、美奈子(板谷由夏)のホテル制服なら、ちゃんとあったのにね。兄・
修一(稲垣吾郎)の夜の活躍をカットしたのもマイナスだったかな。いまだ
に人気を保つジャニーズ・グループの代表、SMAPの一員としては、あの
くらいが限界だと思うけど。
ちなみにあの短いシーン、物語的には一見ちょっと無理があって、まるでテ
レビドラマのような展開♪ ただ、あの看護師(北川弘美)は、「だめんず」
=ダメ男好きって設定に加えて、経験が無かったんだろう。白いシーツと赤
い色の鮮明な対比が、それを仄めかしてた。次は病院内で、ナース制服の
ままやってくれるだろう。あっ、キスのことネ。
ともあれ、私としては今回も満足☆ 中盤、涼太(桐山照史)が献身的にマ
リア(北乃きい)をサポートする姿も良かったし、終盤の「オレンジ色の海」
もちょっとウルウルしてしまった。どうせなら、もっとキレイなオレンジ色の
湖を映せば良かったとも思うけど、ロケの天気・予算・日程に恵まれなかっ
たのか、あるいは、あまり夕日が落ちた状態だと、俳優の表情が分かりに
くいからか。テレビ広告費の減少には、ここ半年、歯止めがかかってるし、
勝ち組・フジテレビは、他局ほど制作費を削ってないんじゃなかったかな。
まあ、オレンジ色の海はかなり幼い時のことで、今となっては脚色された
心象風景だから、あの程度のオレンジ色でもおかしくはない。ふと思った
のは、オレンジって色、意外に暗さとの相性がいいなってこと。これまた地
味にいい作品だった、亀梨和也&綾瀬はるか『たったひとつの恋』の第2
話、オレンジのイガイガ(=夜店のヨーヨー)とか、思い出してた。あの時も、
夜のオレンジの淡い光が、温もりや微妙な愛情を上手く表現してたわけだ。
山梨県のオレンジ色の海というのは、特に有名なものでもないようで(山
中湖のそれらしき写真なら発見)、わざわざコネタとして挟んだってことは、
「海」に向かう全体的流れと、ダジャレ=落語もどきの強調だろう。山梨県
=海無し県。「早慶戦、良かった」「そうけい?」♪ あれほど具合が悪い
所を見ても、涼太はやっぱり、終盤でお星さまになるのかな。
最後はまた落語かダジャレで、マリアを泣き笑いさせて、お葬式には写真
の代わりに、マリアが描いた涼太の絵が飾られる。その下には、「涼太の
『自画像』 (肖像画 by マリア)」の文字とか。流石に、死んだ後で「林家
正蔵画」なんてダジャレは使いにくいはず。林家正蔵(9代目)、2005年
まで使ってた前名は、こぶ平。初代・林家三平の長男で、家族・親戚など
も有名人だらけの伝統ある家系だ。言葉遊びのネタに使う際にも、おの
ずと限界があるだろう。
ちなみに、オレンジ色の海のシーン。オープニングロールで、演出家が宮
本理江子に戻ったのを見てたから、私にはやっぱり『BEACHBOYS』のイ
メージと重なって見えた。少し離れてポツンとしてた梨沙まで仲間に入れて、
浅瀬でバシャバシャやってる姿は、13年前にビーチではしゃいでた、竹野
内豊・反町隆史・広末涼子・稲森いずみを、明暗裏返しにしたもの。他に
も、途中で一瞬映った岡田家の中の映像が、『ビーチボーイズ』の民宿ダ
イヤモンドヘッドそのものだ♪ 風でカーテンが揺れる感じだったかな。
☆ ☆ ☆
ところで、このドラマ。純愛もののはずだけど、ここまで主人公2人の愛情
表現は徹底的に抑制されて、むしろ「死の香り」がそこはかとなく漂ってる。
健吾は一応、大丈夫として、梨沙・マリア・涼太は肝臓の問題があるし、修
一と「お星さま」の関係は、前回細かく説明した通り。『星の王子さま』が最
後、ヘビに噛まれて星空に消えることを考えると、高校の美術室の妙な作
品も、毒蛇の象徴のように見えるのだ。しかも、上方向、つまりお星さまの
方向を体現している。
そして今回、新たに持ち込まれた死の香りが、健吾とマリアの父のお墓。
名前が「KENSUKE MIZUNO」と書かれてた気がするけど、「水野健介」
が本名なのかな。じゃあ「岡田」は、健吾とマリアの母・和子の名字ってこと
か。それはさておき、死んだ父が、裏に「to Kengo」とか刻んだコンパスを
残してくれて、しかもそれをお墓のそばで健吾が見てたのも印象的だった。
コンパスと言っても、あれはちょっと洒落た携帯用の方位磁石であって、本
格的な羅針盤ではない。とはいえ、進むべき「方向」を指し示すものであっ
て、健吾がそれを欲しがってたというエピソードを考え合わせても、どこか
に誘う小道具なんだろう。
「死んだ父」が子供に方向を示すという話は、フロイト派精神分析の自我論、
発達理論の中心でもあって、その点については既に3年半前、キムタク=
木村拓哉『華麗なる一族』第8話レビュー、「死と再生」で詳しく説明してある。
個人的な倫理・規範や、目標・ライバル、愛憎の原型。あるいは社会的な約
束事の象徴。死んだ父は様々な機能を果たし得る。
そう言えば山梨県のあの辺りは、娘・マリアにとっても、自分の進むべき道
を決める場所になってた。梨沙さんから何も貰わない、移植しない、ドナー
なんて要らない。。
あのカット、むしろ梨沙の方が可哀想に見えたのは、私だけじゃないだろ
う。映し方もそうなってた。クラゲのように生きてた梨沙がやっと見つけた、
「存在意義」(レゾン・デートル: raison-d'etre)の否定。わずか300万円と
か400万円の金で肝臓を分けてあげようとしたのに、激しい拒絶。「何も貰
わない」という言葉はもちろん、前回ラスト、梨沙に付けてもらった星(ネイ
ルストーン)を落としたことをも意味してる。
私の見間違いじゃなければ、マリアが落とした星は今回、梨沙の爪に付い
てたはず。マリアが落とした時点で、マリアの「希望の星」としての働きは
一旦消えた。また、拾って爪に付けた梨沙が拒絶された時点で、梨沙の
「希望の星」としての働きも果たさなくなる。300万円貰って借金返済&イ
メクラ脱出は出来たものの、それなりに好意を持ってる人の役に立つとい
う経験が出来なくなるし、健吾との微妙な結びつきも、一気に消え失せか
ねないわけだ。そうなれば帰る家も失うし、「ヤバイ」ご飯を食べたり作っ
たりすることも出来ない。
話をコンパスに戻すと、父の墓やコンパスは、別に「死」という方向だけを
表すものではなく、「星」を表すものでもある。死んだ後はお星さまだし、遥
か昔から、星こそが大自然のコンパスだったのだから。おまけに、単なる
星ではなく、『イノセント・ラヴ』みたいに火事で死んだ浮気相手の女性と一
緒だから、現在2つの星からなる小さな星座。つまり、既にこれまでのレ
ビューで書いて来た通り、流れ星が行き着く先としての安定したまとまりだ。
その小さな星座をコンパス=道しるべとして、幾つかの流れ星がそこに、
あるいはその周囲に、落ち着き所=星座を見出して行く。「2つ星の星座」
そのものでもいいし、ちょっと別の星座でもいい。あるいは、父という星を
共通に持つ新たな星座を、隣接させる形でもいい。
もっと具体的に分かりやすく言うなら、涼太が死んだ後、マリアが命の重
要性を再認識して、自分に命を与えてくれた父と実母への感謝を新たに
自覚する。この時、涼太は2つ星の星座に加わった3つ目の星になるわ
けだ。もし同時に、まだ生きてる「父」と母、つまり健吾と和子に対しても、
マリアが同様の思いを抱くなら、その時、健吾と和子とマリアは、地上の
星座を作ることになる。ただし、その配置や色具合は、空の2つ星・星座
と似てるだろう。
もちろん、2つ星の星座を、浮気というより「純愛座」として見るなら、それ
と似た外観の関係=星座を、健吾と梨沙が築く可能性もある。さらにこの
「岡田カップル星座」が、「純愛座」と一体として考えられるようになれば、
これら2つは、父星を共通に持つ、隣接する星座になるだろう。
なぜか早くも、「流れ星 最終回」といった検索アクセスが時々入ってるけ
ど、私がこのドラマのラストを思い描く時には、上のようなレベルで考えて
る。もちろん同時に、水族館から海に向かう地上の展開も考え合わせてる
わけだ。第3話レビューのタイトル通り、思考や想像は大きな軌跡を描くこ
とになる。水族館から海へ、流星から星座へ。。
☆ ☆ ☆
このドラマ、何とも微妙な味わいがあるのは、脚本の特殊な事情があるよ
うな気がする。去年、まだ臼「田」素子と表記されてた臼井素子が、フジテ
レビのヤングシナリオ大賞・佳作を取った作品『クラゲマリッジ』に、別の若
手である秋山竜平が加わり、更にベテラン・伴一彦が脚本監修という形で
手助け。当然、演出の宮本らも加わってるだろう。多分、元の脚本はかな
り違う話だったんじゃないかな。
ただ、ここまでは共同作業が上手く行ってる。ツギハギと言うより重層的
で、様々な個別の話が上手く重なり合ってるし、古さと新しさの混ざり具合
も絶妙だ。ついさっき、「流れ星 名作」という検索が入って来たけど、名
作とまで言えるかどうかはともかく、ユニークな秀作になりそうな気はする。
この先の後半で難しいのは、修一の扱いだろう。個人的にマニアックな興
味を抱いてるのは、あの変な美術作品だ。気になって、夜も眠れない♪
最後に、ドラマ冒頭に出て来た小ネタについて。クラゲは脳が無いけど、
音に反応するとか。ネット検索だと、信頼できる科学的情報が見当たらな
いけど、音を使うクラゲ研究が行われてるのは確かなことらしい。ただし、
正確に言うと、「音」というよりも、クラゲにとっては「波動」だろう。
音波という物理現象(媒体の振動の伝搬)は、人間の聴覚器官と脳にとっ
ては音として聞こえる。でもクラゲには、水の波動、つまり単なる波の動き
や振動として、神経に感じ取られるはずだ。その意味では、ごく自然な話。
ま、クラゲに波動を当てると言うより、音楽を聴かせると言った方が夢があ
るし、ドラマ的な伏線としても使いやすいけどね。手術の後とか、意識を失っ
た梨沙に、健吾が音楽を聴かせるのかも。そういえば、これまた2年前の
『イノセント・ラヴ』にあった話だな。
来週はいよいよ、梨沙と健吾が接近して、修一が激しく嫉妬。写真をビリビ
リに破りつつ、2人の仲を妨害するって展開か。それをナースが手助けし
て、真面目な医師・神谷(松田翔太)が阻止するとか。あんましドロドロした
暗い方向に持って行かれても困るけど、たぶん大丈夫だろう。第6話も今
から楽しみだ♪
なお、新・江ノ島水族館では、もうすぐクラゲ関連のイベントが開かれるよ
うだし、クラゲの壁紙もダウンロードできる。人気が盛り上がるといいね。
ではまた。。☆彡
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
cf.主役と演出家が再会、『ビーチボーイズ』の変奏~『流れ星』第1話
(計 4767文字)
| 固定リンク | 0
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 1+2+3+4+・・・=-1/12、オイラーの数式とラマヌジャン総和法による「証明」~NHK『笑わない数学2』第7回(2023.11.30)
- 円周率 πと自然対数の底eが代数的数でなく超越数であることの証明(背理法)、円積問題~NHK『笑わない数学2』第5回(2023.11.22)
- ケプラー予想の前に平面充填問題、どんな四角形でも平面を埋め尽くせることの幾何学的証明~NHK『笑わない数学2』第6回(2023.11.18)
- 結び目理論の指紋、アレクサンダー多項式と交点の数、領域、行列式の計算方法、べきと符号の正規化~NHK『笑わない数学2』第4回(2023.11.03)
- T・DK、トラちゃんウサちゃん50mバトンリレーで勝利!、熱い女性リーダーと社長・会長の応援で(NHK『魔改造の夜』)(2023.10.28)
「芸能・アイドル」カテゴリの記事
- アリス・谷村新司追悼~ボクシングの曲『チャンピオン』の歌詞モデル、カシアス内藤の引退試合(沢木耕太郎『一瞬の夏』より)(2023.10.17)
- 外資系FTIコンサルティングとジャニーズ事務所、「氏名」NG記者リストの感想&11km走、1km4分半バトル(2023.10.05)
- ライオンの娘がシマウマ・・藤島ジュリー景子も被害者だったのか?&10月の残暑で9kmラン(2023.10.03)
- ジャニーズ事務所の新社長・東山紀之、記者会見で覚悟と誠実さは見えたが、前途多難・・&11kmジョグ(2023.09.08)
- 再び残暑7kmジョグ&短い芸能つぶやき(2023.08.30)
コメント