同じ数ずつ分ける計算、割り算(除法)~小学校の算数4
数学者ペアノの自然数論の追求から始まって、小学校の足し算・引き算・
掛け算まで記事を書き終えたのが、去年(2010)の9月18日。それから、
4ヶ月近くも経ってしまったが、正月明けの連休の今日、ようやく小学校の
割り算(=除法)を扱うことにしよう。
現行の義務教育のカリキュラムで、「わり算」が正式に導入されるのは、小
学3年生の算数だ。代表的な教科書の一つ、『新編 新しい算数 3上』(東
京書籍)を見ると、第3章が「わり
算 新しい計算を考えよう」。まず、
前置き的に「『分けた』ことがある
かな?」というページ(ほとんど絵)
が置かれた後、きっちりした説明
のスタートはp.23。クッキー15
個を3人で「同じ数ずつ分ける」話
になってる(短く言い換えるなら、
等分)。
この表現から、割り算の本質が2つあることに気付く。一方は、「同じ数ず
つ」集まった状態(or 集合)を考えること。他方は、「分ける」ことだ。
☆ ☆ ☆
まず、「同じ数ずつ」集まった状態を考え始めたのはいつなのか。「一つず
つ」という基本的過ぎる場合を除くと、小学校1年の教科書(『新編 新しい
算数1』東京書籍)で最初に出て来るのは、53ページ中央の写真だ。そこ
では説明抜きで、ヨーグルト「2個ずつ」が10パック、リンゴ「5個ずつ」が
4皿(or盆)、写されてる。実際の授業では、教師が「5個ずつ4皿に分けら
れてますね」とか説明を加えるのだろう。
もっと意図的な教育として、「同じ数ずつ」集まった状態が登場するのは、
同じく1年の教科書の第12章「20より おおきい かず」だ。鉛筆に似た
棒が多数あり、それを数える話からスタートする。
既に20以下については、第6章「10より おおきい かず」で扱われてお
り、そこでは例えば、10個+7個で17個と数えるやり方が導入される。
十ずつ集まるごとにケタが進むように数える方法、いわゆる「十進法」だ。
それを用いて、第12章で20より大きい本数を扱う時、まず「10本ずつ」
で2束作って、残りが7本、よって合計27本、といった流れで教えられる。
つまり、大きい数を十進法で表すこと自体が、「同じ数ずつ」集める操作
を学ぶ上で重要な役割を果たしてるわけだ。
一方、同じ数ずつに限らず、何らかの形で「分ける」ことのスタートは、引
き算だと考えられる。実際、引き算を教える際には、元の個数を2つに分
ける行為を示す絵が使われてるのだ(単に分かれてるのではなく)。「7-4
=3」という数式だと、分けるというイメージ(観念)を持ちにくいが、7個の
物から3個取り除く動作の絵は、端的に3個と4個に分ける作業を表してる。
算数とか数学を考える際、言語、数式、記号のレベルで考えることがほと
んどだが、基礎的な教育にせよ日常生活にせよ、実際にはより素朴なも
のとしてのイメージ(図像)が、重要な役割を果たしてるのは間違いない。
☆ ☆ ☆
こうして、小学1年から少しずつ、「同じ数ずつ」集めること、「分ける」こと
を、学んでるわけだが、3年で割り算を導入する前には、他にも興味深い
話が導入されている。それは、単位と測量だ。
例えば、ある物の長さを測って5cmとすることは、まず1cmという単位の
長さを決めた後、物の長さを単位5つへと分けることだ。物の長さと単位
の長さ、これら2つが所与のもの(=先に与えられたもの)だから、これは
掛け算ではなく、実質的には割り算になる。ただ、この話はしばらく後で、
物理学の基礎を考え直す際に扱うつもりなので、ここではこの程度に留め
とこう(単位の問題については、かなり突っ込んだ記事を前に書いてある)。
様々な準備作業の後、3年の第3章で割り算を導入する時、まずクッキー
15個を3人で分ける絵が示された後、第1節は「1人ぶんの数をもとめ
る計算」(=等分除)となってる。最初の問題は、なぜかクッキーの数が3個
減って、12個を3人で分けると1人分は何個か、というものだ。
もちろん、答えは4個だが、そこに至るプロセスを示す絵が興味深い。い
きなり12個を4個ずつ分けずに、まず1個ずつ3人に配って、残り9個の
状態にする。この「1個ずつ」配る操作を4回繰り返して、結果的に4個ず
つに分けるのだ。
これはまず、文字通り「実用」的な分け方である。確かに、沢山の物を複
数の人間に分ける時、1個ずつ配る操作を繰り返すのは、子供の頃によ
くやったことだ。全員が同じ数だということが分かりやすいし、元の個数も
割り算も必要ない。と言うより、まったく計算が要らないのだ。1個取るこ
と、順番に配ること、この2種類の最も単純な動作だけでいい。
おまけに、その絵や考え方は、割り切れない場合、つまり、「余り」のある
割り算への導入にもなってる。実際、元の12個から、3個ずつ3人に配ら
れた状態では、残りは3個。この絵から、しばらく後で、元が「11個」の場
合の絵に進むのは簡単だろう。当然、3個ずつ3人に配られた状態では、
残り2個であって、これはもはや、1個ずつ配ることはできない。この、人
数(=割る数)より少なくなった残りのことを、「余り」と呼ぶわけだ。
とにかく、絵を用いて、1個ずつ3人に配る操作を4回終えた後、「まとめ」
の枠組の中に、こうまとめられる。
12このクッキーを、3人で同じ数ずつ分けると、
1人ぶんは4こになります。
このことを式で、次のように書きます。
12÷3=4
「十二 わる 三は 四」 (p.24)
☆ ☆ ☆
上の問題と次の問題では、クッキーにせよ、おはじきというやや抽象的な
物にせよ、複数の物を実際に分配している。それに対して、実質的な3問
目(教科書では、四角で囲まれた2番)で、掛け算との関連が示される。
いちご20個を5人で同じ数ずつ分けると何個かという問題。
(1人ぶんの数)×(人数)=(全部の数)
という式にあてはめて、1人分が1個の時、2個の時、3個の時と考えて行
き、最後に4個の時へと到達する。
「1人ぶんが・・・4このとき 4×5=20」。
その後、よくある形の説明が登場する。
「20÷5の答えは、□×5=20の□にあてはまる数です。
20÷5=4 答え 4こ」。
すぐ下の「まとめ」では、「20÷5の答えは、5のだんの九九で見つけられ
ます」とある。こうして、いわゆる「掛け算の逆の計算(逆演算)としての割
り算」が導入されるわけだが、この話がちょっとだけ後回しになってる点に
は注意しときたい。つまり、高級な数学の理論構成はともかく、算数教育
のプロセスとしては、割り算のスタートはあくまで「同じ数ずつ分ける」こと
であって、掛け算など使ってないのだ(教科書でお馴染み、新興出版社・
啓林館のHPでもそう指導されてる)。
むしろ、最も本質的な計算は引き算だろう。余りがゼロになるように分配
するわけだから、「初歩的な」割り算の答えを探す時に重要なのは、余り
の計算。つまり、引き算なのだ。ただ、「いくつ引くか」を手際よく計算する
ために、掛け算が使われることになる。
20個のいちごを、5人で分ける時、2個ずつ配ると余りは10個。ここで、
「20-(2×5)=10」と計算する時、初めて掛け算が役立つわけだ。そし
て、「20-(4×5)=0」、つまり余りがゼロになる時には、(式変形など使
わず最初から)「4×5=20」という式を書く。こうして、「20÷5」の答えが、
「5をかけて20になる数」だとされる。
話を教科書に戻すと、「まとめ」のすぐ下に、可愛いキャラクターの絵と共
に、「□×5=5×□だね」とある。これが実は、次節の何気ない準備になっ
てる。
☆ ☆ ☆
第1節は、「1人ぶんの数をもとめる計算」だったが、第2節は、「何人に分
けられるかをもとめる計算」(=包含除)。これは、数式にしてしまうと同じ
割り算とも考えられるが、元は確かに、少し違う話だ。
そろそろ時間が無くなって来たので、第1節と同様の巧みな図は省略して、
いきなり「まとめ」を見るとしよう。
12このパイを、1人に3こずつ分けると、
4人に分けられます。
このことも、わり算の式で、次のように書きます。
12÷3=4 (p.27)
そのすぐ下には、「12をわられる数といい、3をわる数といいます」と説明さ
れ、かけ算の場合の呼び名と対比されている。「3×4」で、左側の3を「か
けられる数」(=被乗数)、右側の4を「かける数」(=乗数)と呼んで区別す
るのは、割り算の時の呼び名(被除数と除数)と合わせる意味もあるのか
も知れない。つまり、左側の数が受動形(~される)、右側の数が能動形
(~する)というわけだ。
次のページでは、いちご20個を5個ずつ分ける問題がある。第1節では
5人に分ける問題だったのを、第2節では5個ずつ分ける問題へと変えて
るのだ。もちろん答えは同じだが、説明がほんの少し違ってる。
20÷5の答えは、5×□=20の□にあてはまる数です。
20÷5=4 答え 4人
第2節では、「5×□」が出て来るからこそ、第1節で「□×5」と説明した直
後に、「□×5=5×□」などという意味ありげな式(乗法の交換法則)が書
かれてたというわけだ。
第3節は「何倍かをもとめる計算」だけど、これは第2節と似たような話だろ
う。スチール缶36個がアルミ缶9個の何倍か?、と言うと、かなり違う話に
見えるが、要するに「36個は9個の何倍か?」、つまり、「36個を9個ずつ
分けると何組になるか?」という話だからだ。問われてるのは割り算ではな
く、抽象能力。スチールとアルミの違いを捨てる(=捨象する)能力だ。
ちなみに、第1節の「1人分の数を求める割り算」を、教育理論的に「等分
除」と呼ぶのは分かりやすいが、「何人に分けられるかを求める割り算」を
「包含除」と呼ぶ理由は分かりにくい。おそらく、余りがある場合が普通だと
想定してるからではないか。7コを2コずつ配るのなら、3人に分けられて、
1コ余る。この時、配られる総数は6コで、元の数7コに含まれる(=包含さ
れる)。こうゆう意味で、包含除と呼ぶんだろうと思うが、差し当たりは仮説
にすぎない。。
☆ ☆ ☆
最後に、0の割り算について。第2節の最後に、「0や1のわり算」という項
目があって、0個のクッキーを同じ数ずつ4人で分けると0個になることが
丁寧に示されてる。つまり、元が8個なら、8÷4=2。元が4個なら、4÷4
=1。そして、元が0個なら、0÷4=0。元の数が4個ずつ減る度に、一人
分が1個ずつ減るから、分かりやすいと言うより、「多少、分かった気になり
やすい」説明だろう。0を0でない数で割る計算の答えは、一般に0なのだ。
一方、この教科書も含めて、多くの小学生向けの本では、「0で割る計算」
には触れてない。私が書店で参考書を探してみると、「0でない数を0で割
る計算」(例えば1÷0)の説明には、「一応」2通りあった。一つは、答えが
ない、とするもの。もう一つは、そのような計算はない、とするものだ。確か、
前者が教学研究社で、後者が学研だったと思うが、調べたのが数ヶ月前
で、書名を忘れてしまったので、後でまた調べて補足したいと思ってる。
(☆追記: 答えなしが、教学研究社『高学年 算数 小学事典』。
そんな割り算はないとするのが、
学研=学習研究社『基礎から発展 まるわかり小3算数』。)
出典はさておき、「答えがない」という説明は、計算を定義して初めて成立
するもので、要するに掛け算の逆として割り算を考えてるわけだ。「□×0
=1」の□に入る数はないから、答えがないということになる。
けれども、0での割り算に別の定義を与えるなら別の話であって、例えば割
り算の第2節に戻って、1個を0個ずつ分けると考えれば、無限に多くの人
に分けられるとも考えられるから、答えを無限大とか無数としても不思議で
はない。「余り」は、ゼロでも1でもいいだろう。
そういった概念や考え方が、小学生には難し過ぎるというのなら、カリキュ
ラム上、後回しにすればいいだけのこと。「1÷0については高校で習う」と
か説明すればいいだろう。もちろん(小学校の)教科書では省いてよい、と
言うより、省いた方がいい。枝葉の話で無用な混乱を招くだけで、焦点が
ボケてしまう。
一方、「計算がない」という説明は、一見、別の話のようだが、実際の説明
を読むと、「答えがないから計算を考えない」の短縮表現になってる。要す
るにこちらも、答えがないと言ってるのだ。
しかし、答えがないという説明は、「0を0で割る計算」の場合には困ること
になる。「□×0=0」の□に入る数は任意(何でもOK)だから、「答え 任
意の数(or すべての数)」でもいい気がしてしまう。
いずれにせよ、0で割る計算の問題は、予想以上に厄介で、無限も含め
た「極限」の話、あるいは理論体系の整合性などの話と絡んで来る。この
記事はあくまで、小学校の算数の記事だから、この程度で終わりとしよう。
もちろん、既に少しは考えてるので、しばらく後に記事にしたいとは思って
る。ただ、ちょっとキワモノ的な感じもあるから、記事のネタの優先順位と
しては低い。
なお、もっと普通の話に戻って、余りのある割り算については、もう上の説
明で終了としとこう。同じ数ずつ分けた時、余りがないことより、余りがある
ことの方が普通だから、ここまで使った教科書で言えば、第8章で登場す
る。余りは「あまり」とひらがなで書かれており、「・・・」という記号はまだ登
場していない。
ちなみに、割り算の余りというのは、自然数(あるいは整数)の範囲の話で
あって、やがて小数や分数を習えばほとんど出なくなる。小学校卒業後の
「数学」で、少しだけ「剰余」の話が出るだけだ。剰余系とか剰余定理とか。。
☆ ☆ ☆
以上で、小学校の算数だけで4部作が揃ったことになる。足し算、引き算、
掛け算、割り算。では、図形の方はどうなってるのか。今度はそちらも気に
なって来るが、私はむしろ、個人的に物理の話を書きたくなってるのだ。
これまで何度も書いて来たように、物理記事というのは、ドラマ関連を除く
と奇妙なほど不人気で、これは物理学という学問自体が不人気なことと関
係してるだろう。ただ、物理は自然科学の基本というより、自然科学そのも
のといってもいいし、数学や哲学との関係も深くて長い。また、テレビ番組
と関連して話題になることも珍しくないのだ。昨日まで再放送されてた、福
山雅治のドラマ『ガリレオ』にせよ、数学の難問で物理とも関連が深いポア
ンカレ予想を扱った、『NHKスペシャル』にせよ。
単なる趣味のブログだし、他の多くの記事で十分なアクセスが入ってるか
ら、物理記事にアクセスが少なくてもさほど困らないけど、やり方次第でそ
れなりの人気は集められると思ってる。これまで、あまりにも数学に偏って
たから、バランス調整の面でも、もう少し自然科学を扱うべきだろう。もち
ろん私は、人文・社会系にもスポーツにも、十分な関心を持ってるわけだ。
と言うわけで、次は物理系の記事を書く予定。この記事の流れを継いで、
「小学校の物理(or理科)」にするか。あるいは高校・大学レベルの話にす
るか。これから考えるとしよう。
なお割り算の筆算については、前に世界各国の違いを記事にして、意外な
ヒットになった。あちこちでリンクも頂いてる。ともあれ、今日はこの辺で ☆彡
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
P.S.割り算が掛け算の逆演算だという話を、簡単に形式的に証明しよう。
まず、x (エックス)を2倍する掛け算は、 f(x)=2 x と定義できる。
一方、2倍すると x になる数を求める計算、つまり、x ÷2の割り算
は、g(x)=1/2 x と定義できる。
この時、一般に、g(f(x))=1/2×(2x)=x
つまり、合成関数 g(f(x))は、変数 x を全く変えない恒等関数。
よって、g(x)はf(x)の逆関数。つまり、2で割る割り算は、2倍する
掛け算の逆演算である。
同様の論法で、0でない数で割る割り算は一般に、その数を掛ける
掛け算の逆演算である。
自然数に関するペアノの公理~論文『数の概念について』に即して
0、1、「次の数」に関する哲学的考察~フレーゲ『算術の基礎』
(計 6750文字)
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