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もしブログの男子マネージャーがドラッカーの萌え版『もしドラ』を読んだら♪

私が初めて、青い表紙に萌え系の女の子がたたずむ奇妙な本と出会った

のは、本屋だったと思う。平積みになった本の表紙をペラッとめくると、今

度は3人の萌え系女子のイラスト。目次と本文を数秒見て、すぐ元の場所

に置いた。女の子が趣味じゃなかったから・・・じゃなくて、内容が論外だっ

たからだ♪

      

2009年12月3日に初版発行のこの本は、その後、あちこちで話題になり、

10年夏には100万部突破。12月には、電子版も含めて200万部(ダブル

ミリオン)まで達成して、著者岩崎夏海はNHK紅白歌合戦の審査員席に

登場。意外な外見に意表を突かれたのは、私だけじゃないだろう。萌え系と

は関係なさそうな、ごくフツーのおじさんだったのだ。

     

110220

  この本こそ、「もし高校

  野球の女子マネージャー

  がドラッカーの『マネジメ

  ント』を読んだら」、通

  称、『もしドラ』だ。

  たとえ自分の持ち物の縮

小写真であれ、ブログへの掲載は著作権的にビミョーだが、今さらこの写

真で生じる逸失利益はほぼゼロだろうし、ダイヤモンド社は既に数億円の

純利益をあげてるはずだ。「金持ちケンカせず」。見逃してくれるだろう♪

単なるお飾りで掲載したわけでもないのだ(後述)。

     

話を戻すと、年末に紅白で著者を見た後、たまたま身近な人間が、自分も

読んですごく面白かったと言ったのだ。職場の上司に勧められたという話

で、貸してくれると言うから、ほんじゃ読んでみようかって流れになった。以

前、私が数秒で見切ったこの本の何が200万人もの購読者を引きつけ

たのか、興味があったからだ。もちろん、流行遅れではあっても、一応ブロ

グのネタになるなという計算はあった。

         

で、正月休みのまったりした空気の中、マニアック・ブログの男子管理人

(マネージャー)が、全文272ページを2時間半ほどで読んだ感想と結果

はどうだったか。。

     

         

         ☆          ☆          ☆

まず最初にじっくり見たのが、表紙というか、カバーのイラストだ。イラス

ト・ゆきうさぎ(おそらく女の子の絵)、カバー背景・益城貴昌(Bamboo)、

デザイン・荻原弦一郎(デジタル)、3人のコラボのカバーイラストは、私が

自転車で何十回も走って来た、多摩川の風景に似てる。上流の川と、下

流の土手の合成って感じだろう。これでまず、私のイメージは少し上昇♪

    

さらに、表紙をめくった所にあるイラストは、改めて見直してみると、可愛く

ないこともない♪ いや、別に萌えるほどじゃないけど、腹も立たないなっ

て程度のことだ。イラストは他に、本文序盤と終盤に1枚ずつあるが、この

最初の1枚が一番マシだろう。これで更に、少しイメージが上がった。みな

みのウェアと、友人・夕紀らしき女の子の茶系ロングヘアは、一応見れる。

       

しかし、目次でガクッと来て、その後、本文を数ページ読んだ所で、投げ出

したくなった。あちこちで言われてるように、あまりにも文章が稚拙なのだ。

具体的に指摘すると、一番最初にある「プロローグ」の最初の6つの文が、

全て「・・・た」で終わってて、しかも簡単で短い。これは明らかに、小学校の

3、4年生レベルの文章だろう。試しに、このブログ記事の文末を見て頂き

たい。「・・・た」の連発なんて、一つもなくて、体言止め(=名詞での終了)な

ど、変化を付けてある。この段落だけでも、文末は、た、だ、い、う、い、る。

すべてが異なってる。

       

もちろんマニアック・ブロガーたるもの。ここで「下らない」と吐き捨てておし

まいにする訳ではなく、直ちに著者のプロフィールを確認。すると、ホホーッ

と納得することになる。東京芸大・美術学部・建築学科卒。秋元康に師事。

テレビの人気番組の放送作家、AKB48のプロデュース、ゲーム・ウェブの

開発などに携わって来たとのこと。つまり、通俗路線で一般ウケを狙うプロ

フェッショナルなのだ。

      

それなりの実力と実績のあるプロが狙いすまして書いて、「予想通り」(本人

談)の大ヒット。これは、たとえ個人的にくだらな過ぎると思ったとしても、一

読に値するだろう。今の世の中、何がウケるのか。ちなみに、元の経営学

の著作であるドラッカー『マネジメント』が大ヒットしたという話は聞かないし、

私に貸してくれた知人も見向きもしてない♪ あくまで『もしドラ』人気なのだ。

         

          

          ☆          ☆          ☆

では、いよいよ、本文の内容を見て行こう。当然、かなりネタバレになってる

ので、悪しからずご了承を☆ 最初、僅か2ページのプロローグで、主人公・

川島みなみの簡単なプロフィールが早くも登場する。高校2年生の夏休み

前、思いもよらない事情で野球部のマネージャーになった途端、「甲子園に

連れていく」という「使命」を持ったのだ。

                    

これだけでも、ゲーム的な構成を感じ取れるだろう。ここから先は、色んな

道具や技を使って、各ステージをクリア。楽しみながら、分かりやすいゴー

ル地点を目指して行くわけだ。主たる道具が、ドラッカーの『マネジメント

に含まれた様々な内容であることは、言うまでもない。

        

第1章みなみは『マネジメント』と出会った」では、これまたすぐ、東京西部、

多摩の丘陵地帯の公立高校が舞台だと示されて、偏差値は高いが、スポー

ツはさっぱり。まさに、主人公の女の子と同じなのだ。みなみはいきなり、

みんなに甲子園への使命を語るが、当然相手にされない。でも、手元には、

頼りになりそうな本がある。

       

本との出会いも、ほとんどマンガ的なものだ。「マネージャー」を辞書で引く

と、管理人、経営者など。そこで本屋に行って、「世界で一番読まれた本

として『マネジメント』を勧められ、中身も見ずに買う。

   

私に言わせれば、これが「世界で一番『読まれた』本でない」のはほぼ間

違いない。むしろ、一番「売れた本」、あるいは、一番「読んだと言われた」

本だろう♪ というのも、実際にみなみと同じエッセンシャル版(=要約本)

『マネジメント』を見ると、とても世界一「読まれ」そうな内容ではないし、『完

全本』はほとんど読まれてなさそうだからだ。図書館で調べると、分厚い本

にギッシリお堅いビジネス論が詰まってるし、大昔の本なのに、借りた人は

ほんの僅かしかいない♪

   

更に言うなら、日本版ウィキペディアはもちろん、英語版ウィキでさえ、ドラッ

カーの思想内容の説明が少ししかない。本当に世界一「読まれた」のなら、

世界各地から英語版への書き込みがあるはずだから、実は単に、「売れた」

か、「読んだと言われた」だけのことだろう。一般に、評価の高い本格的な

学問的書物というものは、「実際の読者」は僅かしかいない。

         

話を戻すと、みなみが最初に「ドキッとした」のは、「マネージャーの資質」と

いう話だ。「・・・根本的な資質が必要である。真摯さである」(p.17)。みなみ

が、「真摯さって、何だろう?」とつぶやいた直後に涙を流したこの文章。

実は、元の完全本ではあっさり書かれてるだけの箇所だ。

          

ダイヤモンド社ではなく、自由国民社完全版『マネジメント』を見ると、二

部「管理者」の最初の辺り、本全体の中央付近に、何気なく次のような文末

を発見できる。「・・・基本的な資質が、管理者になければならない。それに

は高潔な人格が必要である」。

   

まあ、翻訳の個人差はあるし、原文も版によって異なってたリするわけだ

が、いずれにせよ、『もしドラ』が「真摯さ」という言葉を最初に持って来たの

は巧みだと思う。つまり、言葉や概念として、好感度が非常に高いものだし、

誰にでも理解できて、ビジネス以外でも重要なものだからだ。漢字が適度

に難しい所もポイントだろう。。

        

☆5月3日追記: NHKのアニメ『もしドラ』オマケでは、元検事として

            も有名な堀田力が、真摯さを「integrity」だと語ってた。

            使ってる本は違うが、意味を考えると、『マネジメント』

            でもおそらくこの英単語だろう。。)

       

      

           ☆          ☆          ☆  

続いて注目されるのは、次の文章だ。「『われわれの事業は何であるか、

何であるべきか』を定義することが不可欠である。・・・・・・ほとんどの場

合、答えることが難しい問題である」(p.24-25)。これは、図書館で完全本

を少し見ただけでは、キレイに対応する箇所を発見できなかった。定義に

関するいくつかの文章を、一つに要約してるのかも知れない。

       

とにかく、みなみが野球部の定義を発見できないまま、『もしドラ』は第2章

みなみは野球部のマネジメントに取り組んだ」へと進む。実は、第8章に

至るまで、すべての章のタイトルは「みなみは・・・だ」あるいは「みなみは

・・・た」という短くて簡単な文なのだ。私は最初、書店でチラッと見た時、そ

のタイトルが並んだ目次だけでウンザリしたし、もちろん元の本も、もっと

普通の目次になってる。ただ、その稚拙なタイトル群も、狙い通りに一般大

衆の心をつかんだのかも知れない。だれでも一目で分かった気になれると

いう意味で。

     

タイトルはさておき、第2章では、「顧客によって事業は定義される」(p.35)

という文が注目され、顧客とは誰かを考えて行く流れがスタート。私は瞬間

的に答えが分かったが、物語の中ではなかなか見つけられない大切なもの

のような扱いになってる。そして出て来た答え、「一番の顧客」は、予想通り

野球部員」だった。

    

ドラッカー・マニアの部員(あり得ない♪)からその話を、「聞いた瞬間だった。

みなみは、頭の中のもやもやが一気に晴れたような感覚を味わった・・・分か

りかけていた野球部の定義というものを、具体的に認識することができたの

である。『感動!』とみなみは叫んだ」(p.56)。

       

私は読んだ瞬間、部員というヒネリのない答えに溜息をついた。とはいえ、

これで第1章から持ち越しになってた野球部の定義も、「顧客に感動を与

えるための組織」と決定するし、高校野球の一般的イメージともピッタリ合

う。一番の顧客=部員に対するマーケティング調査として、一人一人の面

談が行われ、色んな思いが明らかにされて行く。第3章のタイトルは、「

なみはマーケティングに取り組んだ」。

      

こういった展開は、ウチでこれまで度々レビューして来たテレビドラマだと

あり得ないものだ。ドラマなら、もっと自然な形で登場人物たちの姿が描き

出されていく。もちろん、普通の小説でもそうだし、漫画でさえそうだろう。

     

ところが、『もしドラ』は萌え系のビジネス本だから、単純なプロセスの繰返

しでゴールに進んで行けばそれでいいのだ。ビジネスとは必然的に、単調

な反復を伴うものだから。同じような商品を、安く作って高く売る。似たような

店を日本中、世界中に作り、似たようなサービスを増幅する。服装も出勤ス

ケジュールも、非常に型にハマったものであって、「ドラマ」チックな変化、転

回は、時々あればいいのだ。

      

        

         ☆          ☆          ☆

この後、みなみは「専門家の通訳にな」り4章)、「人の強みを生か」し

)、「イノベーション(改革)に取り組」み6章)、「人事の問題に取り組」み

7章)、最後に再び「真摯さとは何かを考えた」(8章)。そして、私に本を貸

してくれた人間が「感動した」という結末を迎える。

        

私自身は、まったく感動しなかったどころか、奇妙だなという印象を抱いた。

最終・第8章の流れが不自然なのだ。これについては、ついさっき、ネット

著者の話を読んで納得できた。つまり、予定とは違う結末に変更してたの

だ。あえてボカして書くと、それは「結果」と「プロセス」に関わることだ。

       

これは本質的な対立点であって、ビジネスや一般ウケする物語=筋書き

では、「結果」的な成功が求められる。ところが、実際の高校野球で「結果」

を十分出せるのはごく一部の学校だし、人間の人生の「結果」はある意味

骨と墓でしかない。この、結果とプロセスの問題の処理が、『もしドラ』の結

末では曖昧なのだ、もちろん、一般読者はそんな事など流して、表面的な

物語の「結果」に満足するんだろう。そして、『もしドラ』という商品も、記録

的な結果を生み出したわけだ。。

     

        

         ☆          ☆         ☆

時間も無いし、最後に、ドラッカーの基本的な考え英語版ウィキで見てお

こう。もちろん、フツーの人は、『もしドラ』に書かれてる内容の方しか目が

行かないだろうが、それは必然的に大幅なネタバレになるし、誰でも出来そ

うな要約にすぎない。それに対して、英語版ウィキを読み取る作業は、過去

のウチの記事や反応から考えても、稀少価値のあるものだ。ほとんどの人

は、遥かに劣る日本語版ウィキや日本の個人サイトに留まるのだから。

        

日本版にはない、英語版の「Basic ideas」(基本的な考え)の項目を見ると、

ドラッカーの基本的思想がおぼろげに浮かび上がって来る。「脱中心化

(Decentralization)、すなわち、企業の中心が全体をコントロールすること

への批判。「単純化」(Simplification)、すなわち、生産品・従業員・セクター

(部署)を絞り込むこと。

     

さらに、国家レベルなど、大きな目で経済を見るマクロ経済学批判労働

者への敬意政府批判過去の成功を計画的に捨て去ることの重視。

えずに行動することこそ全ての失敗の原因だとする信念、共同体(コミュ

ティ)の必要性様々な要求や目標のバランスを取りながら管理すること

の必要性。顧客へのサービスこそ企業の責任の核心だという考え、偉大

な企業は人類の最も高貴な発明だという信念。

     

こうしてみると、『もしドラ』と一部重なってることは確認できる。たとえば、

みなみは考えずに行動するタイプだったが、マネジメントを読みながらじっ

くり考えることも多くなったわけだ。ただ、上記のようにまとめてしまうと、

様々な経営学の本にフツーに書いてありそうなことにも思われるだろう。

      

実際、『もしドラ』に含まれる経営学的な考えは、別にドラッカーの『マネジメ

ント』を出すまでもない。真摯さ、部員や周囲の感動、メンバー相互の理解、

等々。ただ、ビジネスマン、一般の人々に広くアピールするためには、(日本

で特に)有名な経営学者の名前と著書、極度に簡単な文体の成功物語、萌

え系の女の子などが必要だったし、業界で人気のダイヤモンド社から発売

される必要もあったわけだ。元の本とのタイアップも可能になる。      

       

     

          ☆          ☆          ☆

というわけで、現代日本を知るとか、経営学をかじるという意味では、『もし

ドラ』は意味があったし、もしマニアック・プログの男子マネージャーが『もし

ドラ』を読んだら、書店に平積みのエッセンシャル版ではなく、完全版の『マ

ネジメント』をチェックする。その後、最低限この程度、7000字近い記事

は執筆するわけだ。

           

本当は、この2倍くらいの本格的記事を書こうと思ってたのに、正月以降ど

うしてもまとまった時間を作れなかったから、この程度で終わりとしとこう。

記事のタイトルだけすぐに決めて、ずっと機会をうかがってた。

           

この記事自体は、検索サイトで上位に昇って行くこともないだろうし、あまり

読まれないだろう。でも、普段の記事では物足りないと思ってるマニアック

な常連さんの一部には読まれるだろうし、Googleのロボット君にもこの記

事の中身全体がインプットされるはず。それはやがて、ウチの別の記事、

特に経済系、理屈系への評価につながって行くだろう。

        

過去、実際にウチはそうやって成長して来たし、ドラッカーと違って、過去の

成功を忘れるべきだとも思わない。過去の成功に「執着せず」、一つの情

報として扱えばいいだけのこと。人はみな、過去に学ぶしかないのだ。学ぶ

とは、単純な反復でも棄却でもなく、真摯に向き合うことを指す。

      

これが、マニアック・ブログのマネジメントにおける、基本的な考えだ♪ 

ではまた。。☆彡

     

    

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

P.S.英語版ウィキには、ドラッカーの著作は日本で人気で、とりわけ『もし

    ドラ』の後にはそうだと書かれてる。ちなみに『もしドラ』のタイトルの

     英訳は、「What if the Female Manager of a High-School Baseball

     Team read Drucker's ‘Management’」。ほぼ直訳だろう。日本人に

    よる書き込みかも知れない。

         

    また、当然ながら批判もあった。たとえば、事実誤認とか、予言が外

    れてるといったものだ。 ただ、そういった批判は、僅かな例を挙げて

    断片的に言われても、ほとんど意味がない。致命的な失敗でもない

    限りは、ドラッカーの仕事のトータルで評価する必要がある。

         

P.S.2 朝日新聞の10年7月29日・朝刊には、『もしドラ』を本当に野球

      部で活かしてる女子マネージャーが登場してた(福島商業高校)。

       

P.S.3 AKB48の中心メンバー・前田敦子が初主演する、映画版の『も

      しドラ』が、2月17日に撮影を終了。公開は6月の予定。

          

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

cf.数学的な経済理論の問題点

           ~リカード『比較優位の法則』&勝間和代(朝日新聞)

  限界効用逓減というミクロ経済学の仮説について

          

                                  (計 6886文字)

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