作られた記憶、目撃者の証言~心理学・法・歴史の結び目
(22日) 雑用JOG 3km,18分程度
ダメだ。どうしても時間が無い。ホントなら最低でも5時間くらいはかけるべ
き重要な内容だけど、今回は差し当たり、短時間でサラッと書いとこう。い
ずれ別記事で、似たような内容をもっと本格的に書くことになると思う。
昨夜の藤木直人&松下奈緒『CONTROL』第7話では、感情の「反転極化」
という心理学用語(?)が登場した。すぐに検索したけど、ほとんどネット上に
は見当たらない。英語でも、「reversal polarization」とか色々試してみたが、やっ
ぱりダメで、むしろ物理学の分野で、「極性」の変化に関して使われるようだ
(polarization reversal の方が用例が多そう)。
1日経った今だと、ウチの昨夜の記事も含めて、ドラマ記事が5つヒットす
るから、私の聞き間違いでもなさそう。まあ、常識とドラマの文脈を考え合
わせると、感情がしばしば反転して極端になるという、ありふれた意味だ
ろう。ドラマもそうだけど、特に対人関係で多いと思う。今回のドラマと同じ
く、好きな相手に冷たくされた場合とか。
という訳で、これで今日はおしまい・・・と書きたい所だけど、反転極化より
遥かに重要な話が含まれてたから、そちらについて軽く書いてみよう。
☆ ☆ ☆
昨夜のサブタイトルは、「作られた記憶と疑惑の目撃者」だ。ここには2つ
の要素が関係する。記憶という心理学的なものと、目撃証言という法的
なものだ。我々の記憶がしばしば不正確だったり間違ってたリする点につ
いては、誰でも経験があるだろう。でも、事件捜査や裁判という状況では、
目撃者の記憶にもとづく証言が重要な役割を果たす。
だからここには、根本的に矛盾があるわけで、不確かなものを重視せざ
るを得ない。そこで、どちらの側に傾斜するかを巡って、しばしば(感情的
な)激しい対立が生じることになる。ドラマでも、心理学の南雲教授(藤木)
に対して、捜査官が激しく反論していた。あれは、実社会でも珍しくない
ことなのだ(特に訴訟社会・アメリカ)。
実験室と現場には、確かに大きな違いがある。一般に人間に関わる実
験は、人工的に作った状況で、数十人~数百人で行うことが多い。医学
のように、膨大なお金と命が関わる世界だと、もっと大規模な実験(治験)
が行われるけど、心理学では数十人しか参加しないのが普通だろう。そ
こから、一般的知識を導くのだから、批判や反論が多いのも当然だ。
それに対して、捜査や司法の現場は、現実に起きた個別の出来事(事件・
争いなど)を相手にするものだし、必ずそれなりの結果を出すことが要求
される。当然、その出来事だけに関わる特別な目撃者たちが重要になる
し、「彼らの目撃証言は間違ってる」と指摘するための決定的な証拠も無
いのがフツーだ。
この点について、ドラマを思い出してみよう。『CONTROL』の場合、心理
学者が主役の一人だし、人気俳優でもあるから、心理学が正しいという流
れで物語が進む。つまり、目撃者の証言はあてにならないという知識が勝
つように、脚本が「作られてる」のだ。実際の事件の後、目撃者の同意も
得ないまま、知らない内に別の実験に参加させ、男と女の見分けを間違え
させる。そこで目撃者は、実は事件の際にもよく分からなかったと打ち明
けて、心理学の勝利となる。
けれども、このドラマの中でさえ、別に男女の見間違えは決定的な意味
を持ってない。事件の際には間違えてないけど、今回は間違えた。それ
で押し通すこともできるのだ。そもそも、1回間違えただけで証言の意味
が無くなるのなら、誰一人として証言者にはなれないことになる。あれは、
あくまで、主役を立てる流れにしてあるに過ぎないことを指摘しとこう。
☆ ☆ ☆
では、肝心の心理学で、実際の研究はどうなってるのか。実は私の手元
に、以前から左の本
がある。『現代のエス
プリ 350』1996年
9月号(至文堂)だ。
心理関係では有名な
雑誌で、「エスプリ」
とはフランス語で、
精神や機知を表す単
語(esprit: 英語なら
spirit)。
この号のテーマは、
まさに「目撃者の証言」となってて、副題には「法律学と心理学の架け橋」
とある。本と、ドラマと、私の興味とが一つに交わってるのが分かるだろう。
つまり、結び目を作ってるわけで、だから本当は、この記事は時間をかけ
て書きたかったのだ。
ボヤキはともかく、両方面の学者の興味深い研究論文が掲載されたこ
の書物を、全体的に見渡して言えることは、「難しい問題だ」ということに
尽きてる。話の内容は少しも難しくないどころか、むしろ単純だろう。どう
受け止めて、どう活かすのか、現実的な向き合い方が難しいのだ。
ドラマの南雲教授は、思い込みの確信によって記憶の断片を再構成して
しまう危険性や、「誤った判決の50%が間違った目撃証言」によるものだ
という統計データを持ち出してた。でも、そんな大がかりで複雑な統計デー
タをどうやって計算するのか、少し考えるだけで、非常に疑わしい説だと
いうことは分かる。たった一つ、足利事件を思い出すだけで、判決の間違
いの原因が何なのか、非常に複雑なことは理解できるだろう。
独断、偏見、先入観、思い込みなどで、記憶が書きかえられることを示
すのは、実験的にも日常的にも簡単なことだ。でも、代わりに何を信頼
するのか。あるいは、正しい記憶と間違った記憶をどう分けるのか。
凶器とか、犯行現場のビデオとか、単純で決定的な物証だけで済むのな
ら、話は早い。けれども、実際の捜査や裁判は遥かに複合的なものだし、
トラウマ(外傷)とか幼児虐待とか、遥か昔の記憶が中心的要素になる
場合もある。
トラウマ関連(PTSDも含む)では、まだ一般にはほとんどの人が、「被害
者」の証言を信用して、「加害者」を憎む傾向が圧倒的だ。これはドラマを
見てもすぐ分かることで、例えば『ラストフレンズ』第7話では、タケル(瑛
太)が姉にイタズラされたことを想起してた。
この際、ウチでは直ちに、その記憶が間違ってる可能性を指摘したが、
そういったサイトは他に(ほとんど)見当たらなかったし、ドラマの筋書き
としても、それは正しい記憶として扱われてたわけだ。その点では、『イノ
セント・ラヴ』の佳音(堀北真希)でも同じこと。脚本家も視聴者も、その
記憶が間違ってる可能性を考えることはほとんどないのだ。もちろんウ
チでは、この時にもハッキリ指摘しておいた。
☆ ☆ ☆
捜査や裁判以外でも、目撃証言が非常に重要になる場面があるわけで、
その最たるものは、歴史認識だろう。国によって、民族によって、人によっ
て、しばしば激しく認識が衝突するのは周知の通り。ホロコースト(ナチス)
にせよ、いわゆる南京大虐殺でもそうだ。そういった極度にデリケートな
場で、心理学者が不用意に「記憶はしばしば間違ってる」などと発言する
と、笑われるとか無視される程度では済まない。
その意味で、目撃証言や記憶の間違いの研究の第一人者とされる、エリ
ザベス・ロフタス(Elizabeth Loftus)という現役の女性心理学者は凄いパ
ワーを見せてる。幼児虐待や国際犯罪を扱う場に積極的に出て、発言し
てるようなのだ。代表作『目撃者の証言』の原著は1979年。30年も前だ
が、日本なら今現在でも、そこまでパワフルに活動する心理学者はいな
いと思う(精神医学者による精神鑑定は別)。当然「被害者」側には評判
が悪いはずで、情緒的傾向が強い日本社会だと特にそうだろう。
という訳で、今日はもう時間だ。作られた記憶とか、目撃者の証言といっ
た領域が、非常に複雑でデリケートな分野だということは示せたと思う。と
てもドラマのように、心理学者が捜査官や目撃者をやりこめてしまうような
分野ではないし、実際はほとんどの人が、目撃証言の方を重視するのだ。
それは必ずしも、間違った態度ではない。心理学の知見そのものが、僅
かな人間を人工的に調べただけのものだし、そもそも、実験的に一般論
を導くプロセスそのものが、データを「作り変える作業」なのだから。当然
そこにも、独断・思い込み・先入観などが入り込む余地があるのだ。さらに
言うなら、データ自体にもそうした要素が紛れ込む可能性がある。記憶ど
ころか、現在の知覚にも、機械的記録にも、それなりの弱みはあるのだ。
残念ながら、時間が無くなった。ちなみに、昨夜の走りは、例によって少
し遠くの郵便局まで、夜中に往復ジョギングしただけ。エステ記事に予想
外の時間を取られてしまったのだ (^^ゞ 今日はもともと休む予定だった
から、走らなくてもいい・・・ってことはないな♪ 仕方ないのだ。とにかく、
今日の所はこの辺で。。☆彡
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
D・モリスの「自己親密行動」(self-intimacy)など (第2話)
人間は期待通りに成長する~ピグマリオン効果(教育心理学) (第5話)
完結してない行動の方が記憶に残る~ツァイガルニク効果 (第6話)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
藤木直人主演・助演ドラマ、視聴率の推移&『ホタルノヒカリ2』第6話
(計 3752文字)
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