ハーバード大講義「科学と料理」の数式~朝日新聞・GLOBE
急性腰痛JOG 21.1km,1時間57分13秒,心拍127
ノートPCのモニター故障から5週間。外付けモニターを遠くにつないで、無
理な姿勢でずっと使ってたら、腰痛発生。昨夜は急に悪化して、ほとんどマ
トモに走れない状態になってしまった。直前に、長いブログ記事を書いたの
が致命傷だったな。
今日(3月7日)はもう、ブログは手抜きで、リハビリ・ランニングに徹しようと
思ってたのに、朝日新聞・朝刊を見て、ムラムラっとしてしまった (^^ゞ 月2
回の硬派な折り込み別刷・GLOBE(グローブ)。1年ちょっと前の特集「数
学という力」が、まだ記憶に新しい所だが、今回の特集は「料理と科学が出
会う時」。執筆は、宮地ゆう・国末憲人・長沢美津子記者。
ここ10年ほど、フランスの科学者らが提唱した「分子調理法」とか呼ばれ
る科学的な料理法が世界を席巻してるらしい。有名レストランはスペイン
『エル・ブリ』、そのシェフが分子調理法の第一人者、フェラン・アドリア。経
験や勘に頼らず、分子レベルの科学を用いて新たな食材や調理法を生
み出す一方で、バトル(争い)も発生してるとのこと。
(☆追記: 「エル・ブリ」の元の表記は「elBulli」で、バルセロナ地方独特の
発音。これを「エル・ブジ」と読むのは、普通のスペイン語読み。
アドリア自身は「エル・ブリ」と読んでるそうだ。「all about」より。)
ちなみに日本語ウィキペディアは、「分子ガストロノミー」(仏語 Gastronomie
moleculaire の直訳&カタカナ表記)が正しいと書いてるが、検索すると一
番多いのが「分子料理法」、次が「分子調理法」だ。ガストロノミーとは、美
食学とか料理法を指す言葉だし、実質的にも語感的にも、最も日本語に馴
染むのは「分子料理法」だと思う。ただし、単なる料理のやり方ではなく科学
的学問だから、個人的には「分子料理学」が最適だと考える。
☆ ☆ ☆
用語・訳語の話はさておき、実質4Pの料理特集のトップには、妙な形の実
験容器に入ったゼリーらしき写真が大きく掲載され、その上に怪しげな数
式が重ねられている。
数式としては中学校レベルに過ぎないが、朝日が書き添えた「弾力性」と
題する説明だけでは不十分だから、私が補足して解説しよう。
肉やゼリーなどの弾力性E(=硬さ)は、分子の密度に比例する。よって、
分子間の距離l(エル)の3乗に反比例する。密度=質量÷体積=分子
1個の質量÷l³ だからだ。一方、弾力性Eは温度T(=絶対温度)に比例
する。よって、比例定数kB(Boltzemann-Konstante:ボルツマン定数)を
用いてまとめれば、上の式になるわけだ。
要するに、よく締まった肉は弾力が強くて、よく焼いた肉(ウエルダン)は
軽く焼いた肉(レア)より硬いという、当たり前の話になる。
☆ ☆ ☆
続いて出てくる、高校3年(数Ⅲ)レベルの数式は、朝日が「料理時間の算出
に役立つ熱の伝わり方を表す数式」としか説明してないものだが、主たる部
分だけならキレイに理解できる。
まず下側の「where・・・」という式は、上の式で出てくる記号「τ(タウ)」を
説明したものだ。πはなぜか登場してる円周率。Lは説明なしで、検索し
ても今現在分からない。Dは食品の「拡散定数」とだけ書いてあるが、朝
日の文脈の中では、熱の伝わりやすさを示す数のことだ。要するに、D
(伝わりやすさ)が大きくなると、τ(タウ)が小さくなるとだけ理解しとこう。
一方、上側の式は、肉を焼く時などの熱伝達を表すもの。鉄板で肉を焼く
ことを考えればいい。Tは肉の温度、t は時間、T externalは肉の外側(鉄
板)の温度、T initialは肉の最初の温度だ。難しそうに見えても、たかが高
3の教科書レベル
の数式であって、
要するに肉の温度
と焼く時間との関
係は、左のグラフ
のようになる。つ
まり、最初は急激
に温度が上がり、
徐々に温度上昇が
緩やかになって、
最終的にはほぼ鉄板の温度になるわけだ。ピッタリ一致にはならず、鉄
板の温度を示す水平の点線が、いわゆる「漸近線」(近づく線)になる。あ
と、τ(タウ)が小さいほど(Dが大きいほど)、肉の温度は上がりやすい。
ちなみにこの式は、おそらく肉全体の平均温度に関するものだろう。実
際には当然、分厚い肉の真ん中辺りには熱が伝わりにくくなる。つまり、
焼く時間だけでなく、肉の場所によって温度は違うわけで、そこまで考え
て一般的に表した数式が、かつての福山雅治『ガリレオ』の熱伝導方程
式だったのだ。これは大学2年くらいの数式で、ややレベルが高いので、
ウチでは答えに至る計算式を紹介しておいた。
☆ ☆ ☆
最後に、3番目の式は、分子の粘性(molecular viscosity)を表すらしい式
で、vが動粘性率、l(エル)が分子間の距離、cが液体中の分子の速度との
こと。ただ、あちこち検索して読んでも、ピッタリ来る話が見当たらないし、
似た話を読んでもまだ理解できない。
「チョコレートドリンクのような液体では、分子と分子が離れているほどさら
さらになる」とだけ朝日は説明しているが、分子が離れると分子間の距離
lが増え、動粘性率vが増え、粘性が高まり、ネバネバになるような気がし
てしまう。式の解釈の仕方に問題があるんだろうが、差し当たり保留しと
こう。少なくとも、英語も含めて、(考え方はともかく)この式自体がメジャー
でないことは確かだ。
なお以上の3式は、フェラン・アドリアも参加した、米国・ハーバード大学の
講義「科学と料理」に関するもののようで、マイケル・ブレナー教授のエプ
ロンに書かれてるが、朝日にはもう一つ、別扱いで、うま味に関する式も
書かれてる。
“UMAMI“ = 60℃×60minutes
ただ、これは、うま味(UMAMI)の一種である昆布のグルタミン酸が、摂
氏60度(=60℃)、60分(=60minutes)の加熱で一番よく引き出された
というだけの話で、数式の形を使ったお遊び表現に過ぎない。とはいえ、
内容的には科学的な分析なので、分子調理法の範囲に一応入るものだ
ろう。書き方だけなら、トンデモ系に見えるとはいえ。。
ちなみに、ハーバード大の講義は、HPで少しだけ情報を見れるけど、今
回のブログ記事執筆には役に立たなかった。ま、超人気講義をタダでは
見せないってことかも。それにしても、この程度の話だけなら、単なる数式
の面白話であって、料理の変革には距離がある。数式によって初めて可
能になる料理法の変革についても、朝日は説明すべきだっただろう。ま、
後は自分で調べろってことかな。。
(☆8月1日追記: 7月末から検索アクセスが急増したなと思ってたら、世
界一予約が取れないレストラン「エル・ブリ」が7月30日
を最後に休業したからのようだ。2014年に料理研究所
として再出発するとのこと。)
(☆12年2月追記: 2月2日のNHK『クローズアップ現代』では、日本の
料理界における科学的研究が取り上げられた。)
☆ ☆ ☆
あぁ、また腰が痛くなって来たから、もう止めよう。昨日の走りは過去2年く
らいで最悪じゃないかな。スタートから腰に神経痛みたいな激しい痛みが
走って、何度も止まりかけながら、顔を歪めてハーフ21.1km頑張ったわ
け。途中で回復すると思ったら、全く回復しなかった。歩くだけなら何ともな
いのに、不思議なもんだ。
トータルでは1km5分33秒ペース。悲惨だね。腰が痛かっただけで、心拍
は何ともなかったけど、腰と脚を曲げた変な姿勢で2時間近くも走ったから、
変な筋肉痛が残ってる。今夜は休んだ方がいいかもね。ではまた。。欲し
往路(2.45km) 13分18秒 平均心拍120
1周(2.14km) 11分50秒 127
2周 11分54秒 127
3周 11分56秒 128
4周 11分54秒 128
5周 11分57秒 129
6周 11分59秒 130
7周 12分07秒 130
8周(1.22km) 7分06秒 128
復路 13分13秒 126
計 21.1km 1時間57分13秒 160(最大138 ゴール時)
(計 3286文字)
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コメント
こんばんは
パソコンが故障して5週間ですか・・・大変ですね。。
それでも毎日ブログ更新してランニングをこなすとは流石です。
今日の話は全く考えた事がなかったので面白かったです。
特に「要するに、よく締まった肉は弾力が強くて、よく焼いた肉(ウエルダン)は軽く焼いた肉(レア)より硬いという、当たり前の話になる。」
こういう当たり前の(経験的に知っている)事に結びついているから興味深いです。
確かにこげた肉はカリカリで硬いですもんね。
チョコレートの件ですが、粘性なんて考えた事がないので推測の域を出ませんが、軽く調べて分からないなりに適当に理解した説明です
率と付いているからにはやはり体積(表面積のような気もしますが)が関係していると思うんです。
つまり動粘性率というのは、一旦その物質の動粘性(率はつけず粘性の合計のようなもの)を調べた後、体積で割れば単位立方当たりの粘性が測れるためそれを動粘性率としているのではないでしょうか?
式にすると、(動粘性はSとして体積をVとする)
S/V=L×C
質量を測って体積で割って密度を求めるような感じでしょう。
何がいいたいかというと、上に書かれている「分子と分子が離れていると・・・」というところから、確かに分子間の距離cは増えるのですが、体積Vは距離の3乗ずつ大きくなっていくため、動粘性率は下がり結果的にさらさらになるということかな、と推測しました。
但し、物理などでこういう分子間を大きくするといった場合、詳しい事はわからないですが、体積を変えずに分子の数を減らして、分子間を大きくするほうが理にかなっている気がしてしまいます。
それでは
投稿: ESES21 | 2011年3月 8日 (火) 20時59分
> ESES21 君

こんばんは。お気遣いどうも。
早くPCを修理に出したいのに、余裕を作れない状況。。
物理や化学は、数学と比べて、
式の意味を考えるのが重要になる。
何を表してるのか。結果的に何を導くことになるのか。
今回の朝日新聞の記事を読んだだけだと、
数式が実質的には役立ってない。
それが分かるためには、数式を読む力が問われるから、
僕が簡単な実例を示したわけ。
ただし、「こげた」肉の場合は、質的な変化が
問題になって来るからちょっと別の話だね。
元の数式が扱ってるのは、温度と密度のみ。
動粘性率(kinematic viscosity)というのは、
粘性率を密度(単位体積あたりの質量)で割ったもの。
粘性率というのは、粘性の力に、液体を
はさむ2枚の平板間の距離をかけて、
平板の面積×(2枚の相対速度)で割ったもの。
以上は、ウィキペディアの「粘度」の項目から
数学的に導いた話。
ESES21君が言う「動粘性」というのは、粘性の力(の和)
ことで、それを体積で割って率にする話だろうけど、
本来は遥かに複雑なわけ。色んな要素や設定が絡む。
ある要素を変化させた時、他の要素がどう変化するのか、
よく理解できない。
どれとどれが独立で、何と何がどう従属(=連動)するのか。
分子間の距離l(cは単純な間違い)が増えると
体積Vが距離の3乗ずつ大きくなって動粘性率が
下がるって論法は間違ってる。
というのも、体積で割られる動粘性Sが増えることを
考えてないから(増えないとするには理由が必要)。
普通に推測すると、S/V=L×Cという仮想的な式で、
Lが2倍になると、Vは2の3乗で8倍、
Sは面積に比例するだろうから、2の2乗で4倍。
そうすると、左辺は4/8で1/2倍になるけど、
右辺は2倍になるから、等式が成立しなくなってしまう。
本来の式に戻ると、「分子の『動粘性率』を算出する式」、
v=l×cにおいて、lが増すとvが減る
(さらさらになる)わけだから、lが増すと
cがそれ以上に減るという理屈になる。
ただこれも、物理現象としては理解しにくい。
液体レベルではなく、分子レベルの話とはいえ。
まあ、流体力学や弾性体の理論を勉強してみよう。
分子レベルだと、英語版ウィキも役立ちそうな感じ。
その前にやるべき事が山ほど溜まってるんだけど。
時間が勿体ないから、とりあえずこの話は終了
投稿: テンメイ | 2011年3月10日 (木) 21時27分