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体内摂取した物質の放射線量の計算~物理学&生物学的半減期

(☆7月14日追記: セシウム汚染牛肉をめぐる関連記事をアップ。

 セシウム牛肉、食後1年間での被曝線量の計算方法(定積分&実効半減期) )

    

   

         ☆          ☆          ☆

忙しくて時間がとれない中、久々に放射線関連の記事をアップしてみよう。

簡潔にまとめたものだけど、今現在ネット上に(ほとんど)見当たらないマ

ニアックな内容にはなってると思う。

          

東京電力・福島原発の事故が、いずれ何とか収まるとしても、放射線の問

題はその後も長く残るだろう。ヨウ素はすぐ消えるとしても、セシウムやプ

ルトニウムは延々と放射線を出し続ける。放射性物質や放射線への関心

も、当然続くだろう。

             

放射性物質や、それが含まれる野菜・水が、どれだけの放射線を出すの

か。その放射する能力(=狭義の放射能)を示す単位がベクレル。また、

我々が体重1kg当たりで吸収する放射線量を表す単位がグレイ。さらに、

その線量がどのくらい人体に実害を与えるかを考慮した「実効線量」の単

位がシーベルトだ。これら3つは、以前の記事でわりと詳しく書いてる。

     

人々の関心は当然、何をどれだけ摂取したら危ないのかという問題に向

かうことになるわけだが、理数系の話が好きな人間にとっては、何ベクレ

ル摂取すると何シーベルトになるか、という話が気になる。

         

この換算は、一般には「実効線量係数」(effective dose coefficient)という

ものを掛ければいいと言われてる。例えば、ヨウ素131の経口摂取なら

ベクレル×0.022=マイクロシーベルト。これも、既に前の記事に書いて

ることだ。係数の一覧表は、例えば「緊急被ばく医療研修のホームページ」

にある。

        

☆追記: 4月5日の朝日・朝刊は係数0.016を採用。詳しくは、下の記

       事のP.S.3、4、5を参照。

       シーベルト、グレイ、ベクレル~放射線・放射能の単位について )

            

ただ、この係数が、放射性物質の種類や摂取方法によって違うのはいい

としても、それほど厳密なものではないという点は語られることが少ない。

ICRP(国際放射線防護委員会: International Commission on Radiological

Protection)が1996年に示した報告書(Publ.72)の数値が出回ってる

が、あれは一つの参考に過ぎないのだ。そもそも医学・生理学が絡む複

雑な問題だし、実験も観察も非常にしにくいことなのだから。

            

早い話、長期間の人体実験を大勢の被験者で行うことなど不可能だ。考

えれば明らかなことだし、実際、帝京大学の「複合災害救援の基本的考

え方と放射線被曝防護」と題するpdfファイルでも、人体への影響を計算

する困難さが強調されている。もちろんウチでも、最初からハッキリ書いて

たことだ。

           

とはいえ、ベクレルからシーベルトを求める際の長い理論的プロセスには、

数学的に明快な部分も一応ある。それは、半減期と放射線量に関わる部

分だ。以下では、その点について、数式計算でハッキリさせておこう。 

         

            

        ☆          ☆          ☆

まず、高校1年・物理の教科書レベルからスタートする。

    

  放射性物質(ヨウ素131,セシウム137など)のベクレルの値

           = 1秒間に崩壊する原子核の数

           ≒ 1秒間に出る放射線(β線、γ線など)の量

   

「≒」は近似を表す記号で、本当は比例だから「∝」と書くべきだけど、等号

「=」に似た「≒」で書く方が分かりやすいだろう。上の式から、もしベクレル

の値が変わらないならば、「(ベクレル)×(秒数)≒(放射線量)」だ。

           

しかし実際には、ベクレルの値(≒放射能の強さ≒放射性物質の量)は、

半減期」の時間が経つごとに、1/2になって行く。つまり、ベクレルは時

間tの関数だから、B(t)と書くことにしよう。すると最初(つまりt=0)のベク

レル数は、B(0)と書ける。さらに半減期をTと書けば、t=1Tの時に1/2、

t=2Tの時に(1/2)の2乗になるから、以下同様に考えれば、以下の式

が成立する。と言うより、これが半減期Tの定義式だ。

110402e

    
時間tにしたがって刻々と変わるB(t)に、非常に短い時間を掛け合わせたも

のを、長い時間にわたって合計すれば、全体の放射線量(とみなせるもの)

が求められる。x 年後までの全放射線量をR(x)と書けば、50年後(=157

6800000秒後)までの全放射線量R(50)は、次の「定積分」で表される。

   

110402g

     

難しく見えるが、実は計算のレベルも答えも高校3年の教科書レベルだ。

計算結果は下の通り。莫大な秒数は関係ない。中央の「=」は、本当は

「≒」だが、誤差はほとんど無視できるから等号「=」にしてある。

    

110402h

       

つまり、B(0)T / log2 が答。したがって、半減期Tに比例する。ちなみ

に分母のlog2は、約0.693。分子の半減期 T は秒で表した数字だか

ら、かなり大きい数。半減期の短いヨウ素131でさえ約8日間だから、約

70万秒。セシウムなら約30年だから、遥かに大きい数字だ。ただし、人

体への影響を考えてシーベルトの値を求める時に、数字は一気に小さく

なる。そこの計算部分は、まだブラックボックスだけど、もはや数式計算

のように明快な話が出来なくなるレベル、人間的な話なのだ。。

     

           

         ☆          ☆          ☆

私自身の興味は、実はこの先の僅かな部分にあった。ここからは、物理

の高1教科書レベルを少しはみ出す話だが、数学的には高1の教科書レ

ベル。ただし、考えたことが一度もなかったから面白かったのだ。半減期

2種類ある場合を考えてみよう。

             

現在の日本社会も含めて、普通に話題とされるのは物理学的な半減期だ。

つまり、原子核の崩壊による半減期。ヨウ素が8日、セシウムが30年といっ

た数字はすっかりお馴染みだろう。一方、生物の体内に取り込んだ放射性

物質がどうなるかという点も少しだけ話題になってるが、計算式を見ること

はない。それどころか、朝日・読売・毎日新聞のサイトで検索する限り、生

物学的(な)半減期といった言葉は見当たらない。

           

体内に摂取された放射性物質は、少しずつ体外に排出されて減って行く。そ

のプロセスで半減する期間が生物学的半減期だ。いま、物理学的半減期

T₁生物学的半減期T₂とすると、   

110402a

     

ここで、右辺を指数法則にしたがって変形すると、
 

110402b

    

一方、トータルの半減期というものを想定して単にと書くなら、一番最初

の式と同じだが、少しだけ書き方を変えて、

110402c

         

上の2式の右辺、1/2の右肩部分を見比べれば、2種類の半減期の組合

せに関する公式が導ける。同じ意味の式が、日本語版ウィキペディアの「被

曝」や、英語版ウィキ「Half-life」にも、結果だけ掲載されている。要するに

私は、それらの式を見て、導き方を考えたのだ。 

110402d

         

ちなみに、原子力資料情報室によると、ヨウ素131の生物学的半減期

ヨウ素129と同じのようで、甲状腺で120日、その他の組織で12日。一

方、セシウム137の生物学的半減期は曖昧な書き方だったので、英語版

ウィキペディアで調べると、数ヶ月らしい。大まかな値だけど、一応の参考

にはなるだろう。プルトニウムも数ヶ月となってるが、別の場所には200年

なんて凄い数字が出てたから、とりあえず保留しとこう。論争中なのかも。。

      

         

         ☆          ☆          ☆

上のような理数系の考察は、目先の生活の指針にはならないが、理解や

安心感の手助けにはなる。訳の分からないまま、メディアが出して来る多

様な情報に惑わされるよりは、少しでも理解できた方がマシだろう。少なく

とも、私自身はモヤモヤが少し晴れた気がする。

      

原発や放射線に関しては、引き続き注目し続けるので、またしばらく後で

記事を追加するかも知れない。とりあえず、今日はこの辺で。。☆彡

    

    

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

cf.放射線(放射能)の危険性と距離~2つの逆二乗法則(情報源明示)

  原発から各地までの距離と、放射線の年間総量(by文科省データ)

  シーベルト、グレイ、ベクレル~放射線・放射能の単位について

  雨の長距離ランニングで浴びた放射性物質の計算

                              (by 定時降下物データ)

  原発事故評価レベル7と、セシウムのヨウ素換算値の計算式(by INES)

  福島原発レベル7の基準を読む~INES(国際原子力・放射線事象評価尺度)

  福島原発によるガン発生の厳しい試算~欧州放射線リスク委員会

  原発事故はみんなが無責任、だけどね・・~東電社員の息子・ゆうだい君への応答

  ランニングの呼吸で内部被曝した放射線量の計算

  被曝する全放射線量の計算方法 (自然・医療、外部・内部、屋外・屋内)

  セシウム牛肉、食後1年間での被曝線量の計算方法(定積分&実効半減期)

  放射性物質の半減期、壊変定数、質量(重さ)~微分方程式の初歩など

  ラジウム温泉の放射線について~低線量被曝の影響

  確率的影響と確定的影響~放射線被曝の二分法の再考

  義務教育における放射線・放射能~中学校・理科の教科書&副読本

           

                                  (計 3550文字)

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コメント

なるほど!
””興味はこの先の僅かな部分””
トータルの半減期は2種類の半減期の「和分の積」いいですね!!
鮮やかです。

投稿: gauss | 2011年4月 3日 (日) 01時07分

> gauss さん
    
こんにちは。ちょっと面白いですよね♪
見たことも聞いたこともない話だけど、
計算してみたら簡単で、結論も鮮やか。
   
「和分の積」って言い方、僕は知りませんでしたが、
分母が「和」、分子が「積」って意味ですね。
最後の式を変形すると、
 1/T=(T₁+T₂)/T₁・T₂
∴ T=T₁・T₂/(T₁+T₂)
  
これが電気回路の合成抵抗の式と同じ形になるのは
偶然なのか必然なのか。
本質的な共通点に興味が湧く所です。。

投稿: テンメイ | 2011年4月 3日 (日) 17時01分

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