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原発事故評価レベル7と、セシウムのヨウ素換算値の計算式(by INES)

昨日(4月12日)の午前、福島第一原発の事故評価が、レベル7へと引き

上げられた。経産省・原子力安全・保安院と内閣府・原子力安全委員会

合同発表で、微妙に異なる2つの公的機関の見解が、それなりに一致した

ということになってる。

    

評価に使われたのは、国際原子力事象評価尺度(INES : International

Nuclear and radiological Event Scale)。まず簡単な指摘をしとく

110413

 と、上の日本語訳

 では省かれてるが、

 元の英語には

 「radiological

 (放射線学的)と

 いう形容詞が入っ

 てる。別にこの単

 語が無くても、放

 射線の学問が関わ

 るのは当然だが、

 わざわざ単語を追

 加してるというこ

 とは、放射線の問

 題が強調されてる

 わけだ。それを考

 慮した訳語が、

国際原子力・放射線事象評価尺度」となるが、長過ぎるからか、文科省

でもあまり使ってない。

       

上の画像は、現在使われてるユーザーズ・マニュアル2008年版(09年

策定)の英語版・原書pdfの表紙。この中身は、今現在、文科省、日本語

ウィキペディア、英語版ウィキだと、ほんの少ししか説明されてない。当然、

中身が気になる所だが、英語の専門的な話が206ページも詰まってるの

で、拾い読みでさえ大変な作業になる。とりあえず今日は、私が原書を手

に入れて注目してるということだけ、書いておこう。

    

☆追記: 3日後にマニュアルの内容解説記事をアップ。

  福島原発レベル7の基準を読む~INES(国際原子力・放射線事象評価尺度)

        

     

          ☆          ☆          ☆

さて、レベル7の認定というのは、日本の報道だともっぱら、放射性物質

の外部放出量が話題になってるが、元のマニュアルでは、単純な数値判

定ではなく、総合的な判断が要求されているようだ。ただし、国際的な尺度

として明確な統一性を保つために、放射性物質の数量が強調されてるの

は間違いない。

      

ここでは、朝日新聞の報道に沿う形で、実際の数値判定を見てみよう。朝

日・夕刊(12日)の1面に掲載された尺度の表では、レベル7の基準が

数万テラベクレル以上」とされている(テラは1兆倍を示す言葉)。このベ

クレルの値は、放射性物質を「放射性ヨウ素換算」した値であって、その

下に簡単な計算結果のみを示す表が添えられている。

         

ヨウ素131が15万セシウム137ヨウ素換算値)が48万計63万テラ

ベクレル。これだけ見れば、文句なしのレベル7であって、チェルノブイリ原

発の1割に過ぎないとかいう話は、尺度によるレベル認定とは関係ない。

評価レベルの上昇を受けた朝日の論調は、夕刊でも朝刊でも、遅いとか、

これまでが過小評価だったとかいうものだが、専門家による異論もある。

    

それらについては、やはり INES という尺度の理解が不可欠だから、ここ

では保留しとこう。少なくとも、以前から「明らか」にレベル7だったという見

は、INESとデータに基づくそれなりの根拠を示さないと、説得力はない

「明らか」とまでは思わない専門家が、今までも今現在でも、国内にも海外

にもいると伝えられてるし(毎日HP・12日,ロイターHP・13日)、マニュア

ルも単純明快な判定基準にはなってないのだから。。

               

          ☆          ☆          ☆

とりあえず今日の内に解決しときたいのは、簡単な数学的計算だ。ヨウ素

換算とはどうゆう計算なのか。元になるデータとしては、保安院と安全委の

2種類あって、前者が原発自体の検証によるもの、後者は外部の測定に

よるものだ。両者は大まかに見て、似た値になってるし、朝日は安全委の

データを使っているから、ここでも安全委のデータを用いることにしよう。

    

4月12日に発表された、「福島第一原子力発電所から大気中への放射

性核種(ヨウ素131、セシウム137)の放出総量の推定的計算値につい

て」というpdfファイルでは、「結果」として次のように書かれている。

    

   3月11日から4月5日までの大気中への一部の核種の放出放射能

   総量として、ヨウ素131が1.5×10(17乗)セシウム137が1.2

   ×10(16乗)という推定的試算値が出されました。

      

このセシウムの値に40を掛けたのが、ヨウ素換算値になる。40倍という

数値は、安全委でも保安院でも直接的には書いてないようだが、朝日や

保安院の発表にある換算値から逆算すると、40倍してることが分かる。

そして実際、INESでもその掛け算の係数を発見出来た。下の画像は、表

2(TABLE 2)の上側部分のコピー&ペーストだ。

      

110413b

       

「RADIOLOGICAL EQUIVALENCE TO 131 I FOR RELEASES

TO THE ATMOSPHERE」 (大気中への放出に関する、ヨウ素131

への放射線学的換算値)と題するこの表には、各放射性同位体(Isotope)

ごとに、係数(Multiplication factor:掛け算する値)が示されている。4

番目のCs-137(セシウム137)40となってるのが分かるだろう。6番

目の I-131(ヨウ素131)は、自分自身への換算だから当然、係数は1だ。

ストロンチウム90なら係数20プルトニウム239だと係数10000

      

          ☆          ☆          ☆

したがって、元の福島原発のデータに戻ると、セシウム137のヨウ素131

換算値は次の式で表される。

    

     40×1.2×10の16乗

   = 40×(12000000000000000)

   = 480000兆ベクレル

   =48万テラベクレル

   (=48京ベクレル ; 京は1万兆を示す単位)

    

これとヨウ素15万テラベクレルを合わせて、計63万テラベクレル(=63京

ベクレル)だから、数字的には十分、レベル7というわけだ。ちなみに保安

院のデータでは、セシウムの量が半分だから、ヨウ素換算で24万テラ。

ヨウ素自体も2万テラ少ない13万テラだから、合計では37万テラベクレル

(=37京ベクレル)となる。

    

なお、40倍という係数どうやって算出されたのかについては、今の所

理解してないので、今後の課題としておこう。それを言うなら、例のベクレ

ルからマイクロシーベルトへの「実効線量係数」もまだ納得してないし、グ

レイからシーベルトへの「放射線荷重係数」(ベータ線やガンマ線では1)

も理解してない。

            

というか、その部分の解説を見かけたことはないから、私も含めてほとん

どの人は、数値を知ってるだけだろう。半減期や核崩壊時の放出エネル

ギーを考慮してるのだろう、という程度の想像なら簡単だが。。

          

 ☆4月26日追記: 40倍になる理由を解説した記事を追加。

  なぜセシウムのヨウ素換算値は40倍か~放射性物質の計算理論(by INES)

     

           

         ☆          ☆          ☆

もちろん、こんな簡単な計算よりも、他にもっと重要な話は色々とあるわけ

だが、正確に理解できる部分だけでもまず、しっかりした情報源に基づい

て示すべきだと私は考えてる。現代は、個人が独自にネットを利用してそ

うした解説が出来る時代なのだから。

では、今日はこの辺で。。☆彡

     

    

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

cf.放射線(放射能)の危険性と距離~2つの逆二乗法則(情報源明示)

  原発から各地までの距離と、放射線の年間総量(by文科省データ)

  シーベルト、グレイ、ベクレル~放射線・放射能の単位について

  雨の長距離ランニングで浴びた放射性物質の計算(by 定時降下物データ)

  体内摂取した物質の放射線量の計算~物理学&生物学的半減期

  福島原発レベル7の基準を読む~INES(国際原子力・放射線事象評価尺度)

  福島原発によるガン発生の厳しい試算~欧州放射線リスク委員会

  なぜセシウムのヨウ素換算値は40倍か~放射性物質の計算理論(by INES)

  被災地の被害が深刻とされる、「風評」の意味とは・・

  「想定外」という言葉の考察&リハビリラン2日目

  実効線量、等価線量、線量当量~様々なシーベルトの関係

  原発事故はみんなが無責任、だけどね・・~東電社員の息子・ゆうだい君への応答

  被曝する全放射線量の計算方法 (自然・医療、外部・内部、屋外・屋内)

  放射性物質の半減期、壊変定数、質量(重さ)~微分方程式の初歩など

  WHO(世界保健機関)による被曝線量の推計(全国、年代・経路別)

  確率的影響と確定的影響~放射線被曝の二分法の再考

  義務教育における放射線・放射能~中学校・理科の教科書&副読本

  日本人の自然放射線と医療被ばく線量(『新版 生活環境放射線』2011)

                  

                                  (計 3421文字)

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コメント

セシウムのヨウ素131換算値について、数値の解釈に致命的な誤りが見受けられますので指摘させていただきます。

INES公表資料付属の『CALCULATION OF RADIOLOGICAL EQUIVALENCE』中にある『ATMOSPHERIC RELEASE: DOSE FROM GROUND DEPOSITION AND INHALATION』ですが、これは「大気中に放出された、あるベクレル値の放射性核種から受ける合計線量(total dose)と、同一ベクレル値のヨウ素131から受ける合計線量の比」を試算したものです。比較対象の単位は「Sv/Bq*s*m-3」であり、Bqそのものの換算とは全く異なります。

ちなみに、合計線量は「呼吸から受ける影響」と「地表堆積物から受ける影響(50年間)」を足したもので、

・ヨウ素131の場合は、呼吸から2.44E-12(Sv/Bq*s*m-3)+地表堆積物から2.70E-12(Sv/Bq*s*m-3)=合計5.14E-12(Sv/Bq*s*m-3)。
・セシウム137の場合は、呼吸から1.29E-11(Sv/Bq*s*m-3)+地表堆積物から1.95E-10(Sv/Bq*s*m-3)=合計2.08E-10(Sv/Bq*s*m-3)。

上記セシウム137に関する合計線量が、単純にヨウ素131のおよそ『40倍』になるという事です。

ちなみに、Bqを単純比較するなら、核種固有の壊変定数同士を除算すれば済む事です。

投稿: 暇人 | 2011年4月25日 (月) 22時30分

> 暇人 さん
   
こんばんは。変わったお名前ですね。
内容のあるコメント、どうもです。
         
専門的な話なので、とりあえず
暫定的な応答だけ書いておきます。
残りの応答は数日以内にアップしたいと思います。
   
   
まず、私の応答を簡単にまとめときましょう。
頂いたコメントの内、INESだけに関する部分は
仰る通りで、私も直ちに理解しました。
しかし、この記事への批判は的外れです。
したがって、「40倍はこうやって求めたものです」と
コメントくだされば良かったと思います。   
    
    
では、少しずつ応答して行きましょう。
「数値の解釈に致命的な誤り」と書いてますが、
そもそも私は、換算や計算式の話をしてるわけです。
そう計算する理由までは、まだ理解してないと
最初から記事に書いてあります。
要するに、この記事は「解釈」など扱ってません。
           
もちろん、私がこの記事を書いた後、さらに深く勉強して
なかったのは認めます。
ただ、毎日更新し続けてる社会人ブロガーなので、
その辺りは悪しからずご了承ください。    
          
一方、計算そのものは、結局40倍するわけで、
INESのEXAMPLEでもやってること。
式も書かずに、いきなり40倍を繰り返してます。
使われてる単位も、テラベクレルのみ。
        
つまり、「Bq(ベクレル)そのものの換算」というのは、
INESの中で実際行われてることで、「私が」誤った
わけでもないし、「誤り」でもありません。
意味や解釈はともかく、INES的には正しい換算です。
     
      
差し当たり、今回は以上です。
それでは、また後ほど。。

投稿: テンメイ | 2011年4月25日 (月) 23時12分

> 暇人 さん
    
再び、こんばんは。
残りの応答は、別記事の形でアップしました。
この記事を「補足」する細かい解説です。
     
これでもう、最後の応答にします。
ご指摘、どうもでした。。

投稿: テンメイ | 2011年4月27日 (水) 02時47分

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