福島原発によるガン発生の厳しい試算~欧州放射線リスク委員会
通勤JOG 3km,18分程度
ここしばらく、基本的に体調はいいんだけど、その中だと今日はかなり下
の部類のようだ。軽い頭痛&吐き気、熱っぽい身体。。単なる寝不足、食
べ過ぎ、疲れかも知れないけど、今夜はサラッと書いておしまいにしよう。
予定としては、超久々に精神医学系の記事を書こうと思ってたのに、帰宅
前に立ち寄ったコンビニで、『FRIDAY』(2011年5月6日号)を見て、気
が変わった。関東以北の人間の多くが気にしてると思われる、放射線の
身体への影響について、厳しい試算の一つをまとめとく。
今現在、日本も含めて世界の放射線対策の基本になってるのは、国際放
射線防護委員会・ICRP(International Commission on Radio-
logical Protection)の見解だ。マスメディアも放射線の専門家も、これ
を根拠に語ることが多いし、特に専門家は、「ICRPに従うと・・・安全だ」と
いった流れで安心を訴えることが目立ってる。
これに対し、ICRPの基準は信頼できないし甘過ぎる、といった批判も以
前からあちこちで見かけている。ただ、ICRPの問題点を指摘するだけ
ではあまり意味はないわけで、より信頼できる代案を自ら提示するだけ
の能力が必要だ。
その意味で、ICRPとは別の見解を本格的に示す研究者の存在は、注
目に値する。その1人が、今週の『フライデー』にわりと目立つ形で3ペー
ジ掲載された、クリス・バスビー(Chris Busby)博士だ。欧州放射線リ
スク委員会・ECRR(Europian Committee on Radiation Risk)
の科学委員長で、福島原発の問題に焦点を絞った議論を本格的に示し
てる1人。委員会本部はブリュッセル、約70名の科学者が所属とのこと。
正直言って、最初はかなり疑惑のまなざしで記事を読み始めたんだけ
ど、記事全体は決して危険を強調し過ぎるものではなく、それなりにバ
ランスが取れてる。その点、同じ講談社の『週刊現代』とは違うのだ。実
際、中吊り広告でも、「C・バスビー博士の警告『がん患者は40万人増
える」という見出しの上に、小さめの活字ながら、「本当なのか!」と書き
添えてある。あくまで、一つの厳しい試算例として掲載してるのだ。
私も別に、ICRPよりECRRの方が正しいという確信を持ってるわけでは
ないので、この記事のタイトルは「厳しい試算」としておいた。ただ、単なる
反原発的な誇張ではないことは、ECRRの2010年版の勧告をザッと見
るだけでも感じ取れる。フリーでダウンロード可能な英語の専門的論文で、
何と248ページものpdfファイルなのだ。普通言われてる「厳しくない試算」
と比較するためにも、一通り目を通すのは有益だと思う。
では以下、その計算を示すが、根本的な注意点を改めて強調しておきた
い。計算というのは、最初に様々な前提や仮定を置いてるわけで、それら
は計算以外の考察から導かれたものだ(医師による診断、アンケート調査
回答など)。したがって、数学的な計算の過程が正しくても、元の前提や仮
定が変わると、出てくる答えや結果は全く違うものになる。そうした限界を
十分わきまえた上で、計算の仕方を参考までに見てみよう。。
☆ ☆ ☆
『フライデー』掲載の試算では、福島第一原発から100km圏内(山形市・
仙台市が入る)と、100~200km圏内(茨城・栃木・山形・宮城のほぼ全
域に到達)とに分けて、計算が行われている。大まかな結論を先に書いて
おくと、前者で約19万人、後者で約22~23万人、計41万人以上のがん
患者が、放射線によって生じるとされるのだ。
ただし、今から1年間ずっと住み続けた人の内、今後50年間でがんにな
る人を数えたものだから、それほど過激な数字ではないとも言える。増加
率とか発生率で考えると、特に後者は5%程度だろうし、がんの中には軽
いものも多く含まれてると思われるからだ。
では、まず100km圏内について。元の記事と、少し書き方を変えてるが、
実質的には同じだ。これまでの放射線調査から、この域内での平均的な
放射線量を、毎時2マイクロシーベルトと仮定。すると、
(1年の外部被曝) = 2×24時間×365日
= 17520マイクロシーベルト
≒ 17ミリシーベルト (端数切り捨ての控えめな値)
この3分の1が内部被曝だと考えて、
(1年の内部被曝) ≒ 5.7ミリシーベルト
これに、(1/3)×300÷10000、つまり100分の1倍という計算を行って
(1人当たりのがん発生率) ≒ 0.057%
域内の人口は約330万人だから、
(がん患者の発生数) ≒ 3300000×0.057
≒ 188100人
≒ 19万人
この計算方法は、主に核実験に関する疫学調査(=医学統計)から導か
れたものらしい。詳しくはpdfファイルに書かれてるのだろうが、流石に今
の所、英語の専門論文を248ページ読む余裕はない。つい先日、INES
の英語原文を30ページ以上読んだばかりでもあるのだ。いずれ日本語
版が作成される可能性があるので、その際には目を通したいと思ってる。
一方、100km~200km圏内では、平均的な放射線量を毎時1マイクロ
シーベルトと仮定。人口780万人として、同様の計算をまとめて行うと、
(がん患者の発生数)
≒ (1×24×365÷1000)÷3÷100×7800000
≒ 227760人
≒ 23万人
実際のフライデーの文章では、22万1000人と書かれてるから、途中の
端数の処理で誤差が生じてるか、些細な計算ミス or 記載ミスだろう。ほ
ぼ同じ値だし、どうせ大まかな計算だから、気にする必要はない。
なお、計算は書いてないが、ICRPに従って計算すると合計僅か6158人
という話だ。ここからすぐ、ICRPを過小評価だと批判することはできない
が、専門家集団の間で、極端な違いが存在することは注目しておこう。。
☆ ☆ ☆
こうして、欧州放射線リスク委員会としては、今後50年間で40万人のがん
患者が放射線によって発生すると主張することになる。よく考えると見た目
ほど凄くもない予測かも知れないが、もちろん相当な被害だから、バスビー
は厳しく忠告する。100km圏内は直ちに避難せよ。そして、東京電力の幹
部を裁判でジャッジせよ。。
不思議なことに、ネットで3月19日(邦訳25日)に公開された「ECRRリス
クモデルと福島からの放射線」という文章(執筆は同じくクリス・バスビー科
学委員長)を読むと、違う計算方法が書かれている。ただ、これは1ヶ月前
の計算だし、計算例も違ってるから、今日発売のフライデーの方を信用す
ることにしよう。いずれにせよ、普通の試算より厳しい値を示してるのだ。
(☆追記: 下のP.S.参照)
この主張を大きく載せた後、フライデーでは、別の機関所属の2人の専
門家に妥当性をたずねている。1人は岐阜環境医学研究所の松井英介
医師で、外部被曝中心に考えてるICRPよりも、内部被曝を重視するEC
RRの方を評価している。ただ、ここは研究所と言っても、実際は個人的
な診療所のようだ。
一方、コロンビア大学・放射線研究所(or 研究センター)のデビッド・ブレ
ナー(David Brenner)所長は、放射線関連の試算は非常に難しいし、
研究所ごとに違うと指摘。つまり、ECRRの計算は、一つの仮説に過ぎ
ないということだ。私も差し当たり、そう受け取っているが、いずれ正しい
とか妥当だと判断するかも知れないし、逆に否定的な判断を下すかも知
れない。まずは知ることが大切だ。
とにかく、福島第一原発の事故に匹敵するのは、チェルノブイリ原発の事
故と、広島・長崎の原爆くらいしかない。それに核実験の結果を加えても、
トータルではかなり限られたデータしかないわけで、安全性に十分余裕を
持った議論・判断・行動が必要だ。。
最後に、今日は通勤ジョギングで3kmほど軽く走っただけ。明日は1日
中、雨の予報だから、自転車のチェーン交換をするかも知れない。
それでは、今夜はこの辺で。。☆彡
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
P.S. バスビー博士による3月19日のリスク・モデルでは、次のような計
算になる。100km圏内だと、外部被曝17ミリシーベルトを600倍
して10200ミリ = 10.2シーベルト。この「ECRR線量」を0.1倍
して、1.02%と単位を変える。これが50年のガン発生率だから、
住民330万人なら、ガン発生は約3万3000人。
フライデーの計算値19万人の6分の1近くになってしまうし、違い
の理由も分からない。それでも十分多いのは確かだ。。
cf.放射線(放射能)の危険性と距離~2つの逆二乗法則(情報源明示)
原発から各地までの距離と、放射線の年間総量(by文科省データ)
雨の長距離ランニングで浴びた放射性物質の計算(by 定時降下物データ)
原発事故評価レベル7と、セシウムのヨウ素換算値の計算式(by INES)
福島原発レベル7の基準を読む~INES(国際原子力・放射線事象評価尺度)
なぜセシウムのヨウ素換算値は40倍か~放射性物質の計算理論(by INES)
原発事故はみんなが無責任、だけどね・・~東電社員の息子・ゆうだい君への応答
被曝する全放射線量の計算方法 (自然・医療、外部・内部、屋外・屋内)
義務教育における放射線・放射能~中学校・理科の教科書&副読本
(計 4020文字)
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コメント
>まず100km圏内について(中略)これまでの放射線調査から、この域内での平均的な放射線量を、毎時2マイクロシーベルトと仮定。
という「仮定」の話で実際の数値ではないということでよろしいでしょうか。仙台市の現在の放射線量は0.08~0.09マイクロシーベルトで、東京の平常時の放射線量とほぼ同じです。
宮城県内においても0.5マイクロシーベルトを越えている箇所はなく、また事故後明らかに下降傾向にあります。
http://www.bureau.tohoku.ac.jp/anzen/monitoring/
投稿: 仙台人 | 2011年4月23日 (土) 12時20分
> 仙台人さん
こんにちは。コメントありがとうございます。
計算しやすい値を用いた「平均的な・・・仮定」なので、
個々の地域の実測値とは違います。
原発近辺の非常に高い値が、全域の仮定を押し上げる形です。
そもそも、100km圏内を一つにまとめた試算なので、
非常に大まかに危険性を警告するのが目的でしょう。
実際の放射線量については、ウチでも1ヶ月以上前に、
距離別・地域別に総量計算の記事を書いています。
もちろん仙台の値も調べてあります。
https://tenmei.cocolog-nifty.com/matcha/2011/03/post-d4ad-4.html
仙台の実際の値で計算し直すと、がん発生のリスクは
かなり小さくなります。
ただ、バスビー氏の計算は、1年間住み続けた場合の
ものなので、5年、10年と住み続けると、それだけ
リスクも高まることになります。
もちろん、その間に放射線は減るでしょうから、
5倍、10倍になるとは思えず、せいぜい
1.5倍前後だと想像しますけどね
投稿: テンメイ | 2011年4月23日 (土) 15時29分
興味深い記事をありがとうございました。
事故発生時テレビでいろいろなかたがたが「たいしたことない」「大丈夫」と言い続けたことに言いようない複雑な気持ちになったことを思い出し、あの方々がここにいたらそんなことを言えるのかと考えます。
「たいしたことない」ことではないのです。
「通常ありえないこと」をされて「生存権」をことば暖かく冷たい気持ちでばっさり切られた思いがおそらくこのかたがたには分からないでしょう。
投稿: 福島BCL | 2011年5月 3日 (火) 00時08分
> 福島BCL さん
はじめまして。コメントありがとうございます。
「BCL」とは初耳の言葉でしたが、
「BroadCasting Listener」の略ですかね。
あるいは「Listening」とか。
いずれにせよ、福島の方でしょうね。
心よりお見舞い申し上げます。
「大丈夫」とか言ってた方々も、「現在の情報なら」、
「ICRPの基準で考えれば」という前提を付けてたんでしょう。
ただ、情報は刻々と変化するし、ICRPの基準自体の
正しさが今、根本的に問われてるわけです。
放射線の安全基準については、私自身の生存権とも
関わる事ですし、また記事を書こうと思っています。
機会がありましたら、またご参照ください。。
投稿: テンメイ | 2011年5月 3日 (火) 20時28分