三角関数 sinθ の微分、単位円による図形的証明
大震災の直前にアップした、三角関数の極限に関する記事は、ごく一部の
マニアックな方を対象にして書いたものだった。私としては、自分が納得し
て、記事のプリントアウトを見せた専門家が絶賛してくれただけでも、十分
だったのだ。
ところがその後、あの記事には意外なほどアクセスが入ってる。おそらく、
大半が高校2~3年生と大学1年生だろうから、肝心のアルキメデスの話
はあまり理解されてないと思うが、一部の人は一通り読んでくれてるような
感じだ。そこで今夜は、関連する高校生向けの話をオマケとして追加しとこ
う。震災以降、純粋な数学記事を書いてなかったから、たまにはいいと思
う。ただし、前の記事と比べるとお遊びレベルの内容なので、念のため。。
☆ ☆ ☆
事のキッカケは、前の記事に頂いた読者のコメントに、sin x の微分を単
位円で求めたという話があったことだ。私にとっては、微分の定義式から
簡単に求められる最も基本的な事だから、その時は軽く流してしまった。
ところが半月前くらいに、「sin x 微分 単位円」といった感じの検索アク
セスが入って来たから、試しにやってみると、図形を使ってすぐに解けた。
ただ、どこにでも書かれてる内容なら、あらためて私が書く意味も少ない
ないから、サラッと検索してみると、少なくともこの記事と全面的に重なっ
てしまうものは見当たらないようだ。そこで、試しにアップしてみよう。簡単
ながら、私自身は半月前まで考えたことはなかった。
、
さて、まず確認しておきたいのは、高校数学における極限・微分・積分、つ
まり解析学の特徴だ。厳密なイプシロン・デルタ論法などを使わない点も特
徴だけど、それは高校に限らないことだろう。むしろ高校の特徴は、図形を
多用してる点にある。基礎的レベルで言うと、例の極限、「lim sin θ / θ
= 1 (θ→0)」の証明もそうだし、積分の基本もそうだ。また、積分の場合
には、図形的な近似を行ってる。
以下の sin の微分(定義に基づく導関数の計算)おいても、図形的な説明と
近似を使うことになる。特に、近似の方は、私にとっては相当引っ掛かる話
で、まさに前の記事で扱ったことにつながる訳だ。つまり、微小な曲線の長
さを、微小な線分の長さで近似すること。古代ギリシャのアルキメデスは、こ
れを明らかとはせず、長さの定義という近代的な話に持ち込む(or 逃げ込
む)こともしなかった。でも、その話は既にしてあるので、以下では普通に近
似させて頂こう。
☆ ☆ ☆
角度の文字としては、x よりθの方が直感的に分かりやすいから、以下で
もsin θで説明する。sin θの微分の定義式は、次の通りだ。
(sin θ)´ = lim {sin(θ+h)-sin θ} / h (h→0)
この「{sin(θ+h)-sin θ} / h」が、h→0の時に cos θ であることを
示せばよい。まず、h>0の場合を考える。
上図の曲線はもちろん、原点中心の単位円(半径1)。横軸は x 軸だ。今、
赤い直角三角形に注目すると、高さが sin(θ+h)-sin θ,で、斜辺の長
さは h と考えられる。hは本当は、円弧の長さだが、角度hは非常に小さ
いから、線分(斜線部の直角三角形の斜辺)で近似したわけだ。したがっ
て、高さ÷斜辺の極限を考えればよい。
ここで、上図のように角度計算を行っておくと、問題の直角三角形の上側
の鋭角は、(π-h)/2 - (π/2 -θ-h)。つまり、θ+(h/2)だと
分かる。よって、下の直角三角形ABCの図より、
高さ÷斜辺=AB÷AC=
cos(θ+ h/2)。
したがって、h→0の時の極限は
cos θ となる。
一方、h<0の場合は、h=-t と
おけば、t>0となり、微分の定義
式の分数は、次のようになる。
{ sin(θ-t)-sin θ } / -t = { sin θ-sin(θ-t) } / t
この右辺の極限を、h>0の時と同様にして求めれば、cos θになること
が分かる。結局、hの正負に関わらず、例の極限の値は cos θ。
したがって、sin θ の微分は cos θである。
(Q.E.D. 証明終了)
☆ ☆ ☆
ちなみに、大学レベルの解析学では、そもそも sin の定義が変更される
し、高校3年の数Ⅲでも、普通は単なる式変形で求める。三角関数の加法
定理を用いて、
(例の式) = (sin θ・cos h+cos θ・sin h-sin θ)/h
= -sin θ・(1-cos h) / h + cosθ・(sin h / h)
= -sin θ・(1-cos² h)/h(1+cos h)
+ cosθ・(sin h / h)
= -h・sinθ・(sin h / h)² + cosθ・(sin h / h)
h→0の時、sin h / h → 1 だから、上の式の極限は、
-0×sin θ×1² + cos θ・1 = cos θ
よって、sin θ の微分はcos θ である。
これは、数Ⅲの教科書や参考書に普通に載ってる話のはずだし、三角関
数の極限の問題としても初歩的レベルだろう。
以上、sin θ の微分について、図形的方法を中心に考えてみた。今現在
の私の関心は、やはり震災関連に向かってるので、しばらく純粋な数学の
記事は書かないかも知れない。ただ、ε-n(イプシロン・エヌ)論法の記
事のアクセスがかなり増えてるし、好評のようなので、そちらでオマケ記事
を追加する可能性もある。あるいは、相変わらずよく読まれてる、ペアノの
自然数論の記事を追加するかも知れない。
ともあれ、今日の所はこの辺で。。☆彡
cf.三角関数の極限「(sinθ)/θ→1 (θ→0)」の証明とアルキメデス
(計 2240文字)
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コメント
コピーして帰りの電車の中で読みました。
爽やかに図形でsinθの微分がcosθであることを証明していますね。丁寧に+0からと-0から攻めてもいますね。私はsinθ/θと加法定理で理解していました。・・暫く純粋数学は書かないと言う下りはちょっと淋しい気もするが、震災の記事も楽しみに読んでいます。
投稿: gauss | 2011年5月17日 (火) 12時29分
> gauss さん

こんばんは。電車の中で読んで頂き、どうもです ♪
僕は、携帯の写メやデジカメで撮った文書を
電車で読むことがあります。
紙の方が、面積が広くて読みやすいですけどね。
僕も、今まで全く考えたことが無かったんですが、
高校の基本問題としては適当でしょうね。
数式と図形が、程よく調和してます。
本当は、θ の範囲も考えなきゃいけないんだけど、
そこまでやる人はほとんどいないから、僕もサボリました ♪
h<0の場合の図も、省略してあります。
純粋な数学記事は、検索アクセスなら多少は期待できるけど、
ウチの常連さんで読む人が少ないんですよ。
純粋物理よりは多いんだけど。。
ウチは総合サイトで、何でもアリだから、
読者の側もなかなか対応しにくいでしょうね。
毎日更新とはいえ、ハズレの日が多いかも知れません。
震災関連は、みんなが関心を持ちやすい話だし、
義務感もあって、地道に書き続けてます。
まあでも、震災情報が出回り過ぎてる感は強いので、
最近はちょっと様子見気味なんですよ。
純粋数学も、たまに思い出したように書きますから、
期待せずに気長にお待ちください ♪
投稿: テンメイ | 2011年5月18日 (水) 02時28分
私も、考えてみました。
2点 P(cosθ、sinθ) , Q(cos(θ+h)、sin(θ+h)) を 考える。
(cos(θ+h)-cosθ、sin(θ+h)-sinθ) は、点P を原点に採った時の Q の座標で
([cos(θ+h)-cosθ]/h、[sin(θ+h)-sinθ]/h) は、
点Qを、P→Qの向きに 1/h 倍した点 R の座標である。
PR=PQ/h=PQ/弧PQ → 1 ( h → 0 )
又、新エックス軸を X、PT は円の接線とすると、 ∠XPR → ∠XPT=θ+π/2
よって、
([cos(θ+h)-cosθ]/h、[sin(θ+h)-sinθ]/h) → (cos(θ+π/2)、sin(θ+π/2))
投稿: kyoutochaku | 2011年7月20日 (水) 15時08分
> kyoutochaku さん

はじめまして。コメントありがとうございます。
なるほど、sinθとcosθの微分を同時に
説明できる、エレガントな発想ですね。
あとは、h<0の場合の処理と、Tの位置
(ベクトルPTの向き)の決定でしょう。
「1/h倍した点」とか、「PR=PQ/h=PQ/弧PQ」と
いった箇所に、hの符号が絡んで来ますよね。
あと、ベクトルPTの向きに応じて、
∠XPTはπだけ変化しますので。
場合によっては、絶対値記号とか
ベクトルを使うといいかも知れません。
例えば、ベクトルPR=ベクトルPR/hと定めて、
hの代わりに絶対値h。
Tは直線OPに対して点Rと同じ側と決めるとか。。
投稿: テンメイ | 2011年7月21日 (木) 04時49分