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実効線量、等価線量、線量当量~様々なシーベルトの関係

RUN 12km,58分17秒,心拍151(推定)

     

今夜は時間的にかなりキツイから、単なるランニング日誌で終わらせたい

所だけど、ずっと先延ばしにして来た放射線関連の話を軽く書いてみよう。

         

一つ一つの話はあちこちに書かれてるが、おそらく以下のようなまとめ方

はネット上にほとんど無いと思う。少なくとも私は、検索でメジャーなサイト

を飛び回って、どこにも発見できなかったし、他にめぼしいサイトも検索で

ヒットしないのだ。もちろん、震災以降の朝日新聞にも一切書かれてない

(記事検索でヒット数ゼロ)。

      

時間が無いから、最初に焦点を絞り込もう。5月11日の朝日新聞・朝刊

は、大震災2ヶ月ということで、通常の震災記事とは別に、4ページにわた

特集「東日本大震災 放射能と向き合う」を組んでた。その2ページ目の

右上と右下に書いてることが、一見すると矛盾に見えたのが、この記事執

筆の直接のキッカケだ。それ以前にも、「シーベルト、グレイ、ベクレル」と

いう記事を書いた頃から、似たような話は考えてた。

       

まず右上には、校庭の放射線量について語る中で、毎度お馴染みの話が

登場している。「『緊急事態収束後は年間被曝量1~20ミリシーベルトの範

囲で対策を考える』という国際放射線防護委員会(ICRP)の指標を参考に

・・・」といった説明だ。この20ミリという値は、流石にもう多くの人が覚えて

しまってるだろうし、それに対する批判や不安もさんざん聞いてるだろう。

      

ところが、右下の話はそこまでメジャーではないし、一見奇妙でもある。

50ミリシーベルト  食品から放射性ヨウ素を摂取する場合の、1年間

の限度量」。あれ、全体で20ミリなのに、これだけで50ミリはおかしい

ろ?・・・と誰かにたずねられて、明快に即答できる人はほとんどいないと

思う。私もその時点では即答できなかったし、ほぼキレイに納得したのは

つい先ほどなのだ♪

       

         ☆          ☆          ☆

これは明らかに、記者(小林未来)の書き方が「ミスリーディングな」(=誤

解を招きやすい)ものになってるわけだが、「間違い」とは言えないし、事情

も何となく理解できる。当然、ご本人は理解してるはずだが、どうも朝日新

聞の記事に使われる言葉の制約があるようなのだ。

    

「実効線量」、「等価線量」、「線量当量」といった言葉を朝日で読んだ覚え

がないし、実際、データベースを検索しても全くヒットしない。でも、ネット上

や解説書のあちこちに登場する基本的術語だし、正確な理解や歴史的考

察には不可欠だろう。

     

その朝日の説明に戻ると、「20ミリシーベルト」という基準値は「実効線量

effective dose)であって、これは読んで字のごとし。人体への実際の効果

(=悪影響)を計算した放射線量のことだ。基本的に、外部被曝でも内部被

曝でも、一般向け説明の中でマイクロシーベルトとか「線量」と言う場合には、

実効線量のことだと思っていい。食品や飲料水による内部被ばくの話でよく

ある、ベクレルからシーベルトへの換算も、明示してないけど実効線量だ。

          

ところが、少し細かい話や突っ込んだ話を始めると、「等価線量」(equivalent

dose)という言葉が必要になる。というのも、実効線量というのは、各組織ご

との等価線量(後述)に、その組織の特性を表す「組織荷重係数」をかけて

最後に人体すべての足し算(シグマ=和)をとったものだからだ(科学史的

に特定の組織への注目は早かった)。もちろん、そんな導出プロセスは、普

段なら専門家に任せておけばいい。

      

でも、例の朝日の説明の「50ミリシーベルト」というのは、実は「甲状腺

価線量」であって、大部分のヨウ素が集中する甲状腺における等価線量と

いう意味。いつも話題になってる、実効線量ではないのだ。

         

食品安全委員会のHPを見ると、pdfファイルが色々並んでて、あちこちに

次のような説明がある。50ミリという等価線量は、「実効線量として2ミリ

シーベルトに相当」。というのも、甲状腺の場合、組織荷重係数0.05

から、50×0.05=2.5ミリ。安全のための余裕を考えて、端数切り捨

して、2ミリという意味だろう。とにかく、20ミリの放射線基準値の内で、10

分の1に過ぎない2ミリなのだから、ちゃんと筋が通ってるのだ。。

     

          ☆          ☆          ☆

では、各組織の等価線量とは何なのか。それは、それぞれの「吸収線量

(文字通りの意味で、単位はグレイ:Gy)に、各放射線の特性を示す「

射線荷重係数」をかけて、単位をシーベルト(Sv)に換えたもの。今、問題

になってるのはβ(ベータ)線とγ(ガンマ)線で、どちらも係数は1だから、

結果的な数値だけ見れば、グレイ=シーベルトということになる。ただし、

α(アルファ)線が混ざると、係数20だから、グレイとシーベルトは全く違う

数字になるわけだ。

   

さて、これでおしまいなら、理系的センスのある人にとっては簡単な話に過

ぎないが、実はまだ先に、文系的な困難が控えてる♪ あちこちの専門的

サイトは、みんな理系的センスだけで書いてるので、どうしても腑に落ちない

部分が残ってた。

     

まず、吸収線量(単位はグレイ)に係数1をかけて求めた値(単位はシーベ

ルト)は、昔は線量当量」(dose equivalent)と言ってたのだ。ICRPによる

1977年勧告によるものらしくて、英語だと、等価線量(equivalent dose)と

は語順が違うだけ。この昔の勧告に従うと、各組織に対する量は、「組織線

量当量」と呼ばれることになる。

     

ところが、1990年ICRP勧告で用語が変更されたのを受けて、日本で

は、各組織の場合は「等価線量」と呼ぶことに。また、単に「線量と呼ぶ

ことも認められたようだ(FERMC: 福井県原子力環境監視センター)。

おそらく、「実効線量」の計算前の値だから単なる「線量」なんだろうと思う

が、世間的には「線量」と言う言葉は実効線量を指すから、何とも分かりに

くい状況が生じる。

       

          ☆          ☆          ☆

こうして、「線量」、「実効線量」、「等価線量」、「線量当量」という4つの専

門用語が、意味的にも歴史的にも微妙な関係にあるから、非常に分かり

にくいことになってるのだ。特にネットでは、昔の用語と現在の用語が混

してるし、英語でも後ろの3つは紛らわしい。

            

実は、「実効線量」は以前実効線量当量」とも言ったので、その場合には、

実効線量が「effective dose equivalent」、等価線量が「equivalent dose」、

線量当量が「dose equivalent」となり、混乱を招くわけだ。実際、英語版ウィ

キペディアを見ても、この辺りの用語の使い分けはアバウト(適当)になって

る。良く知ってる人ならともかく、知らない人が読むと疑問だらけだろう。

         

という訳で、私自身は今夜、かなりスッキリしたけど、逆に混乱する読者の

方もいらっしゃるだろう。その場合は、すべて同じ「線量」(=実効線量)と

思っとけば、ほとんど問題ないと思う。私は、元々マニアックな性格だし、

記事もかなり書いて来たから、気になって夜も眠れなかったのだ。。♪  

         

      

cf.原発から各地までの距離と、放射線の年間総量(by文科省データ)

  放射線(放射能)の危険性と距離~2つの逆二乗法則(情報源明示)

  シーベルト、グレイ、ベクレル~放射線・放射能の単位について

  雨の長距離ランニングで浴びた放射性物質の計算(by定時降下物データ)

  体内摂取した物質の放射線量の計算~物理学的・生物学的半減期

  原発事故評価レベル7と、セシウムのヨウ素換算値の計算(by INES)

  福島原発レベル7の基準を読む~INES(国際原子力・放射線事象評価尺度)

  福島原発によるガン発生の厳しい試算~欧州放射線リスク委員会

  なぜセシウムのヨウ素換算値は40倍か~放射性物質の計算理論(by INES)

  被災地の被害が深刻とされる、「風評」の意味とは・・

  「想定外」という言葉の考察&リハビリラン2日目

  原発事故はみんなが無責任、だけどね・・~東電社員の息子・ゆうだい君への応答

  ランニングの呼吸で内部被曝した放射線量の計算

  被曝する全放射線量の計算方法 (自然・医療、外部・内部、屋外・屋内)

  放射性物質の半減期、壊変定数、質量(重さ)~微分方程式の初歩など

  外部被曝におけるベクレルとシーベルトの計算式(by IAEA)

  朝日の甲状腺被曝87ミリシーベルト報道の意味~実効線量と等価線量

  義務教育における放射線・放射能~中学校・理科の教科書&副読本   

          

     

         ☆          ☆          ☆

あぁ、全然ランニング記事では無くなってしまったね (^^ゞ まあ、最後にオ

マケのように日誌を加えとこう。昨夜も、雨が上がった後に、12kmだけ

ランニング。その前夜に、病み上がりのスピード走をやってたから、脚が

かなり疲れてて、公園までの往路ですぐ引き返しそうになったほど♪

     

そこを粘って、何とか完走。トータルでは1km4分51秒ペース。ま、ヨタヨタ

のわりには頑張った方かも。今夜はもう走る時間がないのでお休み決定。

明日は自転車かな。ではまた。。☆彡

       

        

 往路(2.57km)    13分18秒  心拍計・電池切れ       

  1周(2.14km)    10分39秒        

  2周            10分30秒         

  3周           10分22秒 

  4周(0.68km)     3分22秒                        

 復路(2.33km)   10分07秒   

計 12km  58分17秒 心拍151(推定; 82%)

         

                                 (計 3799文字)

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