震災後の青空文庫で人気、寺田寅彦『津浪と人間』
通勤JOG 3.5km,19分程度
今日(6月10日)の朝日新聞・朝刊の人物紹介欄「ひと」は、「1万冊に達し
た電子図書館『青空文庫』の世話人」というタイトル。主催者の富田倫生氏
へのインタビューが、写真入りで簡単にまとめてあった。青空文庫は、著作
権の問題が無い本を無料で公開してくれてる、便利で合法的なサイトだか
ら、私も時々使わせて頂いてる。
6月8日公開の横光利一『上海』で1万点到達だそうで、97年7月以降、約
800人のボランティアが作業したとのこと。富田氏の場合、「青空文庫」以
外に、病気との闘いも長くて、かなりの苦労人のようだ。今後、使わせて頂
く時には、あらためて感謝しながら読みたいと思う。
☆ ☆ ☆
で、今回早速、久々に読んだのが、寺田寅彦の4500字程度のエッセイ、
『津浪と人間』。宮沢賢治『雨ニモマケズ』と共に、東日本大震災以降、よく
読まれてるそうだ。初出が1933年(昭和8年)だからなのか、「津波」では
なく「津浪」となってるが、文体はさほど古く感じない。78年前と言うより50
年前くらいの感じだろうか。執筆当時にはやや新しい文体だったのかも知
れない。
寺田寅彦といっても、ピンと来ない人が多いだろうが、随筆家として長く人
気を保ってる戦前の物理学者で、東京帝国大学(現・東大)の地震研究所
にも所属している。身近なものや現象に対して、理系のまなざしを保ちつ
つ、人文系の感性でもとらえた人で、理系&文系&体育会系の私にとって
も参考になる人だ。
さて、『津浪と人間』の内容&感想だが、1933年(昭和8年)3月3日の
「昭和三陸地震」の2ヶ月後に書かれた文章で、その37年前、1896年(明
治29年)の「明治三陸地震」を振り返りつつ、人間の進歩の遅さを、淡々と
冷静に描写している。執筆時には自身も地震研の所員のはずなのに、なぜ
か地震研究者を他人事のように語ってるのは、自分を客観視してるのか、
あるいは自分以外の研究者について語ってるのか、よく分からない。
「明治三陸」の前にも、大地震は度々あったし、今後も度々あるのは分か
り切ってるのに、備えや対策が進まない主な理由について寺田は、数十年
に1回しか起きないからだと語ってる。これは、非常に科学者的な客観的
見方であって、私もかなり共感する。
今回の大震災以降の日本社会を見てると、「あの人が悪い」、「あの時、こ
う出来たはず」、「これは人災だ」といった論調が目立つが、そこで忘れられ
てるように見えるのが、数十年間さほど問題無かったという事実と、その長
い時間的間隔は主に自然界の動きによるものだという事実だ。
寺田がややユーモラス(or シニカル)に語るように、人間は数十年も経つ
と物事を忘れるし、数十年起きなかったことに備えろと言われてもなかな
か難しい。さらに、数十年経つと、住民も役人も学者も変わってしまって、
議論や政策の一貫性を保つのも困難になる。
「しかし困ったことには」、人間社会の忘れっぽさとは逆に、「『自然』は過
去の習慣に忠実である」。したがって、「人間がもう少し過去の記録を忘
れないように努力する外はない」。それは、素朴な記憶でもいいし、「科学
の方則」(原文のまま)という名の「自然の記憶の覚え書き」でもいいわけだ。
ただし、地震の記念碑があまり役に立たないことについては、わざわざ追
記してある。ある地方に建てられた明治三陸地震の記念碑は、いまや二つ
に折れて倒れて、文字も読めない状況。他の地方では、新しい道が出来た
ために、旧道わきの記念碑が目に付かなくなってしまってたそうだ。
まあでも、この点に関しては、現在の建築技術(広い意味)や行政なら何と
かなるかも知れない。少なくとも、阪神淡路大震災の記念館(淡路島)は、
まだ全く大丈夫で、私も数年前に実地勉強させて頂いた。震度7をシミュ
レーターで経験してたことが、今回の地震での落ち着いた行動につながっ
たかも知れない。(追記: 北淡震災記念公園の野島断層保存館。)
☆ ☆ ☆
寺田は結局、地震や津波に関する過去の知識に加えて、「未来の知識」
を科学的に獲得し、「普通教育」で広めてこそ、「天災の予防が可能にな
るであろう」と語る。そうした教育こそ、「やはり学校で教える『愛国』の精
神の具体的な発現方法の中でも最も手近で最も有効なものの一つであろ
う」というわけだ。
この辺り、時代的制約もあるし、本人が科学者でもあるから、まだまだ科
学の発展や力を信じてる様子がうかがえる。ただ、地震や津波の正確な
予測には、少なくともまだ数十年はかかりそうだから、いつ再来しても最悪
の事態を避けられるように、普段から備えることしか出来ない。教育すべき
は、科学的知識よりも、被害の大きさという社会的・人間的事実だと思う。
生活習慣(住む場所・職業など)の改革は、教育という分野とは微妙に異
なるもので、教え育てるようなものでもない。
一方、1933年にはまだ科学者でさえ想像できなかったと思われるのが、
原子力の問題だ。核兵器を除いて、原発に限ると、大災害の歴史は僅か
数十年しかないし、数も少ない。にも関わらず、「フクシマ」を受けて世界が
大きく動き出したのは、原発が人間の手によるものだし、事故の影響が非
常に広くて時間的に長いからだろう(深刻さは津波と比較して微妙)。人間
が生み出したにも関わらず、もはや制御不能のように見える、あまりに巨
大で高度な建造物だ。
ただ、私自身、わりと原発には反対にも関わらず、やはり寺田の指摘が耳
に残る。数十年に一度だと、人間は忘れがちなのだ。影響は延々と残るも
のの、徐々に社会は落ち着きを取り戻し、人々の生活も「元に戻って」いく。
果たして、この社会は原発とさよなら出来るのか。太陽光・太陽熱・風力・
水力・バイオマス、あるいは火力発電の側で、大きな事故や問題が発生
した時、途端に「揺り戻し」が起きないのか。今現在、私には読めない。日
本で大きな原発事故は数十年起きなかった。それに対して、代替案はど
の程度の安全性(&効率)を誇示できるのか。
こうしてみると、やはり根本的に重要なのは、少ないエネルギーで生活す
ること、ライフスタイルを世界規模で変えることのような気がする。とはいえ、
総論賛成、各論反対。では、割り箸はどうするのか、エコカーやエアコンは
どう評価すべきなのか。人間はこれから、細かくて複雑な多数の問題と向
き合うことになるだろう。
とりあえず私としては、細かい話や計算から目を逸らさないようにしたいし、
「大きな流れ」に「飲みこまれ」てしまうことにも注意したいと思ってる。流れ
とは、自分で作るもの、自分で選びとるものなのだ。。
cf.津波で死んだ妻の幻への情愛~柳田国男『遠野物語』第99話
☆ ☆ ☆
最後に、今日の走りについて。やっぱり金曜は余裕が無くて、通勤ジョギン
グ3.5kmが精一杯。まあ、その内の800mほどは相当なスピードだった
し(慌ててた♪)、昨日と一昨日で16kmずつ走ってるから、良しとしよう。
明日もまた、通勤ジョグだけかも。。
それにしても、今日は気温以上に蒸し暑く感じたな。節電の夏まであと1ヶ
月。身体と部屋の備えを早くどうにかしないとヤバイ。正直、地震より暑さ
の方が怖かったりするのだ。去年は、死者も結構出たしね。
ではまた。。☆彡
(計 3002文字)
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