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セシウム牛肉、食後1年間での内部被曝線量の計算方法(定積分&実効半減期)

放射線の被曝量の計算については、先日のまとめ記事を始めとして、これ

までに何本も記事を書いてるし、先日の牛肉セシウム事件の後にも、新た

な話を追加する必要はないと思ってた。ただ、かなり前に書いた生物学的

半減期や有効(or実効)半減期に関する記事へのアクセスが急増してるし、

今の所、細かい具体的計算を新聞・ネット等で見る機会はほとんどない。

    

そこで、これまでの話の応用編として、新たに記事を書くことにしよう。主た

る目的はただ一つ。この牛肉を食べた人が、「今後1年間に」受ける内部

被ばくの計算だ。もちろん、既にあちこちに書かれてる話(実効線量係数

を使った単純な掛け算)は、今後50年間に被曝する線量(預託実効線量)

であって、今後1年間だけの分ではない。

     

大まかな結論から言うと、今後50年間の被曝線量と、今後1年間の被曝

線量は、あまり変わらない。つまり、最初の1年で急激に放射性物質が

減少するから、残りの49年間はほとんど関係ないのだ。

        

それは、簡単な算数と図でイメージ的に説明できなくもないけど、正確に

高校3年の数学(数Ⅲ)の「定積分」が必要になる。とはいえ、高校2年

の数学(数Ⅱ)の定積分がよく分かってれば、話の流れは十分理解でき

るだろう。つまり、理系・文系に関わらず、高卒レベルの話であって、専門

家も専門書も必要ないのだ。

         

        

        ☆           ☆           ☆

まず、最低限の事実の確認から。7月14日までに各メディアで発表され

たニュースによると、最もセシウム汚染が進んだ牛肉で、4350Bq/kg

の放射能濃度だった。安全のために、多めに見て、これを1kg食べた人

がいたとすると、摂取したセシウムは4350Bq(ベクレル)となる。

       

このセシウム(Cs)の中に、Cs137Cs134がどれだけの割合で入っ

てたのか、発表には示されてないが、仮に半々としてみよう(違う割合で

も計算・結果ほぼ同じ)。すると、それぞれ2175Bqの摂取となる。つまり、

それぞれ1秒間に2175個の原子(核)が崩壊して、放射線を出すわけだ。

       

原子1個の崩壊から、平均してどれだけの内部被曝が生じるかは、セシ

ウムの種類ごとに違っている。そこで今、Cs137が1個崩壊するごとに、

平均してp マイクロシーベルト(μSv)、Cs134の場合は q マイクロシー

ベルトの内部被ばくが生じるとしておく(計算の最後にp,qは消える)。

    

また、物理学的半減期と生物学的半減期の両方を考慮して求めた、

効半減期以前の記事を参照)については、Cs137が約1/5年(=73

日)、Cs134が約1/4年(≒91日)と考えて良さそうだ。あちこちに、

微妙に異なる実効半減期(あるいは生物学的半減期)が、ほとんど根拠

なしに書かれてる状況だが、自治体HPや英語版ウィキペディアも含めて、

大まかに一致した期間になってるから、1/5年と1/4年でいいと思う。

もちろん、計算や結果を単純にするための配慮にすぎない。

      

気になる人は、以前の記事で説明した公式を使って、物理学的半減期

と生物学的半減期のデータから計算すればいい。要するに、両方の掛け

算を両方の足し算で割った値(「和」分の「積」)だが、人間の排泄という曖

昧なものが関わるし、年齢によってもかなり違うから、73日と70日の違

いとか、細か過ぎる区別には意味がないのだ。

       

         ☆          ☆          ☆

それでは、Cs137とCs134に分けて被曝線量を計算してみよう。

1年=24時間×365日=8760時間=8760×3600秒=31536000秒

よって、31536000を文字 a とおくことにすると、50年なら50a秒、半減

期1/5年なら a/5 秒と表せることになる。これは、時間の単位をベクレ

ル(1秒あたりの崩壊個数)と同じく「」にするという事だ。 

      

 (1) Cs137について

 

    単純に、経口摂取の実効線量係数0.013を使って50年分を計算

    すると、

      0.013×2175 ≒ 28.3(μSv)

    

    これが50年(=50a秒)の放射線の定積分だから、下の式が成立。

    ちなみに、指数(1/2の右肩)の5t/aとは、t÷(a/5)という意味。

    log2とは、2の「自然対数」で、e と呼ばれる数(約2.718)を何乗

    したら2になるかを示す定数だ。約0.693のこと。

       

110714a

         

    上の式の最後の等号(=)は、正確には近似の記号(≒)だが、ほとん

    ど誤差はない。よって、1年分なら次のように、50年分の31/32

    (つまり 1-1/2⁵)、したがって27.4μSvとなる(pもaも消える)。

       

110714b

       

   

  (2) Cs134について。

     

      単純に、経口摂取の実効線量係数0.019を使って50年分を

      計算すると、

         0.019×2175 ≒ 41.3(μSv)

      

      ここから、Cs137の時と同様に考えると、1年分なら50年分の

      15/16(つまり 1-1/2⁴)となる(qもaも消える)。

   

      ∴ (1年分) = 41.3×15/16 ≒ 38.7(μSv)

   

    

  以上、(1)(2)より、今後1年間に内部被曝する放射線量の合計は、

      27.4+38.7 = 66.1(μSv) ≒ 0.066(mSv)

         

        

         ☆          ☆          ☆

この0.066ミリシーベルトという値は、厳しく見積もった年間基準値の

1ミリシーベルトと比べても1/15に過ぎないから、これ以上摂取しなけ

れば、健康の心配はまず無いと言える。ただし、食べ物や飲み物は毎日

必ず一定量摂取するものだから、政府・自治体、生産者、販売者、消費

者、みんなが今後、相当な注意を払い続けないと危険だろう。

          

この記事で示したかったのは、1年分の被曝量の計算方法。要するに、

実効半減期を1/c 年として定積分すれば、50年分の被曝量と比べて

1-(1/2のc乗)倍になるということだ。 ヨウ素やセシウムの場合、こ

の値は1より少し小さい程度。つまり、実効線量係数の掛け算で求めた

50年分の値が、ほぼ今後1年間の被曝線量だと考えてよいということ

なのだ。

    

では、今日はこの辺で。。☆彡

    

    

cf.原発から各地までの距離と、放射線の年間総量(by文科省データ)

  放射線(放射能)の危険性と距離~2つの逆二乗法則(情報源明示)

  シーベルト、グレイ、ベクレル~放射線・放射能の単位について

  雨の長距離ランニングで浴びた放射性物質の計算(by定時降下物データ)

  体内摂取した物質の放射線量の計算~物理学的・生物学的半減期

  原発事故評価レベル7と、セシウムのヨウ素換算値の計算(by INES)

  福島原発レベル7の基準を読む~INES(国際原子力・放射線事象評価尺度)

  福島原発によるガン発生の厳しい試算~欧州放射線リスク委員会

  なぜセシウムのヨウ素換算値は40倍か~放射性物質の計算理論(by INES)

  被災地の被害が深刻とされる、「風評」の意味とは・・

  「想定外」という言葉の考察&リハビリラン2日目

  実効線量、等価線量、線量当量~様々なシーベルトの関係

  各地の放射線量、文科省データと「本当」のデータの比較

  原発事故はみんなが無責任、だけどね・・

                    ~東電社員の息子・ゆうだい君への応答

  震災後の青空文庫で人気、寺田寅彦『津浪と人間』  

  ランニングの呼吸で内部被曝した放射線量の計算

 被曝する年間放射線量すべての計算方法(自然・医療、外部・内部、屋外・屋内)

  久々に涼しい1日&放射線量の「ホットスポット」など

  放射性物質の半減期、壊変定数、質量(重さ)~微分方程式の初歩など

  外部被曝におけるベクレルとシーベルトの計算式(by IAEA)

  津波の物理学~浅い海、水面波の波動方程式と速度

  ラジウム温泉の放射線について~低線量被曝の影響

  朝日の甲状腺被曝87ミリシーベルト報道の意味~実効線量と等価線量

  確率的影響と確定的影響~放射線被曝の二分法の再考

  義務教育における放射線・放射能~中学校・理科の教科書&副読本

            

                                 (計 3157文字)

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コメント

私の打ち方が強いみたいで、書いて最後にポンって
押すと、ページが変わってしまった
またゆっくり書かせて頂きます。
牛肉セシュウム&ガレキの一般の最終処分場での埋め立てを認める
放射性セシウム濃度の基準を、現在の1キロ当たり8000ベクレル以下から
10万ベクレル以下まで引き上げる検討を始めた。
この事の質問を書いたけど消しちゃった。
では又明日書きます

投稿: みに子 | 2011年7月15日 (金) 00時46分

爽やかな計算式ですね。ポイントは
(1-pow(2,-5))/(1-pow(2,-50))=0.9687500000000009
ほぼ1に等しいと言うことですか?

投稿: gauss | 2011年7月15日 (金) 20時55分

文科省によると、内部被曝0.2μSvは、外部被曝の100mSvに匹敵するということです。
この事実をふまえて、どうお考えになりますか?

投稿: いどあ | 2011年7月15日 (金) 23時41分

> いどあ さん
   
はじめまして。コメントどうもです。
重要な問題なので、他の方のコメントより先にレスしておきます。
   
科学的にあり得ない話で、直ちに検索して調べましたが、
失礼ながら、誤解がいくつか重なってると思います。
    
元のテレビビデオ(5月下旬のBSフジ)その他、
色々とチェックしてみました。
要点だけ書くと、正しくはおそらくこうゆう話です。
   
「3月下旬のある調査で、内部被曝を身体の外部から測定。
もしそれが0.2μSv/hだった時、それ以前の約半月(事故後)での、
一歳児の甲状腺等価線量としては100mSvと考えられたが、
実際は0.2には達してなかった。
よって、健康の問題は差し当たり無い」。
    
これは、お書きになった内容と全く違う内容で、
原子力安全委員会の資料(5月12日)を読み解いたもの。
これなら何も驚きはありません。
つまり、内部被曝の巨大な危険性を語ってる訳ではない。
最初に語った議員が、放射線をあまり理解できてないのです。
     
例えば、いわゆる線量(実効線量)と、等価線量とでは、
数字が全く違います。
甲状腺の場合、等価線量は、0.05倍(または0.04倍)して
実効線量にするので、100mSvという等価線量は、
実効線量だと5mSvに相当します。つまり、20分の1。
   
もう一つ、元の議員は、内部被ばくの測定や計算の実際を
あまり理解できてないようです。
    
最後に応答をまとめると、「内部被曝0.2μSvが
外部被曝の100mSvに被曝する」というのは
事実ではないし、文科省の発表そのものでもないはずです。
   
原子力安全委員会の資料を、議員が読み間違えて、
うっかりテレビ番組で発言。
それがツイッターその他を通じて、伝言ゲームのように
「拡散」してしまったということでしょう。

投稿: テンメイ | 2011年7月16日 (土) 04時47分

先にコメント頂いたお二人さま。
レスの順番が前後して失礼しました。。   
   
   
> みに子さん
   
おはようございます
   
最後にポンと強く押すとページが変わる?
コメントの送信ボタンを強く押したくらいで
そんな事が起きますかね。
Enter キーを叩く時、Back Space キーに
触れてるんじゃないかなぁ。
   
いや、僕がたまにやっちゃうもんで・・(^^ゞ 
変な姿勢でブラインドタッチしてると、
微妙に指がキーからズレるんですよ。
  
「又明日書きます」って、今日(16日・土曜)かな。
それでは、お待ちしてます。
送信ボタンは軽く押すように。
あと、牛肉は食べても大丈夫です♪
心配なら、先にヒヨドリに食べさせるとか
     
   
> gauss さん
    
おはようございます。暑いですね
   
先週だったか、朝日新聞に世界的建築家・西沢立衛の
特集記事が載ってて、マジメに読んでたら、
あの金沢の円形美術館もこの方の作品とのこと。
なるほど・・と納得しました。
ものすごく時間と手間をかけてるようです。。
     
さて、「ポイント」のお話。
「pow」って、恥ずかしながら知りませんでしたが、
「power」(べき乗)の略でしたか。
ゲームの世界でも、パワーの略語として使うとかいうお話♪
とにかく、pow(2,-5)=(2の-5乗)ですね。    
    
で、ご指摘の式。基本的な路線は合ってますが、
ちょっと指数の所で誤解があるようです。
実効半減期を1/c年とすると、正確には、
次の比がほぼ1だということです。
  
 (1年分の線量)/(50年分の線量)
=(1-pow(2,-1c))/(1-pow(2,-50c))

したがって、実効半減期が1/5年のCs137では
(1-pow(2,-5))/(1-pow(2,-250))
   

最後の「-250」を「-50」と打ち間違えただけかも
知れませんが、数学のプロとしてご確認ください♪

投稿: テンメイ | 2011年7月16日 (土) 09時59分

ご指摘通りです。気持ちは250と打ったんです(見苦しい言い訳)が、入力値は50になていました。しっかり確認しないまま投稿してしまいました。申し訳ありません。深く三省します。

投稿: gauss | 2011年7月16日 (土) 14時07分

> gauss さん
   
やはり、入力ミスでしたか♪
僕も含めて、誰でもやる事だから、見苦しくはないですよ。
    
僕の場合、キーボードの反応が最近悪くて、
押しても入力されないことがよくあります。
「押したつもり」じゃなくて、リアルタイムで
押してるのに反応しないんですよ。
  
別に扱いが悪いつもりもないし、キーボードは消耗品だと
書いてあるから、そんなものなんでしょう。
既に丸2年、毎日かなりの字数を打ち込んでるもんで。
   
「三省」と言えば、三省堂の社名も『論語』なんですね。
「吾(われ)日に吾が身を三省す・・・」。
僕は毎日「十省」くらいしてるかも。
そりゃ、やり過ぎでアブナイか♪
    
しかし原発だけでも、みんな毎日、一省くらい、
すべきかも知れませんね。
この記事の執筆も、反省の一つのつもりです。
     
ではまた。。

投稿: テンメイ | 2011年7月17日 (日) 12時06分

福島県で被ばくに関するブログを書いているものです。貴重な情報をありがとうございます。素晴らしい内容なのでブログで紹介させていただいてよろしいでしょうか?もし不都合がございしたらご連絡ください。<(_ _)>

投稿: taka's lab | 2011年7月21日 (木) 10時00分

> taka's lab さん
   
はじめまして。コメントありがとうございます♪
お役に立てたようで、光栄です。
     
福島からのアクセスは、かなり多い状況が続いてるので、
首都圏のブロガーとしては、いつも心を痛めています。。
     
この記事、私自身の感覚としては、今まで書いて来た内容を
軽く応用しただけの計算記事なのですが、社会に
溢れる情報の間隙を偶然ついたのかも知れませんね。
    
もちろん、広く参考にして頂ければ幸いなので、
ご紹介頂けるのでしたら、喜んでお受けします <(_ _)>
     
後ほど、そちらのブログも読ませて頂こうと思ってます。
一刻も早く事態が収束することを願うばかりですね。
それでは。。

投稿: テンメイ | 2011年7月21日 (木) 12時23分

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