放射性物質の半減期、壊変定数、質量(重さ)~微分方程式の初歩など
これから書く内容は、かなり前から準備が出来てたけど、数式の入力に時
間がかかるから、ずっと先延ばしにしてたものだ♪ 今、自転車その他に
時間をかけてるので、Wordで長い数式を入力して微調整する気にはなれ
ない。そこで、とりあえず手書きでアップしとこう。後で余裕が出来たら、ワー
ドで打ち直すかも知れない。
(☆追記: さっそく翌日、Word 入力への変更を実施。)
大震災以降、ウチでは原発・放射線関連の記事を多数アップして来たけど、
まだ書けてない話も沢山ある。今日アップするのは、分かりやすくまとめるな
ら、放射性物質の半減期(物理学的)と質量に関する解説だ。主要な部分は、
何も見ずに自分で導いて解いたが、念のために色々とチェックはしてある。
例えば、『現代物理学小事典』(講談社)、
『第1種放射線取扱主任者試験 徹底研
究』(オーム社)、『改訂版 高等学校 物
理ⅠB (教科書)』(数研出版)だ。すべ
て個人的な所有物なので、証拠として写
真を小さく載せとこう。他にも、参考書と
か英語版ウィキペディアとか見ている。
放射線関連の話について、今現在まず理
解しとくべき事は、ベクレルとシーベルトだ
ろう。ウチでも早くから色々と書いてるけど、
一般人にとっては、「ベクレル」の方がより
奇妙な言葉=概念だと思う。
ありがちな説明だと、放射能(=放射線を
出す性質)の単位ということになってるけど、実際にはもっと単純に、放射
性物質の量を示す目安として使われてる。それなら、どうして「kg」や「g」
といった質量(いわゆる重さ)の単位を使わないのだろうか。
おそらくそれは、質量よりも放射能で表
す方が実用的だからだろう。何 g ある
のかという事より、どれだけの放射線
を出すのか。これが問題だから、1秒
に1回、放射性崩壊によって放射線を
出す性質を1ベクレルと呼ぶわけだ。
ちなみに、ベクレル(Becquerel)とは
放射能の発見者とされるフランスの
科学者の名前で、1903年、有名
なキュリー夫妻と共に、ノーベル物理学賞を受賞している。
☆ ☆ ☆
さて、半減期と質量とベクレルの関係だけなら、ほとんど「算数」のレベル
で済んでしまう。それだと、簡単過ぎて私も退屈だし、数学系の常連読者
の方々も、パスする人が多いだろう♪ ブロガーとして興味深いことに、数
学系の読者は、物理系の記事をパスすることが目立つのだ。アクセス解
析から、すぐに読みとれる。
そこで、以下ではまず、壊変定数(or 崩壊定数 : decay constant)と呼ば
れるものを用いて、微分方程式を導入して解く。次に、その解を、壊変定数
の代わりに半減期を用いて書き直し、最後に、与えられたベクレル数から、
元の放射性物質の質量を計算してみよう。
物理学史の正確な流れをまだチェック出来てないが、おそらく話の始まり
は、「放射性崩壊の法則」とか呼ばれるものだと思う。つまり、「放射性物質
の崩壊(=壊変)の速度は、その時に存在する物質量に比例する」というも
のだ。これは、ごく限られたデータから実験的に求めた法則だが、物理学で
はしばしば、そこから一般的な数式を仮定する。つまり、数学的な仮説を導
入して、その後の展開が上手くいけば、「仮説は実証された」と考えるわけだ。
崩壊の法則から仮定した数式
は左の通りで、微分を含んだ
方程式だから、微分方程式と
呼ばれてる。Nは、時刻 t にお
ける原子数。λ(ラムダ)が壊変定数だ。最初の式の左辺が、崩壊または
壊変の速度で、それが右辺と等しいのだから、その時の原子数Nに比例
することになる。λが比例定数の役割を果たしてるわけだ。二番目の式、
「dN/dt = -λN」の方がよく見かける気がするので、以下ではこちら
を基準に解くが、マイナス記号は左辺か右辺のどちらかにあればよい。
(☆補足 : ブリタニカ百科事典のサイトなどによると、この辺りの理論は、
ラザフォードとソディが1902年から03年頃に築いたものらし
い。後にそれぞれ、ノーベル化学賞を受賞している。)
これを、一昔前の高校の数学Ⅲレベルで、丁寧に解いてみよう。今現在は
微分方程式は教えてなくて、映画『ガリレオ 容疑者Xの献身』の天才数学
者(犯人)・石神(堤真二)も残念がってた(96年の高校3年生以降)。
N≦0の場合は、物理的に無意味なので、N>0という前提条件で、微分方
程式を解くと、下の通り。∫(インテグラル)記号を用いた不定積分では、t
からNへの置換積分を用いてある。大学レベルなら、「変数分離形」として、
ビミョーに異なる扱いをする所だ(結果は同じ)。ちなみに、「log e N」とは、
e≒2.718(ネイピア数)を何乗したらNになるかを表す数。Nの自然対数
と呼ばれるもので、「ln N」と略記することもある。
Nが t の式で表せたから、これでほぼ解けてる。あとは、初期条件と呼ばれ
るものを用いて、右辺の
ジャマな「e の c 乗」を
消せばいい。t=0、つ
まり「初期」の原子数を
N₀ とすると、微分方程式の最終的な解、「N = N₀×(e の-λt 乗)」が
決定する。
ここでNの半減期をTとすると、時刻Tにおいて、原子数NがN₀の半分に
なるのだから、
λとTの関係は
左の通り。
λT= 0.693
だから、λとT
の一方が分かれ
ば、他方は簡単に求められる。
このλとTの関係式を用いて、前に書いた微分方程式の解からλを消し、
代わりにTを使うと、次の通り。最後の式、「N=N₀×(1/2 の t/T乗)」
は、非常に有名で簡単なもので、高校1年の教科書にも太字で掲載され
てた(ただし両辺をN₀で割った形)。
☆ ☆ ☆
では最後に、ベクレルの値から、放射性物質の質量(グラム数)を求めるこ
とにしよう。ここ最近、食品の内部被曝でよく話題になってるのがCs137
(セシウム137 ; 数字は「質量数」)で、数百Bq(ベクレル)とか数千Bqと
いった数字がよく出てるから、以下では、1000Bqのセシウム137の質
量を求めてみる。
ベクレル数とは、t=0
(初期)における崩壊
速度(or 速さ)だから、
この記事の序盤に書い
た微分方程式で t = 0
の時を考えて、1000=λN₀ となる。
ここで、λ=0.693÷(半減期)。セシウム137の半減期は30年だから、
ベクレルの時間単位である「秒」に直して計算すると、
λ= 0.693÷(30×365×24×3600)
また、初期の原子数N₀は、初期の質量 x (エックス)を用いて次のように
書ける。セシウム137がもし137gあれば、原子数は「1モル」、つまり
6.02×(10の23乗)個であることを用いた簡単な算数だ。6.02×
(10の23乗)というのはアボガドロ定数と呼ばれるもので、より簡単に
6.0とする場合もあるが、ここでは6.02で計算しておく。
N₀ = ( x / 137)×6.02×(10の23乗)
したがって結局、以下のように x (エックス)を計算できる。
答は、3.11グラムの100億分の1♪ つまり、ものすごく微小な量であっ
て、いちいち飲食物の放射能を測定するのがいかに大変な作業なのか、
想像できるだろう。人間には見ることも触ることも出来ない、僅かな量が問
題なのだ。高価で高性能の計測器を使って、正確に測定する必要がある。
なお、放射性物質のベクレル数から質量を求める式を一般的に書くと、
次のようになる。「質量数」とは、物質の質量という意味ではなく、上のセ
シウム137なら137のこと。その核種(=原子核の種類)における、陽子
と中性子の個数の和だ。
質量(g) = { ベクレル数×半減期(秒)×質量数 }
÷( 0.693×6.02×10²³ )
逆に、質量からベクレル数を求める式は、以下の通り。
ベクレル(Bq) = { 質量(g)×0.693×6.02×10²³ }
÷ { 半減期(秒)×質量数 }
それでは、今日はこの辺で。。☆彡
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cf.原発から各地までの距離と、放射線の年間総量(by文科省データ)
放射線(放射能)の危険性と距離~2つの逆二乗法則(情報源明示)
雨の長距離ランニングで浴びた放射性物質の計算(by定時降下物データ)
原発事故評価レベル7と、セシウムのヨウ素換算値の計算(by INES)
福島原発レベル7の基準を読む~INES(国際原子力・放射線事象評価尺度)
なぜセシウムのヨウ素換算値は40倍か~放射性物質の計算理論(by INES)
被曝する年間放射線量すべての計算方法(自然・医療、外部・内部、屋外・屋内)
セシウム牛肉、食後1年間での内部被曝線量の計算方法(定積分&実効半減期)
義務教育における放射線・放射能~中学校・理科の教科書&副読本
(計 3868文字)
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