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津波の物理学~浅い海、水面波の波動方程式と速度

PCデータのバックアップをするために、外付けHDDの周囲を片付けてたら、

たまたま津波の簡単な説明が目に留まった。問題形式で、与えられた式3

本から波動方程式を導き、津波の速度を求めるというもの。解説文は無い

し、私も流体力学の計算は久々だったから、まず自力で解くのに手間取っ

た後、参考書を引っ張り出して来て、一応の理解に到達した。

    

まったく予定外のことだけど、折角だから記事にまとめとこう。使った参考

は標準的なもので、恒藤敏彦弾性体と流体』(岩波書店)。参照箇所は

主として、p.63~70(連続の方程式とオイラー方程式)と、p.158~160

(水面の波; 浅い場合)だ。ただし、私の判断や計算で、大幅に加筆修正

してある(重要な式は元のまま)。また、時間の余裕が無いので、図は手書

きで済ませておいた。悪しからずご了承を。。

     

なお、08年1月に書いた福山雅治『ガリレオ』関連の記事は、以下の議論

と密接に関係しており、数学的には、以前の記事の方がややレベルが高い。

手書きだらけで読みにくいのは恐縮だが、一応リンクを付けとこう。

    

  cf. 『ガリレオ』第5話、波動方程式の導出と一般解

     

         

          ☆          ☆          ☆

さて、津波というのは、沖合での波長(隣り合った波の間隔)が100kmと

非常に長く高さはたかが数十mなので、物理学的には、「浅い海」で

「水面」波として扱われる。海底までの水深は数kmレベルだから、波長

に比べると浅い。しかし、津波の高さはこれより遥かに低いから、水面だ

けの波として考えられるのだ。

    

既にこれだけでも、非常に大まかな「近似」が行われている(この場合は

グループ分け)。数学と比べた時、物理の大きな特徴は、この種の大まか

な近似を多用すること。その近似が妥当かどうかは、比較的気にしないが、

必要なら数学を援用するし、近似で求めた結果を観測その他と比べてチェッ

クすることになる。

    

水の波のような流体の運動を扱う時の基本は2つ。まず、「連続の方程式

とか「連続の式」などと呼ばれる法則で、簡単に言うと、「ある領域における

ものの増加=流入」ということだ。何かが増えるとは、それが流入したこと。

逆に、何かが減るとは、流出したことだ。増減には必ず流れがある。

       

これをまず、(増加)=(流入)と書いて、変形すると

        (増加)-(流入)=0。

流入と流出は単なる符号(プラス・マイナス)の違いと考えられるから、

        (増加)+(流出)=0

  

こう書き直すと、左辺の和が常に0に保存されてる形になってるから、大ま

かに「保存則」とも言われる。例えば、道で100円拾ったとしよう。すると手

持ちの増加は100円。また、流「入」した金は「+100円」だから、流「出」

した金は「-100円」。この時、増加+流出=100円+(-100円)=0。

こうゆう基本的な話なのだ。

     

           

          ☆          ☆          ☆

この話を津波に当てはめてみよう。図のx方向に進行し、z方向に上下

110915b

  る波を考える。

  y方向(図に垂直

  な方向)には一様

  な波とする。つま

  り、図の奥側や手

  前側にも、全く同

  じ形の波が続いて

  るという意味で、

  実際に津波の映像

  を、進行方向の真

  横から見ても、ほ

ぼそんな感じのはずだ。

               

波の高さは、x(水平方向の位置)とt(時間)の関数h(x,t)と考えられる。

要するに、岸からどれだけ離れてて、時刻は何時何分何秒か、この2つの

条件で波の高さは決定するという話なのだ。

           

110915c

  今、図の赤くて非

  常に薄い部分に注

  目しよう(厚さdx、

  奥行きw、高さは

  h₀+h )。水の

  度、つまり単位体

  積当たりの質量を

  ρ(ロー)とすると、

   

   (赤い部分の水の質量)=(密度)× (体積)

                  =  ρ ×(h₀+h) w dx

よって、(単位時間あたりの質量の増加)=ρ w dx ・(∂h/∂t)

         

一方、水のx方向の運動速度Vx(x,t)とすると、高さは約h₀と近似して、

  (単位時間あたりに流出した水の質量)

          = ρ×{(右側面からの流出)-(左側面からの流入)}

          ≒ ρ { Vx(x+dx,t)h₀ w-Vx(x,t)h₀ w }

          = ρ { Vx(x+dx,t)-Vx(x,t) } h₀ w

          ≒ ρ(∂Vx / ∂x)dx・h₀ w     (一次近似を利用)

   

よって、連続の方程式より、単位時間当たりの増加+流出はゼロだから、

    ρ w dx ・(∂h / ∂t)+ρ(∂Vx / ∂x)dx・h₀ w = 0

   ∴ ∂h/∂t + h₀ (∂Vx / ∂x) = 0   

     

両辺を t で偏微分して、∂²h/∂t² +h₀ ∂(∂Vx/∂x)/∂t=0

   ∴ ∂²h/∂t² +h₀ ∂(∂Vx/∂t)/∂x=0 ・・・・・・①

     

     

           ☆          ☆          ☆

一方、連続の法則と並ぶ流体力学の基本は、「運動の法則」とも呼ばれる

オイラー方程式。詳しい説明は省略するが、要するにニュートンの運動方

程式、「力=質量×加速度」の応用だ。

    

x方向とz方向だけ考え、圧力P(x,z,t)、微小体積dV、重力加速度gとして、

    -(∂P/∂x) dV = ρdV (∂Vx / ∂t)

    -(∂P/∂z) dV-ρg dV = ρdV (∂Vz/∂t)  

     

 ∴  -∂P/∂x = ρ (∂Vx / ∂t) ・・・・・・②

    -(∂P/∂z) -ρg = ρ(∂Vz/∂t) ・・・・・・③

    

                 

いま、津波は主にx方向に動くから、③の右辺の∂Vz/∂t (z方向の速

度変化)は無視してゼロとすると、

    -(∂P/∂z) -ρg = ρ×0

 ∴  ∂P/∂z = -ρg

z で積分して、P(x,z,t)=-ρg z+f(x,t) ・・・・・・④

                   (f は x と t の関数で、z については定数)

   

ここで、「境界条件」として、z=h(波の一番上)では、水圧P=大気圧P₀

と考える(表面張力は無視)。すると④より、

    P(x,h,t)=-ρg h+f(x,t)=P₀

 ∴ f (x,t)=P₀+ρgh

④に代入して 、f を消すと、P=-ρgz+P₀+ρgh

    

これを②に代入、Pを消して計算すると、

   -ρg ∂h/∂x = ρ ∂Vx/∂t

∴ ∂Vx/∂t =-g∂h/∂x ・・・・・・⑤  (Vの話をhの話で表す操作)

    

⑤を①に代入してVを消すと、

   ∂²h/∂t² +h₀ ∂(-g∂h/∂x)/∂x=0

 ∴ ∂²h/∂t² -gh₀ ∂²h/∂x² =0

 ∴ ∂²h/∂x² -(1/gh₀) ∂²h/∂t² =0 ・・・・・・⑥

    

        

⑥は非常に有名な、一次元波動方程式の形である。一次元とは、波の高

さ h が x (と時間t )だけで変化して、y や z とは関係ないという意味だ。こ

の波動方程式で表される波は、x方向の速度「√gh₀」を持つことが知られて

いる(例のガリレオ記事における解を参照)。やや意外かも知れないが、水

深 h₀ が深い方が、波は速いのだ。

    

従って、遥か沖、水深の深い太平洋で発生した津波は、超高速で岸に向かっ

て来る。太平洋の平均の水深を約4000mとすると、

    gh₀ = 9.8×4000≒40000 (m²/s²)

 ∴ √gh₀ = √40000 = 200 (m/s)

   

つまり、秒速200mだから、3600倍して、時速720000m=720km

新幹線の3倍程度のスピードで、この値がウィキペディアに掲載されている。

     

     

         ☆          ☆          ☆

なお、参考書のコラム「コーヒーブレイク」には、面白い余談(?)もある。

波が岸(つまり浅瀬)に押し寄せるに連れて、スピードは下がり、波長が縮

まって、高さは増す。この時、もはや「水面波」ではなくなるから、上で使っ

たような比較的簡単な議論は出来ないが、そこを無理して使ってみる。

         

すると、の山の一番上は、波の高さの分だけ、下の方より「水深」が増

から、スピードが大きいことになる。だから、葛飾北斎の浮世絵みたい

110915

 に、波は頭から

 崩れるのだ。。

 ちなみに図は、

 ウィキメディア・

 コモンズから拝

 借したもので、

 富嶽三十六景・

 「神奈川沖 浪

 裏」。昔は、富

士山の5倍の大波もあったようだ♪

             

今のところ、私には、この大まかな議論が正しいのかどうか分からない。

その筆者も、「無理をして」、「・・・であろう」と推測してるに過ぎないのだ。

まあでも、面白くて、一応の筋が通っていて、他に有力な代案も見当たら

ないので、しばらくはそう思っておくことにしよう。

       

波動方程式を導く考えも含めて、物理学的説明というものは一般に、大な

り小なり、そういった性格のものだと思ってる。それで「通常」はかなり上手

く行くのだ。「想定外」の事態は別として。。では、今日はこの辺で。。☆彡

            

    

cf. 震災後の青空文庫で人気、寺田寅彦『津浪と人間』

   津波で死んだ妻の幻への情愛~柳田国男『遠野物語』第99話

            

                                 (計 3384文字)

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コメント

ご無沙汰しています。gaussです。
波動方程式に反応しようと思いましたが、数学以外も浅く狭く薄く付き合っているので・・富嶽三十六景・神奈川沖浪裏」についての思い。怒濤の逆巻く大浪に対して人間の力を強く打ち出そうとしている。というのが一般の解説ですが、その先の真の意味は、「この時代冷蔵庫はないので魚の保存が出来ない、それゆえ今日食べる魚は今日獲るしかない、だから、海がこんなに荒れていても猟師は海に出て命がけで江戸庶民のために頑張っているんだ!!、、という主張を浮世絵にしたのだと読み取っている。

投稿: gauss | 2011年9月17日 (土) 10時09分

> gauss さん
   
こんばんは♪ こちらでは2ヶ月ぶりですネ。
    
いつもながら物理記事は不人気で、苦笑してます (^^ゞ
せめて半年前のアップなら、違ったかも。
放射線とドラマ関連以外は、読者が僅かです。
数学よりハッキリ不人気なのは、不思議な気がしますね。
波動方程式なんて、相当メジャーなテーマなのに。。
    
    
小市民的ボヤキはともかく、オマケで付けた
浮世絵へのコメントとは意外ですネ☆
まあ、流体力学で難しい話をされても大変ですが♪
  
で、「神奈川沖 浪裏」の解釈。
「人間の力を強く打ち出そうとしている」と
いうのが一般の解説なんですか。
僕自身の解釈はかなり違ってますが、それはさておき、
一般の解説で言う「人間の力」の意味ですね。
     
当時は魚の保存が出来ない。ホホーッ。。
180年前だから、流石に電気冷蔵庫はありませんが(笑)、
保存が出来ないって発想はありませんでした。
と言うのも、値段の高さや稀少性はともかく、
氷やアイスクリームは昔からあったと聞いてたもんで。
    
早速サラッと検索してみると、塩漬け、干物、燻製、
お寿司(!)など、色々と保存法はあるようですが、
確かに魚の基本は、すぐ食べることでしょうね。
   
「今日食べる魚は今日獲る」というのは、
「今日売る魚は」という方が近いかも知れません。
食べる側は、しばらく魚無しでも大丈夫ですからね。
いずれにせよ、漁師の力強さを示してるという解釈は、
ごく自然なものでしょう。
   
    
僕個人は、むしろ人間の滑稽さ、可愛らしさを感じます♪
他の作品を見ても、大自然に対して人間は、
小さく大勢描かれてるのが目立ちますよね。
主演は大自然や世の中。助演か脇役が人間たち。
   
ただし、観客は人間だから、同じ人間に目が向きます。
変な話、もし富士山がこの絵を見たら、
「俺の偉大さがテーマだな」と微笑むでしょう♪

投稿: テンメイ | 2011年9月18日 (日) 18時18分

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