「暴力団をなくすために山口組を守りたい」~組長インタビュー(産経新聞)
手元の広辞苑・第四版(岩波書店、1991)で「暴力」をひくと、「乱暴な力、
無法な力」とだけ意味が書かれてる。その右隣に「法力(ほうりょく)」が置
かれてるのがちょっと面白いわけだが、それはともかく、天下の広辞苑と
しては、あまりに簡単すぎる説明だ。ただ、「乱暴で無法な力」とは書いて
ない点は注目される。単に乱暴、単に無法な場合も暴力扱いなのだ。
私が差し当たり思い付く、暴力の定義は、「身体的・物理的にダメージを与
えること、またそのダメージ。ただし人間の場合、通常は、当人が受け入
れてないものを差す」といったものだ。後半の付加は外してもそれほど間
違いでないが、格闘技やお遊び(猪木のビンタとか♪)、マゾヒズムなどの
問題を考慮するなら、必要な制限だろう。ちなみに「言葉の暴力」は、単な
る暴力から定義すればよい。つまり、暴力のような言葉(を与えること)だ。
一方、暴力の定義としてありがちな、無法とか不法という言葉は入れてな
い。と言うのも、不法とはされない暴力、あるいは合法的な暴力というの
も、いくらでも存在するし、考えられるからだ。例えば、死刑廃止論者から
すれば、死刑という合法的処罰は、究極の国家的暴力だろう。戦争中の
殺人も、普通は違法とされないが、暴力と呼んでも不思議ではない。
根本的な認識として、私は、暴力は決して無くならないと考えてる。実際、
今まで常にあったし、これからもあるだろう。もちろん、なるべく無くした方
がいいとも思う。したがって問題は、暴力の制限・管理ということだ。
ここで思い出すのが、去年の秋の政治的事件。仙谷由人官房長官が、
「暴力装置でもある自衛隊」と発言して問題となった。当時、すぐに指摘
されたように、「学問的には」、この発言は珍しくない。と言うのも、著名な
社会学者・マックス・ウェーバーの『職業としての政治』の冒頭で、「国家と
は、正当な物理的(暴)力の行使の独占を要求する人間共同体」と語られ
てるからだ。国家が独占する正当な暴力の担い手こそ、警察・自衛隊だ。
ちなみに「(暴)力」と私が訳した原文のドイツ語は、「Gewaltsamkeit」で、
この派生語の元になってる「Gewalt」(ゲヴァルト)を独和大辞典・コンパクト
版(小学館、1990)でひくと、1番目の意味は「権力」、2番目が「暴力」だ。
もっとも、「Gewaltsamkeit」でひくと「暴力行為」と出るし、「内ゲバ」とか「ゲ
バルト棒」という古い日本語は暴力を意味するわけだが、とにかくウェーバー
の原文は、日本語の「暴力」より多少広い意味の言葉になってて、それが
仙谷問題の一因だろう。「権力装置でもある自衛隊」という発言なら、問題
にならなかったはずだから。。
☆ ☆ ☆
前置きがやや長くなったが、これは話の本質なのだ。人間社会に必ず存
在するものとしての暴力を、どのように制限・管理するか。例えば、日本に
おける普通の考えは、警察・自衛隊などの合法的組織や自治組織に任せ
るというものだろう。それで上手く行くなら、私もそれでいいと思う。
しかし、少なくとも今後、数十年のスパン(期間)で考えると、おそらくそれ
では上手く行かないと思う。国家権力だけが突出して強大になるのは危険
だし、やはり、闇の世界には闇の世界なりの仕切り方があると思うからだ。
そう考えてた私にとって、10月1日、2日の産経新聞HPに掲載された、広
域暴力団・山口組六代目組長のインタビューは、あまりに正論すぎて、思
わず苦笑したほど。もちろん、どこまで真に受けていいのか微妙で迷うわ
けだが、文字通り受け取るなら、任侠道というより、人の道の優等生と言っ
てもいいかも知れない。一部の曖昧さは別扱いとして。
以下、暴力団排除条例が出そろう直前の9月末に行われたらしい、篠田
建市組長(69歳、別名・司忍=つかさしのぶ)への一問一答を簡単にまと
めてみよう。山口組は日本最大の指定暴力団だから、ヤグザの頂点に位
置する人物で、外見的にもヤクザ映画の主人公のよう。組員2人に実弾
入りの銃を持たせて護衛させた罪で、懲役6年の実刑を受けて、今年4月
に出所したばかりだ。ネットでは、出所時のファッションも話題になってた。
何とも様(さま)になってると言うか、「ザ・ヤクザ」という感じの洒落たコー
ディネートなのだ。
ちなみに本人は、本当は無罪だと思ってる感じだし、実際、一審では無罪
判決も出てるが、確定した実刑判決への抗議はほとんど示してない。この
点だけでも分かるように、余計な対立や争いはなるべく避けようとする傾
向が見える。もちろん、裏で何をやってるのかまでは、インタビューだと分
からないし、「必要な対立」の際にどんな行動を取るのかも分からないが。。
☆ ☆ ☆
まず冒頭、組長は、最近の暴力団排除の流れについて、「異様な時代」だ
と語る。やくざも人間、社会の一員なのに、人間扱いされてないし、一般人
である家族が自分たちと接触するだけで処罰されるのはおかしいという主
張だ。前半は仕方ない気もするが、後半は確かに一理ある。要するに、警
察による条例の使い方が問題なわけで、実際にはごく一部を取り締まるだ
けだろう。
不満はあっても、法治国家では法を順守するそうだが、取り締まり対象と
なる反社会的勢力は、やがて拡大解釈されるだろうと予言する。これは確
かにありがちな事で、我々も注意する必要があるだろう。例えば、政治的
デモとか集会が対象になる可能性は一応ある。ブロガーとしては、ネットの
発言への規制も気になる所だ。
暴力団とか山口組に関する見方の基本は、要するに「必要(悪)」ということ
だろう。最後の「悪」は、微妙な部分だからカッコに入れたが、社会の落ち
こぼれとか、排除されるものは必ず存在して、彼らにも集まる場所が必要
だという考えは、その通りだと思う。構成員には、在日韓国・朝鮮人や被差
別部落出身者も大勢いるとのこと。
そうした人間たちが、普通に暮らせればいいという発言は、我々のイメージ
や過去の様子とは違うが、ここ最近の規制強化で、かなり経済的に苦しくなっ
てるという話は、時々耳にすることだ。最近、派手な抗争事件を聞かなくなっ
てるのも事実。九州の抗争には関わってないようで、山口組関連で目立つ
のは、4年前に住吉会系幹部を射殺した事件程度らしい。この時、組長は
東京・府中刑務所に服役中だから、少なくとも直接の関与は無い。
とはいえ、細かい事件や、過去の犯罪、「元」組員たちの違法行為に非が
あるのは認めてる。それらは、「任侠道」に反する事であって、組としても
無くして行きたいそうだ。下部組織の争いも無くしてるし、「不良外国人」た
ちの犯罪抑止にも貢献してるとのこと。中部地方での具体的事例を挙げ
た説明は、なるほどと思わせるものだった。もしその説明が真実ならば。。
結局、反社会的存在や暴力を制限・管理するために、強大な上位組織とし
ての山口組が必要だという話で、「暴力団をなくすために山口組を守りたい」
という言葉は、単なる矛盾として笑い飛ばすようなものでもないだろう。要す
るにこれは、「暴力をなくすために暴力装置(=警察・自衛隊)を守りたい」
と言うようなものだからだ。
しかし、警察や自衛隊には、行政組織を通じて正当な報酬が支払われて
るが、暴力団は違法な収入を得てるから問題ではないのか。誰でも気に
なる核心部分で、組長も現状についてはハッキリ語ってないが、要するに
基本は「正業」であって、昔から一貫して「隙間産業」で稼いでるとのこと。
元々は、港湾荷役の人材派遣業、その後は遊興ビジネスを手掛けてたが、
今では非常に困難になってるから、裏へ潜るしかないとも語ってる。裏とい
うのが何を差してるのかが分からないが、覚せい剤は厳しく禁止してるらし
いし、詐欺や強盗、貧困ビジネスなどは任侠道からすると論外。上納金さ
え一切無くて、「経費」の「分担」を行ってるだけとの事だ。ここはちょっと、
違いが分かりにくい部分だった。要するに、必要最低限の経費を事務的
に集めてるだけだと言いたいわけか。
最後に、紳助問題でもお馴染みの、芸能界との関連について。今はほとん
どないし、たまにあっても、仕事や金目当ての芸能事務所や芸能人に利用
される側だという話だ。それはいくら何でも一方的なキレイ事のように聞こ
えるが、最大組織のトップとしては素直な実感なのかも知れない。。
☆ ☆ ☆
実際どうなのかは調べようがないが、私自身や周囲を見渡した時、確かに
ハッキリ暴力団によるものと言える被害は、全く知らない(単にチンピラ風
なのは別)。田舎の子ども時代、近所にヤクザっぽい人は数人いたけど、
見た目や刺青、言葉使いが怖かったりするだけで、暴力を受けた覚えは
ないし、金品を取られたことも無い。
一般社会との付き合い方は、今では遥かに「紳士的」になってるようで、ホ
テルとか公共の場では3人以上で歩かないそうだ。まあしかし、実際は2人
1組で、少し離れて歩いてたリするのではないか♪ そのくらいなら別に、
「反社会的」行為とは思わないけど。
ともあれ、暴力とか悪の問題は、人間や社会について考える時に無視で
きない、根本的なことだろう。差し当たり、条例で一段と圧迫された暴力団・
山口組がどうなるのか。また、その周辺がどうなるのか。冷静に事実の推
移を見て行きたいと思う。
それでは、今日はこの辺で。。☆彡
P.S. 『FRIDAY』10月21日号(7日発売)の紳助記事で、産経のインタ
ビューが話題になってた。組長の言う、山口組を利用する芸能人
の一人が、紳助というお話だ。
cf. 乗鞍前ラストの自転車、またパンク&紳助の引退後に注目
芸人・暴力団・一般人~上岡龍太郎の刺激的発言(inバブル末期)
(計 3991文字)
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