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ポアソン分布(過程)による地震の確率計算(by政府・委員会)

2日前(2月11日)、首都直下型地震の確率をめぐる動きをまとめて記事

にしたが、その際、政府(地震調査研究推進本部・地震調査委員会)が計

算に用いた数学理論、「ポアソン過程」については後回しにしておいた。

今夜、試しに調べてみた所、意外なほど簡単に解決したので、先日の記

事の補足としてアップしとこう。

 

まずは、委員会が2004年(平成16年)8月23日に発表した「相模トラフ

沿いの地震活動の長期評価」というpdfファイルから、重要な部分だけを

コピー&ペーストさせて頂く。横長なので、中央で切って2枚の画像にした。

 

120213a

 

120213b

 

最初の図で、「今後30年以内の発生確率」が「70%程度」とされており、

これが今でもよく使われてる政府の公式見解なのだ。先日の東大・京大

の確率計算騒動では、刻々と確率が変化したわけだが、この政府の計

算ではそういった事は起きない。2004年の時点でも現時点(2012年)

でも理論的に数字は変わらない(注2の説明文に書かれてる)。

 

正確に言うと、この8年間でデータとなる大地震が起きてないから、確率

は変わらないのだ(東日本大震災の地震は、震源の位置的にデータの

範囲外)。「評価の信頼度」がとは、過去のデータが多くない、中程度

の信頼性という意味(注3の説明文より)。

 

120213d_2

 ちなみに、発表のタイトル

 にある「相模トラフ」とは、

 左図の赤線部。ウィキメ

 ディアのPeka氏の図を

 引用させて頂いた。相模

 湾から伸びる細長い海底

 盆地のことで、「海溝」ほ

 ど深くはない。

 

ここは、南西側に広がるフィリピン海プレートと、北東側に広がる北アメリカ

プレート(またはオホーツクプレート)が接する辺りに相当する。巨大な岩盤

同士のズレの力で、地震が多発する場所なのだ。下図もウィキメディアから

の引用で、右下の薄い黄色は太平洋プレート。作者はUSGS,Washiucho

氏。左下の日本列島を見ると、西側のユーラシアプレートも含めて、関東・

東北あたりで4つのプレートが接し合ってるのが分かる。実際は立体構造

で、他のプレートの下への潜り込みがあるから、遥かに複雑な関係だ。

 

120213c_2

 

 

         ☆          ☆          ☆

さて、問題の確率の計算。やや複雑に見える公式にいきなり数値を代入

しても答は正しく出せる。しかし、それではピンと来ないだろうし、中学・高

校レベルの確率計算ともつながらない。

 

そこでまず、高校レベルの簡単な確率論で計算してみよう。用いるデータ

はただ一つ。「マグニチュード7級の地震23.8年に1回来る」というこ

とだ。これは、信頼できるデータのある1885年~2004年の119年間

に5回起きたという過去の事実を根拠にした、非常に粗い仮定だが、大

地震の予測とはそうゆうものなのだ。

 

1年あたりにM7級地震が発生する確率1/23.8と考えられるから、

 

 (30年以内の発生確率)=1-(30年以内に発生しない確率)

                =1-(30年間のどの年にも発生しない確率)

                =1-{ (1-1/23.8)}の30乗 }

                ≒0.724

 

つまり72.4%だから、「70%程度」という政府の見解とほぼ一致する。

10年、20年、40年、50年で計算してもほぼ一致した。つまり、結果だ

けなら、実は高校の教科書レベルの計算で一応出せるのだ。

 

 

         ☆          ☆          ☆

では、なぜ「ポアソン過程」(Poisson process)という難しげな数学モデル

が必要かというと、とりあえずここでは、理論的に洗練させたものだと言っ

ておこう。「23.8年に1回」という部分をより厳密に考えて、23年ならど

うか、24年ならどうかといった話を滑らかにまとめ上げてるのだ。

 

ポアソン過程とは、日本版ウィキペディアだと曖昧な表現になってるが、

英語版ウィキだと遥かに明確に定義されている。ただ、ここではポイント

だけ書いておこう。要するに、数学者ポアソンが1838年に発表した「

アソン分布」(Poisson distribution)に従うプロセスということだ。

 

手元の『現代数学小事典』(講談社)を見ると、終盤の第Ⅵ章・応用数学

の第11節が、「待ち行列理論」となってる。文字通り、待ってる人の行列

についての理論で、その際には、単位時間(1分、1時間など)に平均して

どれだけの人がやって来るかが、一つの大きなポイントとなる。信号待ち

なら、1秒に何台の車が到着するかがポイント。

 

単位時間の到着数λ(ラムダ)の時、次の到着までにかかる時間間隔

に関する確率分布(=計算用の関数)は、

         f(t)=λ×(eの-λt乗) (t ≧ 0)

と考えることにすれば、理論的に上手くいく。 は自然対数の底(てい)で、

2.7

 

この時、時間間隔h内に到着する数がkである確率

  P=(eの-λh乗)×(λhのk乗) / k!

          (ただし、k!=kの階乗=k・(k-1)(k-2)・・・2・1)

 

ここでλに、地震の平均活動頻度、1年あたり1/23.8回を代入し、

=30、k=0とすれば、「30年間に地震が0回やって来る確率」が求めら

れる。したがって、

 

  (30年で1回以上の地震が発生する確率)

      =1-(0回の確率)

      =1-(eの-30/23.8乗)×{ (30/23.8)の0乗 }/ 0!

      =1-(eの-30/23.8乗)     (∵ 0乗=0!=1)

      ≒0.716

 

つまり、71.6%だから、70%程度ということになるのだ。10年、20年、

40年、50年で計算しても、政府発表の数字とほぼ一致した。ということは、

高校教科書レベルの計算ともほぼ一致する。

 

以上、政府の調査委員会による、首都直下型地震の確率計算を解説して

みた。正確に言うと、「大正型関東地震でも元禄型関東地震でもない、その

他南関東のM7程度の地震の確率」を計算したわけだ。大正型や元禄型

の確率がゼロとされてる点は、一昨日の記事で既に述べておいた通り。

 

それでは、今日はこの辺で。。☆彡

 

 

 

 

cf. 首都直下型地震、数年以内に数十%の確率(東大、京大、政府)

   確率論の原点と教育~中学校・数学の教科書など

   各地点の大地震の予測(震度&確率)~J-SHIS Map

   「日本消滅」、超巨大噴火の確率計算~対数正規分布とBPT分布

 

                                 (計 2482文字)

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