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全国学力調査2012・中学数学B、スキー・ジャンプの問題(原田vs船木)

最初に正直にお断りしとくと、この記事の内容は、もともと直前の記事に

P.S.として付け加えてたものだ。でも、全体が少し長くなったし、ここだ

け明らかに別種の話だから、翌日の朝、別記事の形でまとめ直した。悪し

からずご了承を。。

    

    

        ☆          ☆          ☆

では、本題に入ろう。昨年、大震災で中止となった文科省の全国学力・学

習状況調査(=全国学力テスト)が、4月17日に実施された。2年ぶり、5

回目。全国の小中学校から3割を抽出、さらに自主参加校が5割ほど加

わったので、参加率は81.2%。文字通り、全国規模の調査となった。内

容的にも、今までの国語、算数・数学に加えて、理科も実施。生徒はます

ます大変になったと思うけど、理科の問題は流石に工夫されてた。

    

ただし、忙しい中、どうしても一言書きたくなったのは、私の好きな数学。

応用力を問う中学・数学Bの3番だ。早生まれの中学3年生だと、1998

年生まれで、ちょうど長野オリンピックの年だから、金メダルで日本中を

沸かせたスキー・ジャンプ競技の問題を作ったようだ。特に印象深かった

選手は、原田雅彦と船木和喜の2人だろう。

     

問題は、この2人のどちらが次の1本で遠くに飛びそうか、「ヒストグラム

(柱状グラフ)の特徴を比較して」論じるもので、どちらを選んで説明して

もいいと書いてある。正解が複数と言うか、多数あって、グラフの読み取

りと論理性が問われる面白い問題だ。「特徴」という言葉は、別にグラフ

の大まかな形という意味とは限らず、要するに情報をしっかり読み取る

ようにと言いたいだけのようだ。実際、文科省の解説や正答例は、ごく

「普通」のデータの読み取りに過ぎない。「正しい」かどうかはさておき。

        

以下、問題文・写真・イラストは除いて、グラフだけ掲載させて頂こう。国

がネット公開した全国テストのごく一部の縮小コピー&ペーストで、非営

利の個人サイトによる批評の参考資料だから、著作権の問題は生じない

と考える。

               

120419

        

  

          ☆          ☆          ☆     

さて、私が気になったのは、問題自体ではなく、文科省が示した模範解答

の方だ。朝日新聞と公式サイト(国立教育政策研究所)で確認したけど、

論理的にかなり怪しくて、数学の正解とは思えない。以下、解答例をその

まま引用しよう。

    

     原田選手の記録の方が船木選手の記録より130m以上の

     階級の累積度数が大きいので、原田選手の方が次の1回で

     より遠くへ飛びそうな選手である。だから、原田選手を選ぶ。

    

「階級」(5mごとの記録の区分け)とか「累積度数」とか、統計学の用語

を使うのも採点ポイントらしいけど、そんなものは数学の応用力の評価

にとって枝葉の問題に過ぎない。

            

要するに、「原田の方が130m以上のジャンプの本数が多いから原田を

選ぶ」というのが解答例だけど、なぜ130m以上の大ジャンプの本数だけ

で選ぶのが正解とされるのか、疑問なのだ。

           

その論法だと、「船木の方が115m以上が多いから、船木を選ぶ」とか、

「船木の方が115m『未満』(つまり失敗)が『少ない』から、船木を選ぶ」

と答えてもいいことになってしまう。実際、それらも正答になるらしいけど

(文科省の解説)、同様の論法で全く逆の答が導かれるのなら、論法に

問題があると言っていい。

        

     

         ☆          ☆          ☆

この問題は、「どちらがより遠くへ飛びそうか」を考えるのであって、「メダ

ルを取る確率はどちらが高いか」ではない。よって、130m以上とかの大

ジャンプだけでなく、失敗ジャンプの多さやばらつきの大きさも考慮する必

要がある。

        

解答の字数制限は無いのだから、もしデータのごく一部(130m以上)だ

けで決めるのなら、そのための根拠を示すべきだ。たとえば、「全体的に

はほとんど差が無いから、勝つ確率の高い大ジャンプだけに注目する」

と書き添えるとか。ただしもちろん、この問題では「全体的にはほとんど

差が無い」とは言えないし、他の根拠もなかなか見当たらないのだ。

           

各柱の横幅中央の値を用いて、飛距離の平均値を計算すると、原田が

112m、船木が118m。「20本の飛距離の平均値で6m上回っている

ので、船木を選ぶ」という解答が正解にされるのなら、別に問題はない。

もちろん、唯一の正解ではないけど、平均値による考察は実社会でよ

く使われてることだからだ。

     

実は、文科省の解説を読むと、原田のグラフがバラついてるから平均値

で判断してはいけない、と言いたそうだ。しかし、使ってはいけない場合

の明白な基準はないし、平均値の回避を恣意的に(意のままに)行うこ

とにも相当なリスクがあるのだ。

   

また、たとえ原田の失敗ジャンプ3本を除いて、上位17本の平均値を取っ

ても、原田が118m、船木が120m。やはり船木の方が上になる。上下

3本ずつ、計6本を除いて、残り14本の平均で比較しても同様の結果だ。

          

     

         ☆          ☆          ☆

いずれにせよ、130m以上の本数で考えるとか、別の正答例の「原田選

手の最大値を含む階級の中央の値が大きい」(137.5m)などという考

えよりは、20本(または17本とか14本)の平均の方がまだマシだ。原田

より船木という話ではなく、データ全体を数学的かつ実践的にとらえてい

るからだ。平均を使わない答を要求したいのなら、問題の設定を変える

べきだろう。データを変えるとか、メダル獲得の確率を問うとか。

    

ちなみに原田は06年引退、船木はまだ現役選手として頑張ってる。団体

で金メダルを取る直前、日本の最後のジャンプを待つ原田が「船木~~」

と祈ってた姿を思い出しつつ、今日はこの辺で。。

    

    

    

cf. 全国学力調査、伝説の確率の問題が登場♪  (2009年)

   第3回全国学力調査~結果と分析について   (同上)

   第4回・全国学力調査、ランニングと自転車の問題(中学・数学B)

                                  (2010年)

      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

   PISA2009~国際学習到達度調査で一番難しい問題

   確率論の原点と教育~中学校・数学の教科書など

             

                                 (計 2418文字)   

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コメント

私は、「原田の方が130m以上のジャンプの本数が多いから原田を選ぶ」、、「船木の方が115m以上が多いから、船木を選ぶ」。。どちらも正解ですと言われて、同じ論旨で真逆の解答が成立する事に驚いてはいけない訓練が出来ていないので驚きました。次の一回で失敗する選手はどちらか?と言うような問いも同じですね。どう考えても問題の設定に工夫の余地があると思いました。
P.S.
昨日、やっと右足を地面に着けて(足加重<10kg)OKの歩行リハビリになりました。

投稿: gauss | 2012年4月21日 (土) 11時01分

> gauss さん
    
こんばんは。これ、数学好きなら驚きますよね♪

義務教育の最終年度に、数学の応用力の模範を
示すべきなのに、俗っぽい直感的な解答を示してる。
おまけに、普通に平均を使った生徒はバツ印になりそうです。
   
こんな教え方をしてるのかと思って、中学の教科書を
チェックしましたが、流石に教科書はマトモでした。
  
しかし、全国の数学のプロ達、特に中学の先生は
何とも思わないんですかね?
検索アクセスが少ないし、熱心だとすぐ分かるアクセスは
今の所、一人のみです。
これなら、昔のモンティ・ホール問題の時の方が
遥かに反応が良かった。
    
まあ、全国学力調査でこれだから、マラソンとか、
五輪の代表選考がもめるのは当然でしょう♪
   
とりあえず、平均を使った生徒をバツにするのは止めるべきです。
問題設定で言うと、簡単な修正として、「どちらとも言えない」と
いう選択肢を認めるという方法がありますね。
別に代表選考じゃないし、賭けでもないんだから。
    
一方、右足荷重xkg(0<x<10kg)、
おめでとうございます。
それにしても大変なアクシデントになりましたね。
早くx≧50になることをお祈りしてます。
   
x≧150くらいになれば、再びマラソン挑戦とか♪
ではまた。。

投稿: テンメイ | 2012年4月22日 (日) 21時02分

 私もびっくりです。いや開いた口がふさがりません。
 まずはその1 解答累計の正解の中に最低値を含む階級の中央値が原田選手の方が低いみたいのがありましたが、最低値を考慮した解答が正解ならその値を含めた平均値を求めても正解でしょう。最低値で比較することってむしろ問題ありでは?
 その2 昨年のピッチャーの問題ではストレートと変化球があるから平均値で求めることが、ふさわしくないのはOK。でも今年の問題は、原田選手もベストを尽くして(?)飛んだ結果でしょう。昨年の問題とは明らかに違うのでは?
平均値で求めることがよくないとすれば、子どもたちにどう説明するのかな? 日本の数学教育もいよいよ世紀末?シンプルな中にも奥が深く、解いた感動がある問題こそ、数学の良さではないかと思うのですが。
 この問題については、もっと議論が必要ですよね。

投稿: cats | 2012年4月26日 (木) 21時31分

> cats さん
   
はじめまして。コメントありがとうございます。
  
ネットの特性や話の内容を考えて、記事ではなるべく
穏当な表現を使ってますが、正直かなり驚いてます。
解答や解説だけでなく、騒ぎが起きないことにも♪
責任とか謝罪とか、大きな問題になっても
不思議じゃないと思いますけどね。
    
最低値のお話は、船木を選ぶ次の正答例ですね。
「船木選手の最小値を含む階級の中央の値が大きい」。
言い換えると、
「原田選手の最小値を含む階級の中央の値が小さい」。
  
いずれにせよ、解説者が例外扱いにしたいはずの
(原田の)最小値を考慮しています。
それなら、全体の平均を使ってもいいですよね。
最新の教科書にも、平均を使うのが普通だと
書いてました(東京書籍)。
あるいは「中央値」、データの真ん中の値を使うとか。
原田が110m、船木が120m。
やはり船木の勝ちになります。
      
とにかく、最小値にせよ最大値にせよ、過去の両端の値に
着目して、2人の次の勝負を予想するという発想は、
数学的でも実用的でもありません。
もちろん、たまたま両端が最頻値(度数が最大)に
なってるのなら、それに着目しても悪くはないでしょうけどね。
中学生の学力調査として、二重丸でなくても一重丸は出せます。    
    
    
一方、お蔵入りとなった去年の問題で、
球速の平均値が役に立たないのはOKですよね。
グラフを見ても明らかだし、実用的にも正しい。
直球と変化球、2つの球腫でスピードは大きく
変わるので、全体の平均値は練習の役に立たない。
ただし、直球の平均値、変化球の平均値なら、
それぞれ役に立つでしょう。
実際に一部の強豪校の練習で使われてると思います。
    
ちなみに去年の問題で、2人の次の一球の速度を
比較するのなら、全体の平均値を使っていいはずです。
島袋投手が132km、一二三投手が131kmだから、
島袋投手の方が速いだろうとか。
ただし、バッティングの練習には役に立ちません。
まあ、そもそも練習では、打撃にせよ投球にせよ、
直球と変化球は分けるものですが♪
   
統計データの読み方というのは、学問的に微妙であって、
テストの問題や解答はかなり注意が必要でしょう。
今回は、問題がやや不適切、正解や解説は間違いに近い。
     
世紀末といっても、まだ21世紀初頭ですから、
微力ながら今後も努力はしたいと思ってます。。

投稿: テンメイ | 2012年4月28日 (土) 20時47分

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