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確率論の原点と教育~中学校・数学の教科書など

天気予報、地球温暖化、原発事故、放射線による発ガン、etc。生活の至る

所に、確率というものが関わってる。本質的な理由は2つだろう。人間は未

来を予測しながら生きて行く生物だということ。そして、未来の出来事は「確

率的」にしか予測できないということだ。

    

ここで、「確率的」という言葉をカッコに入れてるのは、確率の理論を使わな

い場合まで含めて考えてるから。そもそも確率(probability)とは、多分そう

だろう(probable)という確からしさの事だ。我々は未来について、多分そう

だろうといった推定の形でしか、知ることは出来ない。未来に対する絶対的

な断言や確率100%の予測というものは、「非常に強い」確からしさの表現

であって、基本的には主観的な「強い確信」や、「ほぼ100%」の数学的確

率を示すものにすぎないのだ。

     

ここで既に、確率=確からしさをめぐって、2つの要素が絡み合ってること

に気付く。つまり、信念などの人間的なものと、数学的に計算された確から

しさの割合。実は、数学的な確率の中にも、人間的なものが分かりにくい

形で紛れ込んでて、専門家でさえ奇妙なミスをおかしてしまうことがある。

その事は、国家レベルの学力調査の問題・解答を見るだけで気付くのだ。

有名なモンティホール問題では天才が間違えたし、今年の中学・数学B

は論理的にかなり怪しい模範解答が示されたままになってる。

      

今回の記事では、確率についての考察の手始めとして、教育の中で確率

理論が初めて登場する中学の教科書を中心に、実情を見てみよう。ただ

し、その前に少しだけ、小学校教育もチェックしておきたい。。

    

        

           ☆          ☆          ☆

数学教育における確率は、中学でも高校でも、「場合の数」を基本として考

えることになってる。例えば、サイコロを投げる時、偶数の目が出る場合は

3通り、奇数も3通りで、合わせて6通りは「同様に確からしい」。だから、

   (偶数が出る確率)=3/6=1/2

とするわけだ。

       

一番もとにある「場合の数」は、平成23年度から全面実施となった新学習

指導要領だと、小学校6年の教科書に登場する。手元にある、東京書籍の

『新しい算数 6下』を見てみよう。

   

まず、第12章「資料の調べ方 資料の特ちょうを調べよう」で、様々な物

事を数量的に調べてまとめることを学んだ後、第13章「場合の数 順序

よく整理して調べよう」に入る。

   

最初に、高校でいう「順列」、つまり並べ方の数え方を、記号や樹形図を使っ

て学んでいく。4つの乗り物に乗る順番なら、それらをA、B、C、Dという記

号で簡単に表現して、ABCD、ABDC、ACBD・・・などとアルファベット順に

並べたり、Aから3本の枝を右に伸ばしてB、C、Dと書き、そこからまた右に

2本の枝を広げたりする訳だ。Bの右ならCの枝とDの枝とか。

    

     

        ☆          ☆          ☆

注目すべきは、p.46の問題3。

   「メダルを続けて3回投げます。このとき、表と裏の出方には

    どんな場合がありますか。」

   

この問題を、初めて習う普通の小学6年生にやらせると、答え方はかなり

バラつくはずだ。それどころか、大学生でもバラつくという話さえ聞いてる

が、ここでは小学生だけに注目する。この問題は、一応「第1節 並べ方」

に含まれてるが、大半の小学生はそうした区分を考えることなく、問題文

だけを読んで考えるだろう。そこには、「表と裏の出方」とだけ書いてあり、

「並べ方」とは書いてない。

     

ところが、正解らしき説明では、表と裏の並べ方が書かれてるのだ。つま

り、表表表、表表裏、表裏表、表裏裏、裏表表、裏表裏、裏裏表、裏裏裏、

全部で8通りと考えるように誘導される。これだと、やがて「3枚とも表にな

る確率は1/8」という話を、深く考えることなく自然に納得してしまうだろう。   

要するに、既に小学校の時点で、ひそかに「同様に確からしい場合の数」

の「正しい数え方・考え方」をインプットされてるのだ。

       

元の問題文だけなら、「表3枚、表2枚、表1枚、表0枚」と4通りに数えて

もいいはずで、これだとやがて、「3枚とも表になる確率は1/4」という「誤っ

た」答に辿り着く。あるいは、単なる「出方」ではなく「並べ方」を数えるにし

ても、「3回とも同じ、3回が互い違い、2回連続同じで1回だけ違う」と数え

るなら3通りになり、

   (3枚とも表になる確率)=(1/2)×(3枚とも同じになる確率)

                 =(1/2)×(1/3)

                 =1/6

という「誤」答に辿り着く。

      

そういった、確率論的も統計学的にも「誤った」考えに向かう可能性を、知

らない間に消そうとしてるのだ。教科書作成の意図はともかく、少なくとも結

果的には。。

   

     

   

        ☆          ☆          ☆

続いて、中学の教科書を見てみよう。残念ながら、平成24年度からの新

学習指導要領に対応したものは持ってないので、とりあえずここでは、そ

れまで使われてた教科書を見る。後で、新しい教科書との違いに気付い

たら、追記・補足することにしよう。手元にあるのは『新編 新しい数学2』

(東京書籍)だ。ちなみに、この4月(2012年)から全面実施の新課程で

も、確率は中2の教科書に控えめに入ってる。

         

「第6章 確率」は、まず前置きで、6枚のカード(1,2,2,3,3,3)から

1枚引く「実験」からスタート。そこでは、「起こりやすさ」の違いを確認する

ようだが、この場合の起こりやすさとは、実際には実験による「相対度数」

から考えることになる。

              

つまり、30回試すと、1が6回、2が10回、3が14回「出た」から、3が一

番「出やすい」とか、クラス全員が何度も試すと、ほとんどの人で3が一番

多く「出た」から、3が一番「出やすい」と考える流れだ。表面的には、あく

まで「過去」を扱ってる。

      

ところが、次のページでは早速、微妙ながら決定的にズレた「起こりやす

さ」が話題となる。つまり、まだ実験してない「未来」の事柄の予想・推測

が話題とされてるのだ。

      

そして、次の「第1節 確率」では、核心となる主張が提示される。

   

    「結果が偶然に左右される実験や観察を行うとき、あることがらが

     起こると期待される程度を数で表したものを、そのことがらの起

     こる確率という。

     たとえば、さいころを投げるとき、1の目が出ることは6回に1回

     起こると期待されるので、その確率は1/6である。」

     

「期待される程度」という言葉で確率を定義してあるが、さいころの場合、

直前で行った実験における相対度数(334 / 2000、つまり0.167)

が根拠(または手がかり)となってる。その後の、「女子の生まれる確率」

も、過去の統計における相対度数(0.486か0.487)が根拠なのだ。

     

    

         ☆         ☆          ☆

そして、次の「第2節 確率の求め方」で、良し悪しはともかく、理論的な飛

躍が登場する。その導入は巧みで、サッカーのキックオフをどちらのチー

ムが行うか、コイントスで決めるわけを軽く考えさせた後、いきなり「正しい」

考えが示される。

   

   コインを投げる場合では、表が出ることと裏が出ることが同じ程度

   に期待できる。このようなとき、どの結果が起こることも同様に確か

   らしいという。

     

決定的な事は、コインの実験をせずに、あるいは書かずに、「同じ程度に

期待できる」と断言してる点。また、「このようなとき」がどのような時なの

か、具体的にも理論的にも説明してない点だ。そして、かの有名な理論

が登場する。これが「求め方」であって、「確率の定義」ではない点にも注

意したい。

           

   確率の求め方

    ある実験または観察を行うとき、起こりうる結果が全部でn通り

    あり、そのどれが起こることも同様に確からしいとする。

    そのうち、ことがらAが起こるのがa通りあるとき、Aの起こる

    確率pは次のようになる。

         p = a/n

    

ここではもはや、なぜかという問いもなく、「一般に、次のことが成り立つ」

と前ふりされてるだけなのだ。これ以降、実際に行った実験や観察におけ

る相対度数の話は消えて、もっぱら、「場合の数」の簡単な割り算が行わ

れる。教えられた通りに、ある場合と全体の場合とを数えて、小学校3年

レベルの簡単な割り算を行えばおしまいなのだ。

         

ほとんどの生徒は、奇妙なトリック、「論点先取」に気付かないだろう。確

率を計算する際、先に「同様に確からしい」という形で確率の等しさを使っ

てることに。そして、いつの間にか実験や観察の相対度数が説明から消

えてしまったことに。当然、実験できない時、観察が不十分な時にはどうな

るのか、現実的に考える力も養われないだろう。。

    

    

         ☆          ☆          ☆

ちなみに、第1節で確率を大まかに定義した直後には、驚くべき逆転も登

場する。つまり、元々は相対度数から確率を考えてたはずなのに、逆に確

率から相対度数を考えてよいことになるのだ。

   

   「確率がpであるということは、同じ実験や観察を多数回くり返す

    とき、そのことがらの起こる割合がpに近づくという意味をもって

    いる。」

      

いわゆる「大数の法則」(つまり多数回の法則)で、その「証明」(とされるも

の)自体も大問題だが、ここでは中学の教科書だけに注目しとこう。確率が

pであるとは、相対度数がpに近づくという「意味をもっている」という形で、

まるで単なる言葉の定義や用法であるかのように語られてる。しかし実際

は、「確率がpとされてる時、相対度数もpに近づくと考えるべきだ」という、

必ずしも現実的ではない思考パターンを教え込んでるわけだ。

          

結局、過去の僅かな経験にもとづく「期待」から確率を求め、そこからさら

に、未来の経験に対する「期待」を計算する。二重に期待が混ざってるわ

けで、それは十分正確に再現可能な事柄の場合にはほぼ問題ないけど、

実際の世の中、特に、人間に関わる事や複雑すぎる事ではなかなか上手

くいかない。

   

その問題点には触れないまま、高校数学までの確率教育は終わるのだ。

そして唐突に、大地震の確率やガン発生リスクといった重大な問題につい

て考えさせられることになる。ほとんどの大人がつぶやく台詞、頭をよぎる

考えは、「先のことは分からない」といった非-数学的で素朴なものだろう。

ごく稀な例外は、宝くじで連番とバラのどちらが有利か、真剣に考える時く

らいのはずだ。

     

今日はもう時間も字数も無くなったので、続きはまた次回に。。☆彡

    

            

    

cf. 全国学力調査、伝説の確率の問題が登場♪  (2009年) 

   全国学力調査2012・中学数学B、スキージャンプの問題(原田vs船木)

   宝くじの買い方、連番よりバラの方が当選確率が高い~朝日新聞・be

   ポアソン分布(過程)による地震の確率計算(by政府・委員会)

      

                                (計 4259文字)

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