WHO(世界保健機関)による被曝線量の推計(全国、年代・経路別)
2012年5月23日、WHO(世界保健機関)は、福島第一原発事故による
被曝線量の推計を発表した。メジャーな新聞の中だと、大きく報道したのは
朝日新聞だけのようだが、世界的な組織による大規模な推計は初めてら
しいし、基本的な参照データにはなると思う。英語の原文を参照しながら、
朝日が書いてないことまで補足して、まとめておこう。
まず、朝日(大岩ゆり記者)が書いてない重要な指摘をしておく。報告書の
原題は「Preliminary
dose estimation」
であって、前書きの説
明を考慮して訳すなら、
「準備作業としての線
量評価」ということだ。
つまり、まだこれから
洗練する余地がある
ことを、一番最初の言
葉「Preliminary」(準
備的)で示してある。
☆ ☆ ☆
朝日の説明でも、私の感覚でも、WHOが示した推計値(の上限)はかな
り厳しめの値になってるので、非常に大まかに言って、実際は半分以下く
らいだと考えていいと思う(日本政府はもっと下だと主張したいはず)。例
えば、1~10mSvとなってれば、実際は5mSv以下と考えても、さほど問
題は生じないだろう(職業などで行動パターンが特殊な人は別)。
その理由は2つある。まず、WHOがかなり厳しい想定(避難の大幅な遅
れ、食事からの内部被曝の多さなど)のもとで計算してるため。もう一つ
は、福島県がこれまで行って来た外部被曝・内部被ばくの実態調査デー
タと比べて、推計値(の上限)が相当高いからだ。WHOが示したのは大
まかな理論的計算であって、個々人の被曝実態を踏まえたものではない。
より具体的に言うと、例えば福島県浪江町の外部被曝。WHOによると、
10-50mSvの90%だから、9~45mSvということになる。しかし、福島
県県民健康調査の「基本調査(外部被ばく線量の推計)」によると、99%
以上の人が10mSv未満で、60%弱は1mSv未満なのだ(福島全体での
パーセント表示ではない)。あるいは、福島県の被害の少ない場所での内
部被曝は、WHOによると0.5~5mSv。ところが福島県の調査が示した
値は、ほぼ全員が1mSv未満だった(今年3月まで、32000人弱のホー
ルボディカウンタ検査)。
ちなみに朝日の記事で、乳児(1歳児)の甲状腺被ばくの等価線量だけは
ほぼ実態通りではないかとされている(細井義夫・広島大原爆放射線医科
学研究所教授)。それは、今年3月の朝日やNHKの報道と比べても予想
できることだ。1歳児の場合、放射性ヨウ素によるダメージが成人の10倍
近いので(実効線量係数の比較による推定)、100~数百mSvに到達し
ても驚きはない。
ただし3月に書いた記事でも強調したように、この大きな値は「等価」線量
であって、単純に「実効」線量へと換算するなら0.04倍になるので念のた
め。例えば200mSvの甲状腺等価線量は、8mSvの実効線量(全身)に
相当するものだ。。
☆ ☆ ☆
では、WHOが示した簡単な結論部分だけを翻訳して、まとめ直しとこう。
まず居住場所で分けて、次に年代で分ける。元のpdfファイルは下のよう
な表でまとめてある。
☆双葉郡・浪江町 (最初の4ヶ月のみ。それ以降は避難したと考えて)
成人・10歳・1歳 10~50mSv 外部90%、内部(吸入)10%
☆相馬郡・飯舘村 (同上)
成人 同上 同上
10歳・1歳 同上 外部80%、内部20%(吸入・食事が半々)
☆双葉郡・葛尾村 (同上)
成人 1~10mSv 外部80%、内部(吸入)20%
10歳 同上 外部80%、内部(吸入)10%、内部(食事)10%
1歳 同上 順に70%、20%、10%
☆南相馬市
成人 1~10mSv 外部90%、内部(吸入)10%
10歳・1歳 同上 外部80%、内部(吸入)10%、内部(食事)10%
☆双葉郡・楢葉町
成人 1~10mSv 外部80%、内部(吸入)20%
10歳・1歳 同上 外部80%、内部(吸入)10%、内部(食事)10%
☆いわき市
成人 1~10mSv 外部90%、内部(吸入)10%
10歳・1歳 同上 外部60%、内部(食事)40%
☆上記以外の福島県
成人・10歳 1~10mSv 外部50%、内部(食事)50%
1歳児 同上 外部20%、内部(食事)80%
☆近隣の県(千葉県・群馬県・茨城県・宮城県・栃木県)
成人・1歳 0.1~10mSv 外部80%、内部(食事)20%
10歳児 同上 外部80%、内部(吸入)10%、内部(食事)10%
☆その他の都道府県
成人・10歳 0.1~1mSv 外部30%、内部(食事)70%
1歳児 同上 外部20%、内部(食事)80%
☆海外
ほぼゼロ(0.01mSv未満)とされてるので、ここでは省略
☆ ☆ ☆
なお以上の推計値は、個人の生活パターンによって修正してもいいだろう。
例えば、上で外部被曝を計算する際には、屋内に16時間、屋外に8時間
いたことになってるが、普通の人が屋外にいるのは4時間以内だと思うし、
福島県だともっと少ないのが普通だろう。屋内は屋外の0.4倍で計算する
から、24時間ほとんど屋内にいる人なら、外部被曝の値は2/3倍にして
もいいはずだ。以下の計算を参照のこと。ちなみに、「外部被曝」とは「身
体の外からの被曝」という意味だから、屋内でも0.4倍=4割は存在する。
(外に出ない人の外部被曝) : (普通の人の外部被曝)
= 0.4×24 : (1×8)+(0.4×16)
= 9.6 : 14.4
= 2 : 3
あるいは、福島県に住んでる人で、福島周辺以外からの飲食物をなるべ
く利用してる場合は、内部被ばくの量をかなり減らしてもいいだろう。
いずれにせよ、単なる目安の推計値なので、念のため。それでも、埼玉
県・東京都・新潟県・山形県に在住の方は、「その他の都道府県」扱いに
よって、少し安心できるかも知れない。
それでは、今日はこの辺で。。☆彡
cf.原発から各地までの距離と、放射線の年間総量(by文科省データ)
放射線(放射能)の危険性と距離~2つの逆二乗法則(情報源明示)
雨の長距離ランニングで浴びた放射性物質の計算(by定時降下物データ)
原発事故評価レベル7と、セシウムのヨウ素換算値の計算(by INES)
福島原発レベル7の基準を読む~INES(国際原子力・放射線事象評価尺度)
なぜセシウムのヨウ素換算値は40倍か~放射性物質の計算理論(by INES)
被曝する年間放射線量すべての計算方法(自然・医療、外部・内部、屋外・屋内)
セシウム牛肉、食後1年間での内部被曝線量の計算方法(定積分&実効半減期)
放射性物質の半減期、壊変定数、質量(重さ)~微分方程式の初歩など
外部被曝におけるベクレルとシーベルトの計算式(by IAEA)
朝日の甲状腺被曝87ミリシーベルト報道の意味~実効線量と等価線量
義務教育における放射線・放射能~中学校・理科の教科書&副読本
文科省が10都県で確認、ストロンチウム(Sr)90の実効線量係数など
日本人の自然放射線と医療被ばく線量(『新版 生活環境放射線』2011)
(計 3270文字)
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