ε-δ論法による基本定理の証明~関数の積の極限
ウチは一般社会人の趣味のブログだし、別に数学系ブログという訳でもな
いので、数学の質問を頂いてもお答えするとは限らない。ただ、ちょうど
ε-δ(イプシロン・デルタ)論法の記事を追加しようかなと思ってた所だ
し、毎日更新の中の1本として手頃な内容でもあるので、サラッとお答えし
とこう。数学の中でも堅い話なのに、地味にアクセスが続いてるのだ。
頂いたリクエストは、「関数の積についてのε-δ論法の証明」だが、おそ
らく次の基本定理の証明をお望みなのだろう。高校では証明抜きで使うが、
大学レベルでは一応、「証明できる」のだ。ただし、実際に「証明する」機会
は、かなり減ってると思う。
これをε-δ論法で証明しようとすると、|f-p|と|g-q|を使って
|f g-pq|を作る必要がある。ところが、前の2つの絶対値を単純に
掛け算すると、上手く行かないのだ。
こうゆう時、シャープではないけど基本的な方法として、絶対値記号を外
して普通の不等式にするのは一つの手だ。つまり、|f-p|<εの代わ
りに、-ε < f-p < ε、さらに、p-ε < f < p+εとするのだ。同
様に、q-ε < g < q+εとすると、εはいくらでも小さく出来るから、
pとqが正の時、不等式の各辺は正。
よって、 (p-ε)(q-ε) < f g < (p+ε)(q+ε)
ここから、fg-pq をいくらでも小さく出来ることを示すのは簡単だろう。た
だし、pとqの符号で場合分けするのが面倒だし、あまり美しくもない。そこ
で、絶対値記号を活かした証明を示すことにしよう。以下、εとε₁などの
区別、つまり、右下の添字の有無や番号にご注意頂きたい。省略せずに
きっちり書いてるので、長めの証明になっている。
☆ ☆ ☆
☆前掲定理の証明☆
題意を示すには、次のことを導けばよい。
任意の正のεに対して、ある正のδが存在し、
0<|x-a|<δ ならば | f(x) g(x)- pq| < ε
要するに、| f(x) g(x)- pq|をいくらでも小さく出来ることを示せばよい。
いま任意の正のε₁に対して、2つの極限の仮定より、次の2つが言える。
ある正のδ₁が存在して、0<|x-a|<δ₁ならば|f(x)-p|<ε₁
ある正のδ₂が存在して、0<|x-a|<δ₂ならば|g(x)-q|<ε₁
したがって、δ₁とδ₂のうち小さい方(同じならその値)をδとすると、
0<|x-a|<δならぱ、
|f(x)-p|<ε₁ かつ |g(x)-q|<ε₁ ・・・・・・ ①
以下、0<|x-a|<δの範囲で考える。
|f(x)-p|<ε₁を書き換えて、-ε₁< f(x)-p < ε₁
∴ p-ε₁< f(x) < p+ε₁
よって、|f(x)|の範囲を考えると、|p-ε₁|と|p+ε₁|の大き
い方(同じなら、その値)より小さい。同じことを式で書くなら、次の通り。
|f(x)|< Max { |p-ε₁|,|p+ε₁|}
ところで三角不等式より、|p-ε₁|≦|p|+|-ε₁|
∴ |p-ε₁|≦|p|+ε₁
同様に、 |p+ε₁|≦|p|+ε₁
よって、|f(x)|は|p|+ε₁より小さい。
∴ 0 ≦ |f(x)| < |p|+ε₁ ・・・・・・ ②
ここで、証明すべき事柄そのものに着目すると、
|f(x)g(x)-pq|=|f(x){ g(x)-q }+q { f(x)-p }|
三角不等式より、
|f(x)g(x)-pq| ≦ |f(x){ g(x)-q }|+|q { f(x)-p }|
∴ |f(x)g(x)-pq| ≦ |f(x)||g(x)-q|+|q||f(x)-p|
①②より、 |f(x)g(x)-pq| < (|p|+ε₁)ε₁+|q|ε₁
この不等式の右辺は、δを適当に小さく取ってε₁を小さくすれば、いくら
でも小さくなる。よって、任意の正のεよりも小さく出来るから、
|f(x)g(x)-pq| < ε
以上より、題意は示された。
(Q.E.D. 証明終了)
☆ ☆ ☆
なお、途中で|f(x)|の範囲を狭める時、もっと簡単にある有限の値Mで
|f(x)|≦M
としてもよい。例えば、ハイレベル過ぎて一般人には不親切な『解析入門Ⅰ』
(杉浦光夫,東京大学出版会)だと、Mのみ用いて、ε₁を使わず、非常に
簡単に証明を終わらせてある。
ただ、こういったMはなかなか導入しにくいものだし、ε₁(の類)とεの関
係も分からなくなる。それに対して、上で示した方法なら、ε₁をεで表すこ
とも可能なのだ。
つまり、 最後の不等式の右辺をεにすればいいのだから、2次方程式
(|p|+ε₁)ε₁+|q|ε₁=ε
をε₁について解けばよい。整理すると、
ε₁² +(|p|+|q|)ε₁-ε=0
これが必ず正の解ε₁を持つのは明らかだろう。
ちなみに「数列」の積の極限についても、ほぼ同様に証明可能だ。あと、た
まに「エプシロン・デルタ」といった検索アクセスも入ってるが、「イ」プシロン
の方が普通だと思う。では、今日はこの辺で。。☆彡
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
P.S. 商(割り算)の極限については、関数ではなく数列で証明記事を書
いてみた。この場合、ε-δ論法の代わりにε-N論法を使うこと
になるが、ほとんど同じ式変形で関数の場合も証明可能。興味の
ある方は下のリンクからどうぞ。
(計 2270文字)
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コメント
大変参考になりました。
このεーδ論法を理解していくなかで
逆に数学の楽しさに気づくことができそうです。
ありがとうございました
投稿: Ate | 2012年5月18日 (金) 08時33分
> Ate さん
ご丁寧にどうも。お役に立てて、良かったです。
お堅いε-δ論法から数学の楽しさにアプローチできるとは、
恵まれた才能と幸運だと思います。
数学は無限の奥深さと厳密さを持つ、特別な学問。
これからもお互い、楽しい努力を続けて行きましょう。。
投稿: テンメイ | 2012年5月19日 (土) 23時27分
高校で証明抜きで使うといえばロピタルの定理ですね
投稿: けろよん | 2012年6月 9日 (土) 00時32分
> けろよんさん
おはようございます。
関数の極限についての、ロピタルの定理。
懐かしい響きがありますね。
僕が知ったのは高校のハイレベルの参考書だったと
思いますが、簡単な「説明」ならあったような気がします。
まあ、「証明」だったかどうかは分かりませんが。
それより、ロピタルを使わなきゃ解けない極限って、
僕は高校のテストで見た覚えがありません。
使うと速く解ける問題ならあったけど、
確か僕は使わずに解いてました。
そんなに苦労もしなかったし、ロピタルを使うと
減点される恐れもありますしね。
ちょうど高校の「包絡線」みたいな位置付け。
ちなみに今、ロピタルの証明をウィキペディアで見た所、
自分で証明記事を書きたくなりました(笑)。
ま、ロビタルは単なる計算テクニックって扱いだから、
厳密で分かりやすい証明なんてウケないかも。。
投稿: テンメイ | 2012年6月10日 (日) 09時30分