適応障害の診断基準~DSM-Ⅳ-TR
「適応障害」という言葉が一般社会で有名になった大きなキッカケは、2004
年の雅子さまに関する発表だろう。その後、外部から様々な意見が出てる
が、公式発表としては適応障害のまま。主治医も、認知療法の権威・大野
裕のままのはずだ。
この障害は、厚労省の2008年(平成20年)患者調査を見ても、人数は多
くて、41000人と報告されている。この数字だけ見ると、色々まとめて100
万人突破と報じられた気分障害(うつ病、双極性障害など)と比べると遥か
に少なく感じられるかも知れないが、100万人という数字はうつ関連の合計
だから、比較の仕方が適切でない。
適応障害も、大分類の「神経症性障害、ストレス関連障害」として考えるな
ら、60万人近くに到達している。つまり、気分障害、統合失調症(80万人)
に続く第3位だ。また、患者調査はある特定の1日における患者数の推計
(ただし精密)だから、長い期間で考えれば、適応障害の患者数は数倍以
上になるだろう。そもそも適応障害は、その定義(後述)からして、普通は
わりと短期の病(数ヶ月~1年程度)なのだ。もちろん、長引く慢性のもの
もあるし、公式見解としては雅子さまもその典型ということなのだろうが。。
一方、適応障害は、ここ数年話題のいわゆる「新型うつ」との関連でもよく
話題になってる。例えば、新型うつとされてる患者の内、かなりの人は実は
適応障害だろうというような説が唱えられてるわけだ。しかし、この適応障
害の診断基準も、新型うつとさほど変わらない程度の微妙さや曖昧さを持っ
てると思う。それでは、実際のマニュアルで確認してみよう。
☆ ☆ ☆
参照&引用するテキストは、いつものように、『DSM-Ⅳ-TR 精神疾患
の診断・統計マニュアル 新訂版』(医学書院,2004)。原書は2000年で、
『Diagnostic and Statistical Manual of mental disorder,Fourth
edition,Text Revision』(American Psychiatric Association)。
訳者代表3人の中に、雅子様の主治医・大野裕という名前も入ってる。
うつを中心とする気分障害と違って、適応障害には、そこに含まれる下位
の疾患名はない。ただし、コード番号の僅かな違いという形でなら細分化さ
れていて、抑うつ気分を伴うもの(309.0)、不安を伴うもの(309.24)、
不安と抑うつ気分の混合を伴うもの(309.28)、行為の障害を伴うもの
(309.3)、情緒と行為の混合した障害を伴うもの(309.4)、特定不能
(309.9)とされている。
要するに、情緒の障害(抑うつ、不安)と行為の障害をトータルで考えて、一
番適切な細分類で診断を下すわけだが、書き順と番号順を考えると、おそ
らく「抑うつ気分」がもっともメインの症状なんだろう。実際、代表的な診断
の付け方として、「309.0 適応障害、抑うつ気分を伴うもの、急性)」とい
う例が示されてる。という事は、やはり、うつ病との関係、特に症状の変化
が激しい新型うつとの区別が問題になるわけだ。
☆ ☆ ☆
では、適応障害(Adjustment Disorders)の診断基準について。短いの
で、全文を引用させて頂こう。以下のA~E、5つの基準すべてを満たせば、
診断が下される。
A. はっきりと確認できるストレス因子に反応して、そのストレス因子の
始まりから3カ月以内に情緒面または行動面の症状が出現
B. これらの症状や行動は臨床的に著しく、それは以下のどちらかに
よって裏づけられている。
(1) そのストレス因子に暴露されたときに予測されるものをはる
かに超えた苦痛
(2) 社会的または職業的(学業上の)機能の著しい障害
C. ストレス関連性障害は他の特定のⅠ軸障害の基準を満たしてい
ないし、すでに存在しているⅠ軸障害またはⅡ軸障害の単なる
悪化でもない。
D. 症状は、死別反応を示すものではない。
E. そのストレス因子(またはその結果)がひとたび終結すると、症状
がその後さらに6カ月以上持続することはない。
☆ ☆ ☆
最後のE基準を考えると、わりと短期だということは理解できるだろう。と
言うのも、ハッキリした特定のストレスで大きな障害が出れば、病気療養
などの形で早めにそれを避けるだろうから、トータルで半年~1年程度の
期間になるのだ。適応できないものなら回避するはずだし、回避すれば心
身は回復する。何ヶ月以上続くといった条件は入ってないが、常識的に考
えて、発症からわずか2~3週間で病院に行って確定的な診断を受け取る
ことは珍しいと思われる。
一方、C基準は専門的な表現になってるが、要するにⅠ軸障害とはメイン
となる障害のこと(新型うつは本来、対象外)。ストレスによる不調というだ
けなら、様々な障害の可能性があるから、もし他の障害の基準に該当して
るのなら、そちらの診断を下すのだ。
Ⅱ軸障害とは、パーソナリティ障害、精神遅滞のことで、この2つは比較的
地味だから、見逃すことのないように別扱いでチェックすることになる。DS
Mでは、メインとなるⅠ軸を中心に、計5つの軸による「多軸評定」が基本
なのだ。要するに、全人的で客観的な多角的評価をするということである。
☆ ☆ ☆
なお、有病率は「明らかにきわめて多い」とされてるが、調査ごとにかなり
違いもあるようで、一応「小児と青年と老人の地域調査では、2~8%」と
書かれてる。病院に来た患者を対象とするなら、適応障害と診断される割
合は遥かに高いようだ(10~50%)。
治療は、厚労省HPなどによるとごく一般的なもののようで、認知行動療法
のほかに、薬物療法(抗不安薬、抗うつ薬、睡眠導入剤)など。結局、適応
障害と診断されても、うつ病関連と診断されても、大差がないような気がし
てしまうが、面接の仕方や薬の選択や量など、細かい部分で違うのだろう。
いつものことだが、DSMというマニュアルは専門家向けのものなので、自
己責任による参考に留めて頂きたい。実際の診断は、あくまで病院その
他の医師が、個別の状況の下で行うことになる。
それでは、今日はこの辺で。。☆彡
cf. PTSD(外傷後ストレス障害)の診断基準~DSM-Ⅳ-TR
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(計 2839文字)
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コメント
大変です
「テンメイ - Wikipedia」に抜かれちゃってますよ
今日(もう昨日)のこの記事は朝、じっくり読ませて頂きました。
なんか、全く全部自分に当てはまるようです
投稿: みに子 | 2012年6月29日 (金) 00時48分
> みに子さん
「大変です」って、今頃気付いたんですか。
前から何度も記事に書いてたのに (^^ゞ
2ヶ月ほど前から激しい争いになってて、
1位と2位が1日ごとに変わったりしてる状況。
ただ、ドラマが終わったから、ここ数日は
負けたままなんですよ。マジで悔しいんだけど
馬の熱烈なファンが頑張ってるのかも。。
それに引き換え、「みに子」検索では、みに子さんが
相変わらず1位をキープしてるんですね
ま、ひらかなと漢字の組合せがいいのもあるかな。
僕の場合、カタカナの「テンメイ」が他にいくつも
ありますからね。漢字も合わせると大激戦。。
ってことで、3日に1回は「テンメイ」検索で
ウチに来るのが、常連さんのノルマとなってます(笑)
ご協力、よろしく
で、適応障害の基準が当てはまっちゃったと。
ほんじゃ、ストレス因子がそのままなんだ。
ってことは、やっぱアレですよ。アレ
早く抜け出しましょう♪
投稿: テンメイ | 2012年6月30日 (土) 22時41分