ε-N論法による基本定理の証明~数列の商の極限
「数学記事は先日書いたばかりだけど、今夜は不純な動機から、また数学
記事を書くことにしよう」。。そう書き始めようと思ったが、実際は前回から
既に3週間以上も経過してたようだ。それなら、記事ローテーション的にも
おかしくないだろう。ちなみに不純な動機とは、手っ取り早く硬派の記事を
書きたい、という思いのこと。日曜の夜、時間に追われてるもんで。。
前回は、ε-δ(イプシロン・デルタ)論法を用いて、「関数の積の極限」が
「関数の極限の積」になることを証明した。和(足し算)と定数倍の極限に
ついてはかなり前に証明してるから、差(引き算)の極限についても証明
したことになる。と言うのも、 「f(x)-g(x)」は、「f(x)+{ -1×g(x)}」と
考えられるから。つまり、関数の差とは、関数の和と定数倍の組合せで
処理できるわけだ。
結局、極限の基本定理の中で、残るのは商(割り算)のみ。関数に関す
るε-δ論法の記事が多めになってるので、今回は数列に関するε-
N論法を用いて、「数列の商の極限」=「数列の極限の商」を証明しよう。
これが出来れば、ほとんど同様の式変形で、「関数の商の極限」=「関
数の極限の商」も証明できるのだ(もちろんε-δ論法)。
なお、数列の極限を厳密に扱うためのε-N論法に慣れてない方は、
2年前の次の記事をご参照あれ。
☆ ☆ ☆
さて、ここでは話の重複を避けるために、「数列の積の極限」=「数列
の極限の積」は既に証明されてるとしよう。つまり、
lim a(n)b(n) = { lim a(n) }× { lim b(n) } (n → ∞)
これは、関数の積の時とほぼ同様の式変形で、証明できる定理だ。ち
なみに、活字の制約から、数列の項の番号を示す添字の n は、カッコ
に入れて示すことにする。「lim」の下に書くべき「n → ∞」についても、
カッコに入れて右端に書くことにするので、念のため。ではいよいよ、
商についての証明に移ろう。
☆「数列の商の極限」=「数列の極限の商」、の証明☆
以下、lim a(n) = p 、 lim b(n) = q (n → ∞)の時、
lim a(n)/b(n) = p/q (n → ∞) ・・・・・・①
となることを証明する。ただし、b(n) ≠ 0、q ≠ 0とする。
いま、lim 1/b(n) = 1/q (n → ∞) ・・・・・・②
であることが示されているとすれば、
lim { a(n) / b(n) } = lim { a(n)×1/b(n) }
= p × (1/q)
= p/q (n → ∞)
となり、①は簡単に証明される。
よって、①を証明するには、②を証明すればよい。つまり、「数列の
逆数の極限」=「数列の極限の逆数」を示せばよい。ε-N論法を
用いて言い直すと、証明すべき命題は、
「すべての正の整数εに対して、ある自然数Nが存在し、
n>Nならば |1/b(n) - 1/q | < ε」・・・②´ 。
さて、前提のlim b(n) = q より、「すべての正の整数ε₁に対して、
ある自然数Nが存在し、n>Nならば | b(n)-q | < ε₁」・・・③。
q>0の場合はq-ε₁>0となるように、q<0の場合はq+ε₁<0
となるように、ε₁を定めておく。
ここで、
|1/b(n) - 1/q |= |q-b(n)| / |q b(n)|
= |{ q-b(n) }/q| / |b(n)|
であり、右辺の分子|{ q-b(n) }/q|は限りなく 0 (ゼロ)に近づく
から、右辺の分母|b(n)|がある正数以上だと示すことを目指す。
③より、n>Nならば、| b(n)-q | < ε₁
∴ -ε₁< b(n)-q <ε₁
∴ q-ε₁< b(n) < q+ε₁
よって、q>0の場合は、 0<q-ε₁<b(n)
∴ 0<1/b(n) < 1/(q-ε₁)
∴ |{ q-b(n) }/q b(n)| < |q-b(n)|/q(q-ε₁)
よって③より、 |1/b(n) - 1/q | < ε₁/q(q-ε₁)・・・④
あらかじめε₁について、ε₁/q(q-ε₁)=ε となるように、
つまり ε₁=q²ε/(qε+1) と決めておけば、④より
|1/b(n) - 1/q | < ε
したがって、②´ が示された。
一方、q<0の場合は、 b(n)<q+ε₁<0
∴ 0<|q+ε₁|<|b(n)|
∴ 0<|1/b(n)| < 1/|q+ε₁|
∴ |{ q-b(n) }/q b(n)| < |q-b(n)|/q(q+ε₁)
よって③より、 |1/b(n) - 1/q | < ε₁/q(q+ε₁)・・・⑤
あらかじめε₁について、ε₁/q(q+ε₁)=ε となるように、
つまり ε₁=q²ε/(-qε+1) と決めておけば、⑤より
|1/b(n) - 1/q | < ε
したがって、②´ が示された。
以上より、q の符号に関わらず②´が示されたので、②も示され、
結局は①も証明された。
Q.E.D. 証明終了
☆ ☆ ☆
上の証明を書くにあたって、いつものように杉浦光夫『解析入門Ⅰ』(東京
大学出版会)を参照しているが、かなりの変更を加えて丁寧に書いてある。
特に、目標とすべきεに対して、ε₁をどのように決めればいいのか、具
体的な数式で求める過程まで示した所が、工夫のポイントだ。ちなみにN
の方は、数列の具体的な式が与えられてないから当然求められない。ε
-N論法にとって、εはすべての正の数を相手にする必要があるが、N
は何かが存在することさえ言えればいいわけだ。
なお、今週は合計18701字となった。ではまた。。☆彡
(計 2339文字)
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