父の死、海への旅立ち~『ビーチボーイズ』と『もう一度君に、プロポーズ』第9話
遂にと言うか、ようやくと言うか、『もう一度君に、プロポーズ』の視聴率が
第9話で10.0%に到達した。待望の2ケタ。今回も、謎の脚本家・桐野世
樹の担当だから、桐野がそこそこ評価されてるのは確かだろう。
桐野単独の脚本の場合(1,2,3,5,8,9話)、平均視聴率は8.9%。
それ以外だと8.4%。僅か0.5ポイントの差とも言えるけど、全平均視聴
率8.7%との比で言うと、0.5/8.7=6%のプラス。1~9話の全体で、
珍しいほど視聴率が一定であることを考えても、桐野単独脚本の6%プラ
スは意味ある数字だと思う。
来週の最終回(第10話)も、桐野の単独脚本だが、ちょっと心配なのは、
時間延長がないこと。通常の1時間枠、実質45分程度で、この物語にキ
レイな区切りを付けるのは、かなり難しいと思う。桐野は、過去のコネタや
伏線を丁寧に拾って行くタイプだから、余計に大変なはず。だからと言っ
てSPとか、映画での続編も期待しにくいだろう。
平均で僅か2.2%の超低視聴率ドラマにも関わらず映画化決定となった
『鈴木先生』の場合、もともとテレビ東京系列で不利だった点を考える必要
があるし、私も含めて熱心な視聴者が始めから高く評価してた。数々の賞
にも輝いてるし、主演・長谷川博己はその後、大ヒットドラマ『家政婦のミタ』
(平均25%、最終回40%)で一躍知名度アップ。『もう一度』とは別扱いす
べきだろう。。
☆ ☆ ☆
さて、大詰めを間近にした『もう一度君に、』第9話。もっとも素晴らしかった
のはもちろん、海のシーンだ。CGによる加工が入ってるかどうかは分から
ないが、画面一杯に広がる青い空と海に、白くて大きめの波。中央に小さ
く、1本の丸太に座った波留(竹野内豊)&可南子(和久井映見)。後ろの
車で微笑みながら2人を見守ってる波留の義父(小野寺昭)。丸太の不自
然さなど笑い飛ばして、むしろスタッフさん、御苦労さまと言うべきだろう。
あの美しいシーン。
私事で恐縮だが、ま
ず当サイトの昔のテ
ンプレートに似てる
のだ。左が、最初の
1年半で使用してた
テンプレートで、今
でもプロフィールのページは、これになってる。
常連さんはご存知の通り、私の生まれ故郷は海のすぐそばだし、今でも
非常に海は好きだ。私にとって、海のイメージカラーは、青とか藍よりむし
ろ、エメラルド・グリーン。現在のブログのテンプレートもその系統だし、私
の自転車のブランド、ビアンキ(イタリア)のファクトリーカラーもこの系統
の色だ(チェレステ=空色と呼ばれる)。。
☆ ☆ ☆
一方、ドラマで考えると、あのシーンを見てすぐ思い出すのは、竹野内&
反町隆史の名作『ビーチボーイズ』。脚本は、この冬に『最後から二番目
の恋』を書いた実力派、岡田惠和。私は本放送は全く知らないけど、た
またま見た夏の再々々放送くらいで、まず海に引き付けられて、その後、
全篇&SPを本気で見ることになった。
何度も書いてるように、私がドラマについて深く考えたのは、この時が初
めてだ(映画の方が先)。特に、「ビーチ」と「海」という概念にこだわって、
延々と考え込んだ後、友人Kに話したら真剣に聞いてくれたのが、今の
のドラマレビューの原点とも言える。
『ビーチボーイズ』については、いずれ本格的なレビューをアップしたいと
思ってるが、とりあえず今回注目したいのは、「父の死」と「海への旅立ち」
というポイントだ。
『ビーチボーイズ』とは「ビーチ」、つまり「海」の手前の物語である。挫折し
たトップレベルの水泳選手・広海(反町)はプールから、エリート・サラリー
マン・海都(竹野内)は都会のオフィスビルから、それぞれ夏の海を目指し
てやって来て、海の手前で偶然、「交錯」(cf.広海の車&海都の鉄道のク
ロスシーン)。それをキッカケに、2人でビーチに辿り着き、そこの民宿で
バイト or 居候することになる。
彼らを迎えた主は、元・サーファーの草分けである「社長」(マイク眞木)。
2人は海と社長を慕うが、社長は「ここは俺の海だ。お前らの海は別にあ
る」とか言って、温かく突き放すと共に、自分でも再び海にチャレンジ。い
つの間にか、ビーチの民宿経営者になってしまった身体にムチ打って、
サーフィンに再挑戦。見事に波に乗ったものの、その直後、海で死亡。
広海は激しく落ち込んだが、最後は海都の激励を受けて、共に「自分の
海」を探しに旅立つことになる。その直前、海で泳げないはずの広海が、
ようやく海に泳ぎ出して、爽やかに、かつ少し淋しげに微笑むシーンは、
非常に印象的だった。海への旅立ちは、ビーチとの別れでもあるのだ。。
☆ ☆ ☆
このドラマの社長は、2人にとっても、孫娘の真琴(広末涼子)にとっても、
象徴的かつ実質的な「父」なる存在であって、その父が最終回直前に他
界する(第11話ラスト)。そして、2人は海へ旅立ち、孫娘は「母」(実母
&近所のお姉さん)のもとに行く。もうお分かりだろう。『もう一度』は、同
じ流れになってたのだ。終盤、父の死を経て、海=母へと旅立つ展開。
海とは、生命の始まりの場所(のイメージ)であると共に、水に満ちた大き
な広がりで、すべてを包み込む。羊水をたたえた子宮のようで、まさに「母
なる海」。古今東西、母や女性の象徴として海が使われて来たのは、もっ
ともな事だろう。精神分析理論の解釈を見ても、フロイト的にもユング的に
も、海は母や女性の象徴だ。
ちなみに、海を表す言葉が各国で女性名詞になってることが多いとかいう
説には、ちょっと注意が必要で、フランス語だと確かに女性名詞だが、ドイ
ツ語、イタリア語、スペイン語、ラテン語では違ってる。ただ、海という漢字
の「つくり」に「母」という字が入ってるのは興味深い。
話を戻すと、海とは、母や女性のシンボルであると共に、未知なる世界
や冒険を表すものでもある。人は古来、海の向こうの世界に夢や関心を
抱いて来たし、無数の冒険も行って来た。ここで注意すべきは、冒険が
「危険を冒す」ことである点。衰えた身体で海への冒険を再び行った『ビー
チボーイズ』の社長は、成功した直後に最期を迎えた。
海への旅立ちとは、夢と共に危険を内包するものであって、気軽に行う
ことが出来ないからこそ、人はしばしば、海の手前、ビーチで時を待つ。
それはしばしば、少年の「青春」の輝きや不安とも重なるわけで、その意
味でも、「ビーチ・ボーイズ」というタイトル自体がよく出来たものなのだ。。
☆ ☆ ☆
こう考えて来ると、『もう一度』の奇妙なほど遅い進行にも、納得が行く。
『ビーチボーイズ』が夏のビーチを描いたのに対して、『もう一度』は梅雨
のビーチ、あるいはむしろ、秋雨のビーチを描いてるのだ。その時期の
向こう側には、キラキラ輝く夏ではなく、セピア色に彩られた人生の秋が
やって来るだろう。
ちなみに今回、「行き先に迷った時のために海はある」という義父の言葉
があったが、ここで言う海とはビーチのこと。つまり、本来の海の手前を表
す言葉だ。また、修理工場を受け継ぐことは、海へ乗り出して、工場の「父」
になることを目指すことだ。
「ハーメルンの笛吹き男」=「カラフルさん」の話を思い出すなら、子どもの
有無を左右する「カラフル・波留さん」は、山へ登る代わりに、「海」へ行く。
つまり、新たに実母を「拠り所」としながら、可南子という海に再びチャレン
ジする。その船出の儀式こそ、「もう一度君に、プロポーズ」することだ。そ
うした息子の移動を手助けして、お役御免となった存在が、もう一人の年
配の笛吹き男=カラフルさんである、義父ということになる。
時期的には合わないが、このドラマ的には、船出が「桜咲く」となるのは間
違いない。個人的には、最後まで桜が咲かないのに清々しい美しさを保つ、
『ビーチボーイズ』の方を高く評価するが、一般的にはやはり、華やかなハッ
ピーエンドが人気なのだ。男はビールを好み、女はスイーツを好む。
可南子としても、自らの実父の死を思い出した後、夫の義父の死にも立ち
会い、いよいよ新たな海へと向かうことになる。それは、母としての自分だ
ろう。その場合の母は、差し当たり、図書館で子どもたちに朗読会を開く
役割を指すのだろうが、いずれは自らの子どもを生んで育てる存在となる
はずだ。
さらに言うなら、ある意味でドラマ史上に残る存在、一哉(袴田吉彦)も、第
3の笛吹き男=カラフルさんだろう。派手めなキャラで、主人公のライバル
的側面も持ってるのに、最初から最後まで徹底的に「いい人」で、特に裕樹
(山本裕典)にとっては父のような存在。一哉の目立たないサポートのおか
げで、裕樹もビーチから海へと旅立つことになるのだ。彼にとって、海の手
前のビーチとは、姉の可南子や実家のこと。
そこからいよいよ旅立ち、自分にとっての海=女性へと向かうわけだ。そ
れが桂(倉科カナ)か、志乃(市川由衣)なのかは分からないが、個人的に
はどちらかと言うと、志乃の方が萌えたりする。聞いてない? あっ、そう♪
それでは、台風4号が接近する中、最終回に期待と不安を抱きつつ、今夜
はこの辺で。。☆彡
いばら姫としての波留(竹野内豊)~『もう一度君に、プロポーズ』第2話
本気になったら時間なんて関係ない~『もう一度君に、プロポーズ』第3話
退屈な作品とはどのようなものか~『もう一度君に、プロポーズ』第4話
意外とマトモな25km走♪&『もう一度君に、プロポーズ』第6話
宮沢賢治『蛙のゴム靴』と、『もう一度君に、プロポーズ』第7話
『ハーメルンの笛吹き男』と『もう一度君に、プロポーズ』第8話
波で留まったビーチファミリー~『もう一度君に、プロポーズ』最終回
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(計 4047文字)
☆以下、25日分の追記リンク
主役と演出家が再会、『ビーチボーイズ』の変奏~『流れ星』第1話
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(累計 4167文字)
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