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ε-δ論法における、∞(無限大)や発散の扱い方

当サイトではこれまで、関数の極限についてのε-δ(イプシロン・デルタ)

論法の記事4本、数列の極限についてのε-N(イプシロン・エヌ)論法

記事2本をアップ。かなりお堅い内容にも関わらず、地味なロングセラーに

なっている。

     

検索アクセスで使われたワード(単語)を見ると、時々「発散」という言葉が

入ってるので、以前から少し気になってた。と言うのも、ε-δ論法という

のは普通、x がある特定の数に近づく時、f(x)がある一定の数(有限確定

値)へと収束することを証明する方法だからだ。手元の参考書を複数チェッ

クしても、発散に関する話はごく僅かで、はっきりした証明は省略されてい

る。似て非なる話だが、x が∞(無限大)に増加していく時の極限も、ほとん

省略されてるのだ。

       

まあ、少し考えればすぐ分かる程度の話ではあるが、私自身も含めて、適

当にスルーしてる人は少なくないような気もする。実際、時々検索アクセス

も入ってるので、今日は簡単にその辺りの話をまとめてみよう。なお、この

記事は、普通のε-δ論法ε-N論法に関する基本知識を前提として

るので、その辺りから知りたい方は、以前の記事を参照して頂きたい。

        

    

        ☆          ☆          ☆

ではまず、数列の極限に関するε-N論法とほぼ同じものとして、関数

の極限に関する「ε-M論法」を見てみよう。x を制限するものとして、

小さな数δの代わりに、大きな数Mを用いるわけだ。この言い方は、な

ぜか(ほとんど)使われてないようだが、nに対してNを考えるのと同様、

xに対してMを考えるのだから、ε-M論法と呼ぶことにする。

      

それを言うならむしろ、x の大文字を使った「ε-X論法」の方がふさわ

しい気もするが、基本的な参考書としている杉浦光夫『解析入門Ⅰ』(東

京大学出版会)でMを使ってるので、それに合わせただけの話だ。

    

まず x→∞の場合の簡単な例として、次の極限を考えてみよう。システムの

制約上、limの書き方を少しだけ変えてあるが、意味はすぐ分かるはずだ。

      

     lim 1/x = 0 ( x → ∞)

   

これは、ε-M論法だと、「任意のε>0に対して、あるMが存在して、

x>Mならば|(1/x)-0|<ε」、ということを意味している。それを証

明するには、このMをεの関数として求めればよい。

        

まず準備作業として、x>0の範囲で、導くべき不等式|(1/x)-0|<ε

を変形すると、x > 1/ε。したがって、Mを1/εとすればいいことが分か

る。では一応、証明の形にまとめてみよう。

       

   

 (証明) 任意のε>0に対して、Mの値を1/εと決める。すると、

      x > Mならば、x > 1/ε  ∴ 1/x < ε

                       ∴ |(1/x)-0|<ε

      これで、題意の極限は証明された。

        

   

           ☆          ☆          ☆

続いて、関数が+∞へと発散する場合について。簡単な例として、次の極

限を考えてみよう。

     

       lim 1/x ² = +∞  ( x → 0 )

    

細かい話だが、『解析入門』ではこの種のlimを書く時、「x≠0」と書き添え

ることになっている。もし書き添えないのなら、x=0になる時も考える、とい

う立場なのだ。しかし杉浦自身も認める通り、普通は書き添えなくても x≠0

と考えるし、とりあえずここでの議論にとっては、枝葉の問題にすぎない。

だから上の式でも、x≠0 とは書き添えてないので、念のため。

     

この場合は、大きな数を示すMの使い方が変わって来る。先ほどは、

「x > Mならば・・・」という形で用いたが、今回は「・・・ならば f(x) > M

という形で用いるのだ。

   

つまり、「任意のMに対して、あるδ>0が存在して、0<|x-0|<δなら

ば 1/x ² > M」、となることを示せばよい。いわば「M-δ論法」による証

明だ。そのための準備として、まず導くべき不等式 1/x ² > M を変形し

てみる。

        

M ≦ 0 なら直ちに成立するから、M>0として、x ² < 1/M。つまり、

|x-0| < 1/√M。よって、δ=1/√Mと決めればいいことが分か

る。では一応、証明の形にまとめ直しておこう。

       

         

 (証明) 任意のM≦0に対してなら、直ちに1/x² > Mとなる。一方、

      任意のM>0に対しては、δの値を1/√Mと決める。すると、

        0<|x-0|<δならば、0<|x|<1/√M

                      ∴ 0< x ² <1/M

                      ∴ 1/x ² > M

      以上より、題意の極限は証明された。

     

     

          ☆          ☆          ☆

では最後に、x→∞ の時、関数 f(x) が+∞に発散する場合について。

極端に簡単な、次の例を考えてみよう。

        lim 2x = +∞  (x → ∞)

   

この場合、x と関数 2x、それぞれに対して大きな数を考える必要があるの

で、Mだけでは文字が足りない。右下の添字で区別してもいいが、ここでは

LとMを使って、「M-L論法」としておこう(逆に「L-M論法」でも同じこと)。 

       

すると、「任意のMに対して、あるLが存在して、x > L ならば 2x > M」、

を示すことになる。示すべき不等式 2x > M を変形すると、x > M/2 。

よって、L=M/2と決めればよい。では一応、証明の形にしておこう。

     

        

 (証明) 証明すべき極限の式は、

      「任意のMに対して、あるLが存在して、x > L ならば 2x > M」

      であることを示している。

      いま、任意のMに対して、LをM/2と決めると、

        x > L ならば、x > M/2  

              ∴ 2x > M

      よって、題意の極限は証明された。

         

      

         ☆          ☆          ☆

なお、-∞(マイナス無限大)が絡む場合、つまり x → -∞ とか、

lim f(x) = -∞の場合も、これまでと同様の議論で処理できるのは明ら

かだろう。

            

それに対して、いわゆる「振動」の場合(x→∞における sin x の極限など)

は、有限確定値に収束しない(つまりδが存在しない)ことと、正の無限大

や負の無限大へと発散しない(つまりLが存在しない)ことを示すわけだ。

   

とりあえず、今日はこの辺で終わりとしとこう。ではまた。。☆彡

       

    

      

cf. イプシロン・デルタ(ε-δ)論法による極限の定義

   ε-δ論法による極限の定理(線型性)の証明

   イプシロン・デルタ(ε-δ)論法の問題の解き方

   ε-N(イプシロン・エヌ)論法~数列の極限の定義と解き方

   ε-δ論法による基本定理の証明~関数の積の極限

   ε-N論法による基本定理の証明~数列の商の極限

      

                                 (計 2481文字)

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数学」カテゴリの記事

コメント

εーδ!懐かしい。だいたいこれでみんなつまづくんだよね。

投稿: U | 2012年7月 9日 (月) 21時42分

> 友人U
  
「U」でこの内容だと、たぶん友人U だと思うんだけどな。
 
躓く人が多過ぎるし、実用的でもないから、
最近はあんまし教えなくなってるみたい。
厳密な証明より、答を素早く求める技術が問われてる。
   
しかし今時、数学の勉強なんて、社会における
実用性を考えたら、ほとんど無意味だけどね。
実用的なのは算数まで。簡単な数の、+-×÷ 。
   
あえて数学をやるんなら、実用性を越えた次元を目指すべき。
論理性、厳密性、抽象性、形式性、統一性、美しさ。
その意味では、こうゆう記事が意外に読まれてるのは
嬉しいことだし、いい事だとも思ってるよ♪

投稿: テンメイ | 2012年7月11日 (水) 00時18分

いやー、最近のオレの結論は、ビジネスマンは少なくともかなり数学必要というもの。特に統計だね。

投稿: U | 2012年7月11日 (水) 12時19分

> 友人U
    
背理法=帰謬(びゅう)法で反論しよう♪
    
もしビジネスマンがかなり数学を必要とするなら、
ビジネスマンはかなり数学が出来る。
しかし、実際はそうでもない。
よって、ビジネスマンはかなり数学を必要とする、ということはない。
    
             Q.E.D 証明終了(笑)
    
   
「ハイレベルなビジネスマン」はかなり数学が出来る「べきだ」、
という考えなら同意するよ。特に、統計、微分、積分。
計算・分析ソフトの使いこなしも含めてな。
算数の計算力はもちろん大前提。
   
ただし、ビジネスマンはピンからキリまでいる。
「ハイレベル」は一部分であって、全体から見ると僅か。
あと、「べき」っていう理想と、「である」っていう現実とは違う。
そもそも高校・大学時代でさえ、あんまし出来ないんだからな。
     
違う側面に目を向けると、現在の義務教育での
統計のレベルを理解すべきだね。特に、教える側。
中学の全国学力調査に関する次の記事を読んだか?
原田と船木と、どっちが遠くにジャンプするかの統計的予測。
     
tenmei.cocolog-nifty.com/matcha/2012/04/post-825f.html
   
文科省の模範解答や解説は、「トンデモ」レベル♪
他は推して知るべしだろう。
  
自分の身の回りの理想を考えるのは重要。
同時に、世の中全体の現実も見なきゃいけないのよ。
   
    
全然関係ないけど、友人Hは最近ひそかに、
小難しげな本をちょくちょく読んでるみたいだぞ♪
俺らも負けてらんないわな(笑)
ほんじゃ。。

投稿: テンメイ | 2012年7月13日 (金) 22時50分

いくつになっても学ぶことはたくさんあるね。
ところでちょっと嬉しい新聞記事をみつけたよ。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0700W_R10C11A1C0000/

投稿: U | 2012年7月14日 (土) 21時13分

> 友人U
   
オイオイ! 自分から、特に統計が必要と書いといて、
いざ中学の標準問題を出されたらスルーかよ (^^ゞ
そうゆう姿勢は本業の仕事にも絶対に出てるぞ。
たまには真正面から向き合って、きっちりコメントしろよな。
オレとか遠くの本格派を見習って♪
   
   
ちなみにその記事、1年半前じゃないか。
もっと新しくて中身のある記事があるぞ(医学書院)。
     
見つけにくいけど同種の内容で今年4月の情報としては、
次の朝日新聞の記事とか。オレはすぐ気付いてた。
いずれNHKスペシャルとか、大きな扱いになるかも。
        
https://aspara.asahi.com/blog/mediblog/entry/eNg9w9K8Ej
   
ほんじゃ、統計学のシャープな見解を待ってるからな♪

投稿: テンメイ | 2012年7月15日 (日) 11時57分

中学生の問題の方は、あまりの酷さにちょっと驚いた。平均とか標準偏差とか使わないのかな?

新聞記事のほうは、まさか気が付いてないということはないと思うけど、もう一回よく読んでくれ!

投稿: U | 2012年7月15日 (日) 15時33分

> 友人U
    
驚いたら、模範を見せろよな。
   
おかしいと思ったら、そうつぶやくだけじゃなく、
何がどうおかしいのか穏やかに論じた後で、
自らのより良い代案をきっちり示す。
トップレベルの社会人なら当然だろ♪

新聞記事、「よく読んでくれ」はこっちの台詞だわ!
「読む」って行為は、字面をサラッと眺めることじゃない。
なぜそう書いたのか、「なぜ他の事は書かなかったのか」を
考えながら、意味を受け取る必要がある。
    
とにかく、もう4往復だから、
この記事でのやり取りはこれにて終了。
ウチは原則2往復半までと公言してるしな。
   
それでは、お互いお疲れさま。。

投稿: テンメイ | 2012年7月15日 (日) 22時40分

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