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湖や海、水浴場における放射線(外部&内部被曝)の計算

今日は元々、魚の放射能汚染について書くつもりだったが、調べることが

多過ぎて間に合わない。あちこちの海、湖、魚に関して、元の測定データ

を調べ始めると大変なのだ。海水と海底で違うし、海水の深さも関係する。

さらに、魚介類の種類によっても話が違って来る。

     

そこでとりあえず、代わりに海水浴場での被曝について簡単にまとめとこう。

先日(8月12日)、原発事故後に初めて再開された福島県の海水浴場が、

早めに営業を終了した。いわき市の勿来(なこそ)海水浴場。位置的には、

福島県の海岸の一番南辺りで、福島第一原発との距離は60km程度。福

島でも、湖水浴場なら14ヶ所、猪苗代湖畔に開いてるが、海水浴場はここ

だけだった。

    

例年ならお盆休み明けまで営業してたが、今年は自粛の意味も込めて少

し早めに終了とのこと。以前の20分の1まで減ってしまった客数も考えて

のことだと思う。2010年には約18万人(7/14~8/18)だったのに、

2012年は約8000人(7/16~8/11、最終日の12日を含めると約

9000人)。

     

このニュース、ネットで検索すると、大手では読売新聞の記事(12日)しか

ヒットせず、他には福島民報と河北新報(仙台市)の記事くらいだが、原発

推進派の読売だけは、「風評被害」という市の担当者の言葉を掲載した。

安全なのに・・・ということだろう。

   

      

          ☆          ☆          ☆

これに対して、反原発的な反論もネットで流れている。目立つのは、ドイツ

のシュトゥットガルト紙(Stuttgarter Zeitung)が危険性を報じてるという

もので、そこでは原子力資料情報室を始めとする3つの市民団体の言葉

を引用して、かなり批判的に扱ってたようだ。

          

ただし、この新聞は20万部の地方紙であって、92年に30万部を記録し

てる福島民報と同規模。ドイツのウィキペディアでさえ、短い説明しかない。

記事内容も、数値データや数式、グラフ、基準に基づく定量的な分析は載

せてないイメージ的な論評だし、世界レベルで見ても引用・言及は僅か。

そもそも、この「Planschen im Meer von Fukushima」(福島の海

での水遊び)と見出しを付けた記事、紙面には載せたもののHPには載せ

てないようで、各種検索をかけても発見できてない。

     

もちろん、探せば世界の他の場所でも似た報道はあるかも知れないが、

日本でさえ僅かな報道だから、量的・質的には知れてるだろう。こうした状

況の中で、当サイトが取る立場はいつもと同様だ。なるべく中立的な立場

から、まずは「定量的」な議論をきっちりと行う。今回は、海水浴場に行くと

「どの程度」の放射線を浴びるのか、「どれだけ」の放射能(=放射性物質)

が体内に入るのか、「どれほど」のリスクがあるのか。科学的な基準に基

づいて、きっちり計算してみよう。。

               

     

          ☆          ☆          ☆

まず根本的に、海開きの基準について。正確に言うと、「湖水浴場」も含め

て、「水浴場」の基準を確認しておこう。以前は50Bq/L (1リットル当た

り50ベクレル)だったのが、今年度から10Bq/L へと厳しくなった。単位

がほんの少し違う(リットルとキログラム)が、水道水の管理目標値である

10Bq/kgと同じ値と言っていい。

   

これは放射性セシウム(Cs134+Cs137)の合計濃度だが、この基準を

決める際、ストロンチウムについても考慮してある。Sr90がCs137の5分

の1、Sr89が15分の1存在することが前提なのだ。参照してるのは、環境

省のpdfファイル、「水浴場の放射性物質に関する指針について」(平成24

年6月8日)だ。

    

では、その基準に基づく海水浴場に1回行くと、どれだけの被曝になるの

か。例によって、外部被ばくと内部被ばくを分けて計算し、足し合わせる。

ファイルでは安全のために、7月と8月の毎日(62日間)5時間泳ぐ極端

な利用者を想定して、総計15.9μSv(マイクロシーベルト)と計算してあ

るが、少なくとも今年の福島でそんなに泳ぐことはあり得ないし、1回当た

りの計算の方が実用的だろう。万一、必要なら、62倍すればいいのだ。。

       

     

        ☆           ☆          ☆

最初に、身体の外側から放射線を浴びる外部被曝について。水浴場でな

くても浴びる、空間線量については、省くことにする。ちなみに、今年開い

た水浴場の湖岸・海岸の空間線量は、どこも十分に低い数値で、地表(地

上1cm)でさえ、0.1μSv/h以下となってる(7月後半の調査日)。開く

前の6月の調査でも、最高で0.13μSv/hだった。

    

空間線量を省いて何を計算するかと言うと、海の水から浴びる「水中線量」

だ。非常に多めに、1日当たり5時間泳ぐと想定。計算式は、要するにベク

レルからシーベルトへの換算だが、接触する水からの被曝だから、普通の

式とは少しだけ違ってる。係数は、普通の実効線量係数ではないので、念

のため。

          

  実効線量(Sv)=水の汚染密度(Bq/L)

             ×実効線量換算係数(Sv/(Bq・s/L))×時間(s)

      

係数の値は、Cs134が2.0×(10の-13乗)。Cs137が7.2×(10の

-14乗)。Sr89が5.3×(10の-16乗)、Sr90が1.1×(10の-16乗)。

年齢による違いは書いてなかった。

     

では実際に、Cs134で計算してみる。セシウムの合計濃度10Bq/Lの内、

Cs134は4割で、4Bq/Lと想定(Cs137が残りの6Bq/Lということ)。

5時間は5×3600秒だから、

   

  実効線量=4×2.0×(10の-13乗)×5×3600

        =144×(10の-10乗)  (Sv)

        =144×(10の-4乗)  (μSv)

        =0.0144(μSv)

     

これを62倍すると、pdfファイルの試算(子ども)とほぼ同じ値になるが、な

ぜか少し違ってる。他の場合の計算でも同様の誤差が生じてしまい、理由

が分からないが、いずれにせよ非常に小さい被曝量になるのだ。おそらく、

何か専門的な前提条件を明記してないからか(年齢設定など)、端数の処理

(四捨五入など)によるものだと思う。ちなみに過去、このような誤差に直面

したことは一度もない。

       

他に、Cs137がほぼ同等、Sr89とSr90は遥かに少ない値になる。要す

るに、たとえ毎日泳いだとしても、水からの外部被曝は気にしなくてよいの

だ。もちろん、気にするのも自由ではあるが。。

   

    

         ☆          ☆          ☆

一方、内部被曝については、口から飲んでしまった水と、傷口からの侵入

を考える。口から飲んだ場合(おそらく鼻から飲む場合も含む)、1日1L

の「経口摂取率」(L/d)で、期間は1日(d)として

   

   実効線量(Sv)=1(L/d)×濃度(Bq/L)

               ×実効線量換算係数(Sv/Bq)×1(d)

           

係数の値は、Cs134が1.9×(10の-8乗)、Cs137が1.3×(10の

-8乗)、Sr89が5.8×(10の-9乗)、Sr90が6.0×(10の-8乗)。

これまた年齢が書いてないが、ファイルの試算では、10歳以上の値のうち、

安全側(大きい値)を使用したらしい。

     

Cs134について計算すると、

        

   実効線量=1×4×1.9×(10の-8乗)×1  (Sv)

         =0.076 (μSv)

     

外部被曝の約5倍だが、同じく僅かな値であって、Cs137でも同様。Srの場

合は、かなり倍率が上がるものの、元の外部被曝の値が非常に小さいから、

結局は大した被曝量にならない。

     

   

           ☆          ☆          ☆

最後に、傷口から取り込んだ放射能による内部被ばくについて(経皮摂取

の特殊例)。1回のケガで取り込まれる量を0.011g=0.000011kg、

1日に1回のケガとして、

   

   実効線量(Sv)=0.000011(kg/回)×濃度(Bq/kg)

               ×係数(Sv/Bq)×1(回)

    

係数は、Cs134が1.93×(10の-8乗)、Cs137が1.35×(10の-

8乗)、Sr89が3.1×(10の-9乗)、Sr90が8.8×(10の-8乗)。年

齢については、上の経口摂取の時と同様。

        

Cs134について計算してみると、

             

   実効線量=0.000011×4×1.93×(10の-8乗)×1

         =0.00008492×(10の-8乗)  (Sv)

         =0.0000008492  (μSv)

     

これはほとんどゼロと言っていい。他の放射性核種についても同様で、貝

殻で切った傷など、気にしなくていいのだ。そもそも、セシウムの合計濃度

を基準値10Bqとして計算してるが、実際には水の表層でも下層でも不検

出(ND)、つまり検出限界の約1Bq/Lを下回ってるのだから。。

       

    

          ☆          ☆          ☆

という訳で、今年の福島の海水浴場については既に時期遅れとなってしまっ

たが、湖水浴場ならまだやってるだろうし、他の地域(特に福島周辺)の水

浴場でも参考になるだろう。以前と同様、大勢の人達の歓声や水しぶきの

音が響き渡る状態になることを、心から願ってる。関東の人間として、また、

日本人として。

   

それでは、今日はこの辺で。。☆彡

   

   

    

cf.原発から各地までの距離と、放射線の年間総量(by文科省データ)

  放射線(放射能)の危険性と距離~2つの逆二乗法則(情報源明示)

  シーベルト、グレイ、ベクレル~放射線・放射能の単位について

  雨の長距離ランニングで浴びた放射性物質の計算(by定時降下物データ)

  原発事故評価レベル7と、セシウムのヨウ素換算値の計算(by INES)

  福島原発レベル7の基準を読む~INES(国際原子力・放射線事象評価尺度)

  なぜセシウムのヨウ素換算値は40倍か~放射性物質の計算理論(by INES)

  実効線量、等価線量、線量当量~様々なシーベルトの関係

  各地の放射線量、文科省データと「本当」のデータの比較

  ランニングの呼吸で内部被曝した放射線量の計算

 被曝する年間放射線量すべての計算方法(自然・医療、外部・内部、屋外・屋内)

 セシウム牛肉、食後1年間での内部被曝線量の計算方法(定積分&実効半減期)

  放射性物質の半減期、壊変定数、質量(重さ)~微分方程式の初歩など

  外部被曝におけるベクレルとシーベルトの計算式(by IAEA)

  ラジウム温泉の放射線について~低線量被曝の影響

  福島のスギ花粉の放射能による内部被曝の計算式(by林野庁)

  朝日の甲状腺被曝87ミリシーベルト報道の意味~実効線量と等価線量

  WHO(世界保健機関)による被曝線量の推計(全国、年代・経路別)

  確率的影響と確定的影響~放射線被曝の二分法の再考

  文科省が10都県で確認、ストロンチウム(Sr)90の実効線量係数など

  福島第一原発の汚染水、現状の定量的なまとめ(13年・夏)

                

                                 (計 4243文字)

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