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有界閉集合・触点・閉包の定義、証明、閉区間との関係

しばらく前から、解析学における「点列コンパクト」や「コンパクト」という概念

について記事を書こうとしてるが、どうもしっくり来ない。特にコンパクトの方

は、トポロジー(位相幾何学)の分野で、3年半前から先延ばしにしてる「ポ

アンカレ予想」とも関連する概念なのだが、なぜこうした分かりにくい概念を

解析の最初の辺りで提示するのか、理由がいま一つ納得できないのだ(杉

浦光夫『解析入門Ⅰ』、東京大学出版会)。

      

1次元、2次元、3次元など、実数をいくつか組み合わせた普通の点の集合

(Rⁿ の部分集合)においてなら、「点列コンパクト」と「コンパクト」は、「有界

閉集合」という概念と同じだし、こちらは高校以来お馴染みの簡単な「閉区

間」ともわりと近い概念と言えよう。だから、とりあえず今回は、有界閉集合

で記事を書いておこう。

    

ちなみに、3つの概念はいずれも最大値・最小値と深く関わる概念だが、

『現代数学小辞典』(講談社)でも『微積分ハンドブック』(聖文社)でも、遥

かに簡単な閉区間という言葉で基本定理を書いてるのだ。『小辞典』から

引用するなら、次の通り。

  

    「閉区間 [a,b] で定義された実数値関数 f(x)は [a,b]のある点

     pで最大値 f(p)をとり、ある点qで最小値 f(q)をとる。」

          (p.198。原文はp、qでなく、ξ(クシー)とη(エータ) )

         

     

        ☆          ☆          ☆

ではまず、高校数学の教科書を見てみよう。使うのは、平成7年度(95年)

用の『高等学校 標準 数学Ⅱ』(啓林館)。来年(平成25年=2013年)の

高校2年生から実質的に数Ⅱ・新過程の開始だが、数Ⅱの変更は僅かだ

から、以下の点については変わらないと思う。

                  

ともあれ、上の教科書「第4章 微分法」の「3節 関数の値の増加・減少」で

は、最後に x の範囲について、次のように簡単に書かれてる(p.120)。

     

   「・・・ x の値の範囲を、区間と言う。

   0 < x < 6 のような区間を開区間といい、(0,6) で表す。

   0 ≦ x ≦ 6 のような区間を閉区間といい、[0,6] で表す。

   また、x < 2 や x ≧ 3 のような x の値の範囲も区間と考える。」

     

端点(区間の両端)をいずれも含む閉区間(closed interval)の場合、2

次関数、3次関数など、連続な関数には必ず最大値・最小値が存在する。

こうした話は、学問的にはできるだけ一般的に証明すべき事だが、高校で

は求め方だけ学ぶし、現在の大学でも求め方が重視されてるだろう。今回

のこの記事でも、証明は行わない。

      

なお、現在の数Ⅱの参考書を見ると、区間のみ、区間&閉区間のみ、区間

&閉区間&開区間すべてと、本によって用語説明に差があった。閉区間と

いう言葉を使わない場合は、「区間の端っこの点が入る場合は、その点で

の関数の値を求めておく」、などと説明するのだろう。。

       

    

         ☆          ☆          ☆

一方、ハイレベルな『解析入門Ⅰ』の説明を読むと(p.20)、上の区間は

新たな定義によって次のように言い換えられることになる。

  

   0 < x < 6  有界開区間

   0 ≦ x ≦ 6  有界閉区間

   x < 2     無限開区間

   x ≧ 3     無限閉区間

    

ここで「有界」(bounded)とは、漢字に着目して説明するなら、「ある特定

の値(有限確定値)による限界が有る」という意味を表してる。実数値連続

関数の最大値・最小値が共に「必ず存在」するのは、0 ≦ x ≦ 6 のような

有界閉区間である(そうでなくても最大・最小が存在することもある)。

         

ここまでは1次元(単なる実数)の範囲の話だが、2次元の有界閉区間な

ら、例えば { (x,y)|0 ≦ x ≦ 1, 2 ≦ y ≦ 3 }であって、x y 平面に

描くと、軸と平行な辺からなる長方形になる。3次元以上、一般に n 次元

数空間 Rⁿ の場合も、全く同様だ。

             

   

         ☆          ☆          ☆

しかし最大値・最小値を求める問題は、高校数学でさえ、有界閉区間でな

い様々な範囲を考えてる。例えば、単位円 x²+y² = 1 上の点に対して、

2変数実数値関数x+y の最大・最小を求める問題は教科書レベルであっ

て、それぞれ √2 と -√2 となる。あるいは、折れ線や曲線で囲まれた

「領域」内の点(x,y)に対して、最大・最小を考えるのも基本的な問題だ。

   

それらの範囲は、有界閉区間そのものではないが、範囲の「端」を除いて

ないという意味では、少し似た感じもある。その共通性を一般的かつ正確

に表現した概念が、有界閉集合(closed bounded set)なのだ。

     

これを定義するには、まず「開球」(open ball)から始める必要がある。文

字通り、「端が開いた球」(表面を含まない)という意味で、球とは3次元を

イメージしがちな言葉だが、2次元の球なら境界の円を含まない円盤(内側

のみ)で、例えば x²+y² < 1 など。1次元なら両端を含まない線分で、例え

ば -2 < x < 4などだ。一般に、点 a を中心とする半径 r の開球は次の

ように書ける。

   

   U(a,r)={ x ∊ Rⁿ | | x-a | < r }

     

ちなみに、開区間 -2 < x < 4 も開球の1つであって、上の形で書くなら、

    U(1,3)={ x ∊ R | |x-1|<3 }

  

また、特に半径がε(非常に小さい正の数のイメージ)の場合、中心 a の

開球は、「a のε近傍」とも呼ばれる。

       

    

         ☆          ☆          ☆

ではいよいよ、「有界閉集合」の定義に向かおう。まずは、「閉集合」から。

Rⁿ の部分集合Aに対して、自らを中心とする任意の開球(またはε近傍)

がAと交わるような Rⁿ の点 を、Aの「触点」(=接触点)と言う。要するに、

Aと接触するくらい近い点という意味だ。英語は adherent point (直訳

するなら、付着点)。

    

そして、Aの触点全体の集合を、Aの閉包(closure)と呼ぶ。記号は、A

の上側に横棒(バー)を付けたものだが、システムの制約上、ここではそ

のまま「Aの閉包」と書くことにする。

   

例えば、元の集合が1次元の開区間 0 < x < 1 の場合、この区間内の

120809a

 点が触点なのは

 「明らかな感じが

 する」し、ギリギ

 リ区間から外れ

た端点x=0 と x=1 が触点なのも、同様だろう。逆に、x=-1 だと、半

径0.5の開球を考えた時、元の区間と交わらないから、触点ではない。し

たがって、この場合の触点全体の集合、つまり閉包は、0 ≦ x ≦ 1 であっ

て、元の集合(開区間)より僅かに広がってる(端点x=0、x=1の分だけ)。

    

それに対して、元の集合が閉区間 0 ≦ x ≦ 1 なら、上と同様の議論で

閉包はやはり 0 ≦ x ≦ 1 だから、「元の集合とその閉包とが一致」する。

これが、閉集合の定義である。と言っても、『小辞典』では少し違う定義な

のだが、ここでは『解析入門Ⅰ』に従っておこう。論者や本、あるいは文脈

によって、同じ言葉の定義が異なるのは、数学でさえ珍しくないことだ。

   

一方、有界の簡単な定義は、原点中心で、ある有限の半径をもつ開球に

含まれること。例えば、閉区間 0 ≦ x ≦ 1 なら、開球U(0,2)に含まれ

るから有界。また、端を除く円盤 (x-3)²+(y-4)² < 25 なら、開球

U(0,11)に含まれるから有界となる。

   

そしてもちろん、有界な閉集合が、有界閉集合である。結局、有界閉区間

はすべて有界閉集合だし、範囲の「端」を除いてない図形(円、球面、多角

形の面と内部、立体の側面と内部など)はすべて有界閉集合となる。実際

それらは、領域内の点に対する最大値・最小値を求める問題で使われて

るわけだ。。

       

     

          ☆          ☆          ☆

最後に、簡単な2次元の例(有界閉区間)について、有界閉集合であるこ

との証明を示しておこう。『解析入門Ⅰ』の場合、具体例の証明は(いくら

か)省略されてることが多いし、そもそも「点列コンパクト」という一応別の

概念を用いて説明してることが多い。それに対してここでは、有界閉集合

の定義にしたがって証明してみる。

    

  ☆2次元数空間 R² の集合A={(x,y) |0 ≦ x ≦ 1,2 ≦ y ≦ 3 }

   が有界閉集合であることの証明

    

   まず、有界であることを示す。Aにおける x²+y² の最大値は10である

   (x=1,y=3)。よって集合 A は、開球U(0,4)、つまり x²+y² < 16

   に含まれる。したがってAは有界である。

    

120809b

  次に、閉集合であることを示

  す。そのためには、Aの閉包

  を求めて、それがAと一致す

  ることを示せばよい。

      

  Aに含まれる点を中心とする

  任意の開球は、その中心を

  当然含むから、Aと交わることに

  なる。つまり、Aの内部の点はA

  の触点である。

    

   一方、Aに含まれない点 b の座標を(p,q)とすると、p<0 または p>1

   または q<2 または q>3 が成り立つ。いま仮に、p<0としてみよう。

   点 b 中心、半径-q/2の開球U(b,-q/2)を表す式は

      (x-p)²+(y-q)² < q²/4

  

   変形すると p-√{(q²/4)-(y-q)²}<x<p+√{(q²/4)-(y-q)²}

   ここで、√(ルート)の値は、y=qの時に最大値-q/2を取る。

   よって、開球の点について、x<p+(-q/2)  ∴ x < q/2

      仮定より q<0 だから、x<0。それゆえ、この開球は、0 ≦ x ≦ 1 を

   みたす集合Aとは交わらない。したがって、点 b はAの触点ではない。

    

   p>1、q<2、q>3の場合も同様に、Aの触点ではない。結局、Aに

   含まれない点は、Aの触点ではない。

   

   よって、Aの触点はAに含まれる点全体のみだから、Aの閉包はAと

   一致する。したがって、Aは閉集合である。 

   以上より、Aは有界な閉集合だから、有界閉集合である。

                              (Q.E.D. 証明終了)

    

    

ちなみにイメージ的には、閉じてるなら限界があるだろう、ということで、

「閉集合なら有界」のような気がしてしまう。もしそうなら、わざわざ「有界

閉集合」と言う必要もないだろう。しかしそれは、誤りである。というのも、

Rⁿ 全体も閉集合だが、有界ではないからだ。したがって、「有界閉集合」

を省略して「閉集合」と言うわけにはいかない。少なくとも、定義を変更し

ない限りは。

         

なお、次回は「開」集合(open set)か点列コンパクト(sequentially

compact)か、どちらかを扱いたいと思ってる。

それでは、今日はこの辺で。。☆彡

               

                                (計 4048文字)

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コメント

とてもわかりやすいです!理解できました!ありがとうございます!

投稿: 某Fラン大学生 | 2014年1月22日 (水) 23時02分

> 某Fラン大学生 さん
      
はじめまして。コメントどうもです。
「Fラン大学」という言葉は初耳でしたが、
この記事がよく分かるくらいだから、
十分優秀な学生さんでしょう♪
今後も頑張ってください

投稿: テンメイ | 2014年1月23日 (木) 20時00分

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