「ダンス・ミュージック」とは~現代的な言葉の意味と歴史
まずはツカミの軽いコネタとして、写真を1枚載せとこう。バブル期に、「ドレ
スコード」(黒服店員によ
る服装チェックの基準)や
「お立ち台」で一世風靡し
たMAHARAJA(マハラ
ジャ)のウチワだ♪ 夏の
朝、トレーニングを終えた
後、歩いてクールダウンし
てたら、たまたま赤い郵便
ポストの上に置かれてたか
ら、拾ってパタパタあおいだ
わけ。調べてみると、97年
に有名な麻布十番店が閉店した後、03年に六本木で復活して05年にまた
閉店。その後、再び「マハラジャ六本木」として復活してるらしい。いまや耳に
することが少なくなった「ディスコ」というものが、意外にしぶとく生き残ってる
のは一応知ってたけど、マハラジャの再復活は知らなかった。
ちなみに、今現在「クラブ」と呼ばれてる店舗の一部は、実質的には以前の
ディスコに近いと思われる。風営法(=風俗営業法)の強化で、「ディスコ」
(ダンスする店)を名乗ると、風俗営業店として0時閉店になってしまうから、
単なる飲食店を装って0時過ぎにも営業するため、「クラブ」を名乗るわけだ。
でも、警察がどう見るかは別問題で、0時過ぎに営業してるクラブが風営法
違反で摘発されたりしてる。厳しい取り締まりの背景には、売買春やドラッ
グ取引の問題があるようだ。
他の有名ディスコを調べてみると、ジュリアナ東京(JULIANA’S TOKYO)
は91年~94年(僅か3年・・)。それに代わる形で94年末に登場したヴェル
ファーレ(velfarre)は、07年に閉店。11年には跡地のビルに、ニコニコ動
画のイベント施設「ニコファーレ」がオープンしたが、ディスコやクラブに特化
したものではない。
現存する大規模なものとしては、東京・新木場のイベントスペース「STUDIO
COAST」で週末に開催されるクラブイベント「ageHa」(あげは)が代表の
ようだ。2400人収容だから、1500人だったヴェルファーレの1.6倍もの
規模になる。と言っても、海外だと桁違いで、1万人のホールや、20万人レ
ベルの野外フェスまであるようだ。。(「美青年」、興奮気味に語る・・・笑)。
☆ ☆ ☆
ディスコやクラブの話から入ったのは、今現在、「ダンス・ミュージック」につ
いて語る時、そういった店や風俗を抜きにすることは出来ないからだ。
もちろん、ダンス・ミュージックとは、ダンスするための音楽を表す普通の言
葉(元は普通の英語、dance music)だから、もっと遡って、ワルツ、タン
ゴ、スウィング・ジャズ、ロックンロールなどを考慮してもいいし、『東京音頭』
だって立派な「japanese dance music」だろう♪ 世界レベルだと、80
年前後のディスコでは、ABBAのヒット曲、『ダンシング・クイーン』(76年)が
人気だったと聞いた覚えもある。この夏、NHKのFMラジオで半日にわたっ
て放送されたらしい『今日は一日 ダンスミュージック三昧』のプレイリストに
は、色んなジャンルの大ヒット曲がズラッと並んでて興味深い。
ただ、おそらく80年代後半くらいから、ダンス・ミュージックという言葉が特
別な意味を持ち始めたようだ。日本語のウィキペディアを見ると、「テクノ
(ダンスミュージック)」という項目があって、これがどうも、「ダンスミュージッ
ク」という言葉の現代的な意味に近いと思う。
実際、先日の「美青年のラジオ」(笑)で、クロス・テーマの「ダンスミュージッ
ク」について説明した内容は、ほぼウィキの「テクノ」に相当する。台本を書
いたのが、放送作家かディレクターか、音楽評論家か分からないけど、番
組的には、ダンスミュージックというものを、そう見てたのだ。。
☆ ☆ ☆
しかし、「テクノ」と言われて、あぁ、あれねと、分かった気になることも出来な
い。と言うのも、元々これは単に、テクノロジー(technology: 技術、特に科
学技術)を指す言葉の前半であって、日本でも海外でも、「テクノ」という言葉
は意味が広いし、考え方も統一されてないからだ。
私が、英語版ウィキも含めて色々調べた中で、一番しっくり来る簡単な説明
&分類は、三省堂『大辞林』の「テクノ」の項目にある意味だ。1番目の意味
は当然、「科学技術の」、「技術の」。2番目の意味は、「テクノポップ」。3番目
が、テクノポップをさらに無機的にしたダンスミュージックで、80年代後半以
降、「ハウス・ミュージック」の流れから派生したもの。
要するに、この3番目の意味が、テクノ=ダンスミュージックだ。それに対し
て2番目が、普通の日本人が思い描きそうなテクノで、ここには坂本龍一で
お馴染みのYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)や、テクノポップの世界
的元祖とも言うべき、ドイツのKraftwerk(クラフトワーク)も含まれる。シンセ
サイザー(電子音を作る装置)やシーケンサー(自動演奏する装置)を使った、
ピコピコと無機的な音楽の類だ。器械自体も、またそれを操る人間の技も、
テクノという名にふさわしいだろう。。
☆ ☆ ☆
ここまで簡単にまとめて整理し直すと、次のようになる。ディスコやクラブと
いった、ダンス関連の若者文化の中、「テクノポップ」を無機的にした「ハウ
ス・ミュージック」が80年代半ばに登場。その流れを受けた今の音楽が「テ
クノ」、いわゆる「ダンスミュージック」だ。
テクノポップ → ハウス・ミュージック → テクノ=ダンスミュージック
ちなみに、日本版ウィキは、テクノポップとテクノの関連を認めたくないよう
だが、私は明らかだと思うし、『大辞林』もそうなってる。実際、テクノポップ
の代表的な曲の一つ、ドイツのKraftwerk(クラフトワーク)の『tour de
france』(ツール・ド・フランス,83年6月)は、既にかなり「ハウス」に近い
要素を備えてる。電子音、無機的な旋律、短い単位の反復、アップテンポ。
後は、ドラムマシンでビートを強調、踊りやすく、陶酔しやすくアレンジすれ
ばいい。そのままでも、DJの技によっては、今のクラブで通じると思う。
ただし、テクノポップとハウスを単純に1対1で結びつけるのはかなり粗雑な
話であって、テクノポップの前史(電子音楽、ミニマル・ミュージックなど)も
あるし、ニューウェーブや前衛的音楽(トーキング・ヘッズ『リメイン・イン・ラ
イト』など)も考慮すべきだろう。あるいは、普通のポピュラー・ソングも含め
た、ダンス用12インチシングル・ヴァージョン(Remix)も注目すべき点の一
つだし、同時期から世界的に普及したHIP-HOP(ヒップホップ)も忘れるこ
とが出来ない(ブレイクダンスなども含めて)。
まあでも、ここでは差し当たり、上の図式を提示するに留める。となると、
残るのは、「ハウス・ミュージック」というものの存在だ。これがまた、微妙
な内容を含んでるのだ。。
☆ ☆ ☆
「ハウス」とは、今の日本語で言うと「クラブ」、つまりディスコのこと。1977
年から83年までシカゴに存在したディスコ、「ウェアハウス」(Warehouse)
に、人気DJのフランキー・ナックルズ(Frankie Knuckles)がいて、独特
の技で音楽を流してたらしい。
その音楽が、周囲から「ハウス・ミュージック」と呼ばれるようになったんだ
けど、音楽そのものは、その後のハウス・ミュージックとはちょっと違って
たようだ。それが、シカゴからデトロイトその他に広がる中で、80年代の
半ば以降に、今のようなハウスとして確立して行った。つまり、電子音、無
機的で抑揚の少ない機械的な旋律、短い単位の反復、アップテンポ、ドラ
ムマシンによるビートの強調、などを特徴とする楽曲が成立したのだ。
試しに、ハウス初期を代表する1人、DJ・Ron Hardy(ロン・ハーディー)の
83年12月のプレイをYouTubeで聴いてみると、ドイツのGeorge Kranz
(ジョージ・クランツ)の大ヒット曲「Din Daa Daa」(ディン・ダ・ダ)が流れて
る(84年1月に全米1位、その後も影響力をキープ)。やはり、米国のシカゴ
でハウスが成立して欧州に広がったとかいう通説は、ちょっと注意が必要だ
ろう。またいずれ、自分でじっくり実証的に調べてみたい。
☆ ☆ ☆
で、結局、今の「ダンスミュージック」ってどんな曲?、と思った方は、美青
年がジムに流れるのを聴いて気に入った曲のPV(プロモーション・ビデオ)
を、Youtubeで見ればいい。LMFAOの『Party Rock Anthem』。再生
回数、なんと5億回近く☆ 最初の1分半は前置き映像だから、飛ばしても
いいだろう(コラコラ・・)。
10秒弱の単調なビートの反復に乗って、フツーの若者たち(を装ったプロ)
が激しく身体を「振動」させてる。電子的で機械的な大音量のビートに、身体
が自然とシンクロナイズしてるわけて、その感覚は個人的にもよく分かる。
このシンクロを「振動」と呼んだのは、いわゆるダンス=踊りとはちょっと違う
からで、おそらく2つの条件から発生したものだろう。まず、ダンスの特別な
訓練を受けてないこと。もう一つは、ディスコやクラブの狭さと暗さだ。
訓練されたダンスを周囲に見せるのではなく、素人が自分で、あるいは仲間
内で激しく音楽にノる。共振する。世界レベルでそれにピッタシだったのが、
いわゆるダンス・ミュージックということだ。日本独自の流行(ユーロビートや
パラパラなど)はまた別扱いとして。。
☆ ☆ ☆
ちなみに、「美青年のラジオ」でもう一つかかった曲は、MARTIN SOLVEIG
の『THE NIGHT OUT (A TRACK MIX)』。これも公式PVがYoutube
にあるから、参考までにリンクを付けとこう。こっちは少しだけメロディアスな曲
になってる。再生回数は400万回強だ。
美青年の新アルバム『エロ』だと、6曲目『Hit the Wall』や7曲目『BABY
BABY』、10曲目『Turn Off The Lights』が、ダンスミュージックっぽい
作りになってる。
ところで、実は今、フジテレビのドラマ『リッチマン』最終回を見ながら書いてる
わけだが、21時スタートの放送が24分ほど経った頃、主人公が再出発に向
けて気合を入れる所で、ダンスミュージックっぽい音楽が長めに流されてた。
ダンスミュージックは「明日への活力」だとまとめた美青年の「方程式」にピッ
タシの例だろう。
なお、私個人は、ダンス・ミュージックという言葉は遥かに広く、ダンス音楽全
体を示すものだと考えてる。美青年も言ってたように、昔から人間は踊ってた
わけで、長い歴史を見渡せば、テクノはここ30年ほどの流行なのだ。「トラン
ス」で陶酔するのもいいし、『スケーターズ・ワルツ』で優雅に舞うイメージを描
くのもいい♪ いや、小学校の昼休憩に音楽委員としてよく流してたのだ(担
任の先生のリクエスト)。
それでは、今日はこの辺で。。☆彡
(計 4445文字)
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