ワンダーウォールとライブドア~『リッチマン、プアウーマン』第9話
今夜は時間も無いし、雷が鳴り始めたので、ドラマレビューと言うより、つぶ
やき的な感想を書いておしまいにしよう。微妙な視聴率で何とか踏み止まっ
てる夏ドラマ、フジ月9の『リッチマン、プアウーマン』を初めて見た。個人的
には、色んな意味でそれなりに楽しめるドラマだった。
この夏は、ロンドン五輪と自転車レースに追われたこともあって、ドラマはい
まだに『GTO』を1回見ただけ。別に見たくないわけでもなかったし、レース
も満足できる結果で終わったから、ホッと一息。何か見たいなと思った時に、
やっぱりすぐ目が行くのは月9だ。最低限のレベルは期待できるし、月曜21
時っていう時間帯が個人的にちょうどいいのだ。ま、週初めの仕事が長引
いて、今日も4分遅れにはなったけど。。(^^ゞ
流石に、実業界関連のドラマの第9話をいきなり見るのはキツイから、あら
かじめ公式HPであらすじを全てチェック。結構、面白いし、脚本家の安達奈
緒子も若手(?)と言うか、経験が浅いわりには頑張ってる印象だ。脚本家
教室の第68期生で、10年前の第15回フジテレビ・ヤングシナリオ大賞受
賞者。去年冬の『大切なことはすべて君が教えてくれた』を1人で書いた実
績がある(平均視聴率11.4%)。
☆ ☆ ☆
さて、あらすじを読んですぐ思い出したのは、06年のライブドア事件と10年
春の月9、『月の恋人』。どちらも、実力ある若手の企業トップが転落する物
語だ。虚構のテレビドラマである後者では、キムタク=木村拓哉はハッピー
エンドに近い形になる。一方、前者の事件の中心人物、ホリエモン=堀江貴
文は、実刑判決が確定して去年から服役中だが、いまだにかなりの人気と
実力を保ってるようだ。出所後もますます精力的に活動しそうな気配がある。
まず、普通のドラマとして『リッチマン』を見た時、やっぱり月9だなと思った。
ハッキリ違うのは、あらすじ(=大まかな物語)以外のドラマ作り。脚本でも、
ちょっとした会話の構成が巧みだ。例えば終盤、「お前が信用できる人間か
どうかなんてどうでもいい」と、一瞬アレッと思わせて、すぐ「僕がお前を信じ
る」と決める部分など。
また、撮影用のセット(2つの会社、会議、大会など)や映像が上手い。金と
手間ひまがかかってる気もする。例えば、朝比奈耀子(相武紗季)に教えら
れて、朝比奈(井浦新)と夏井真琴(石原さとみ)が会ってる所を見た直後の
主人公・日向(小栗旬)の撮り方。「ミーン、ミーン」というセミの鳴き声を大き
な効果音として使うと共に、日向を真下から映すことで、眩しい夏空と日陰
で暗くなった日向の表情の対比がキレイに出来上がる。
こうした完全に狙って決めたカットは、テレビドラマだと意外に少ないもの。
映画の名作なら、例えばオーソン・ウェルズの処女作『市民ケーン』を見る
だけで、無数に散りばめられてるのだ。
今回担当の演出家・西浦正記は、『大切なことは』も半分担当してたが、私
にとっては山P『ブザー・ビート』や『コード・ブルー2』が思い出される所。あ
の時は、西浦の落ち着きのない映像がかなり気になったもんだが、今回の
『リッチマン』を見た限りでは、特に問題は無かった。撮り方を変えたのか、
変わったのか、あるいは、たまたまなのか。
☆ ☆ ☆
キムタク『月の恋人』との関連で言うと、登場人物の設定で、「主人公のライ
バル」と「ヒロインの恋敵」の間に深いつながりがある点が同じだ。『月恋』
ならリン・チーリンと松田翔太、『リッチマン』なら耀子と朝比奈。あと、『月
恋』の満月は、『リッチマン』では半月の形で使われてる。オマージュ(敬意
を込めた模倣)とか引用としては、シャープで面白いアレンジだろう。
ドラマ終盤で会社を追われて沈滞した後、ヒロインの手助けのもとで、個人
的才能を発揮して立ち直る点もまったく同じ。もちろん、どちらのドラマでも、
あくまで主人公は男。ヒロインの女性はサポート役で存在感を示す。『ブザ
ビ』は途中まで男女対等だったのに、最後はいきなり女が夢を投げ捨てる
形で男のサポート役に回ったから、私は批判した。流れが台無しだから。
話を『リッチマン』に戻そう。ラストの朝比奈の逮捕が、これまで見て来た視
聴者にどう映るのか分からないけど、今回初めて見た私には、お約束の転
落だから当然に感じた。フジテレビという会社がかつての宿敵・ホリエモン
を描いてると言うより、フジのドラマ制作部で社会的関心が高いんだろう。
私は見てないけど、前クールに評判だった『リーガル・ハイ』でも、終盤になっ
て原発を否定的に扱ったらしい。フジ・サンケイ・グループの産経新聞社が
全面的な原発推進派であることを考えると、ドラマの突出ぶりが際立ってる
ように感じる。
他にも、壁にやたらダサイ紙を貼りまくる点(日向にくっつく真琴の象徴表
現)とか、プレゼンテーションの映像にわざと組み込んでた「YAMAOKA」
(山岡、正しくは安岡=浅利陽介)という間違いとか、月9らしい技だなと思っ
た。初めて見た、脇役のことなんて知らない私でさえ、微笑ましかったほど。
元の会社・NEXT INNOVATIONの目立つ女子社員は、Cancamモデル
の舞川あいくだったのか。。
☆ ☆ ☆
・・・なんて話を色々書いてたら寝れないので、そろそろ本題に移ろう。今回
の終盤、部下が3人、朝比奈のもとから日向のもとに移って来て、真琴も合
わせて5人終結。
さて、新しい会社名をどうするかとなった時、日向は「ワンダーウォール」を
提案した。録画してないから正確なつづりは分からないけど、「Wonderwall」
と書いとこう。ワンダーランドなら不思議の国だから、ワンダーウォールなら
「不思議の壁」だ。より正確に書くなら、「不思議=驚きの壁」。
「ライブドア(livedoor)」と似た複合語だなというのは、誰でも思うことだろう。
でも、「オン・ザ・エッヂ」との関係まで思い出した視聴者は少ないと思う。若
きホリエモンが仲間と共に最初に創ったホームページ制作会社が、「オン・
ザ・エッヂ」。ここが、破綻した無料プロバイダー会社「ライブドア」の名前を
譲り受けて、新たに「ライブドア」を名乗ることになった。
元々の初代ライブドアと、ホリエモンで有名になった「いわゆるライブドア」
(旧ライブドアという言い方だと紛らわしい)は、本来はまったく別の会社で
あって、いわゆるライブドアの元の名前は「オン・ザ・エッヂ」なのだ。
この社名、英語だと「on the edge」で、直訳するなら「端っこの上で」と
なるが、普通に訳すなら「ギリギリの状況で」となるだろう。そこに、「いらい
らして」という、堀江のキャラを示す意味も込めたのかも知れないし、日本
語で「エッジが効いてる」とか言う時の、「鋭さ」とか「際立った性格」も含め
てるのかも知れない。。
☆ ☆ ☆
ただ、「オン・ザ・エッジ」の元々の意味は、「端っこの上」。これは、部屋の
真ん中に「壁(ウォール)」を1枚立てた状態を考えれば分かりやすい。まさ
に、その壁は、「端っこ」(下側の狭い部分)の上でギリギリ立ってることに
なる。つまり、エッジの上に立つのが、ウォールなのだ。
一方、日向たちが目指すのは、古い壁の向こうにある面白い事を目指すこ
とだし、真琴には日向の心の壁を壊すという役割もある。ここで面白い事に
気付く。壁を壊すとは、「ドア」を作ることなのだ。「ライブ(生=なま)」で未知
なる世界とつながる、「生き生きしたドア」。すなわち、「ライブドア」。
つまり、「ワンダーウォール」とは、「オン・ザ・エッヂ」(端っこの上)に立つ
「不思議の壁」であって、それを創造的に破壊すれば「ライブドア」(生き生
きしたゲート)になるのだ。もちろん、壁=ウォールは、壊す代わりによじ登っ
て越えてもいい。苦労した末にようやく見る新たな世界は、ライブ感あふれ
るものだろう。
こう考えて来ると、このドラマで「インターフェース」という言葉が重視されて
たことも理解できるはずだ。より優れたインターフェース(境界にある接続
システム)とは、「改良されたライブドア」なんだから。。
☆ ☆ ☆
私がこのドラマを見て、脚本家の頑張りを感じるのは、そういった関連が見
えて来るからなのだ。もちろん、脚本家や制作サイドの「本心」など、大して
問題ではない。彼らが何を狙ってるかという意図など、視聴者にとっては単
なる一つの要素。そもそも、ドラマ自体が優れたライブドアであって、視聴者
が自分で乗り越え、新たな世界や経験とつながればいいわけだから。クリエ
イティヴ=創造的とは、そういう能動的で生産的な営みを指す言葉だろう。
このドラマで今後、ワンダーウォール(不思議の壁)がどう扱われるのか、
ちょっと気になるから、もう1回くらい見るかも知れない。全11回の予定ら
しいから、残りはあと2回だ。朝比奈と日向、2人に分割して新たに描き出
す「デジタル世界のカリスマ」が最終的にどうなるのかも、興味ある所。ドラ
マにありがちな「何年後」とかいう展開で、再び2人が一緒に働くのも当然あ
り。ワンダーウォールでは、不思議&驚きが溢れてるのだ。
ちなみに、東京都の文化政策、「トーキョーワンダーウォール」では、毎月
都庁の壁に芸術作品を展示してるらしい。1つか2つ、実際に存在する会
社「WONDERWALL」(and/or Wonderwall)も、非常にクリエイティ
ブな会社のようだ。
案外、来週の第10話は、遊び感覚でW「a」nderwall が登場するのかも♪
このまま上手く行くはずはないから、一旦「さまよい歩く(wander)壁」が登
場するってことで。
結局、レビューに近くなっちゃったかも。それでは、今日はこの辺で。。☆彡
P.S. 第9話視聴率は初回に次ぐ13.7%。最近の月9としては、合格
点だろう。
(計 4000文字 ; 昨夜の日付け変更後の追記と合わせて、4212文字)
cf. 実生活優先、今夜も軽いつぶやき (ラン&『リッチマン』10話)
(☆追記込み、4057文字)
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コメント
テンメイさん、
知らないことばかりで・・・1本のドラマで、世界がこんなに拡がる~~♪
実感しています。いつも主人公になったりヒロインになったりと、ドラマの
中に入り混んでいる身としては驚いてしまいました。
>再び2人が一緒に働くのも当然あり。ワンダーウォールでは、不思議
&驚きが溢れてるのだ。
朝比奈さんの転落は予想されていたことだけど、ただ日向の上塗りをした
かっただけ・・なんて切なくて。朝比奈さんと日向さんが互いの消息を真琴
に聞きあうシーンに、胸が痛みます。誰よりも二人ともお互いがわかって
いるから・・・二人の関係や今後に注目してしまいます。
日向自身の心の傷は真琴が壁を取り払ったから、これ以上描かれない
のでしょうか・・・何を求めているのか^^と言われそうだけど気になります。
もう会社のことはテンメイさんの説明で納得してしまったみたいです。
ドラマもテンメイさんの感想もとても楽しみにしています。ありがとう
ございました。
投稿: orugann | 2012年9月 6日 (木) 22時25分
> orugann さん
こんばんは。度々どうもです。
書き始めは軽~いつぶやきのつもりだったのに、


いつの間にかレビューになってしまいました。
これは自分で書いてて面白かったですね♪
ドラマも楽しめたし、アクセスも多いし、
有難いコメントも頂けたし。いい事づくしって感じ。
そちらの記事が、キッカケの一つになりました
僕のドラマ記事の大きな特徴は、
登場人物の心理や人間関係、人間物語とは
違う方向で、話を広げたり深めたりすること。
特に、僕自身が驚くような内容を目指してるわけです。
書きながら、新たな見方を自分で創っていく。
ドラマだけでなく、社会の見方、人間一般の見方。
一口コメントではなく、まとまった文章で明確に。
普通の人(特に女性)は登場人物や俳優に目が行くし、
ウチの記事はそれほど一般ウケしないでしょうね。
ブログを始めて最初に受けた否定的なコメントは、
『野ブタ。をプロデュース』第8話。
名無しで、「あなた考えすぎだと思う」と一言。
ご参考までに♪
http://tenmei.cocolog-
nifty.com/matcha/2005/12/post_94bd.html
最近は書き方や対応も配慮してるし、ドラマレビューでは
あんまし難しくならないようにしてます。
その分、他の分野の記事で理屈をこねてるけど♪
朝比奈は、人間味があっていいですね☆
あっ、朝比奈「も」と言うべきか(笑)
日向の心の傷、第9話しか見てない僕にはさっぱり
分かりませんが、当然この後、描くんじゃないですか。
って言うか、描くべきだと思うけど、そうゆう
筋を通す予想は、結構ハズレちゃうんですよね(^^ゞ
ま、終盤は時間にも追われるから。
残りの放映時間にも、制作時間にも。
視聴率はそれなりにして終わりたいですしね。
「筋より数字」って感じ♪
「何を求めているのか^^と言われそう」ってことは、
凄い話を求めてるのかな。昼ドラみたいな♪
9話を見た限り、小奇麗なドラマだけど、どうでしょうか。。
ちなみに次回は、少なくともレビューは書かないし、
最終回も時間的に余裕がないでしょう。
一応、流し見くらいしようと思ってますけどね。
ではまた。。
投稿: テンメイ | 2012年9月 8日 (土) 21時53分