ノーベル経済学賞に輝いた婚活(マッチング)理論~OR4
今日はまた、全然違う話を少し書いて終わりのつもりだったのに、ネットで
ノーベル経済学賞関連のニュースを見た途端、マニアック魂がムラムラし
てしまった♪ 予定変更で、軽く手を付けてみよう。先日記事にした、数学
のABC予想ほど高級な話ではないけど、非常に実用的で身近な話だし、
本気で考えると相当ハイレベルな話にもなるはずだ。
10月15日、スウェーデン王立科学アカデミーが授賞したのは、アルビン・
ロス(Alvin Roth)教授とロイド・シャプリー(Lloyd Shapley)教授の2人。
彼らは、安定的な(stable)割り当てが得られるマッチング理論(Matching
theory)を研究。既に、臓器移植での提供者と患者の組合せや、医学実
習生と研修先病院の組合せ、公立学校の選択制度などで実用化。分かり
やすい具体例が、複数の男女が結婚相手を選ぶ婚活理論、あるいはプロ
ポーズ理論らしい。
要するに、「ゲーム理論」の一種で、より広く言うならOR(オペレーション・リ
サーチ)だろう。与えられたシステム(計算可能な単純化された状況)で、最
適なものを導くための研究だ。当サイトには、既に3本のOR記事がある。
特に2本目と3本目は、この記事と似た感じのタイトルだ(実際はかなり違う)。
cf. OR(オペレーションズ・リサーチ)~理系の鳩山新首相の専攻
10人とのお見合いで最高の相手にプロポーズする方法♪~鳩山の「OR」3
☆ ☆ ☆
ノーベル賞の公式HPを見ると、わざわざpdfファイルまで付けてくれてるの
で、早速ダウンロードして速読。すごく簡単な英語だから、美味しい所だけ
はすぐ理解できた。10人ずつの男女が、「安定的」マッチング(=組合せ,
カップリング)に至るにはどうすればいいか。
ここで「安定性」(stability)とは、誰も現在の状況を壊して別のマッチング
を臨んだりしない状況を指す。例えば、愛し合う夫婦が2組、計4人集まっ
たとしても、安定的だろう(人間的現実は別として、単なる理論的には♪)。
一方、「夫婦1」の夫と「夫婦2」の妻が愛し合い、「夫婦1」の妻が「夫婦2」の
夫と愛し合っていれば、離婚して再婚を目指すことになる。つまり安定して
ない、あるいは不安定なのだ。ORとしては普通、安定性を目指す。
安定的なマッチングを得るには、「deferred acceptance」と呼ばれるシ
ステムを用いる。通信社AFPはこれを「受入保留」と訳してるが、内容的に
は、「ずっと保留・延期し続けた後の受け入れ」ということだ。
日本語で近いのは、「キープ理論」だと思う。ベストかどうか分からないけど、
とりあえず今の彼 or 彼女をキープしとこうって考えは、今時珍しくないだろ
う。で、もっといい相手がやって来ればすぐ乗り換える♪ この尻軽な戦略こ
そ、実は安定的マッチングに到達できるらしいのだ(あくまで机上の理論とし
て)。ちなみに、この乗り換え=パートナー・チェンジは、「3人 vs 3人」以上
の場合でないと生じない。つまり、「2人 vs 2人」ではあり得ないのだ。
☆ ☆ ☆
具体的には、日本の慣習に合わせて、仮に、男がプロポーズ役としよう(pdf
ファイルでは女)。まず、それぞれの男が一番好きな女性にプロポーズする。
当然、魅力的な女性には複数のプロポーズが行われ、そうでない女性には
誰もプロポーズしない。プロポーズされた女性は、最も魅力的な男性を差し
当たりキープ(retain=保持)するが、プロポーズを受け入れた訳ではない。
第2回戦では、第1回戦で断られた男性が、第2候補にプロポーズする。こ
の時、既にキープ状態になってる女性も、まだ独身だから、第2候補に選ん
でいいらしい(AFPより)。ただし、既に以前、断られてしまった男は、再度プ
ロポーズしても負けるだけだから、別の女性にプロポーズするのだと思う。
既に男をキープしてる女性は、2回戦でもっと素敵な男がプロポーズしてく
れた場合は、さっさと乗り換える♪
これを繰り返して本当に必ず終わりが来るのか、証明は難しいはずだが、
何となくいずれ終了しそうな感じはある。つまり、当初は不人気だった女性
に男がプロポーズすることになるだろうし、そうすると競合相手が少ない(ま
たはいない)から、男がキープしてもらえる確率が高まるからだ。
最後は、もはやプロポーズする男がいなくなり、女がその時点まで「保持」し
てたキープ君を「受け入れ」て終了。この時、安定的な割り当て(allocation)
に必ずなるらしいのだ。。
☆ ☆ ☆
その略証(=省略した証明)となる(?)pdfファイルも、また別に公式サイト
にあったが、難しそうなので差し当たりパス。ここでは、最も簡単な2人 vs
2人の場合で、具体的にチェックしてみよう。A男とB男、C美とD美、計4人
で考える。
(1) まず、A男とB男の好みがいずれもC美、D美の順だと仮定しよう。
① C美とD美の好みがいずれもA男、B男の順の時
1回戦 A男のプロポーズをC美がキープ、B男は拒否される。
2回戦 B男のプロポーズをD美がキープ。
C美とD美がプロポーズを受け入れて終了。
このマッチングだと、A男&C美は大満足だが、B男&D美は不
満が残るカップルになる。ただ、A男&C美にはもう勝てないか
ら、全体として安定するわけだ。
「② C美がA男、B男の順で、D美がB男、A男の順」の時も、同様に
安定する(B男には不満が残る)。残り2つ(③④)の時も同様。よっ
て(1)は常に安定する。
(2) 次に、A男がC美、D美の順で、B男がD美、C美の順だと仮定しよう。
① C美がB男、A男の順で、D美がA男、B男の順の時
1回戦 A男のプロポーズをC美がキープ、B男をD美がキープ。
そのままC美とD美がプロポーズを受け入れて、直ちに終了。
このマッチングだと、男2人は満足だけど、女2人には不満が残
る。ただし、プロポーズは男だけだから、全体としてはもはや安
定している。おそらく、そう考えるのだろう。
以下、(2)の②~④、更に(3)(4)と示せば、すべての場合の証明が完成。
結局、婚約解消や不倫を目指すような、「不安定な」マッチングは生じない
のだ。愛し合う2人が別の相手と結ばれてしまうな不運や、そこからの文字
通り「ドラマチックな」展開は、あり得ない。。
そもそも「不安定な」マッチングというのは、男2人の第1候補が別々なら
起きない。男2人とも1回戦で成功して終了だ。一方、男2人の第1候補が
一致してれば、その女の側の趣味でキープが行われる。よって、1回戦で
相思相愛カップルが出来るから、その後、その2人を切り崩すことなどでき
ず、残った2人でもう一つのカップルになるしかない。したがって、不満が残
りつつも安定するのであって、これが簡単で本質的な証明だろう。
ちなみに、男の側からプロポーズした場合は男がより満足な結果となり、女
の側からプロポーズした場合は女がより満足な結果となる。プロポーズする
側が有利だから、「平等性」の問題が残るとAFPは書いてた。全体の満足度
の数値化や証明はともかく、上の例でもそんな感じにそうなってるし、プロ
ポーズは自分の好みで行うのだから、不平等かどうかはともかく、自然な結
果だろう。。
☆ ☆ ☆
一方、3人 vs 3人だと一気に変化が複雑になるので、全部は確認できない
が、面白い場合を1つだけ考えてみよう。A男、B男、C男と、D美、E美、F
美、計6人とする。A男の好みはD・E・Fの順。B男とC男の好みは、E・D・
Fの順。一方、D美の好みはC・B・Aの順。E美とF美の好みはA・B・Cの順。
1回戦 A男をD美がキープ。B男をE美がキープ。
C男はE美に拒否される。
2回戦 C男がD美にプロポーズして新たにキープされ、A男が拒否
される(=捨てられる)。
3回戦 A男がE美にプロポーズしてキープされ、B男が拒否される。
4回戦 B男がD美にプロポーズして、拒否される。
5回戦 B男がF美にプロポーズして、キープされる。
これにて終了。3人の女性はプロポーズを受け入れる。
結局、A男&E美、C男&D美、B男&F美の3ペアとなる。男3人がいずれ
も不満を残す結果だが、今のペアを壊して新たにチャレンジしても勝てない。
例えば、C男がE美を狙っても、E美の好みはA・B・Cの順だから、現在の
E美の相手であるA男には勝てないのだ。他も同様で、全体として安定する。
以下はとりあえず、省略としよう。
☆ ☆ ☆
なお、ノーベル賞公式HPのpdfファイルには、「医者3人 vs 病院3つ」の
場合の図があった。
白の実線が医者の第一候補(first choice)、白の点線が医者の第二候補
(second
choice)。
黒は病院側だ。医
師の側からプロポ
ーズした場合(左
上)と、病院の側
からプロポーズし
た場合(左)とで、結
果は全く異なってる。
医者からのプロポーズの場合の展開のみ、簡単に書いておこう。
1回戦 3人の医者が第一候補の病院aに集中。
病院aは、第一候補の医者1をキープする。
2回戦 医者2が第二候補の病院bに、医者3が第二候補の病院cに
プロポーズして、それぞれキープされる。
病院側が全員のプロポーズを受け入れて、終了。
医者の側は、医者1が大満足で、医者2と3が中くらいの満足。病院の側は、
病院aが大満足で、病院2と3は不満。確かに、プロポーズした医者の側の
方に有利な結果となってる。病院2と3は不満だが我慢するしかないので、
システム全体としては安定的となるのだ。
いずれ時間を作って、ハイレベルな数学的証明にもチャレンジしてみたい
と思ってる。上に示したようなシラミつぶし的方法では、時間がいくらあって
も、一般的証明は無理だろう。それでは、また明日。。☆彡
P.S. 10月29日の朝日新聞・朝刊に、「ノーベル経済学賞『マーケット
デザイン』って何? 安田洋祐助教授に聞く」と題する記事が掲
載された。深みも具体性も乏しい簡単な内容だったが、「10年前
ならマーケットデザインを専門と言う学者はいなかったはず」との
こと。理論の源流は古くても、発展・応用が進んだのはごく最近の
ようだ。ちなみに私と同じく、「キープ」という言葉を使ってた。
P.S.2 13年2月5日の夜、NHK・Eテレの『オイコノミア』(経済学=エ
コノミクスの語源らしい)で紹介されたらしい。私は見てないけど、
続々と検索アクセスが入って来たから、ツイッター検索で調べる
と、つぶやきがズラッと並んでた。単なる恋愛や合コンだと、ノリ
が軽いから、現実はそれほど理論が上手くいかないと思う。ち
なみに番組と関係なく(?)最近この記事のアクセスが増えてる。
P.S.3 13年2月9日深夜(10日の0時過ぎ)からの『オイコノミア』でも、
バレンタインデー編として扱われたようだ。「ゲール・シャプレー
メカニズム」とカッコ良く名付けたらしい。。
(計 4452文字)
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