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方舟の針路、風任せにしない~小阪淳&高橋源一郎&小熊英二「論壇時評」(朝日新聞・12年10月)

(☆13年4月28日追記: 最新記事をアップ。

 あの日から2年、疎通の深化~小阪淳「論壇時評」(朝日新聞・13年3月) )

         

        

          ☆          ☆          ☆

既に8日遅れ、月も変わってしまったが、10月25日の朝日新聞・朝刊に

掲載された複合記事「論壇時評」について、レビューしよう。今回は、当サ

イトの字数制限を守るため、短めのものにせざるを得ないが、準備には相

当の時間がかかった。メインの論者・高橋源一郎や、高橋以上に典型的な

左派である小熊英二ではなく、いつもの事ながら、小阪淳の中立的なCG

の読解その他が大変なのだ。

        

では、その小阪が「現代社会をイメージした作品」、『安心』を見て行こう。朝

日新聞デジタルで、「小阪淳」の検索を行うと、今現在、無料記事のトップで

ヒットする。まだ見てない方、あるいは忘れた方には、閲覧をお勧めしとこう。

「紙」面でしか見てない方にも、ネットのカラー画像には価値があると思う。

        

     

          ☆          ☆          ☆

今回の直接的なモチーフ=題材は、明らかに3つある。まず10月1日から

沖縄に配備された、垂直離着陸の新型輸送機・オスプレイ。次に、風力発

電(あるいは自然エネルギー利用)。さらに、風向風速計=風車型風速計。

この内、もっとも本質的なものは、三番目だろう。つまり、どれもある意味、

「風見鶏」であって、見る「風」の種類が微妙に異なってるわけだ。

      

何も知らない子供が普通にこの縦長のCGを見るなら、青空の中に、白い

雲が浮かび、白い飛行機型の風力発電機、あるいは風速計が並んでる、

キレイな絵だろう。しかし、よく見ると、雲はガスのように立ちこめてるので、

決して爽やかではない。

         

それは、洗剤の典型的CMなどと比較すればハッキリすることだ。青空の

下に並んで干されている、真っ白な洗濯ものは、非常に爽やかに描かれ

てる。今現在でも、Googleで「洗剤 CM 青空」の検索を行えば、すぐに

121102a

 ライオンHPで確認

 可能。ここでは、わ

 りと似た爽やかなイ

 メージとして、青空

 と白い雲の画像を掲

 載しておこう。

 Nocholas A.

 Tonelli氏の作品

(一部をトリミング)で、ウィキメディアの公開画像からの借用だ(以下すべ

てウィキ)。

     

121102b

 上の綺麗な画像に、

 左のような古くて

 暗い、空襲の写真

 を合わせれば、小

 阪のCGのイメー

 ジに近づくと思う。

 米国海軍作成のも

 ので、現在はパブ

 リックドメイン(公

的所有)。どんよりした曇り空に並ぶのは三菱重工業の九七式重爆撃機だ。

       

    

          ☆           ☆          ☆

全体的なイメージに続いて、最初の題材であるオスプレイについて。左が

121102c

 米国空軍による写

 真だ(パブリック

 ドメイン)。ウィ

 キにはMV22と

 書いてるから、そ

 れが正しければ海

 兵隊仕様だ。もし

空軍仕様ならCV22となる。先頭のアルファベットがMかCか、いずれにせ

よ、軍用機V-22、愛称Osprey(タカの一種、ミサゴ)だ。下の写真は、

Matt Edmonds氏より。

         

121102f

 このオスプレイとい

 う愛称が、自然の激

 しさや攻撃性を表し

 てることにも注意し

 たい。自然とは、決

 して優しいだけのも

 のでもないし、安全

とも限らないのだ。むしろ、人為的なものの方が優しいこともあるし、安心で

きることも多い。日焼け止め、護岸工事、バリアフリー、ロボット犬など、身

近でいくらでも具体例を挙げれるだろう。

          

話を軍用機オスプレイに戻すと、飛行機と違って長い滑走路は不要。ヘリ

コプターと比べると、飛行距離、速度が2倍、整備時間は半分(朝日・朝刊、

9月1日)。こういった利点・長所だけ考えると、高性能の新型機種だが、

各種世論調査によると、安全性に疑問を持つ人が多いようだ。国家の安全

には寄与してくれるかも知れないが、それより、基地周辺の生活で安心で

きない、あるいは何となく「安心感がない」方が問題だということだろう。

          

例えば、朝日の10月20、21日の調査では、オスプレイの沖縄配備に賛

成が27%、反対が51%。野田内閣の安全性確認を信頼する人が17%、

信頼しない人が67%だ。琉球新報が5月5、6日に行った沖縄県内調査

では、9割もの人(90.1%)が「配備すべきでない」と答えてる。

   

ただ、反対派の間でよく使われてる、この9割という数字は、少し注意が必

要だ。この調査はなぜか、「すべき」と「すべきでない」の単純な2択で行わ

れてるので、少なめに「7~8割」程度の反対だと読み取る方が安全だろう。

そもそも最近の調査では、2択よりも3択(以上)の方が普通だろうし、事の

性格上、それほど割り切れる問題でもないはず。実際、朝日の調査では、

22%の人が、反対でも賛成でもない。

            

もちろん、オスプレイの機体に技術的な難しさがあるのは確かだ。垂直離着

陸の際の「ヘリモード」では、プロペラを上部で水平回転させるのに対し、水

平飛行の基本である「固定翼モード」では、プロペラは前部で風車のように

垂直回転させ、飛行機のように翼の揚力を使って飛ぶ。2つのモードを途中

で切り替える時の「転換モード」が不安定で、操作の難しさが人為ミスにもつ

ながりやすいようで、今年4月のモロッコ、6月のフロリダ、どちらの墜落事

故も、転換モードの時に起きたらしい。他にも、プロペラの大きさが中途半

端なため、2つのエンジンが同時に止まった時、軟着陸が困難という話だ。

          

しかし、実際の事故データ(特に開発終了後)を比較する限り、米海兵隊の

他の機種より遥かに危険だと主張するのも、それほど簡単ではない。中程

度(クラスB)の事故は平均より4割多く、軽度(クラスC)は2倍強だが、死

者や200万ドル以上の損害を出した重度(クラスA)の事故は、2割少ない

からだ(朝日・夕刊、8月9日)。

        

左派でオスプレイに冷たい朝日でさえ、現実の事故率が「高い」という話は

さほど強調せず、「低い」という話に反発する程度。ロケットでも、ダム作り

でも、大がかりな開発では事故が付きものだという点も、考慮する必要が

あるだろう。ウィキペディアによると、水力発電の代表・黒部ダムの建設で

は、殉職者が171人も出たとのこと。私が修学旅行で見学した時にも、追

悼のプレートが、目と心に突き刺さった覚えがある。。

         

       

           ☆          ☆          ☆

要するに、オスプレイへの反発は、実際の事故率や技術的問題よりも、イ

メージ的なものと、科学や政治への不信感、そして、沖縄に対する長年の

差別への不満、怒りなのだ。小阪のCGが「安心」と名付けられてるのは、

前の2つ、つまりイメージと不信に焦点を当ててるからだろう。これら主観的

なものこそ、まさに脱原発の動きの核心であり、曖昧で不確かな点でもある。

        

現在の日本で、原発のイメージは非常に悪いわけだが、僅か1年半前、福

島第一原発の事故まではそうでも無かったはず。逆に、風力発電というも

121102d

 のは、環境保護の

 観点からしばしば

 批判されてたのだ。

 自然破壊、バード

 ストライク(鳥類

 の衝突)、騒音、

 低周波振動など。

 左はDori氏より。  

       

その意味で、現在の善玉、風力発電を、悪玉・オスプレイと固く結びつけた

小阪のCGは、いつもながら挑発的な中立性を誇示しているわけだ。もちろ

ん、オスプレイが飛びにくい状態と理由を一目で分かるように示す、コミカル

な表現にもなってる。

          

CGはさておき、オスプレイや風力発電(広く言うなら再生可能エネルギー)

に対する態度というものは、様々な「風」を感知する「風見鶏」のような役割

121102e

  を果たしてるのだ。特に、科学・軍事

  技術の信頼性、エネルギー政策の安

  心感、国家防衛上の安全性などに対

  する、国内・国外の世論という風に関

  して。左は、米国エネルギー省による

  風向計(パブリックドメイン)。

      

  今回、オスプレイに対する大手新聞社の

  姿勢は、左右で非常に分かりやす

い区別になってる。左の朝日・毎日が反対、右の読売・産経が賛成、中立の

日経が微妙。原発や尖閣への姿勢とほぼ同じだ。

       

ところが、興味深いのは世論の側。どうも、オスプレイは反対だが、尖閣諸

島の国有化は賛成らしい。例えば8月9~12日の時事通信の世論調査で

は、オスプレイ不支持が6割弱、尖閣の国有化賛成は7割超だ。新聞社と

違い、左と右の立場が混在してるのだ。オスプレイ配備の「建前の一つ」が、

尖閣辺りの領海(南西の国境付近)、東アジアの安定化や防衛にあることを

考えると、なおさら興味深い「風」だろう。

                       

世論の回答が、主に「安心」に対する「イメージ」から来たものなら、「現実」

的にはむしろ逆の方が正しい気もするが、果たして今後どう事態が展開す

るのか。オスプレイの本格運用は12月からの予定。一方、中国の船によ

る尖閣付近への領海侵犯は、今に至るまで継続中。原発やデモに関して

は強い「左風」が吹き続けてるので、小阪のCGも少し左向きに描かれてた。

   

まさに今、時々刻々と変わる風の向きや強さを冷静に見極めつつ、自らの、

そして社会、国家の進むべき道を模索するべき時だろう。船の進路、あるい

は針路とは、自らが選択し、創り出すべきもの。風がどう吹こうが、流れが

どうであろうが、帆やエンジンの動きで、かなり自由に決定できるのだから。。

      

     

            

          ☆          ☆          ☆

もはや字数が残って無いので、メインの高橋源一郎時評については、

ごく簡単に。タイトル(見出し)は、「フタバから遠く」、「方舟の針路 人任

せにしない」。

    

原発事故の被災地として有名な福島県双葉町を描く映画、『フタバから遠

く離れて』から始まり、高橋は世界の「方舟」について語って行く。宮古市の

漁業協同組合、スペインの協同組合、そして、共通歴史教科書の作成に

成功したかつての敵国同士、ドイツ&フランスなど。いずれも、決して堅固

ではないものの、「みんな」が集まって生活する、運命共同体だ。しかも、そ

こには良い導きがあるようにも見えるから、方舟という名にふさわしい。

        

相変わらず、新しいものが良いという前提を疑うことはなく、失敗や短所に

も目を向けてないが、今月の高橋の説明なら、左派ではなく中立の私が読

んでもさほど違和感はない。ただし、「針路」を「人任せにしない」といいつつ、

一時的な左向きの追い風に重きを置いてる感が強いのだ(独・仏を除く)。

          

今、本当に求められてるのは、そういった一時的で不確かな突風に任せる

ことなく、自ら方向を見極め、能動的・主体的・持続的に進んで行くことなの

だ。ネットその他、デジタルを利用した目新しいやり方があってもいいが、

基本的な情報収集や処理に「王道」はない。まず、1人でも多くの国民が、

普通に学び、考えていくことが大切なのだ。原発、放射線、防衛、沖縄、日

米安保、国際情勢など、日本という方舟、あるいは自分という小舟の基本

に関して。。

           

    

    

          ☆          ☆          ☆

最後に、コラムあすを探る」について。今回のテーマは思想・歴史で、担

当は小熊英二。タイトルは、「ネズミの群れと滅びる恐竜」。もう、タイトルだ

けで十分といった内容だ。

     

ネズミの群れ、つまりデモや住民投票で、原発や電力会社(&労組)を中心

とする恐竜みたいな重厚長大グループを打ち倒そうというアピールであって、

扇動or先導の文章としてはよく出来てるが、始めに答えありきの議論に終

始している。小熊のコラムには毎回、自分たちへの問いかけというものが

全く見当たらない。強い自我を周囲に向けて膨張・拡大させるのみで、自

己の内外の「他者」、「外部」との対話が無いのだ。

      

それはある意味、本人にとって、または自我にとって、幸せなことかも知れ

ないが、難しくて微妙な現実社会を見極めつつ、恐る恐る針路を決定し、

試行錯誤する人間から見ると、不思議な別世界にすぎない。「あすを探る」

というより、「あすを断言する」コラムだ。ネズミと恐竜の、どちらが好まれ、

どちらが価値あるのか、また、自分は恐竜の一種でないのか、考えること

もないままに。

      

一方向にだけ強烈な風を送る、首振り機能のない据え付け型の扇風機、

サーキュレーターを導入するより、繊細な風向計を自ら創って行こう。わず

かな風の変化でも感受すると共に、モーターで逆回転させて風を送ること

も可能な、双方向的マシン。プロペラを水平回転から垂直回転に変えるの

は危険かも知れないが、「左向き」と「右向き」の「中間」で適度に振動する

扇風機は、心地良い風と共に、真の安心をもたらしてくれるものなのだ。

       

安全な航海にとって大切なのは、大声や命令、思いこみではなく、冷静な認

識・判断・行動であることを思い出そう。それでは、今月はこの辺で。。☆彡

       

   

   

cf. 不変の変化という、不変の夢

    ~小阪淳&高橋源一郎&酒井啓子「論壇時評」(朝日・12年9月)

             

                                  (計 5020文字)

    

☆以下、追記

   

cf.震災後、身の丈超えぬ「ことば」に希望

      ~高橋源一郎&小熊英二「論壇時評」(朝日新聞) (11年・4月)

  非正規の思考、その可能性と危険性

         ~高橋源一郎&濱野智史「論壇時評」(朝日新聞・5月)

  みんなで上を向いた先に真実はあるか

         ~高橋源一郎&平川秀幸「論壇時評」(朝日新聞・6月)

  スローな民主主義と『スローなブギにしてくれ』

          ~高橋源一郎&森達也「論壇時評」(朝日新聞・7月)

  柔らかさ、面白さが無ければ伝わらないのか

          ~高橋源一郎&菅原琢「論壇時評」(朝日新聞・8月)

  人を指さす政治的行為のマナー

          ~高橋源一郎&酒井啓子「論壇時評」(朝日新聞・9月)

  希望の共同体を楽しく探るために

          ~高橋源一郎&小熊英二「論壇時評」(朝日新聞・10月)

  アート・ロック・ゲーム、多様な変革運動

    ~高橋源一郎&濱野智史&小阪淳「論壇時評」(朝日新聞・11月)

  どの常識をどう疑い、何に立ち向かうのか

    ~高橋源一郎&小阪淳&平川秀幸「論壇時評」(朝日新聞・12月)

  対称的な関係の中にある前進

    ~高橋源一郎&小阪淳&森達也「論壇時評」(朝日新聞・1月)

  現在の中に過去を見ること

    ~高橋源一郎&小阪淳&菅原琢「論壇時評」(朝日新聞・2月)

  自ら切りひらく主体相互の共生

          ~小阪淳ほか「論壇時評」(朝日新聞・3月)  (未完)

  「常識がない」ということの意味

        ~小阪淳ほか「論壇時評」(朝日新聞・12年4月)  (未完)

  破壊と建設、善意と悪意

   ~小阪淳&高橋源一郎&濱野智史「論壇時評」(朝日新聞・12年5月)

  未来を「一から」創り出すこと

   ~小阪淳&高橋源一郎&平川秀幸「論壇時評」(朝日新聞・12年6月)

  古きを温め、新しきを育む

   ~小阪淳&高橋源一郎&森達也「論壇時評」(朝日新聞・12年7月)

  変える楽しみ、保つ安らぎ

   ~小阪淳&高橋源一郎&菅原琢「論壇時評」(朝日新聞・12年8月)

  不変の変化という、不変の夢

   ~小阪淳&高橋源一郎&酒井啓子「論壇時評」(朝日新聞・12年9月)

  和解の方向、未来からの審判

   ~小阪淳&高橋源一郎&濱野智史「論壇時評」(朝日新聞・12年11月)

  アートとツール(道具)

   ~小阪淳&高橋源一郎&平川秀幸「論壇時評」(朝日新聞・12年12月)

  対話するインテリジェンス

   ~小阪淳&高橋源一郎&菅原琢「論壇時評」(朝日新聞・13年1月)

  ひとりで揺れる時の振幅

    ~小阪淳&高橋源一郎&菅原琢「論壇時評」(朝日新聞・13年2月)

         

                            (☆追記込み 6070文字)

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