原子核と放射線~高校物理の教科書の問題と解説(1)
今夜も時間が無くなってしまったが、前から引き延ばしにしてる記事をひと
まず簡単にアップしとこう。どうせ、このシリーズは少なくとも5本くらい書き
続ける予定で、今回は最初の1本にすぎない。まず教科書レベルというよ
り、教科書そのものに掲載されてる基本問題を見てみよう。
数学や自然科学の理論や情報は、読んで分かった気になるだけでなく、実
際に問題を解く必要があるのだ。十分に理解してれば解けるはず。逆に、
解けなければ不十分ということになる。
使う教科書は、前にも何度か使ってる、数研出版『改訂版 高等学校 物
理ⅠB』。おそらく、ややレベルが高めの教科書だと思う。今年(2012年)
の4月に高校1年生から導入され始めた、新・学習指導要領には対応して
ない、旧カリキュラムの教科書なので、念のため。新しい教科書について
は、来春くらいまでにはチェックしてみたい。
なお、既に今年の新入生から使われなくなった教科書だし、ごく一部分を引
用して個人ブログの記事の一部分にするだけだから、著作権の問題は生
じないと考える。3・11大震災以降の原発・放射能の問題を、市民レベル
で科学的に考え直す営みの一環でもあるし、悪しからず御了承を。。
☆ ☆ ☆
この教科書は、大きく見ると全5編の構成で、最後の第5編が「電子と原
子」。その第1章「電子」は飛ばして、第2章「原子と原子核」の問題を解い
てみる。要するに、原子全体の外側(=電子)を飛ばして、内側(=原子核)
だけ扱うということだ。ちなみに第3章は「探求活動」で、生徒による実験
や観察の話。その後が、第5編の「演習問題」だ。
では、第2章の本文に挿入されてる「問1」(p.277)から。
ウラン「235 92 U」には、中性子と陽子が各何個ずつあるか。
まず、システムの制限で、原子の記号の書き方が教科書その他とは違って
る点をハッキリさせとこう。上の問題文で「235
92 U」と書いた部分は、本当は左のような
記号になってて、「 」というカギ括弧もない。U
がウラン(英語でUranium)の「原子記号」(または元素記号)、左上の
235が質量数、左下の92が原子番号だ。
答える順番が逆になるが、最初に、 陽子数=原子番号=92(個)。
続いて、 中性子数=質量数-陽子数=235-92=143(個)。
☆ ☆ ☆
つまり、原子記号の左上と左下の数字から、原子核を構成する陽子と中
性子の数がすぐ分かる。左上が、陽子数+中性子数。左下が陽子数だ。
原子核の回りには普通、陽子と同じ数の電子が存在して、原子全体(陽子・
中性子・電子)となってるわけだ。陽子と電子の電気量は、絶対値が同じ
で符号だけ逆(+と-)だから、普通の原子全体は電気的に中立となる。
ちなみに、Uの左上や左下の数字はしばしば省略されてるので、その際は
自分で補うことになる。左下の原子番号は一定だから、覚えてなくてもネット
や本で調べれば簡単に分かるが、左上の質量数は何通りかに変化するの
で、その場の文脈に応じて自分で解釈する必要がある。
教科書を見ると、自然界のU(ウラン)の場合、質量数238の原子の存在
比が99.2745%。質量数235の原子は僅か0.72%に過ぎず、これが
「核分裂」して、原子力発電の主役となる。核分裂については、今回は問
題と関係ないので省略しとこう。
同じ原子番号(つまり陽子数)で、質量数の異なる原子のことを、(互いに)
同位体と呼ぶ。放射能問題で話題のセシウム137と134の場合、放射
線を出して崩壊(=変化)するので、どちらも放射性同位体と呼ぶわけだ。
☆ ☆ ☆
続いて、教科書の問2(p.279)。
「238 92 U」が安定な「206 82 Pb」になるまでに、α崩壊、
β崩壊をそれぞれ何回ずつ行うか。
もう一度だけ書くと、上で「206 82 Pb」とした
箇所は、本当は左のような原子の記号が書か
れてる。つまり、鉛の原子記号Pb(ラテン語の
plumbunより)の左上に、質量数206、原子番号82があるのだ。
原子が放射線を出して崩壊する時、色んなパターンがある。重要なのは、
α(アルファ)線を出すα崩壊、β(ベータ)線を出すβ崩壊、γ(ガンマ)線
を出すγ崩壊だ。
α線とは、ヘリウムHeの原子核(陽子2個、中性子2個)の放射のこと。だ
から、α崩壊では、質量数が2+2=4だけ減少し、原子番号は2つだけ
減少する。次にβ線とは、その原子核の中性子1個が電子1個を出して陽
子に変化する放射のこと。だから、β崩壊では、質量数(=陽子+中性子)
は変わらず、原子番号(=陽子数)が1だけ増える。γ線は単なる電磁波
だから、γ崩壊では質量数も原子番号も変化しない。
よって、「238 92 U」が「206 82 Pb」になるまでに、α崩壊を x 回、
β崩壊を y 回行うとすると、
(質量数) 238-4x=206 ・・・・・・①
(原子番号) 92-2x+y=82 ・・・・・・②
①より、x =8。②に代入して、76+y=82。よって、y=6。
したがって、α崩壊を8回、β崩壊を6回行うことになる。これが答えだ。
☆ ☆ ☆
最後に、問3について(p.280)。
「226 88 Ra」の半減期は1.6×10³ 年である。1.0gの「226
88 Ra」が0.25gになるのに何年かかるか。
半減期とは、半減するのにかかる期間のこと。この場合、1.0gが0.25
gになるのだから、1/4になってる。つまり、半分の半分(1/2の2乗)
になるための時間だから、半減期の2回分の時間がかかる。すなわち答
は、3.2×10³ 年だ。つまり3200年だから、このラジウム(Ra)はなかな
か減らないことになる。
ここでもそうだが、単に半減期と言う時は、物質そのものが半分になるた
めの時間、つまり「物理的半減期」のことを意味する。これ以外に、放射能
問題で重要なのは、「生物学的半減期」だ。これは、生物の体内にある放
射性物質が、体外への排泄(尿、糞便)によって半減するまでの時間を指
す言葉。
そして、これら2種類の半減期を合わせて考慮したものが、人間にとって
の「実効半減期」になる(または有効半減期)。関係式の説明は下の「cf」
に挙げた記事に書いてある。ちなみにこの実効半減期が、内部被曝と深
く関わる数値なのだ。
話題のCs(セシウム)137とCs134について言うなら、物理的半減期は
それぞれ約30年と約2年。内部被曝と深く関わる実効半減期は、人間の
年齢や摂取方法によって細かく分かれるが、「成人」(17歳以上)の「経口
摂取」(口からの飲食)の場合、Cs137が約90日、Cs134が約80日だ。
☆ ☆ ☆
なお、ウィキペディアの「半減期」の項目には、Csの実効半減期として少し
違う数値が書かれてるが、それはかなり古い本を出典としたものだ。私が
書いたのは、今現在の放射線医学総合研究所HPのデータベースで調べ
た値だから、こちらの方が信頼できるはず。放医研が参照してるデータは、
ICRP(国際放射線防護委員会)の1998年までの出版物(刊行物&デー
タベース)だ。
次回はおそらく1週間以内に、教科書・第5編の「演習問題」を解説する予
定。それでは、今日はこの辺で。。☆彡
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放射性物質の半減期、壊変定数、質量(重さ)~微分方程式の初歩
(計 3129文字)
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