原子核と放射線~高校物理の教科書の問題と解説(4)
シリーズ第4弾の記事は、去年の内に書きたいと言ってたのに、年末は忙し
過ぎて書けなかった。そこで、年明け早々にも関わらず、お堅い記事をアップ
することにしよう。自民党と安倍政権の復活、原発容認への方針転換によっ
て、原子核と放射線の基礎的理解はますます重要になって来た。用いる教
科書は引き続き、『改訂版 高等学校 物理Ⅱ』(数研出版,2001)だ。
では、今回の1問目。第3編「原子」、第2章「原子と原子核」、第2節「核エネ
ルギー」のp.135から始めよう。以下の問題や説明が分からない方には、
先にこのシリーズの以前の記事、(1)~(3)を読むことをお勧めする。
☆ ☆ ☆
問6 ウランの核子1個当たりの結合エネルギーは7.6MeVで、質量
数120程度の原子核のそれは8.5MeVである。このことから、
「235 92 U」1個が核分裂したときに解放されるエネルギーは
約何MeVか。
解答 ウランの原子核「235 92 U」1個は、中性子を吸収すること
で、質量数120程度の原子核2個に分裂する。この時、
(解放されるエネルギー)
=(分裂後の結合エネルギー)ー(分裂前の結合エネルギー)
≒ 8.5×235-7.6×235
= (8.5-7.6)×235
= 0.9×235
≒ 210(MeV) ・・・・・・ 答
分裂後の結合エネルギーは、2個の質量数の合計がいくつなのか分からない
から、近似値として8.5×235としておけば十分だろう。実際は234か233
(235より1か2少ない値)だから、間を取って233.5としてもよいが、問題の
書き方自体が大まかだから、こだわる必要はない。
教科書の答は約200MeVで、この値が有名みたいだが、上では一応、有効
数字2ケタ、つまり 2.1×10² MeV と考えておいた。
ちなみに、有効数字の計算の基本としては、8.5×235-7.6×235でそ
のまま計算するなら、答は2ケタ。0.9×235と考えるなら答は1ケタとなる。
このように、同じデータからの計算でも、途中の式によって答の有効数字は
変わってしまうので、あまり深く考える必要はない。そもそも、有効数字が何
ケタなのか、問題自体がハッキリ示してないのだ。この辺り、物理は数学より
大まかな、あるいは実用的な学問なのである。
なお、単位MeV(メガ・エレクトロンボルト)については、前回の記事で説明し
てある。約200MeVという値を1.6×(10の-13乗)倍すれば、普通のエ
ネルギー単位・J(ジュール)になる。つまり、ウラン原子1個の核分裂で、約
3.2×(10の-11乗)Jのエネルギーが解放される。
ウラン235gの中だと1mol(モル)、つまり6×(10の23乗)個のウラン原子
があるから、約1.9×(10の13乗)=20兆Jという莫大なエネルギーとなる。
「熱の仕事当量」4.2で割ると、5兆cal(カロリー)に近い熱量ということだ。。
☆ ☆ ☆
次は、今回の2問目。教科書p.136の問題。
練習5 「2 1 H」+「2 1 H」 → 「3 1 H」+「1 1 H」 の核融合
反応において、4.0MeVの核エネルギーが放出されることを示せ。
ただし、「2 1 H」、 「3 1 H」の核子1個当たりの結合エネル
ギーは、それぞれ1.1MeV、2.8MeVである。
解答 (放出される核エネルギー)
=(融合後の結合エネルギー)ー(融合前の結合エネルギー)
= 3×2.8-4×1.1
= 4.0 (MeV) (証明終了)
大きな原子核の核分裂だけでなく、小さな原子核の核融合でも、莫大な核エネ
ルギーが解放される。要するに、
(反応後の結合エネルギー)ー(反応前の結合エネルギー)
が発生するわけだ。
4.0MeVという値だけ見ると、先ほどの核分裂の200MeVよりかなり小さい
が、この核融合では元の重陽子「2 1 H」(陽子1個+中性子1個 : 重水素
の原子核)の質量数は合計4個。よって1個あたり1MeVとなる。一方、ウラン
235の核分裂だと、1個あたり0.85MeV程度だから、似たようなものだ。
ただ、今の所、核融合より核分裂の方が、原子力発電へと実用化しやすいの
だ。身近で重要な核融合としては、太陽エネルギーの源、太陽の中心部の反
応が有名(もちろん推測)。
☆ ☆ ☆
今回の最後、3問目は、演習問題Aの最後(p.145)。
5. ポロニウムPoから出るα粒子の速さは1.6×(10の7乗)m/sであ
る。これを金箔に当てるとき、金原子(原子番号79)の中心から何mの
距離まで近づくか。金原子は動かないものとして、エネルギー保存則
を用いて求めよ。
ただし、α粒子の質量を6.6×(10のー27乗)kg、電子の電荷を
-1.6×(10のー19乗)C、クーロンの法則の定数を9.0×(10の
9乗)N・m²/C² とする。
解答 α粒子(陽子2個)に関するエネルギー保存則より、運動エネル
ギーが静電気力による位置エネルギーへと変化したと考えればよい。
(運動エネルギー)
=(1/2)×{6.6×(10のー27乗)}×{1.6×(10の7乗)}²
また、金原子(陽子79個)の中心から r mの距離まで近づくとすると、
(位置エネルギー)
= 9.0×(10の9乗)×{2×1.6×(10の-19乗)}
×{79×1.6×(10の-19乗)} / r
(運動エネルギー)=(位置エネルギー)だから、
(1/2)×{6.6×(10のー27乗)}×{1.6×(10の7乗)}²
= 9.0×(10の9乗)×{2×1.6×(10の-19乗)}
×{79×1.6×(10の-19乗)} / r
∴ 3.3×(10のー13乗) = 1422×(10の-29乗) / r
∴ r = (1422 / 3.3)×(10のー16乗)
≒ 4.3×(10のー14乗) (m) ・・・・・・ 答
教科書としてはやや不親切な問題だが、静電気力とエネルギーの話は一応、
物理Ⅰで既に学習済み。原子の内部で、運動エネルギーや静電気力による
位置エネルギーを扱う話は、物理Ⅱの少し前の箇所(p.126)に載ってる。
エネルギー保存則をきっちり書くなら、
(最初の運動エネルギー)+(最初、つまり無限遠での位置エネルギー)
=(最接近した時の運動エネルギー)+(その時の位置エネルギー)
よって、無限遠での位置エネルギーを、基準値としてゼロとおき、最接近した
時の運動エネルギーをゼロとすれば、
(運動エネルギー)+0 = 0+(位置エネルギー)
∴ 運動エネルギー = 位置エネルギー
この流れを真面目に書くのは面倒だから、直ちに最後の式を使ったわけだ。
物理の問題演習は、数学の教科書ではないから、ここまで真面目に書くの
は逆に不便すぎるだろう。
☆ ☆ ☆
なお、金箔の側の金原子は、実際には僅かに動くはずだから、厳密には、そ
の運動エネルギーや、金箔の内部での位置エネルギー変化まで考慮する必
要がある。ただ、金原子は重くて、金箔という集団になってるから、ほとんど
動かず、エネルギー変化も無視できるわけだ。
一方、放射性崩壊によってα粒子「4 2 He」を出すポロニウムについては、
問題に質量数が書かれてないが、自然界に存在してよく使われる同位体は
「21084 Po」。これが半減期138日でα崩壊、鉛「206 82 Pb」となる。
次回は3週間以内にまた書く予定。それで一応、教科書の問題は終了となる
が、その後しばらくして、少しだけ大学入試問題も扱うかも知れない。
それでは、今日はこの辺で。。☆彡
(計 3113文字)
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