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外部・内部・甲状腺、福島県の放射線被曝について~3・11から2年

「東日本大震災2年」ということで、朝日新聞・朝刊でも3月1日から大型特

集が連載されてる。1、首長アンケート。2、住まい。3、医療・健康。4、雇

用。5、産業。6、食。7、除染。そして今日、3月8日に掲載されたのが、8

の放射線だ。3は普通の健康の話だから、放射線・放射能関連の話は6、

7、8番目の掲載となってる。

            

必ずしもこれが、重要性の順番だというわけでもないだろうが、当初はもっ

と放射線・放射能の問題が重視されたはずだろう。今日の記事は1ページ

全体を使った詳しい内容だが、社会全体の関心が、少しずつ放射線被曝

から遠ざかってるのはほぼ間違いない。メディアでの扱いも小さくなったし、

今まで50本ほどの関連記事をアップして来た当サイトでも、最近は直接的

にはあまり扱わなくなってる。

    

ちなみに私の場合、情報はそれなりにキャッチし続けてるが、目新しい話

が少なくなったというのは正直な実感だ。「非常に簡単にまとめると」、こん

な感じが続いてるだろうか。──ガレキはなかなか片付かないし(宮城県

は順調)、除染も思うようには進まず、海産物の汚染も福島第一原発自体

もまだ深刻。ただ、福島県民の放射線被曝については、外部、内部、甲状

腺共に、全体的にはあまり問題なさそうだ──。

      

     

          ☆          ☆          ☆

この放射線被ばくについて。一番、意見の対立が少ないのは、外部被曝

だろうから、まずそこから始めてみよう。

      

最近は、観測体制もかなり強化されてるし、福島県内の多くの場所で、空

間線量はわりと低めの値で安定している。だから朝日新聞でも、去年の秋

には、日々の線量の報道を大幅に簡素化したし、今日の朝日の記事を見

ても、ほとんど外部被ばくは問題とされてない。

    

外部被ばくの推計と内部被ばくの検査を担当している、福島県立医大の山

下俊一・副学長のインタビューでは、冒頭がこうなっている。「外部被曝の

推計は40万人以上、内部被曝検査は11万人以上が受けた。幸い、大半

の人は外部、内部被曝とも1ミリシーベルト以下だ・・・・・・」(注.95%の人

は2mSv未満の外部被曝)。

      

もちろん、外部に限ってもまだ問題は残ってる。1つは、推計や測定値の信

頼性。いまでもたまに、国や自治体の測定値が低過ぎるという(反原発・反

放射能的な)指摘を見かけるが、その指摘の方が正しいことを証明する中

立的・科学的議論は不十分だし、そもそも低いと言っても2分の1前後。そ

れなら、公の発表値を2倍にして考えればいいだろう。大半の人の外部被

曝は1mSv(ミリシーベルト)以下だという話なら、安全のために2倍にリス

ク評価して、2mSv以下だととらえ直せばいいのだ。

     

それより問題なのは、「大半の人」以外だろう。ごく一部の一般住民の外

部被ばくは10mSv以上だし、作業員など関係者の「本当の値」だと、数

十mSv~数百mSvくらいのはず。要するに、少数の人へのサポートをど

うするか、そして、100mSv未満の「低線量被ばく」の影響はどうなのか。

この辺りはまだ曖昧なままで、今後も事態を注視する必要がある。要する

に、ガンや遺伝の問題が本当にほとんど発生しないのか、数十年レベル

で見守ることになる。

        

他にも、木田光一・福島県医師会副会長が厳しい口調で語るように、推計

の必要性をもっと住民に説明して、より多くの参加を促すのも大切。「事故

後4ヵ月の外部被曝の推計調査に参加したのは県民の2割強だけ」なのだ

(正確には23%)。「万が一、健康被害が起きた時、被曝の影響かどうか

判断する一助になる」ので、受けた方がいいと思うが、住民の複雑な思い

や事情が絡むのだろう。。

       

        

          ☆          ☆          ☆

続いて、甲状腺に限らない、内部被曝一般について。これは、上で書いた

ように、11万人以上の検査で大半が1mSv以下とされていた。一方、朝日

の1ページ記事の右下には、「県が内部被曝検査装置(ホールボディーカウ

ンター)を使って昨年末までに行った10万6千人の検査では、99.98%の

人が・・・1ミリシーベルト未満だった」と書いてある。

   

人数がほんの少し合ってないが、気にしないことにしよう。「ひらた中央病

院(平田村)では、体内の放射性セシウム137は検出限界以下の人が多

く、昨年5月以降は検出された割合が1%を下回っている」そうで、南相馬

市立総合病院でも同様の傾向とのこと。挿入グラフを見ると、2012年に

入って、急激に検出者数が減っているのが分かる。

       

ちょっと気になるのは、「検出限界」の値が書かれてない点。グラフの出典

となっている、震災復興支援放射能対策研究所のHPで記事を読むと、

    

   「当財団WBCの検出限界である300Bq/body(セシウム134、

    137とも)は、受検者(成人)が検出限界程度の放射能を有して

    いた場合に、1年間毎日平均2.4Bqのセシウム137を摂取し

    ていることとなり、現在の存在比率ではセシウム134も合算して

    年間約0.023mSvの被ばく量となります」

    

と書いてあった(12年10月11日)。「Bq/body」とは、一人あたりのベク

レル数、つまり身体内の放射能の量だ。計算のプロセスや根拠が分からな

いが、300Bqというのは僅かな量だし、その限界より下ということは、普通

に考えてまず大丈夫だろう。仮に10倍多く見積もっても、年間0.23mSv。

いわゆる1mSv基準と比べても、5分の1強に過ぎないのだから。

            

ただし、内部被曝の検査は外部の推計よりさらに人数が少ないし、外部よ

りも個人差(食生活の違いなど)が大きいから、やはり一部の人の問題は

残るし、低線量被ばくの問題は依然として残ってるわけだ。。

     

       

          ☆          ☆          ☆

最後に、朝日の記事が最も大きく扱ってる、甲状腺被曝の問題について。

朝日で甲状腺と言えば、大岩ゆり記者。放射線に関心のある方、特に朝日

の購読者なら、すっかりお馴染みの名前だろう。最初に大きな話題となった

のは、ちょうど1年前。まだ社会が放射線に敏感な時期に、朝刊の1面トッ

プで、「87mSv」の被曝を報じたので、ウチでは直ちに、注意を促す解説

記事をアップ。非常に多くのアクセスを頂くことになった。

     

  朝日の甲状腺被曝87ミリシーベルト報道の意味~実効線量と等価線量

               

詳しくはその記事に書いたことだが、要するにこの「87mSv」とは、普通の

放射線量とは意味が違うのだ。普通、話題にされてるのは、全身で計算し

た「実効線量」。それに対して、甲状腺被ばくでは、甲状腺という一部分に

限定した「等価線量」を用いることになっている。しかし、その違いは、当時

でも今現在でも、ほとんどの人は知らないので、私は「ミスリーディングな

(誤解を招きやすい)」記述として、注意を促した。

    

ちなみに、「一部分で87mSvなら、全身だと数百mSv以上のはず」と考え

るのは、ほとんど間違いだ。去年、コメント欄でのレスも含めて細かく書い

たように、甲状腺の87mSvだけ考えるのなら、全身の実効線量への換算

値は0.05倍程度に過ぎない。87×0.05=1.7mSv。

            

ただし、甲状腺以外の被ばく量は別問題だから、それを加味すると、実効

線量は1.7mSvより大きくなる。しかし各種データから考えると、10mSv

を超えることはまず無いだろう。。

      

    

          ☆          ☆          ☆

では、なぜ甲状腺被ばくが特別扱いされるかというと、そこに体内の放射性

ヨウ素が集まり、甲状腺がんにつながる可能性があるからだ。ほとんど子

供しか問題にならないし、確率も低いし、仮にがんになっても死亡率が低い

(5年生存率が90%)。しかし、チェルノブイリ原発事故の報道もあることだ

し、子供ががんになるかも知れないと言われれば、特に母親が気にするの

は自然なことだろう。

        

ところが、この甲状腺被ばくの実態は、外部被曝や一般の内部被曝と比

べて遥かにつかみにくい。放射性ヨウ素 I 131の物理的な半減期は僅か

8日間だから、体外への排泄など無くても、数ヶ月でほぼ消えてしまうのだ。

   

8日間で1/2ということは、16日間で1/4。24日間で1/8。32日間で

1/16。40日間で1/32・・・。急速に減るわけだが、だから安全という話

ではない。要するに、短い期間で集中的に放射性崩壊して、放射線を出す

ということなのだ(逆に危ないとまでは言わない)。それに対して、物理的半

減期が30年のセシウム137の場合は、じわじわ崩壊する。

         

要するに、ヨウ素による甲状腺被ばくは、事故直後の短期間で生じて、実

測データもほとんど無いから、いまだに話題になってるのだ。と言うより、い

まや最も話題になってる被曝だろう。福島県の子ども、約13万人の超音波

検査によると、がんが3人、がんの疑いが7人とのこと。人数の割合的には

「0.0%」だが(朝日の表記)、合わせて10人の子どもと家族にとっては重

大だし、今後増える可能性もある。。

      

     

          ☆          ☆          ☆

朝日の記事全体の見出しは、一番上に大きく、「見えぬ敵 闘い続く」となっ

ているが、記事の右上で次に目立つ見出しは、「甲状腺被曝の実態 推計

頼み」とされている。1ページ特集のほぼ半分を使った甲状腺の報道の執

筆者は、大岩ゆり&野瀬輝彦記者だ。

    

過去の経緯から、私の目線は直ちに、単位の説明を探したが、一番上の

グラフに小さな文字で、「数字は甲状腺局所の被曝線量」と書かれている。

最近はこの「局所」という説明をよく使ってるようだ。何も説明しないよりは

いいし、分かりやすいのも確かだが、たまには「等価線量」と「実効線量」

という言葉を説明すべきだろう。

         

少なくとも朝日は、一貫してこの言葉を避け続けている。「等価線量」で過

去1年の記事検索をしても、岐阜県版の記事で2つ、滋賀県で1つヒットす

るのみ。全国版はゼロ。「実効線量」も、福島で4つヒットするのみだ。

      

  (☆追記: 12年3月23日、ようやく全国版で等価線量と実効線量が

         説明された。)

             

肝心の甲状腺の記事内容は、ほとんどが推計に当てられていて、これは

良くまとまっている。カラーのグラフと表で大きく扱われてるのは、18の避

難ルートを想定した計算。ヨウ素の大気中の拡散シミュレーションから3km

四方ごとの濃度変化を推測して、計算したらしい。甲状腺の場合、ほとんど

は内部被曝だと思うが、外部被曝も加味してるのかも知れない。そこまで

は書いてないし、担当した放射線医学総合研究所(放医研)のHPその他

を見ても、発見できなかった。

        

とにかく、1歳児の推計で、最高でも104mSv。しばしば名前があがる、双

葉町、浪江町、飯舘村でも、数十mSvの甲状腺等価線量らしい。もちろん

実効線量ではないし、今後70年分の影響を合算した「預託線量」だ。しかも

これは、24時間ずっと屋外にいたという想定に基づくものだから、実際はこ

れより大幅に少ないだろう。

              

ただ、双葉町からの避難が12日午前だと41mSv、午後だと86mSvとい

う数字は、印象深かった。僅か数時間の遅れで、2倍の被曝量になってる

わけだ。。

            

    

          ☆          ☆          ☆

環境省からの委託による放医研の推計には、もう一つ(一応、別枠の?)

の方法がある。「まず、体内のヨウ素とセシウム比を3対1と仮定し、セシ

ウムによる内部被曝から推測」。これしか、朝日には書いてない。

      

まあ、イメージ的には理解できる。セシウムについてはよく分かってるから、

そのデータを用いてヨウ素を推測し、甲状腺被曝を計算したという流れだ。

しかし、理由もそうだが、そもそも「3対1」というのは何の比なのかが分か

らない。被曝量なのか、ベクレル数なのか、質量なのか。ネットでもなかな

か説明が見つからなかったが、ようやく発見。ベクレルの比、つまり放射能

の比のようだ。

         

福島県HPにあるpdfファイル、「甲状腺検査実施状況及び検査結果につ

いて」(2月13日)を見ると、Cs(セシウム)134と137の実効線量(成人)

から、それらの吸入摂取量を計算。一方、飯舘村と川俣町のデータから、

成人の実効線量と、子供の甲状腺線量との関係を調べ、ヨウ素131と

セシウム137の比を3対1に設定。ちなみに、実効線量も甲状腺線量も、

平均値ではなく、90パーセントタイル値を用いてる。低い方から並べて、

90%の人が含まれる値のことだ。

      

これで、セシウムの実効線量からヨウ素の摂取量が計算できるから、それ

を使って、他の地域の甲状腺線量も推計できる。まあ、一応なるほどと思

わせる専門的研究だが、気になる点も色々ある。

           

計算記事を数多くアップして来た私が読み返しても、途中の計算のプロセ

スが分からない。経口摂取と吸入摂取、あるいは成人と1歳児についての、

実効線量係数の違いを考慮しても、納得できない。また、朝日はどうも、元

のデータが90パーセントタイル値という話を、他の地域の9割の甲状腺線

量が分かったという風に持って行ってるようだが、少なくとも数学的には必

ずしも正しくない解釈だ。まあ、統計的推測では普通の事かも知れないが。

         

他にも、しばしば登場する弘前大・床次(とこなみ)眞司教授は、3対1よりも

かなり低い比を主張してるようだ。事故1ヶ月後の浪江町民62人の検査を

元に、最大でも0.87倍と書いてある(福島民報HP、2013.1.28)。これ

が何の比か、やはり曖昧だが、放医研よりかなり低い線量を出してるようだ

から、要するにヨウ素を低く見積もってるわけだろう。

      

    

          ☆          ☆          ☆

いずれにせよ、放医研、床次教授の他に、世界保健機関(WHO)や国連

科学委員会(UNSCEAR)の推計も、先日立て続けに発表された。すべて、

「大部分の人」にとっては「ほぼ」問題ないだろう、という感じの内容になっ

ている。しかし、少数の人にとっては別問題だし、曖昧な部分も少なからず

残ってるわけだ。

               

当然、今後も様々な研究や調査・検査が続いて行くわけで、時間と共に関

心が薄れるのは仕方ないにせよ、福島=フクシマの問題がまだ長い年月

にわたって続くことは、忘れるわけにいかない。私は引き続き、中立的な

立場から事の推移を見ていくし、当サイトでもまた記事にするつもりだ。差

し当たりは、浪江町民の染色体異常に関する血液検査が気になる所だ。

1000人が応募、弘前大が強力とのこと(馬場・浪江町長の談話)。

    

それでは、今日はこの辺で。。☆彡 

    

    

   

P.S. 執筆直後に気付いたが、本日夕方配信の朝日新聞デジタルの報

     道(大岩ゆり記者)によると、福島県「以外」の子どもの甲状腺検査

     結果を環境省が8日発表。2cm以下の嚢胞(のうほう)や、5mm

     以下のしこりの割合は、福島とほぼ同じだったとしている(福島は

     4割、今回は6割)。長崎市・甲府市・弘前市の3~18歳の4000

     人強が対象で、詳細な分析は月内に公表とのこと。その大きさの、

     のうほう、しこりは、問題ないそうだ。。

                 

            

cf.被曝する年間放射線量すべての計算方法(自然・医療、外部・内部、屋外・屋内)

  ラジウム温泉の放射線について~低線量被曝の影響

  朝日の甲状腺被曝87ミリシーベルト報道の意味~実効線量と等価線量

  WHO(世界保健機関)による被曝線量の推計(全国、年代・経路別)

  確率的影響と確定的影響~放射線被曝の二分法の再考

  日本人の自然放射線と医療被ばく線量(『新版 生活環境放射線』2011)

                

                                  (計 6162文字)

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