美輪明宏『ヨイトマケの唄』の背景~朝日新聞be・うたの旅人
(☆13年3月30日追記: シリーズ最終回の記事をアップ。
卒業式ソングの新定番、「旅立ちの日に」~朝日・うたの旅人(最終回) )
☆ ☆ ☆
2010年・大晦日のNHK『紅白歌合戦』、植村花菜が延々と『トイレの神様』
を歌った時も話題になったが、2012年の『紅白』ではもっとインパクトのあ
る曲が延々と6分間、1人で歌われた。美輪明宏本人の作詞・作曲、『ヨイ
トマケの唄』。
私もブログ記事ですぐに褒めたし、紹介役だったキムタク=木村拓哉の目
もウルウル。そのキムタクの天敵で、辛口テレビウォッチャーとして有名な
今井舞も、確かこの曲だけは絶賛してたと思う(たぶん『週刊文春』)。ネッ
トでの評判も、総じてかなり良かった。
と言っても、実はYouTubeに溢れる違法動画の再生回数だけ見ると、それ
ほどの数でもない。ということは、一部の人達の心に突き刺さって、その他
多くの人からも静かに受容されたということだろう。高齢者の方などは、昔
から何度も見聞きして、特に驚きが無かったかも知れない。元々、定評ある
曲で、他の歌手によるカバーも多いとのこと。私自身は、この曲も、美輪の
黒っぽい真面目な外見も、全く初めてだったから、かなり驚いたけど、一瞬
でテレビに引き込まれた。
この曲を深く取り上げたのが、今日(3月16日)の朝日新聞・朝刊、別刷
be。大型企画「うたの旅人」の1本として、今回はこの「うた」と共に、九州
へと取材旅行(中島耕太郎記者)。と言っても、美輪(本名・丸山)の出身
地・長崎市ではなく、筑豊炭田の中心地・福岡県飯塚市だ。この企画の旅
先は毎回、適度なヒネリが入ってる。。
☆ ☆ ☆
まずは、位置を確認しと
こう。左はウィキメディア
で公開中の九州の地図
で、DEMIS Mapserver
が出典。私が加えた上
側の丸が、ほぼ筑豊炭
田の辺りだ。左下の丸は
長崎市。同じ北九州でも、
100kmほど離れてる。
さて、「ヨイトマケ」という言葉
の説明は、紅白の前くらいか
ら、あちこちに書かれて来たが、念のため、ここでも引用しとこう。
「よいっと巻け!」は、工事現場の機械化が進んでいなかったころ、
綱を引いて槌(つち)を上下させて、地盤を突き固める作業の時に
使われた掛け声だ」 (今日の朝日の記事)
つまり、50年ほど前の一般的な工事風景の様子であって、「父ちゃんのた
めなら エンヤコラ 母ちゃんのためなら エンヤコラ」といった掛け声的な
労働歌も、昔からあったんだろう。ウィキペディアのこの曲の項目を見ても、
そんな感じのことが書いてあった(関連項目の箇所)。
美輪の曲の作詞には、2つの個人的経験が重ねられてるらしい。まず、小
学校のクラスで「最も汚らし」かった友達の母親の姿。「○○○のためなら
エーンヤコーラ」と本当に歌いながら働いてたそうだ(原文では、○○○は
友達の名前)。もう一つの個人的な話は、苦労してエンジニアになった別
の友人の姿。これは特に、歌詞の後半と関わるエピソードだ。
美輪本人は、2歳で母親と死別。記憶は、死に顔しかないそうだが、これ
は後になって作られたイメージかも知れない。ウィキを読むと、美輪の少年
時代の苦労を強調した説明になってるが、朝日は必ずしもそうゆう論調で
は書いてない。そもそも海星中学(長崎の私立)から国立(くにたち)音楽大
学附属高校(東京の私立)に行ってるのだから、少なくとも中退まではそれ
ほど生活には困ってなかったはずで、成績も優秀だったんだろう。その後
も、美少年シャンソン歌手として、人気者だったようだ。。
☆ ☆ ☆
そんな華やかな側面も持つ美輪が、地味な『ヨイトマケの唄』を作るキッカ
ケになったのは、50年代後半の筑豊地方での仕事。35年生まれだから、
20代の前半ということになる。ちょうどその頃、石炭から石油へのエネル
ギー転換が進み始めて、特に筑豊炭田では急速に街の衰退が進んだらし
い。炭鉱そのものも、石炭の濫掘や設備酷使で疲弊してたとのこと。
用意されたタクシーで行き着いた先は、石炭の粉で黒ずんだ街。収容人数
100人ほどの小屋で、痛んだ床に細いヒール(女物か?)をめりこませ、ロ
マンチックで甘美な世界を歌ってる時、ふと客席に戦慄、恥ずかしくなった
そうだ。石炭で黒い手や、顔のしわの黒光り、子どもたちの疲れた瞳。「こ
の人たちの前で歌える歌が、私にはない」。。
この時から、『ヨイトマケの唄』など、社会的な歌を作るようになったとのこと。
と言っても、ヨイトマケは64年のリサイタルで発表、レコード発売は65年だ
から、筑豊炭田での出来事からは5、6年ほど時間が経ってる。朝日はまっ
たく書いてないし、ウィキの説明も曖昧だが、おそらく60年前後くらいに、同
性愛を公言したようだ。当時の時代背景を考えると、少なくともプラスには
働かなかっただろう。最近の日本なら、一部芸能人にはプラスかも知れない。
同性愛公言との関係は、時間的にも内容的にもよく分からないが、とにか
く美輪が低迷から再び(?)脚光を浴びたのは、ヨイトマケのヒットだったら
しい。ウィキには40万枚という数字もある。ただ、古い話だということもあっ
て、説明の信頼性はちょっと微妙ではある。
例えばウィキには、『木島則夫モーニングショー』で10万通を超える投書が
あったと書いてるが、そこには先日、「要出典」との注意書きが付けられた
(3月3日)。今日の朝日では、2万通と書いてある。テレビ朝日の元になっ
た局・NETの番組でもあるし、当時のテレビの普及度(63年に1600万台)
を考えても、2万という数字の方が本当らしく感じられる。1億台以上のテレ
ビが普及した今現在の、ネット動画の再生回数でさえ、数千~数十万回な
のだ。もちろん、明白な根拠ではないが。
☆ ☆ ☆
こうしてみると、美輪とヨイトマケの唄の関係は、かなり複雑だということが
分かる。少年時代のプライベートな思い出2つは、自分ではなく友人の話だ
し、転機となった筑豊でも、美輪は派手な格好で華やかな曲を歌ってた。
だからこそ、一気に逆方向に向かったのかも知れない。
紅白では、暗いステージに黒い衣装で出て、いつもの金髪ではなく黒いか
つら。テレビカメラの切り替えも僅か2回で、貧しくも美しい労働者の世界
を、男として歌ってる。歌詞、メロディー、声を震わせる独特の歌い方、思
い切り込められた感情。どれを取っても、今時、非常に珍しいもので、しか
も人間の生の本質を突いた内容だから、少なからずの人々の心を打った。
とはいえ、昔は反発その他も色々あったようで、華やかな衣装を捨て、素
顔に白シャツでヨイトマケを歌った美輪に、「そんな歌はやめろ!」とトマト
を投げた客もいたらしい。「ストーンと人気を失って苦しい時代になった」。
ちなみに、石炭とか炭鉱というと、日本社会では寂れた昔話のようなイメー
ジもあるが、世界的には今でもエネルギーの主力となってる。日本でも、家
庭では見かけなくなったが、ここ10年の発電で見ると、天然ガスと石炭に
よる火力発電と原子力発電が三本柱だったのだ。もちろん3・11以降、原
発は急減したが。
とにかく、筑豊を始めとする日本の炭鉱が寂れたからといって、世界的に
炭鉱や石炭が過去のものとなってるわけでは全くない。今でも十分、「黒い
ダイヤ」であって、天然ガスや石油より埋蔵量が長持ちするという情報もあ
る。問題は、地球温暖化の原因とされてる温室効果ガス・CO2(二酸化炭
素)の発生量が多い点だろう。。
☆ ☆ ☆
最後に、ふと気になったのが、美輪の語る友達のエピソード。鼻水を、母
親が口で吸い出してたというのだ。素朴で無償の愛というテーマの原型だ
ろうが、そういえば最近、鼻水を露骨に垂らした「鼻たれ小僧」というもの
を見かけることはない。花粉症は別物だろう。
ネットで軽く調べると、衛生環境や栄養状態(蛋白質など)の改善、免疫機
能の上昇などが一応挙げられてるが、信頼できそうな医療系サイトは発見
できてない。鼻炎や風邪の大衆薬の進歩&普及は関係してるかも知れな
いが、ティッシュペーパー(ポケット型など)の普及はあまり関係ないだろう。
ま、昔の鼻たれ小僧より、今の花粉症患者の方が遥かに人数が多いこと
だけは確かだと思う。いまやマスクは、日本独特の慣習とか文化の一つ
となってるほどだ。
なお、美輪が強調する「無償の愛」というものは、また別の機会に考えてみ
たい。私は、その言葉に値する美しい思いや行為があるという事について
は素直に認めるが、では本当に無償、無報酬で何も求めてない、美しい魂
の表れなのかというと、少し違うだろうと考えてる。美輪が、なぜ母親を歌っ
たのかという点も興味深い所だ。というのも、エンヤコラと頑張るのは、父
親の方が普通だろうから。
それにしても、「土方」や「ヨイトマケ」が差別表現とされてた(or されてる)
とは知らなかった。「土木」という言葉も何となく避けられてる気がするが、
土木建築は社会の基本だし、肉体労働は人間の基本だろう。
では、今日はこの辺で。。☆彡
P.S. この日の朝日beでは、もう一つの大型企画「フロントランナー」で、
サザンオールスターズでもお馴染み、桑田佳祐が登場(神庭亮介
記者)。大震災からの被災地の復興と、食道がんからの自らの復
興を重ね合わせてた。
デビュー曲『勝手にシンドバッド』以降、文法無視で日本語を解体、
「桑田語」を駆使してたが、近年は日本人として、日本語に回帰し
てるそうだ。無期限活動休止のサザンも、35周年ということで、
「ファンに誠意を見せるチャンスかな」、と締めくくってた。
P.S.2 13年8月21日、NHK『真夏の夜の美輪明宏スペシャル』で、紅
白の裏話を紹介。キムタクによる曲紹介は、美輪自身から受け取っ
た手書きの文章を、咀嚼して喋ったものらしい。美輪は非常に喜ん
だようだ。
(計 3999文字)
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