『ガリレオ2』第3話の数式、パルス電磁波のフレイ効果による耳の奥の弾性波か
(☆6月23&25日追記: 最新の数式記事とレビューをアップ。
男子の中で泣く女~『ガリレオXX・内海薫』愚弄(もてあそ)ぶ
『ガリレオ2』最終回の数式、浄水器と管内の水の乱流&層流 )
☆ ☆ ☆
第1章、第2章と違って、今回の第3章の数式は非常に分かりにくい。。理
由は3つ。まず、式がいつも以上に見えない。次に、式のレベルが高い。さ
らに、湯川=福山雅治がダダダッと書きなぐった式と、黒板に書かれてた
式との関連が薄い(と思う)のだ。
(☆追記: 録画チェックすると、実はかなり関連あるようだ・・)
前シリーズの『ガリレオ1』だと、最初に挫折したのは第4話の超音波だっ
たが、新シリーズは第3話で敗北感を味わった。まあ、単なる大まかなイ
メージなら分かった気もするから、一応書いとこう。既に、膨大な時間を費
やしてしまったので。
前回の数式記事に書けなかった黒板の数式は、その後、レビューの方で
キレイに解説しておいた。前シリーズでも、レビューの方にも数式を書い
てたリするので、念のため。。
☆ ☆ ☆
まず、物語に即して、似て非なる3つの波を区別しとこう。ハイパー・ソニッ
ク・サウンドシステムで使った超音波は、広い意味では音波の一種で、空
気を振動させる波。耳栓を使えば、ある程度さえぎることが可能だ。
耳栓が役に立たないのが、今回メインとなった電磁波。真空でもある電場
と磁場の変化であって、空気は関係ない。呪いのような変な声や不快な
音が「心聴(きこえ)る」という現象を引き起こしたのは、パルス状の電磁
波を一方向に照射する小さな装置だった(by 男性社員・小中行秀)。
電磁波によるこの聴覚効果は、1962年に発表した研究者の名前を取っ
て「フレイ効果」(Frey effect)と呼ばれ、特にマイクロ波を使う場合はマ
イクロ波聴覚効果とも呼ばれてる。
超音波とも電磁波とも違うのが、耳の奥(内耳)を伝わるらしい弾性波。
フレイ効果は、いまだにあまり研究が進んでないようだが、普通は第1
話のような加熱によって体内に熱膨張が発生、それによって普通の波
が生じると考えら
れてるらしい(左
は私が書いた図)。
イメージ的には、
水面で風船を膨ら
ませると水の波紋
が生じるようなも
のだろう。これは弾性を持つ媒体での波だから、弾性波であって、その意味
では超音波と同じ類とも言える。
結局、空気振動による超音波、パルス状の強電磁場、耳の奥の弾性波と
いう3つの波が登場した訳で、超音波以外の2つが事件と関わるものだっ
た。
☆ ☆ ☆
では、いよいよ数式を見てみよう。最後のエンドロールで強調されたのは、
下の画像の式だった(赤字は私の加筆)。前回はこの式に書き落としのミ
ス(2乗の「2」)があったが、今回はミスとは感じない。しかし正直、合って
るかどうかも分からない。
式の途中にデザイン的な絵を入れてるのは、第1話と同様だ。あの時は、
10の7乗の「7」の代わりに、3重の丸と4つの波を合わせて描いてた(合
計7つ)。今回は、パルス状に脈打つカクカクした波が人間の頭を通過す
る絵になってるから、小型装置から発射された電磁波のことだろう。という
ことは、式全体は電磁波によって耳の奥に生じた弾性波を指すのだと思う。
ちなみに、絵を使った箇所の数式は、湯川=福山の脳内や、エンドロール
終盤の大型ホワイトボードから推測して、元々「 k m r 」だったと思われる。
(☆追記: 上のΣ(シグマ)の式と等号(=)で結ばれてるらしい、長くて複
雑な式を、巨大ホワイトボードから大まかに読み取った。「さっ
ぱり分からない」♪
また、その次の数式も読み取れた。路面、黒板、レポート全てに書かれ
てたが、意味は
不明。)
☆ ☆ ☆
残念ながら、あまりにヒントが少な過ぎて、式のキレイな解読はできないが、
おそらく弾性波に関する波動方程式の解(の一部)だと思う。一般的な解
については、前シリーズの第5話で記事を書いたが(アーチェリーの弓の
振動)、ここでは特殊な解を求めてるように見える。
時間 t と位置 r に応じて波の高さがどうなるかを計算する時、単純に「時
間 t の関数」と「位置 x の関数」との掛け算(=積)だと仮定すると、上の
ような感じの解が出るのだ(変数分離形)。右端の cos が t に関する部
分で、その左側が r に関する部分だ。
Σと∞(無限大)とcosを見ると、「フーリエ級数展開」のように感じるが、
もう少し遡って、t と r の偏微分方程式を普通に解いてることになる。文
字 a は、耳の奥の振動する場所の長さで、c₁ は波が伝わる速度を表
す(ような)定数。たぶん、両端が固定されてる場合だと思う。
☆ ☆ ☆
参考までに、「フーリエ級数展開」というもののイメージも見ておこう。要す
るに、滑らかな無数の波(正弦波)を集めて、カクカクした波に限りなく近づ
けようということだ。ドラマの式も、正弦波を変形したものを無数に集めた
和(Σ:シグマ)という意味では、似てないこともない。
左はその合成を表す図で、ウィ
キメディアで公開されてるもの。
波長(波の横幅)や振幅(上下
の変化)が異なる「正弦波」(三
角関数 sin や cos の曲線)を
1つ、2つ、3つと順に集め(赤
線)、四角い方形のパルス波
(青線)に近づけた様子だ。
作者は、Jim.belk氏。このま
ま続ければ、赤線がほとんど青
線に重なるのは分かるだろう。
無限に続けた時の赤線を表す式が、数学者フーリエによるフーリエ級数
展開で、グラフの軸を適当に取って少し式変形すれば、ドラマの式に少し
似たようなものへと変形できる。
☆ ☆ ☆
ちなみに、最初にあげた式以外は、ほとんど解読できてない。ただ、大型
ホワイトボードで非常に長い式の中身を見ると、「3λ+2μ」と書いてた。
これは、弾性波の方程式で使う2つの「ラメ定数」λ,μの組合せとして普
通の式のようだから、たぶん弾性波の偏微分方程式の非常に複雑な解
を書いてたのだろうと想像する。
例えば、熱を受けた体内から、熱が逃げていくことまで考えると、非常に
複雑な話になるわけだ。ちなみに熱伝動方程式は前シリーズのラストで
話題になったもので、自力で最後の答まで解いてある。
なお、ドラマ序盤で登場した、動粘性率に関する黒板の文章&数式は、以
下の通り。マーボー豆腐などの粘り気を考えてたらしい。あと、電磁波装置
の実用化には色々ウワサが出てるが、少なくとも呪いの声を聴かせるレベ
ルには到達してないようだ。
普通のドラマ・レビューは明日アップの予定。では、今日はこの辺で。。☆彡
動粘性率
(coefficient of kinematic viscosity)
V = l×c
V: 動粘性率
l : 分子間の距離
c: 液体中の分子の速度
レイノルズ数
Re=ρVL / μ (注: 黒板はVをUと書いてたが、速度だからVが適当)
P.S. 実験室の黒板で、波の変換方法が簡単に説明されてた。英語
を直訳すると、
「各時点で、正弦
波はゼロを示す軸
をマイナスの方向
へと横切る」。そ
の各時点と、パル
ス波の頂点を対応
させるようだ。)
P.S.2 ドラマ終盤で、電磁場発生装置をチェックする時に少し映ってた
雑誌は、応用物理学会の月刊誌『応用物理』で、2013年の
vol.82、No.4。つまり今年の4月号だが、「湯川学は応物
会員だった!? ── 連続ドラマ『ガリレオ』の続編が4/15
スタート!」と題する記事が実際に掲載されてるようだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
cf. 『ガリレオ2』第1話の数式、
『ガリレオ2』第2話の数式、不覚筋動による水晶振り子の強制振動
『ガリレオ2』第4話の数式、流体中の回転ボールを曲げるマグナス効果などか
『ガリレオ2』第8話の数式、花火の光の入射角&3つの像の位置関係か
『ガリレオ2』第9話の数式、超音波による圧力・密度変化(&ビルの高さ)
『ガリレオ2』第10話の数式、ゼラチン絵の具の濃度や溶解反応速度か
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
曲がった男のストレートなキレ味~『ガリレオ2』第4話・曲球る
虚像=花火を演じる舞台としての生~『ガリレオ2』第8話・演技る
エリートがみだす凡人の心の歯車~『ガリレオ2』第9話・撹乱す
誰が何を救うのか~『ガリレオ2』第10話・聖女の救済(前編)
(計 3690文字)
| 固定リンク | 0
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 「右」という言葉の説明、「(東の)朝日を見ながら泣いた時、(南の)風に吹かれて先に涙が乾く側のほっぺた」~『舟を編む』第1話(2025.06.20)
- APU(立命館アジア太平洋大学、別府市)の番組2つの比較、NHK『多国籍学生寮の72日間』はドキュメント72時間よりリアル(2025.06.11)
- NHK『トリセツ』、カチカチ心不全の取説より、9階まで歩いて登る「小保方さん」♪&6日連続で長めのバイク(2025.05.16)
- 胃潰瘍が原因なのに脳が間違えて左胸に「関連痛」、歯医者の「放散痛」との違い(『ドクターG』)&11km走(2025.05.08)
- 70年・大阪万博、太陽の塔「消えた第4の顔・地底の太陽(いのり)」、現在は神戸で産業廃棄物に?~NHK追跡特番(2025.05.04)
「物理」カテゴリの記事
- ペルチェ素子による「冷温」効果のソニー「REON」POCKET 5、雑誌『LEON』(レオン)と同じモテ系オヤジの高価な流行り物か♪(2024.06.22)
- 水平回転と垂直回転のジャイロ効果の違いなど、ChatGPT4に質問した回答(『魔改造の夜』)&11km、休養でもランペース♪(2024.03.06)
- 冬(寒い日)にスマホの電源が急に落ちる物理的な理由・原因~電池の内部抵抗が増加、端子電圧が降下、保護回路が作動(2023.01.07)
- 量子もつれ(エンタングルメント)の実験的検証~ノーベル物理学賞2022、授賞・受賞理由(英文和訳)(2022.10.07)
- 家庭崩壊の恨みを抱く古芝=山上徹也、手作りの科学的武器で政治家の暗殺を計画~『ガリレオ 禁断の魔術』レビュー(数式解説付き)(2022.09.19)
コメント
初めまして。
数学的には、方形波の波形は、サイン波形の波を多数、重ね合わせても、再現できます。
また、サイン波形の波を重ね合わせることを数式で表現した場合、フーリエ級数展開になります。
しかし、パルス発生器などの装置を使って、方形波をこのように発生させた場合、フレイ効果は生じないんですよね。
別個の方式を使って、方形波を発生させる必要があります。
マイクロ波パルスのパルス幅は、1マイクロ秒~32マイクロ秒なのですが、方形波の立ち上がりがシャープになることが求められるのです。
投稿: patentcom | 2013年5月 4日 (土) 15時24分
フレイ効果(マイクロ波聴覚効果)により、熱弾性波が発生する点については、米国空軍の米国特許6587729号に解答が記載されています。
この米国特許は、フレイ効果を使って、人間の脳に直接、音声を送信する装置になります。
熱弾性波の性質に対応させて、プレフィルターが設置されています。
投稿: patentcom | 2013年5月 4日 (土) 15時28分
> patentcom さん

はじめまして。情報コメントどうもです。
米国特許6587729号というものについては、
そちらのブログで少し雰囲気をつかめました。
ただ、米国特許商標庁のサイト内で検索すると、
既に2011年に「失効」(EXPIRED)とのこと。
これは、03年に認められて8年経たない間に、
維持費用を払わなくなったということだから、普通に
考えるなら、商業的に成功しなかったのでしょう。
もちろん、理論的な価値や、自分たちで
使用するための有用性とかは別ですけどね。
ちなみに、08年にアナウンスされた「MEDUSA」と
呼ばれる装置も、それ以降、話題になってないようです。
あと、元々は電気系の技術者だった人気作家・
東野圭吾は、この「心聴る」という短編の末尾に、
2012年5月時点で実用化は確認されていません、
と注意書きを入れてました。
原理的には可能だと感じますが、コスト、有効性、
安全性、信頼性など、色々と難しいのでしょう。。
投稿: テンメイ | 2013年5月 5日 (日) 19時35分
丁寧な回答を頂き、ありがとうございました。
フレイ効果を利用して、音声信号を直接、脳に送信する無線方式は複数あるのですが、米国特許6587729号の方式は実際には使っていないので、特許料を支払わなかったのでしょう。
米国特許6587729号は、永年の機密を解除したことに意義があるのでしょう。
MEDUSAについても機密を解除したことに意義があるのでしょうね。
企業は製品を防衛省に納品していることは隠蔽するので、露顕していないのでしょうね。
投稿: patentcom | 2013年7月15日 (月) 23時37分
> patentcom さん

こんにちは。再びご丁寧にどうもです。
折角、取得した特許を使わなかったとすると、
実用的に色んな問題が大きかったんでしょうね。
確かに、機密の解除だけでも、
社会的・文化的な価値はあると思います。
一方、企業が兵器その他を防衛省に納品した時、
どの程度隠蔽できるのか、私にはよく分かりません。
最近の米国の騒動を見ても分かる通り、
リークや情報漏洩はいまや日常茶飯事。
まさに情報戦争と化してますからね。
感心しない製品の納入を隠した場合、それが
露見した時の様々なリスクを考える必要があります。
私が企業の幹部なら、隠蔽はできる限り
避けようと努力するでしょう。。
投稿: テンメイ | 2013年7月17日 (水) 07時35分