心の同期と「慣性の法則」~『ガリレオ2』第2話・指標す
(☆6月23&25日追記: 最新の数式記事とレビューをアップ。
男子の中で泣く女~『ガリレオXX・内海薫』愚弄(もてあそ)ぶ
『ガリレオ2』最終回の数式、浄水器と管内の水の乱流&層流 )
☆ ☆ ☆
やっぱり予想以上に時間がかかる・・・。大教室の黒板(下側)の端から端
まで、板書(黒板に書かれた文字・記号・図)はオンエア中にほぼ読み取れ
たけど、それを写し取って記事にするとなると手間がかかるのだ。肝心の
文系的解釈やレビューの時間がなくなってしまったが、もう今さら仕方ない。
他にもやる事が沢山あるので、サラッと書き上げよう。
さて、今回、湯川(福山雅治)が謎を解いた直後に、ホワイトボードに書きな
ぐった数式については、既に丁寧に解説してある。85%くらいの完成度だろ
う。興味のある方で、まだ読んでない方は、ご参照あれ。大まかに言うなら
高校2~3年レベルの物理学(力学)の初歩的応用、剛体の回転運動だ。
剛体とは大きさがあって変形しない物体で、この場合は水晶振り子のこと。
『ガリレオ2』第2話の数式、不覚筋動による水晶振り子の強制振動
あの水晶振り子がなぜ揺れたのかと言うと、それを吊り下げてる女子高生・
真瀬加奈子(川口春奈)の肩と腕の筋肉が、意識しないまま動いてたから
(不覚筋動)。実はこれ、少女の心の揺れも含めて、大教室の講義の際に
黒板に書かれてた話と結びついてるのだ。
それは、可愛い女子大生たちがよろめく萌えシーンとも一応関係してるし、
沢山のメトロノームの「同期」(=同調)とも関係ある。ひょっとすると、今後
の主演俳優2人の「同期」とも関係してくるかも知れない。。
☆ ☆ ☆
ではまず、黒板の下側を完全に再現して説明する所からスタートする。あ
れは、英語をまじえて難しげに見せかけてたけど、内容は高校1~2年の
物理(力学)の標準レベルだった。決して、大学レベルの高級な話ではな
いし、理系しか関係ない話でもない。
以下、苦手な方はしばらくスクロールすればいいけど、スクロールのスピー
ドは少し緩めて、何となくでも流し読みしとくと、後の話が多少分かりやすい
と思う。今後のテレビ放送で、黒板、ホワイトボード、ノートなどを見る時の
参考にもなるだろう。私も全部は読み取れてないけど、かなり物語と関係し
た内容を書いてるのは間違いない。
黒板は、左端から右端に
かけて色々書いてたから、
5分割してみる。まず、左
端の上側の5行を訳すと、
力学
(古典力学)
(ニュートン力学)
アイザック・ニュートン
ガリレオ・ガリレイ。
力学(メカニクス)とは、語源的には「機械論」という意味。普通は末尾に「s」
を付けて、「mechanics」(メカニクス)と書くはずだが、黒板では3行とも、
「s」を省略してあった。「古典力学」の古典とは、大まかに言うなら、相対性
理論や量子力学が登場する前、19世紀まで、と思っておけばいい。それを
築き上げた代表者2人が、ニュートンとガリレオということ。
先駆者ガリレオらの研究を受けて、ニュートンが一通り完成させた・・・とい
うイメージで、だからニュートン力学とも呼ばれる。著作については、普通の
人にとっては、ガリレオの方が遥かに読みやすくて面白いはずだ。もちろん、
ドラマや小説の『ガリレオ』よりは難しいけど。。
☆ ☆ ☆
次に、その下に
書かれてたこと。
理論体系
1.慣性の法則
2.ニュートンの
運動方程式
3.作用・反作用
の法則
4.合成 ⇒ 要請
1番が、今回強調されてた「慣性の法則」。外から力が加わらなければ、物
体は止まったままか、同じ動き(等速で直線の運動)を続ける。2番は、物
体の加速度(=速度の変化)は力に比例し、質量に反比例するという話。普
通、F=mαとか、α=F/mなどと書かれてる。Fが力、mが質量、αが加
速度。この質量は、加速されにくさの程度、つまり慣性を表してると考えられ
るので、慣性質量と呼ばれることもある。
3番は、ある物体が他の物体に力を加えたら、同時に他の物体も元の物体
に力を加えるということ(逆向きで同じ大きさ)。簡単な例は、ボートに乗った
人が岸を棒で押すと、いわゆる「反動」でボートが岸から離れることだ。
普通、3番で止める所だが、なぜか4番まで書いてあったのは、ニュートン
のバイブル的な主著『プリンキピア』(自然哲学の数学的諸原理)の書き方
に合わせたのかも。要するに、力や加速度は合成できるというものだ。2人
が同じ向きに力を合わせると、重い物も素早く動かせる。そんなイメージだ。
以上、4つの項目の右側に、「要請」と書いてたのは、科学監修の東大・大
島まりのこだわりかも知れない。おそらく、「そうなってる」というより、「そう考
えることが古典力学で要求されてる」と言いたいのだと思う。実際、それは
普通の物体の運動だとかなりよく当てはまるが、超高速の物体や非常に小
さい素粒子レベルの世界だと上手く行かなくなるのだ。
☆ ☆ ☆
それらの右側には、具体例として、列車(train)に乗った人間(man)3人
の動きが解説されてた。頭文字「t」と「m」が、後の用語に使われてる。
左端の数式は、先ほど
の「2.運動の法則」を、
微分を使って書き換え
たもの。
F=mα=m(dv/dt)
=d(mv)/dt
という変形だ(vは速度、
tは時間)。加速度α
は、速度 v を時間 t で微分したものだった(定義と言ってもいい)。
ニュートンの第1法則(慣性の法則)と書かれた下に、列車に3人の乗客が重
なって立ってる様子が描かれてる。車両の質量がM、重力加速度g(=9.8
m/s² ; このmは長さのメートル)、3人の質量(合計)がm。列車と人には
それぞれ、下向きの重力Mg、mgが加わる。
☆ ☆ ☆
この列車に、右向きの力Fを加える(たとえば機関車やロープで引っ張る)
と、列車は加速するが、その時に人は少しの間、左側に傾くことになる。こ
れは、非常に大まかに言うなら、人が止まったままの状態を保とうとするか
らで、慣性の法則の身近な例なのだ。
人が左に傾くということは、足の裏だけ右にすぐ動いて、上体に行くほど遅
れるから。ということは、車両の床と接してる足裏にはすぐ摩擦力(f mμ)
が加わるけど、その力が上体まで伝達されるのに時間差(タイムラグ)があ
るということだ。足に右向きの力が加わった瞬間には、まだ上体に右向き
の力が加わってない(1000分の1秒間隔とか)。地震や津波を考えてもい
いし、電車の衝突事故で後ろの方が安全だということを考えても分かる。
その時の力と加速
度を描いたのが、
左の図。
まず車両について
は、右向き(→)の
力Fに主導されて、
加速度αが生じる。
ただし、車輪の摩擦
力( f tμ)が、左向き(←)に少し妨害する。前後の車輪で、それぞれ半分ず
つ、 f tμ/2の摩擦と考えてる。車両に下向きに働く重力の反作用は、上
向き(↑)の Rt とされ、これまた前後の車輪で半分ずつ、Rt/2と書かれて
る。全体としては、右向き(⇒)に加速度αで動き出す。
一方、人間3人の足には、右向きに摩擦力 f mμが働き、その反作用とし
て、足から車両には左向きに力 f mμが働く。この f mμは、黒板の図で
は省略されてた。人間の下向き(↓)の重力は、先ほどと同じくmg。これは、
車両が人間を上向き(↑)に押す垂直抗力Nmと釣り合ってる。ということ
は、人間の足は逆に、車両を下向き(↓)に力Nmで押してるわけだ。
☆ ☆ ☆
最後は、黒板の右
端。一番上は、初
速度 v₀ 、加速度
aの物体が、時間
tを経た後の速度
v を表す式。等加
速度直線運動だ。
「a」(エー)でなく
「α」(アルファ)と
書く方がこの例には合ってるが、a もよく使う。その下、2行目は、「車両内
の動きは揃ってる」と言いたいのだろう。つまり3人まとめて考えるという意味。
3行目の式は、車両についての右向きの運動方程式(右辺が力)。右向きの
力Fを、左向きの摩擦力 f t μと f mμ が少し減らしている。4行目は、車
両の垂直方向の力のつり合い。これは、「(M+m)g=Rt」と書く方が普通
だと思うが、慣性の法則で人間が傾くという話にとってはさほど関係ない。
5行目は黒板のミスだ。人についての右向きの運動方程式で、右辺には摩
擦力 f mμと書かなければいけないのに、Fmμと書いてる。β(ベータ)は
人間の(重心の)加速度。βは車両の加速度αとほぼ同じだが、上体まで
力が伝達するのに時間がかかるので、慣性の法則により、αより少し遅れ
ることになる。その分、取り残された人間の上体が左に傾くということだ。
傾く時の回転加速度の計算はもう少し面倒で、2日前の数式記事に書いた
ように、回転の運動方程式を考える。(慣性)質量の代わりとなるのが、慣
性モーメント。つまり、回転しにくさの程度を表す量だ。実際の人体の動き
は、倒れないように姿勢をコントロールするし、足の大きさや歩幅も関係す
るから、遥かに複雑になる。
6行目は人についての垂直方向の力の釣り合い。7行目は、以上の全体を、
「慣性の参照枠」とまとめてあった。。
☆ ☆ ☆
という訳で、黒板の簡単な説明だけで長くなってしまったから、来週以降は
反省しよう。とにかく、列車内の3人は揃って一瞬、左に傾くわけだが、姿
勢制御とか、吊り革、手すりなどの利用によって、すぐに列車の動きと一
体化、同調する。広い意味で、時間的に「同期」する(シンクロナイズ)のだ。
これと重ね合わせるようにしてたのが、多数のメトロノームの同期。「相互
くり込み」現象を分かりやすくした実験で、本当にあれほどキレイに同期す
るのか、どのくらい時間がかかるのかは、正直分からない。ただ、オカルト
ではなく、物理的にありそうな話ではある。
すべてのメトロノームは、糸で吊るした台の上にあるから、やがて台の振
動を通じて、針の動きが揃って行く。それは、列車内の乗客の揺れが、車
両の加速と減速に合わせたものになるのと同様だ。もちろん、糸で吊るし
た台というのは極端な状況だが、同じ机の上、あるいは床の狭い範囲の
上に置いてれば、非常に緩やかに似た現象が起きても不思議はない。地
震を考えれば分かるように、我々はみんな、同じ一つの「揺れる台」に載っ
てるのだから。
☆ ☆ ☆
ここまでは、純粋な物理現象だが、それに人の心が加わってたのが、第2
章の物語、「指標(しめ)す」だった。
女子高生のオカルト少女、加奈子は、基本的に人間全体が、ある方向に
向かってた。犬のクリちゃんの死骸がある場所を「しめす」こと、あるいは、
犯人である門松パンのおじちゃんの名前「『か』どまつ」を「しめす」こと。
もちろん、最初はそんな劇的な変化に抵抗することになる。つまり、慣性の
法則が働くのだ。クリちゃんはどこかでまだ生きてると思い続けたい。おじ
ちゃんをまだ好きなままでいたい。。別の言葉を使うなら、保存法則とか、
恒常原則と呼んでもいい。しかしやがて、心全体の基本的な動きに合わせ
るようにして、無意識的に肩や腕は振動し、それによって水晶振り子も揺
れる。先日の数式記事では、これを「強制振動」と呼んだが、同期と見る
ことも可能だ。「ダウジング」の際には、この振り子に加奈子の脚の動きが
同期し、歩いて行くことになる。
昔、好きだった男子生徒との交際についても同様。基本的に心は、やめとけ
と伝えてる。彼が自分のことをそれほど好きでないこと、ノリが軽いことを見
抜いてるのだ。もちろん、それでも好きだったから、交際を断るまでには少し
時間がかかる。まだ、恋愛モードのままでいたい。しかし間もなく、無意識的
で自覚のない水晶振り子の揺れを媒介にして、加奈子は「ごめんなさい」と断
ることになる。無意識と言葉&行動とが、同期したということだ。
☆ ☆ ☆
慣性と同期という物理学的現象を、さらに拡大解釈するなら、あの女子大
生たち数人が一斉にフニャ~ッと傾いたことも理解できる。物理学の授業
の進行にすぐには付いて行けない心は、元のままでいようとする。つまり、
単なる福山・・・じゃなくて湯川の追っかけのままでいようとするから、ポワー
ンと傾いて上の空になるのだ。それは、父親コンプレックス的な恋愛感情に
よる慣性の法則を「しめす」ものだ。
しかし、やがて湯川の注意とか質問、あるいはテストなどによって、渋々と
彼女たちも授業について行くことになる。同期には常に、タイムラグ、時間
差があるが、この場合は最大で3ヶ月くらい遅れる。もちろん、彼女たち全
員が同調するのは、同じ一つの教室、授業という「揺れる台」に載ってるか
らだし、同じ一つの「必修科目の単位をちゃんと取ってフツーに卒業」とい
う常識の上で生きてるからだ。
最後に、まだソリが合わない湯川と岸谷(吉高由里子)について。これまた、
それぞれが自分らしさを保つ慣性の法則によって、まだ同期してないわけ
だが、同じ事件を一緒に解決し続けることで、徐々に同期していくだろう。
それと連動して、同じドラマでヒーローとヒロインを演じる福山&吉高も同期
していく。一つの「台」の上で2人が完全に同期すると、その揺れはやがて
福山ファンにも伝わるだろう。そして、ファンの「固有振動数」に近い場合は、
ガタガタッと地震が起きることになる。ちょうど、前シリーズの第3話、共振
現象のように。
視聴者としての私が、『ガリレオ2』の物語に同期するには、もう少し時間が
かかるかも知れない。リズムや波長のズレが、同期するための限界を超え
てるということはないだろう。実際、単なる数式に関してなら、既に十分同期
できてるようだ。
それでは、多分、また来週。。☆彡
cf. 宗教、科学、自然と人間~『ガリレオ2』第1話・幻惑す
曲がった男のストレートなキレ味~『ガリレオ2』第4話・曲球る
虚像=花火を演じる舞台としての生~『ガリレオ2』第8話・演技る
エリートがみだす凡人の心の歯車~『ガリレオ2』第9話・撹乱す
誰が何を救うのか~『ガリレオ2』第10話・聖女の救済(前編)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『ガリレオ2』第2話の数式、不覚筋動による水晶振り子の強制振動
『ガリレオ2』第4話の数式、流体中の回転ボールを曲げるマグナス効果などか
『ガリレオ2』第8話の数式、花火の光の入射角&3つの像の位置関係か
『ガリレオ2』第9話の数式、超音波による圧力・密度変化(&ビルの高さ)
『ガリレオ2』第10話の数式、ゼラチン絵の具の濃度や溶解反応速度か
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
操縦ることの巧みさと難しさ~『ガリレオφ(エピソードゼロ)』
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
(計 6528文字)
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