『ガリレオ2』第4話の数式、流体中の回転ボールを曲げるマグナス効果などか
(☆6月23&25日追記: 最新の数式記事とレビューをアップ。
男子の中で泣く女~『ガリレオXX・内海薫』愚弄(もてあそ)ぶ
『ガリレオ2』最終回の数式、浄水器と管内の水の乱流&層流 )
☆ ☆ ☆
ドラマ終了後、必死に4時間半も調べまくったが、「さっぱり分からない」。。
野球のボールのカーブなんていう、あちこちで説明されてる物理現象に対し
て、わざとヒネった数式を書いてるような気がする・・・と書くと、負け惜しみ
に聞こえるかも (^^ゞ
ちなみに前回・第3話も、数式的には分からなかったけど、その後、黒板・
ホワイトボード・レポートを録画で読み取ることで、色々と書き加えてある。5
月4日の深夜になってからの追記だから、まだ読んでない方が多いはずで、
よろしければ(再度)御覧あれ。同時期に、コメント欄でもマニアックなやり
取りをかわしてある(フレイ効果について)。
(☆追記: 翌日、第4話レビューもアップ。
曲がった男のストレートなキレ味~『ガリレオ2』第4話・曲球る )
☆ ☆ ☆
さて、意味は分からないものの、今回の第4章で一番強調してた式を見て
みよう。ドラ
マ終了後、エ
ンドロールの
冒頭でハッキ
リ映された図
式だ。1行目
の右端が画面
から切れてたが、数秒後の壁の映像を見ると、分母の右端に「f ²」のような
ものが書かれてる。
ピッチャー・柳沢(田辺誠一)が投げた野球のボールが曲がる絵を書いて
るし、今回のタイトルは「曲球(まが)る」。普通に考えれば、ボールを曲げ
る圧力Pr(=Pressure)の式だろう。Rrm はボールの半径、V や v は
ボールの進む速度と回転速度だろうと思うが、いずれも不明。後でまた触
れる、空気の局所的な速度かも知れない。
この数式をガリレオ湯川(福山雅治)が書きなぐったのは、無線の違法電
波によって自動ドアが勝手に開閉する様子を見かけた直後(のはず)だか
ら、物語の流れと合ってない数式ということになる。まあでも、少なくとも一
番上の式が、ストーブ点火用の電子回路システムへの影響を示す式とは
思えないから、電気系は調べなかった。
ひょっとすると、上の式の3行目に僅かに見えてる、∫(インテグラル)に
丸印を加えた記号(閉曲線に沿った線積分)だけは、電気系の式を混ぜ
てた可能性がある。実際、実験室の黒板には、電磁場関連の説明が書か
れてたのだ(似た線積分は黒板に見当たらなかったけど・・)。
(☆数時間後の追記: ボールが曲がる絵につられて間違えたかも。実は
無線電波の式かな。Prは受信電力=received
Power、Eは電界強度か。フリスの伝達公式など
を変形したものとか。。
2行目の式で Prの右側の分子は Pt に見えるが、
送信電力=transmission Powerのことか。さらに
右側にGaやλがあるようにも見える。アンテナ利
得=antenna Gainと電波の波長かも。
3行目は電磁誘導に関するファラデーの法則、
∫E・ds=-dΦB / dt
かな。中央に丸印がついた積分記号∫は、右下に
Sのようなものが見える(閉曲線の内部の記号)。
Eは電界ベクトル、sは閉曲線の微小ベクトル、ΦB
(Bは小文字)は磁束、t は時間。要するに、電気が
磁気の変化で生じるというようなお話だ。ドラマでは
無線電波の影響のこと。
なお、黒板では左
のように説明して
たが、ΦemのΦ
は、正しくはVだ
と思う。起電
(electromotive)
される電圧を表し
てる。Bは磁束密
度、kは比例定数。)
(☆追記: 誘導起電力を、小文字で「φem」と書くことは珍しくないようだが、
大文字で書かれた磁束の「Φ」と非常にまぎらわしい。これら2つ
は全く違う概念だが、黒板を再度チェックしても、小文字と大文字
の区別はしてない。)
☆ ☆ ☆
ボールを曲げる「マグナス効果」(またはマグヌス効果)は、19世紀の科学
者マグナス(Magnus)の名を取ったものだが、この種の現象の研究はか
なり前からあったようで、17世紀末のニュートンも注目してたらしい。今回、
私が一番調べた流体力学の専門書、恒藤敏彦『弾性体と流体』(岩波書店)
に、エピソードとして書いてあった。
その本では、導出過程も含めて、ベクトルで厳密に数式を書いてるけど、普
通は単なる数の掛け算で、マグナス効果の力を表してる。空気の流れの速
度(一定と仮定、要するにボールの進むスピード)をV、空気の密度をρ、
回転によって生じる「循環」(後述)をκとすれば、曲げる力(揚力:Lift)は、
L=ρVκ
ちなみにこれは、ボールと言うより、円柱を投げた時の、単位長(1cmとか)
あたりの力だ。ウィキペディアの説明を読むと、球でもこの式であるかのよ
うな書き方になってるが、専門書その他から考えて、しばらく保留したい。
「クッタ・ジュコーフスキーの定理」(英語版ウィキを参照)というものにまとめ
あげられてるようだが、それは基本的に、円柱とか飛行機の翼とか、進行
方向に向かって横に伸びてるものを想定してるようだから、球でどうなのか
は今現在、不明だ。
☆ ☆ ☆
一方、一般には全く馴染みのない言葉、「循環」κとは、大まかに言うなら、
丸い円周に沿った空気の影響全体を表すためのもの。それは、周(=閉曲
線)に沿って、流体(ここでは空気)の流れの「局所的な速度」を「線積分」し
たものだ。
局所的な速度とは、
ボールの回転の影
響を加味した空気
の速度。、左図の
青線を見ると、上
側ではボール表面
に邪魔されて少し
遅く、下側では逆に
少し速くなる。すると、
上側が高圧、下側が低圧になって、下側に曲がるのだ。細かいことがボー
ルに大きく影響するわけで、実はボールの縫い目もかなり重要らしい。
ちなみに、飛行機の翼の場合は、翼の形(断面図)によって空気速度の違
いが生じる。翼
の上側の方が速
いから、そちら
に飛行機が「曲
がる」、つまり
浮くわけだ。上
側が速いのは、
曲線が少し長い
からというより、実験的事実と考えた方が無難だと思う。
上図は、中央大学・岡野智和氏のplfファイル「回転振動体の流体中の運
動の数値解析」から引用させて頂いた。空気速度の差から圧力差が生じ
る点について、「ベルヌーイの定理」を援用している。ちなみにこれは、ほ
ぼ水平飛行の場合で、上昇時は翼の傾きが揚力に役立つらしい。凧揚げ
を考えると、何となく分かる気がする。
一方、「線積分」とは、イメージ的には、面積を積分で求めることと比較すれ
ばいいと思う。水平な x 軸を細分して、各部分からy軸方向に伸びる細い
長方形を足し合わせていったわけだ。このx軸を曲線にして、細かい部分
ごとに適当な変数を足し合わせたものが、線積分だと思えばいい。その曲
線が閉じてる場合(閉曲線)、1周分の流体速度を積分したのが「循環」だ。
∫(インテグラル)の真ん中に丸印を加えて、右下に c とか曲線名を添え
て表す。
☆ ☆ ☆
なお、平らな紙を折っただけの紙飛行機を水平に投げたり、下向きに投げ
たりして飛ばしてた覚えがあるが、これはまた少し別の問題ということか。ど
うも、飛行機がなぜ飛ぶのか、という点をめぐって、多少の意見の違いがあ
るようだ。まあ、これは放送直後のドラマ記事だから、もう時間切れ。詳しい
話は、またいずれってことで。
結局、今回もっとも強調されてた式は、物語的にはあまり役立ってない♪
(勘違いでなければ・・)。ストーブの炎上とは関係なさそうだし、柳沢の復
活ともあまり関係ないのだ。というのも、あれは回転軸の傾きやメンタル=
気持ちがポイントだったから。
では、今日はこの辺で。。☆彡
P.S. 湯川の論文「流体力学から見たシャトルコックの連続運動に関する
研究」が掲載されてた、『現代物理』という雑誌は、実在しないよう
だ。ちなみに前回の『応用物理』は、既に書いたように、実在する学
会誌だ。
P.S.2 時々、検索が入ってるが、エンドロール最後で湯川=福山が書く
「Q.E.D.」とは、数学で時々使う「証明終了」の略号。ラテン語
「Quod Erad Demonstrandum」(クウォド・エラト・デモンスト
ランドゥム)の頭文字3つを合わせたもので、英語に直訳すると、
「What was to be demonstrated」。「(これが)証明される
べきものであった」という意味で、古代ギリシャから使われ続けて
る有名な言い回しだ。ウチでも既に4年前に記事を書いてある。
cf. 宗教、科学、自然と人間~『ガリレオ2』第1話・幻惑す
曲がった男のストレートな切れ味~『ガリレオ2』第4話・曲球る
虚像=花火を演じる舞台としての生~『ガリレオ2』第8話・演技る
エリートがみだす凡人の心の歯車~『ガリレオ2』第9話・撹乱す
誰が何を救うのか~『ガリレオ2』第10話・聖女の救済(前編)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『ガリレオ2』第1話の数式、誘電体のマイクロ波加熱における電力半減深度
『ガリレオ2』第2話の数式、不覚筋動による水晶振り子の強制振動
『ガリレオ2』第8話の数式、花火の光の入射角&3つの像の位置関係か
『ガリレオ2』第9話の数式、超音波による圧力・密度変化(&ビルの高さ)
『ガリレオ2』第10話の数式、ゼラチン絵の具の濃度や溶解反応速度か
(計 3975文字)
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コメント
こんにちは(^^)
ガリレオの旧シリーズから、愛読させていただいてます。
さて、数式についての確認が取れた場所があるので、ぜひ参考になればと思い、コメントしました。
エンディングの最後で、湯川教授が、台に上って円を描いて数式を整列されているシーンがあります。
そこに書かれている式の中に、各話のキーとなる式が混じっていました。
第3話の人の頭が交えてかかれてたあの式ですが、あなた様の予測通り、頭の部分はkmrとかかれていました。
私の考えだと、頭の左右にあった音波?のような部分が実は括弧()を表していたようです。
さらに、第4話の式であろう、マクスウェルの方程式も、左のほうに少しですが書いてありました。
読み取れたのは、rotE=∂B/∂tという式です。
ぜひ、確認してみてください(^^)
投稿: 物理一筋! | 2013年5月10日 (金) 01時14分
> 物理一筋! さん
はじめまして。コメントありがとうございます♪
旧シリーズからの愛読、嬉しいです。
『ガリレオ』の数式というのは、『1』と『2』で、
つまり旧と新で、読み取りの難しさが違ってますよね。
『2』はエンドロールの壁と巨大ホワイトボードが
参考になるわけですが、本編のなぐり書き自体は
『1』より見にくいと思います。
脳内のフラッシュ映像も、『1』より見にくい。
おまけに時々、スタッフの書き間違いまであるから、
総合的で大まかな判断が必要になります。
私が巨大ホワイトボードも細かく見てることは、
第2話、第3話の数式記事にも書いてる通りです。
そもそも、あそこでしか見えない式まで、
記事に書き取ってますからね。
よろしければ、改めて記事をご確認ください。
ただ、巨大ホワイトボードは、壁の数式とも少し違うし、
そもそもどれが何話の式なのか、判別しにくいのです。
壁は毎回違ってますが、巨大ホワイトボードは
毎回同じ、ゴチャ混ぜ映像になってるもので。。
ご指摘のマクスウェルは、左側の中段ですね。
rotE=・・・(絵のようなもの)-∂B/∂t
これは確かに第4話と関係する内容ですが、

実際に第4話で書かれたかどうか、確認できないのです。
その上の式なら、壁の3行目の式として私も記事に
書いてますが、rotEの式は壁の4行目とは
違うように見えます。
なぐり書きシーンでも脳内フラッシュでも確認できません。
ちなみにボールの絵も巨大ホワイトボードに
ありますが、全く違う数式になってますよね。
しかも、これまた意味不明。読み取りは本当に厄介です。
そうゆう訳で、rotEの式は今現在、
第4話の数式とはしてないのです。
もちろん、後でDVDとかブルーレイの鮮明な映像を
見るとかして、確認できる可能性はありますけどね。
あるいは、スペシャル番組、HPでの紹介、
さらにオフィシャル・ブックとか。。
わざわざ情報をくださったお気持ちは有難いのですが、
以上、悪しからずご了承ください。。
投稿: テンメイ | 2013年5月11日 (土) 03時22分