虚像=花火を演じる舞台としての生~『ガリレオ2』第8話・演技る
(☆6月23&25日追記: 最新の数式記事とレビューをアップ。
男子の中で泣く女~『ガリレオXX・内海薫』愚弄(もてあそ)ぶ
『ガリレオ2』最終回の数式、浄水器と管内の水の乱流&層流 )
☆ ☆ ☆
何もかもが芝居の役に立つの。
湯川先生に追い詰められていくスリルさえもね。
これから始まる取り調べ、裁判、拘置生活、
滅多にできる体験じゃないわ。
模範囚でいれば、10年もすれば帰って来られるでしょ。
その時、私はものすごい女優になってる。
考えただけでワクワクするわ。
ウフフ・・・・・・♪
☆ ☆ ☆
流石は演技派女優の蒼井優。アブナイ舞台女優を上手く「演技(えんじ)る」
ことが出来てたね♪ ちょっとヒネリの入った「劇中劇」。つまり、『ガリレオ』
という劇の中に、殺人の実演劇が入った形になってた。私なら10年後と言
うか、+αで15年後くらいに、彼女の舞台を見るかも知れない。客席の最
前列で、ナイフをふりかざす殺人犯を演じる彼女を見つめ続ける。「考えた
だけでワクワク」・・・とか書くと、あぶないブロガー扱いされちゃうのか (^^ゞ
実際の私は、法令順守の現実主義者で、リスクも冷静に計算するから、「あ
ぶない事」はやらない。今は・・・って、コラコラ! 「常識やモラルから解き放
たれ」て、「人間の業をさらけ出す」のは、あくまで想像力の範囲内でのこと
だ・・・と書いとけば、サイバー・パトロールの方もスルーして下さるだろう♪
しかし、想像力の範囲と現実社会の境界線はどこにあるのか・・・と理論的に
考え出すと、事は簡単ではない。そもそも、理論というもの自体が、現実との
差異を本質的に持ってるのだ。とりあえず、簡単で身近な話からスタートして
みよう。。
☆ ☆ ☆
調べてみると、今まで8年近くの間、一度もブログに書いてないみたいだけ
ど、私は田舎から出て来て間もない頃、大勢の役者さん達に囲まれてバイ
トしてたのだ。それは偶然ではない。要するに、わりと時給が高くて、小奇
麗で、スケジュールもかなり自由になる、恵まれたバイトだったからだろう。
その頃、身近にいた役者さん達は、やはり独特のものを持ってた。自分自
身が既に舞台で活躍してたり、有名劇団に入ってたリ、親が有名人だった
りする。たとえバイトで生活費稼ぎをしてても、自分は別の世界で輝いてる、
あるいはこれから輝くはず。そんな感じのプライドとか自負心のようなオーラ
が全身から出てたし、大人びた柔らかい振舞いの中にも強気な自己主張が
見え隠れしてたけど、私はわりと好意的に受け止めてた。
その内、3人は顔も名前も覚えてるから、試しに今、検索してみると、1人は
某実力派・人気グループの裏方に回ってそうな感じで、もう1人は分からな
い。3人目は舞台とテレビでかなり活躍してるようで、驚くと同時に、なるほ
どとも思った。光るものを持ってたのだ。
その人は、ルックスもそこそこだったし、役者だらけの中でただ1人、私の
前で即興で踊ってみせた。私は当時、ダンスに興味を持ってたから、バイト
先での即興としては上手いな・・・と、素直に感心したのだ。自信とパワーが
溢れてなければ、出来ないことだろう。
そんな事まで覚えてたのは、実はこの人、私のほのかな恋心や嫉妬と関
係してたから(ボカした表現♪)。その時、私はついカッとなって、「常識や
モラルから解き放たれ」た・・・ということはない。携帯の履歴トリックや花火
の写メのトリックも使ってないのだ。小市民の現実は、あくまで凡庸かつ平
穏なのであった。。
ちなみに花火のトリックと数式に関しては、2日前に別記事をアップしてある。
『ガリレオ2』第8話の数式、花火の光の入射角&3つの像の位置関係か
☆ ☆ ☆
とにかく、役者さんという独特の存在は、私にとってわりと身近な人達なの
だ。小説を勧められたり、演劇論を聞かされることはあったけど、公演のチ
ケットを強引に売りつけて来るような人は全くゼロ。多少、思い出が美化さ
れてるとしても、印象は決して悪くない。だから、『ガリレオ2』第8章で蒼井
優が演じた看板女優・神原敦子も、わりと身近に感じるのだ。
一方、彼女が演じる舞台「カミーユの美しき憂鬱、あるいは沈黙」というタイ
トルも、私を引きつけるものだ。これは当然、フランスの「美人」彫刻家&詩
人カミーユ・クローデル(Camille
Claudel,1864-1943)を意識し
てるだろう。湯川=福山雅治が、一
度は舞台に興味を示したのも、「美
人」の生と性を描くものだったから
に違いない♪ 左はウィキメディア
で公開されてる、パブリックドメイン
(公的所有)の写真だ。
この女性、映画にもなってるし、有名な彫刻家・ロダンの弟子&愛人だか
ら、ご存知の方も多いだろう。内妻をまじえた三角関係の中で、憂鬱な創
作生活を送り、やがて発狂。48歳から78歳で亡くなるまでの約30年間
を精神病院で過ごしたのだ。
殺人は行ってないけど、師・ロダンの子どもを中絶、自分の作品の多くも、自
分の人生も破壊してしまった、まさ
に劇的な女性。文字通り「美しき憂
鬱、あるいは沈黙」の人生なのだ。
左は仏語版ウィキメディアで公開さ
れてるパブリックドメインの写真で、
ロダンのアトリエでの創作活動を
写してるらしい。右下の人物はロ
ダンではないらしいからカットした。
お尻が大きい女性というわけでは
ないと思う♪
☆ ☆ ☆
ところで、カミーユの人生は失敗作だったのだろうか。もちろん後半生は、
自分にとっても他人から見ても、幸福ではない。ただ、その後半生は、そ
の前の人生と別物ではないわけで、トータルで一つの人生、一つの演劇
と見るなら、80年にわたる過激な舞台を創り上げたと見ることも可能だ。
前半生には、自らの華やかな創作活動も、尊敬する天才彫刻家との心
ときめく切ない恋愛も、十分に味わったのだから、後半生とのコントラスト
も鮮やかと言える。
では、神原敦子の人生はどうだろうか・・・と問いかける時、東野圭吾の
原作小説と、福田靖・脚本のドラマを分ける必要がある。実は原作では、
敦子が殺人犯ではない。単に、追い詰められる殺人犯を演じる、屈折し
た女優なのだ。「なぜ?」と聞かれれば、「女優だから」という話になる。
そうなると、常識をしっかり持ってる湯川や草薙刑事としては、もはや溜息
をつくしかない。普通の感覚だと「困ったちゃん」でしかない、この女優こそ、
単行本としての原作のタイトルを飾ったキャラクターなのだ。すなわち、「虚
像の道化師」。
この場合、仮に捜査かく乱や遺体損壊の実刑としても3年程度だろうし、世
間的にも、出所後には非難と同じくらいの注目を浴びる可能性がある。そ
もそも劇団員の世界は特殊だから、完全に村八分にされるということはあ
り得ないだろう。本物の殺人犯でさえ、出所後に迎え入れる世界は一応あ
るわけだから。
試しに、カミーユとロダンの国・フランスで猟奇殺人を行った日本人を、ウィ
キペディアでチェックすると、当然かなりの社会的制裁を受けながらも、普
通に(?)日本で生活してるようだ。この人物とのやり取りを書籍化して芥
川賞を受賞したのが、アングラ(=アンダーグラウンド=地下)演劇の旗手
とされる有名な劇作家、唐十郎だったのは、ある意味、必然的運命だろう。。
☆ ☆ ☆
一方、ドラマの神原敦子だとどうか。『ガリレオ』の場合、世帯視聴率が約
20%だから、個人視聴率は0.7倍して14%程度。日本の総人口は1億
3000万人弱だから、1800万人ほどの視聴者がいることになる。
小説とは、人数的にも身分・性格的にも、遥かに多様な集団を相手にして
るわけで、分かりやすさのために、敦子を殺人犯にして、その特殊な考え
を主人公・湯川と岸谷(吉高由里子)がバッサリ斬り捨てる形にしたのは、
テレビ的に正解(の1つ)だろう。基本的には、勧善懲悪であって、善の側
に天才科学者と国家権力(警察)をおいてるわけだ。
ただし、悪の側からの反論も最低限、取り入れてた。マウスを殺す実験と
科学者、それらを間接的に認めて暮らしてる、我々一般人。こうした、普段
は意識されない部分にひそむ悪とか罪について、神原敦子は軽く切り返し
てたが、湯川と岸谷は反論できてない。
もちろん、社会的常識では、マウスを殺すより人を殺す方が遥かに罪が重
いわけだが、「自分のために、罪のない他の動物を殺す点では同じでしょ」
と追及されれば、返答に悩むことになる。冤罪による死刑の問題もある。そ
ういった事を口にする人間がほとんどいないのは、幸運でもあるし、必然で
もあるだろう。あまり口にされると、心も社会も少なからず揺らぐからだ。。
☆ ☆ ☆
最後に、演じるという意味では、現世の全体が一つの演劇、虚像であって、
「次の世界」や「別の世界」こそが、より本物だと考えることは、出来なくはな
いだろう。その考えと、いわゆる犯罪行為を結びつけると、危険思想として
非難されるが、単なる宗教的な思想としては、来世を信じることなどフツー
のことだ。
敦子の場合、駒田(丸山智己)を殺したかったし、殺されて当然の人物だと
も思ってただろうから、それほどの罪を犯したとも思ってないだろう。すると、
現世でやるべき事を思い切りやって、人間の業(ごう)をさらけ出し、他の人
達に強い印象を与えると共に、自分の来世、あるいは後半生へと活かすと
いうのは、アリとされても不思議ではない。映像は録画してない代わりに、
ICレコーダーに肉声を録音してたのは、後で味わうためなのだ。自分で、ま
たは、他の人達と一緒に。
湯川は、「人を殺した女優が、殺人のシーンを演じる。それが経験に裏付け
られた最高にリアルな演技だと思い込んでるのは、演じてる本人だけだ」と
語り、岸谷と共に「自己満足」だと斬り捨てた。
しかし、世界の人口は約70億。1万人に1人しか関心を持たないとしても、
計70万人もの人が関心を持つ計算になる。そもそも、「経験に裏付けられ
た最高にリアルな演技」かどうかと言うより、「殺人犯による殺人の演技=
虚像」、あるいはそれを見る自分の虚構体験が、ちょっと興味深いわけだ。
そもそも我々は、死刑で人を殺すことを普段意識してないし、ほとんどの人
はさほど悪いとも思ってない(日本では)。「殺人犯ではないかも知れない人
を殺すこと」はひそかに認める一方、「個人的に死に値すると確信する目の
前の人物を殺すこと」は認めないという態度。これは、明らかに正しいことで
もないかも知れない。むしろ、「私は刑罰が怖いから殺さない」と言う方がシ
ンプルだけど、もちろん、刑罰が怖くない人にとっては説得力がないのだ。。
☆ ☆ ☆
殺人と切り話して、単に虚像としての人生という話なら、多かれ少なかれ、
誰でも日常的に経験してることだろう。社員、学生、「男性」、「女性」、夫、
妻、父、母、子、等々。我々は、型にはまった役割を演じつつ、そうではな
い自分、そこには収まり切らない自分というものをどこかに持っている。
「本当の自分は、ちょっと違うんだけどなぁ・・」。そう考える時、実はそこで
いう「本当の自分」とは、また別の虚像かも知れない。こうした問題は、「自
分探し」や「ありのままの自分」信仰に必ずつきまとうものだ。
原作でもドラマでも、案外、神原敦子は内心、湯川たちを「虚像の道化師」
だと笑ってるかも知れない。事実、「自己満足」と言われた直後に敦子は1
筋の涙をこぼしたけど、その後はうすら笑いを浮かべてた。それにしても、
一瞬で涙を流せる女優・蒼井優は、建前でなく本音で、このドラマをどう見
てるのだろうか。あるいは、女優という職業、蒼井優という人生を。。
☆ ☆ ☆
なお、虚像が描かれる舞台の飾り付けとして、花火ほどふさわしいものは
ない♪ 一瞬だけ暗闇に輝く、非日常。ガッツ石松らが打ち上げた、「昇り
曲導(きょくどう) 三重芯(みえしん) 先青紅(さきあおべに)」。尾を引き
ながら昇って、内側に三重の芯を作ってるから四重の輪になって、青が先
で紅が続く花火。紅の部分が、携帯の写メのトリックに使われてた。
ちなみに、上空330mまで昇る時の尾が銀だと、銀朴(ぎんぼく)と言うらし
い。マグナリウムというのは、ドラマだと、アルミニウム+鉄+マグネシウム
の合金という説明になってたけど、普通に検索するとマグネシウム+アル
ミニウムという単純明快な説明が目に付く。
ウルトラマンの「スペシュウム」光線=「スペース」(宇宙)+「マグナリウム」、
ウルトラセブンの「エメリュウム」光線
=額のビームランプの「エメラルド」色+「マグナリウム」
って感じの説明もネットにあったけど、信じていいのかね♪ 本当なら、意
外な場所で活躍してたってことか。
「座(すわ)りは完璧」というのは、上空で一瞬静止した玉が一気に破裂する
こと。「割り口が甘かった」というのは、破裂して中の「星」が一斉に飛び散る
様子が均等でないこと。それは結局、手作りの「芯が偏ってた」わけで、プラ
イドの高い職人としては「情けねぇ・・」とボヤくことになる。って言うか、ガッツ
石松がよくあのセリフを覚えたなぁと感心したのは、私だけじゃないはずだ♪
そりゃ、失礼か。。
☆ ☆ ☆
まあでも、お台場のフジテレビ横、DECKS(デックス)東京ビーチのお客さ
ん達も喜んでたし、波長450nm(ナノメートル=10億分の1m)の塩化銅
の光も、波長650nmのストロンチウムの光も美しかった。熱エネルギーに
よる電子励起(れいき)によって放出される光だから、原子物理学者の湯川
は大喜びなのだ。たとえ、横の岸谷の冷たい視線が浴びせられてても♪
さて、我々の人生という演劇=花火は、自分という観客、あるいは他の存在、
超越者などから見て、歓声や拍手に値するだろうか。涙や感動を誘えるだろ
うか。いずれにせよ、まだまだ演技を学び、創意工夫を重ねる必要がありそ
うだ。「もう一回 もう一回」とアンコールしてもらえるように・・・というのは、美
青年ファンの方々へのサービスだ(笑)。あっ、美青年が主演したフジの人気
ドラマ、『コード・ブルー』の主題歌、ミスチルの「HANABI」の歌詞のことね。
人生の上演終了までの時間は、あと数ヶ月~数十年だろう。「数十年しか
ない」のか、「数十年もある」のかはともかく、神のコンピューター・プログラミ
ングは正確なのだ。哀しいほど、完全に。。それでは、また来週。。☆彡
P.S. 『ガリレオ2』は何と、全11話で、6月24日まであるらしい。第10話
と11話が、最終回の前・後篇で、原作は『聖女の救済』。何と、軽い
心筋梗塞から復帰して、天海祐希が活躍するそうだ。
cf. 宗教、科学、自然と人間~『ガリレオ2』第1話・幻惑す
エリートがみだす凡人の心の歯車~『ガリレオ2』第9話・撹乱す
誰が何を救うのか~『ガリレオ2』第10話・聖女の救済(前編)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『ガリレオ2』第1話の数式、誘電体のマイクロ波加熱における電力半減深度
『ガリレオ2』第2話の数式、不覚筋動による水晶振り子の強制振動
『ガリレオ2』第4話の数式、流体中の回転ボールを曲げるマグナス効果などか
『ガリレオ2』第9話の数式、超音波による圧力・密度変化(&ビルの高さ)
『ガリレオ2』第10話の数式、ゼラチン絵の具の濃度や溶解反応速度か
(計 6490文字)
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