n次元の球の体積(帰納法による証明)と、cosθのn乗の部分積分
4年ちょっと前に書いた記事、「4次元の球の体積」に、一般的な解説を望
むコメントを頂いたので、「n次元の球の体積」について簡単にまとめとこう。
ちなみに、普通の立体の球は「3次元の球」、円板は「2次元の球」だ。一般
に、 x₁²+x₂²+・・・+(x n)² ≦ r² が表す領域を、原点中心、半径 r の
n次元球とみなす。数学における理論的な決め事であって、「1次元の球」と
は、長さ(=体積) 2r の線分になる。
そもそも、この球の概念が大学レベルだから、結論(=体積の式)も大学レ
ベルのΓ(ガンマ)関数を使って表してる場合が少なくないけど、結論も証
明も、高校3年の数Ⅲレベル+α程度で十分対応できるもの。
ただし、重積分と累次積分というものについて、最低限の知識は必要なの
で、知らない方は、前の記事「4次元の球の体積」で、サラッと確認しておく
ことをお勧めしよう。n次元の話をするのだから、4次元が最初の関門であ
り、準備体操でもあるのだ。。
☆ ☆ ☆
n次元の球の体積とは、球の内部領域において、単位1を「重積分」したもの
と定義されている(n次)。例えば3次元なら、 ∬∫dx dy dzで、積分領域は
x²+y²+z² ≦ r² だ。領域は本来、右端の∫の右下に書き添える。実際に計
算する時には、普通の積分3回を順に行う「累次積分」を使うのが基本。も
ちろん、それに少し工夫を加えることもある。
では、時間も無いので、まず示すべき式を挙げた後、広義の自然数n(0
を含む)に関する帰納法で簡単に証明しよう。完全な解答はあまりに冗長
だし、個々の式も長過ぎるのだ。この程度の説明でも、ネットだと意外なほ
ど見当たらないと思う。
なお、0次元の球の体積は、積分できないので、便宜上、1と決めておく。
単に、値をキレイに統一するための決め事だ。不自然だと思ったら、別に
外しても影響ない。帰納法のスタート地点がn=1へと変わるだけの事だ。。
☆ ☆ ☆
まず、予備作業として、cosⁿθの積分を求めておく。有名な話だから、ご存
知の方は飛ばしても結構。ここでは一応、部分積分で示してみる。似たよう
な説明はあちこちにあるだろうが、nの範囲には繊細な注意が必要なので、
念のため。ちなみに、sinⁿθの積分についても、全く同じ値になる。
以下、次の定積分の値を証明しよう。
まず不定積分で I n =∫cosⁿθ dθ (n≧0) とおくと、 n≧2 の時、
この最後の式を1回使うごとに、nの値を2つずつ小さくして行くことが出来る。
よって、 nが2以上の偶数の場合、nを繰返し小さくして行けば、
一方、nが3以上の奇数の場合、同様に変形すると、結果が少し違って、
以上で、最初に上げた定積分の値が正しいことが証明された。
(Q.E.D. 証明終了)
☆ ☆ ☆
では次に、本題の球の体積に向かおう。0以上の自然数nについて、2n次
元と、2n+1次元の球(半径 r)の体積は、次の式になる。要するに、上側
が偶数の場合、下側が奇数の場合だ。やや高級なΓ(ガンマ)関数を用い
ない場合、2通りを分けることになる。
以下、上式2つのペアを、nに関する帰納法で証明する。
まず、n=0の時、上式は
V₀(r)=1 , V₁(r)=2r
となるので、確かに正しい。
次に、n=kの時、上式が成立すると仮定すると、
ちなみに上側の式は以下で使わないが、形を整えるために書き添えてある。
さて、この時、n=k+1の場合について、球の体積の定義(=重積分)にし
たがって考えると、
よって、n=k+1の時にも、与えられた式の前半、つまり偶数次元の球の
体積は正しい。一方、奇数次元の球の体積についても、同様の式変形で
下のように示せる。途中は省略するが、階乗(!)の変形は注意が必要だ。
よって、n=k+1の時にも、与えられた2本の式は正しい。
以上より、0以上のすべての自然数nについて、2n次元と2n+1次元の球
の体積は、最初の2本の式で表される。
(Q.E.D. 証明終了)
゛
☆ ☆ ☆
なお、Γ(ガンマ)関数を用いた場合は、偶数と奇数を分けずに、球の体積
を表せる。
Vn(r)={πの(n/2)乗} rⁿ / Γ((n/2)+1)
ちなみに、ガンマ関数の定義は、次の「広義積分」(無限大までの区間
における定積分)だ。x と t が絡み合ってることもあって、分かりにくいが、
実は大学入試問題の元ネタとして密かに使われてるものだ。いずれまた、
別記事を書くかも知れない。
Γ(x)=∫(tのx-1乗)・(eの-t乗) dt (0 < t < ∞) (x>0)
定義を拡張すれば、x<0の場合にも使えるが、それは更に高級な話に
なる。ひとまず、今日はこの辺で。。☆彡
cf. 4次元の球の体積
・・・・・・・・・・
『Q.E.D.証明終了』のタイトルバック2、球の体積の重積分
(本文1987字+挿入図1000字程度 計2987字)
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コメント
ご返答ありがとうございました
まさかここまで早く対応していただけるとは(^-^;
また数学、物理関係でわからないことがあったら
質問させていただきたいと思います
投稿: お味噌汁 | 2013年7月 7日 (日) 01時27分
> お味噌汁 さん

こんばんは。ご丁寧にどうもです♪
先日も書きましたが、たまたま久々に数学記事を
書こうかなと思ってた所だったから、
直ちにサラッと応答することになりました。
9割前後は単なる偶然の賜物だと思ってください♪
質問や要望のコメントというのは、たまに頂いてます。
1週間以内に記事を書くこともありますが、
最低限のコメント・レスで済ませたり、無期限の
引き延ばしになることも当然あります。
特に、話が難しくて、他の読者もほとんどいないと
思われるような場合ですね。
という訳で、期待するお気持ちは嬉しいのですが、
基本的には、質問サイトや大学の先生をお勧めしときます。
ウチの順位は、その次の次の次くらいってことで(笑)。
ちなみに僕自身は、自力で解決するか、信頼できそうな
サイトを利用するか、どちらかです。
後は、ごくたまに、詳しい友達に「確認する」ことも
ありますが、単なる確認に過ぎません。
ネットというのは、ある意味便利ですが、
遥かに便利なのは、自分自身の力でしょう。
それでは、大学生活がんばって下さい。。
投稿: テンメイ | 2013年7月 7日 (日) 22時52分