福島第一原発の汚染水、現状の定量的なまとめ(13年・夏)
福島第一原発の汚染水の問題は、今に始まったことではないが、大きく取
り上げられるようになったのは、この春からだろう。今日は時間がない中、
この問題について、簡単なメモ程度の「定量的」なまとめを作っておこう。
一連の放射線・放射能の問題の核心は「量」だから、前提となる量とその計
算が必要だ。もちろん、近似的なものに過ぎないが、そもそも純粋な数学と
論理学などを除けば、あらゆる議論は近似的なものであって、それでも有効
性を保てるのだ。完成度の高い物理学でさえ、あらゆる箇所に大まかな近
似があることを思い出そう。
☆ ☆ ☆
以下、大手新聞社の報道と東京電力の発表のみを基本データとして、話を
進める。まず、8月8日に東電HPで発表された、「地下水の流入抑制のた
めの対策」(汚染水処理対策委員会報告書 5/30)から、2枚の図をキャ
プチャーさせて頂こう。事の性質上、著作権を主張されることはないと考える。
最初はわりと目
に優しい図から。
原発の西側の阿
武隈山系から地
下水が流れて来
て、原発敷地内
その他を通った
後、東の太平洋
に流れるイメー
ジだ。誰でも思い付きそうな事は、原発を通さずに地下水を流せばいい、と
いう発想だろう。まさに今、それが問題となってる訳だが、社会的・心理的な
事情などで、なかなか事が進まないようだ。
次の図は、上側が東の太平洋となってる(海は省略)。図の左上に、原発
の1~4号機が並び、右下には汚染水などの貯蔵タンクが並んでる。
ここで「地下水バイパス」と呼ばれてるのが、1~4号機の手前(赤い斜線部
辺り)の井戸で地下水を組み上げ、海(図の右上)へ流すシステムだ。これが
なぜ実現しないのかというと、政府が東電任せにしてるから、という事情もあ
るだろうが、要するにトラブル連発による反発や不信感が大きいのだろう。
☆ ☆ ☆
では、一連のトラブルとは何か。時系列にしたがって、4つ挙げとこう。
13年4月 地下貯水槽で、高濃度の汚染水漏れが発覚。
汚染水を地上のタンクに移した。
6月 丈夫なはずの溶接型タンクから、微量の汚染水漏れ。
7月 タンクと関係なく、敷地内の土壌(建屋の外)で放射能汚染
された地下水が海に流出してることが発覚。政府の試算だ
と、1日あたり300トン。
8月 簡易型タンク(フランジ型、組み立て型)で、300トンの高
濃度汚染水が発覚。1リットル(=約1kg)あたりの放射
性物質(全ベータ、つまりβ線を出す物全体)は、8000万
Bq(ベクレル)。300トン、つまり30万リットルだと、
8000万×30万=24兆Bq。
ちなみに飲料水の基準は、1kgあたり10ベクレル(放射性
セシウム)だから、その800万倍の放射能濃度(ベクレルの
単純な比較)。
これらのトラブルから、政府・東電は地元(漁協など)の信頼を失い、地下水
バイパス計画の議論が難航している。ただ、冷静に考えれば、汚染水が溢
れ出すよりは、汚染される前の水をバイパスで海に流す方が合理的だろう。
そもそも、汚染水タンクを増やし続けるのも大変だし、その維持・管理もます
ます大変になって行くのだから。
☆ ☆ ☆
現在、原発敷地内を通る地下水の全体については、次のように考えられてる。
山から1日合計、1000トン
内訳 ① 300トン ── 汚染されずに海へ
② 400トン ── 原子炉建屋に流入、循環冷却に使い
つつ、処理装置でセシウムや塩分を
除去して、タンクに貯蔵
③ 300トン ── 建屋周辺の土壌で汚染されて、その
まま海に流出
(☆追記: 8月23日に東電が修正。上の①と③の合計が400トン、
②と合わせて計800トンとのこと。①③の内訳は不明。)
この内、長期的には③が一番問題かも知れない。というのも、②のタンク汚
染水は、まだ数年はほとんど貯蔵できるし、今回の漏れも24兆Bq(ベクレ
ル)。この内の何割かは、建屋に流入して再び貯蔵されるだろう。
ところが、③は最大で1日あたり、ストロンチウムが100億Bq(おそらくスト
ロンチウム90に換算)、セシウム137が200億ベクレルだから、単純合計
で300億Bqが海に流出。1年=365日で10兆Bqを越えてしまう。
ただ、東電の説明だと、③の汚染水でさえ、国の基準限度は一応下回って
るようだ。東日本大震災(3.11)以降、大まかに1000日と考えて掛け算。
(ストロンチウムの最大値)≒100億×1000=10兆Bq
(セシウム137の最大値)≒200億×1000=20兆Bq
この2つの単純な合計30兆Bqは、通常運転時の1年間の放出管理目標値
2200億Bqの100倍を超える。でも、その程度の余裕は見込んだ上の目標
値ということだろう。要するに、海の水は非常に多いし、流れもあるという話だ。
☆ ☆ ☆
ちなみに、世界の海水量は13.5億km³。1km³=(1000m)³=10億m³
だから、世界の海水量は、 13.5億×10億=135京(けい)m³
=135000京L(リットル)
≒135000京kg
つまり、1350000000兆kg。この中に数十兆Bqの放射性物質が融け込
んでも、その10万倍でも、濃度はほぼゼロになる(国際的批判や心理的不
安、拡散に要する時間は別として)。
そこまで極端に考えなくても、仮に10km(10000m)四方で深さ100mの
狭い範囲(原発付近)だけ考えてみると、
10000m×10000m×100m=100億m³
=10兆L(リットル)
≒10兆kg。
この中に30兆Bqの放射能が2年間で流入した時、1kgあたり3Bq。20年
間続いたとしても、10倍にして、1kgあたり30Bqだから、飲料水の基準値
の3倍に留まる。もちろん、時間が立てばその分、放射能は広い海へと拡
散するし、ストロンチウム90もセシウム137も、半減期・約30年で半分に
なるのだ。
☆ ☆ ☆
なお、たとえば反原発の朝日新聞・朝刊(8月21日)では、「汚染水 打つ
手なし」、「地下もだめ、地上もだめ」と見出しを付けてるが、そこはもっと冷
静にとらえる必要がある。
地上のタンクは約1060基(簡易型が約350基)。その内、1つの簡易型
から、1/3弱の汚染水が漏れたわけだ。タンク全体の数から大まかに
考えると、約3000分の1の話だ。
(☆追記: 別のタンク2基からも漏れたようだが、ごく微量とのこと。)
汚染水の量で考えると、タンクの総容量は約41万トン。その内、既に約35
万トンが入ってる。この内の300トンが漏れたのだから、約1000分の1だ。
ほとんどの汚染水は、まだタンク内にある。現在の情報によると。。
したがって、残された時間的余裕や社会的・国際的反応を見つつ、できるだ
け早めに地下水バイパスを実現させることが必要だろう。実際、大手新聞社
の社説も揃って、その方向を主張している。
後は、トリチウム(三重水素)なども含めて、汚染水の処理のレベルを上げる
と共に、タンク(出来れば丈夫な溶接型)を増設。古い簡易型タンクのパッキ
ンは、5年の耐用年数より少し早めに交換して行くとか、点検をより厳格に行
うとか、出来ることを少しずつやって行くしかない。理想論、責任論などより、
現実的な対処が大切なのだ。
それでは、今日はこの辺で。。☆彡
P.S. 8月21日の原子力規制委員会の発表で、今回の汚染水事故が
INESのレベル3に相当するという暫定的な見方が示された。これ
を受けて、ロイター発の記事が数千テラ(=兆)ベクレルの放射性
物質という基準を簡単に示してるが、この量は「Mo(モリブデン)-
99」換算という操作で大きくなったもの。Sr(ストロンチウム)90な
ら、ベクレル数を140倍するのだ。Cs(セシウム)137は12倍、Cs
134は20倍。
気体による汚染ならヨウ素131換算(事故後まもなく話題になった)、
固体ならセシウム137換算、液体ならモリブデン99換算ということに
決められてる。
cf.被曝する年間放射線量すべての計算方法(自然・医療、外部・内部、屋外・屋内)
朝日の甲状腺被曝87ミリシーベルト報道の意味~実効線量と等価線量
WHO(世界保健機関)による被曝線量の推計(全国、年代・経路別)
文科省が10都県で確認、ストロンチウム(Sr)90の実効線量係数など
外部・内部・甲状腺、福島県の放射線被曝について~3・11から2年
日本人の自然放射線と医療被ばく線量(『新版 生活環境放射線』2011)
汚染水のトリチウム(三重水素)、実効線量係数と年間の内部被曝線量
(計 3547文字)
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