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麻生太郎・副総理の「誤解を招いた」憲法改正発言、中立的な解釈

自民党の麻生太郎・副総理&財務相の発言が、かなりの話題になってい

る。あれがもしも、要職にある政治家ではなく一般人の雑談なら、「それは、

たとえが良くないだろ」と軽く突っ込んでおしまいだろう。発言した当人も、

「ちょっと良くなかったか・・」と苦笑して撤回すれば済む話だ。

      

ところが、自民党や内閣の要職についてる元・首相の発言だと、流石にそ

うは行かない。日本でもそうだが、欧米だと非常にデリケートな問題だから、

聞き手の側でも、軽く聞き流せない人がかなり出て来るし、語り手の側でも

立場上、素直に謝罪しにくくなる。そこで、ちょっと微妙な謝罪の仕方(悪し

き例として挙げた、とか)を使うと、火に油を注ぐような結果も招くわけだ。

        

私自身は、憲法改正について、Yes、Noの明確な意思=意志は持ってな

い。麻生副総理の「真意」と同じかどうかはともかく、要するに国民全体で

じっくり議論して決めればいいだろう。もちろん、アジア・太平洋の反応にも

適度に耳を傾けつつ。

    

したがって以下では、麻生発言を擁護するとか批判するとかいった政治的

意図とは関係なく、微妙な発言の解釈を試みる。ネットで期間指定して細

かく検索してみると、現在(8月2日)、同種の分析は見当たらないようだ。

     

     

         ☆          ☆          ☆

まず、元の麻生発言は、7月29日に東京都内で開催された国家基本問題

研究所(桜井よしこ理事長)の月例研究会にパネリストとして参加した際の

ものだ。原稿の有無や、発言の準備スタッフの有無が分からないが、「発言

の詳細」(朝日新聞HP)を読む限り、原稿なしで本人が行った即興的発言

のように思われる。

   

朝日が載せた文章は、全体でほぼ1800字だが、この1800字の前後が

どうなってたのかについては書かれてない。文章理解には「文脈」というも

のが重要だから、もう少し前後の情報、あるいは全体を取り巻く「フレーム」

(枠組み)が欲しい所だが、とりあえず朝日の「発言の詳細」だけを手掛か

りにしてみよう。

       

まず、一番問題となったのは、文章全体の最後に近い箇所だ(結論とまで

は言わない)。憲法改正の話を、靖国神社参拝と結びつけつつ、次のよう

に語ってる。

   

   昔は静かに行っておられました。各総理も行っておられた。いつから

   騒ぎにした。マスコミですよ。いつのときからか、騒ぎになった。騒が

   れたら、中国も騒がざるをえない。韓国も騒ぎますよ。だから、静か

   にやろうやと。憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わっ

   て、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わっ

   た。あの手口学んだらどうかね。

      

「手口」という言葉には、「やり方」一般という普通の意味もあるが、しばしば

犯罪など、悪事のやり方という意味が込められる。それは副総理も分かって

るはずで、特に「ナチス」(国家社会主義ドイツ労働者党)の「手口」を「学ん

だらどうか」という形で使ってしまったのは不注意だった。ただし、それがどの

程度の過失なのかは別問題だ。

       

    

          ☆          ☆          ☆

要するに、8月1日の発言撤回コメントにあるように、「憲法改正については、

落ち着いて議論することが極めて重要」と言いたいわけで、1800字の全文

を読めば、それは明確に読み取れる。ナチスとかヒトラーに対して、少なくと

も基本的には、否定的姿勢を取ってることも明らかだ。

       

ではなぜ、発言の終盤でナチスの手口という話が出て来たのか。それは冒

頭で、良い憲法から悪い政治が生まれることもある、という比喩としてヒトラー

を持ち出してたからだ。その比喩も、やや微妙ではあるが、憲法自体より、

それを扱う周囲の人達の行動とか見識の方が大切だと言いたいわけだ。

     

この点は、憲法改正について、二重の意味を持っている。まず、憲法改正

したとしても、改正後の憲法を正しく扱えばいいのだ、という意味。もう一つ

は、改正自体についても、みんなで落ち着いて考えるべきだ、という意味。

もちろん、差し当たり重要なのは、後者の意味だ。

    

その、改正について落ち着いて考えるという話をする時、また少し分かりにく

い語り口が出て来る。自民党内で「べちゃべちゃ」喋って意見をやり取りする

とか、「喧々諤々(けんけんがくがく)」やりあったという話は、普通に聞けば

騒々しい議論のように思われるが、麻生氏の発言の文脈では、それが「静

かに対応」した良い例なのだ。

     

ということは、音声的、外見的にうるさいことが問題なのではなく、否定的・

感情的な騒ぎは止めて、落ち着いてしっかり議論しようという話になる。

     

     

         ☆          ☆          ☆

その程度の簡単な主張なら、どうして「ナチス」の「手口」に学ぶという話に

なるのか。その理由、原因、動機といったものが問われるのは自然なこと。

もちろん、政治的主張というのは、結論だけ簡潔明瞭にまとめればよいと

いう訳ではなく、話術とか説得力の問題も大切なわけだ。だからこそ、議論

の枝葉の広がりとか、面白さなどが関わって来る。

     

今回の発言の場合、冒頭で特殊な例を出したから、発言の最後に再びその

話と結びつけるというのが、一つの「締めくくりの形」になる。それが、ヒトラー

の例だったのだ。ただし、冒頭では、憲法の悪い扱いの例としてヒトラー当

時の政治状況を挙げてたのに、最後では良い例としてヒトラーを持ち出した

から、「学」ぶものとしてはせいぜい、いつの間にか変わってたという静けさ

くらいしか無い。

         

それは、広い意味での「言い間違い」、あるいはミス、不注意で、重い政治的

立場を考えると謝罪するのはもっともだが、間違いのパターンとしては平凡

でありふれたもの。フロイトの精神分析理論で言えば、「圧縮」とか「凝縮」

(Verdichtung)と呼ばれてたプロセスによるものだ。より広く、「重層決定」

とか「多元決定」と呼ばれることもある。

          

   

           ☆          ☆          ☆        

次の二つの潜在的な思想(あるいは系列)を考えてみよう。

   

  1. ヒトラー当時の政治では、静かに法システムが変わっていた。

  2. 現在の日本政治では、静かに憲法改正を議論すべきである。

     

この2つが、「静かに」という言葉を媒介として、1つに圧縮されたものが、麻

生発言の終盤だ。「だれも気づかないで変わってた。あの手口学んだらどう

かね」。もちろん、1と2では、「静かに」という言葉の意味はズレてる。1では、

「気付かない内に」という意味、2では、「感情的・否定的に騒ぎ立てずに」と

いう意味だ。

     

しかし、微妙な意味のズレや差異など関係なく、言葉の形(文字、音声など)

だけを手掛かりに、言い間違いが起きるというのがフロイトの主張であって、

より広く夢なども含めて、無意識的な歪曲作業として示されている(『夢判断』

第6章、『精神分析入門』第11講など)。個人的にも、日常生活で度々経験

して来たことだ。

         

それなら、その「言い間違い」という失錯行為には、麻生氏の(無意識の)願

望が関係していたのではないか、という疑問はもっともだが、その(無意識

的)欲望がどのようなものなのかは、そう簡単には分からない。こっそり憲法

改正その他の方向を目指そうという意図が関係してたのかどうか。少なくとも、

今回の発言だけでなく、遥かに広範囲に見渡した上で「分析」すべきだろう。

              

    

         ☆          ☆          ☆

とりあえず、政治家などの簡単な現実的対処としては、なるべく原稿に基づ

いて話すこと。そして、話した後にもセルフ・チェックして、不注意があれば

自ら素早く訂正、あるいは補足することだろう。今なら、個人や政党のHP、

Facebookなど、既存のマスメディアに依存しない伝達方法があるのだか

ら。twitterだと、軽過ぎる可能性もある。

      

ちなみに欧米のメディアにも、慎重かつ正確な報道を期待したい所だが、そ

れは難しいかも知れないから、差し当たりはこちらの側で慎重に行動すべ

きだろう。残念ながら、日本語は世界的にマイナー、少数派なのだ。

それでは、今日はこの辺で。。☆彡

                

                                    (計 3200文字)

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