「九去法」による検算~整数の計算ミスの簡単な発見方法
心身共にあまり調子が良くない中、サラッと記事を書けるコネタを探したが、
珍しく適当なネタが見つからない。仕方無いから、また数学で書くことにしよ
う。動機が不純だから、本格的な内容ではないし、斬新さも無いけど、書き
方は私なりに工夫してるので、それなりに意味はあると思う。
キッカケは、たまたまネットで見つけたビジネスマン向けの記事だ。「『その
計算、間違ってますよ』と5秒で指摘するテクニック」。ダイヤモンド・オンラ
インによる配信で、著者は小杉拓也。「399×499=199201」という計
算と、「1726×125=218750」という計算が、どちらも間違ってることを
発見する簡単な手続き、「九去法」を示してる。要するに、9の倍数を次々に
消し去って、余りだけを見る方法だ。
あらかじめ軽いツッコミを入れると、「正しいですよ」ではなく「間違ってます
よ」という指摘しか出来ないから、実社会で役立つ可能性は非常に低いだ
ろう。指摘してもあまり感謝されないだろうし、自分の側が間違ってしまって
大恥をかく恐れもある。そもそも、検算が必要なくらいの計算なら、相手は
計算機の類(ソフト、HPも含む)を使ってるだろうから、式さえ正しければ間
違ってないはずだ。
要するに、間違いを指摘しようとしてコッソリ検算しても、ほとんどの場合、
「骨折り損のくたびれ儲け」(死語?♪)にしかならない。結局この話は、実
用的な話というより、数学の面白話なのだ。自分の計算チェックとしても、
今時だとまず役に立たない。計算機が無い状況で用いる、古き良き検算方
法だろう。。
☆ ☆ ☆
上のダイヤモンドの記事は、単に読者の興味を引いて、後は同社・同著者
の本を御覧あれという宣伝の形になってるが、ここでは理屈を説明する。
先に、3つの準備をしとこう。
まず、整数を9で割った余りは、整数の各ケタの足し算を9で割った余りと
等しい。これは小学校くらいで聞いてる人が多いと思う。例えば、257とい
う数を考えてみよう。
257=2×100+5×10+7
=2×(99+1)+5×(9+1)+7
=(2×99+5×9)+2+5+7
=9×(2×11+5×1)+2+5+7
右辺の9×(2×11+5×1)は9で割り切れるから、結局、
(257を9で割った余り)=(2+5+7を9で割った余り)
別の整数でも他のケタ数でも、同じ理屈が通じる。証明は簡単なので省略。
ちなみに、9で割った余りを考える時、9の倍数(=割り切れる数)は差し引
いてもいいから、
(2+5+7を9で割った余り)=(5を9で割った余り)=5
つまり、左辺の「2+・・・+7」の部分は消し去ればいい。色んな形で9の倍
数を消し去るのが、九去法なのだ。
☆ ☆ ☆
次に、掛け算を9で割った余りを、簡単に求める方法を考える。例えば、
13×25=(9×1+4)×(9×2+7)
=9×{1×(9×2+7)+4×2}+4×7
∴ (13×25を9で割った余り)
=(4×7を9で割った余り)
={(13を9で割った余り)×(25を9で割った余り)
を9で割った余り}
同様に考えて、
(2つの数の掛け算を9で割った余り)
=(それぞれの数を9で割った余り同士を掛け算して、
さらに9で割った余り)
要するに、9で割った余りだけで掛け算すればいい、という事だ。
☆ ☆ ☆
三番目に、当たり前の命題を書く所からスタートしてみよう。
X=Y ならば、(Xを9で割った余り)=(Yを9で割った余り)
これと真偽が一致する「対偶」命題は、「ならば」の前後を逆転して、両方を
否定すればいい。
(Xを9で割った余り)≠(Yを9で割った余り) ならば、X≠Y
ということは、2つの数(または式)それぞれを9で割った余りが違ってれば、
それら2つの数(または式)は違ってるのだ。注意が必要なのは、「余りが
同じなら、2つの数も同じ」とは言えないこと。例えば、12と21は、どちらも
9で割ると余り3だが、同じ数ではないわけだ。
ちなみに、「(Xを9で割った余り)=(Yを9で割った余り)」という関係を、
X≡Y (mod 9)
と書く。これは、9を「法」とする計算において、XとYは「合同」、という意味
を示す「合同式」だが、こんな小難しい話は差し当たり必要ないだろう。。
☆ ☆ ☆
それでは、例の記事の2番目の計算例について、説明してみよう。
1726×125=218750
この間違いを指摘するには、
(1726×125を9で割った余り)≠(218750を9で割った余り) ・・・ ①
を示せばよい。
(1726×125を9で割った余り)
={(1726を9で割った余り)×(125を9で割った余り)
をさらに9で割った余り}
={(1+7+2+6を9で割った余り)×(1+2+5を9で割った余り)
をさらに9で割った余り}
={(1+6を9で割った余り)×8をさらに9で割った余り}
=(56を9で割った余り)
=(5+6、つまり11を9で割った余り)
=(1+1、つまり2を9で割った余り)
=2
一方、 (218750を9で割った余り)
=(2+1+8+7+5+0を9で割った余り)
=(5+0を9で割った余り)
=5
2≠5は明らかだから、①式が示されたことになる。よって、
1726×125=218750
という掛け算は間違いである。。
☆ ☆ ☆
こんな感じで、真面目に証明しようとすると面倒だが、単なる検算なら、慣
れれば確かに5秒くらいで出来るだろう。流れだけサラッと書くなら、
左辺 → (1+6)×(1+2+5) → 56 → 11 → 2
右辺 → 5+0 → 5
∴ 左辺 ≠ 右辺
この検算方法が、掛け算だけでなく、足し算、引き算でも使えるのはすぐ
分かるだろう。割り算の場合も、掛け算と足し算の形に直せば分かりやす
いいい。例えば
104÷7=14余り5
という計算式のチェックなら、
104=7×14+5
と変形した上で、両辺を9で割った余りを調べれば、間違いだと分かる。
(左辺) → 1+0+4 → 5
(右辺)→7×(1+4)+5 → 40 → 4
∴ (左辺)≠(右辺)
繰り返すが、実際に計算ミスを指摘しようとするのは全くお勧めできないの
で、念のため。ほとんどの場合は、ミスが見つからなくて疲れるだけ。下手
すると、自分が大恥かくか、職場にいられなくなるだろう♪ ではまた。。☆彡
(計 2546文字)
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