ファミマのフォアグラ弁当販売中止、世界的背景と個人的感想
近年、インターネットやSNSの普及もあって、一般の市民が直接的な抗議
行動をとることが目立ってる。ひょっとすると、抗議の数や割合は昔とあまり
変わってないのかも知れないが、最近は影響力も強いし、ニュースとして広
く伝わることも多い。ある意味、民主主義が浸透して来たと言えなくもない。
日本の場合、その最たるものは反原発・脱原発だろうが、この場合は抗議
する側の方が(ある意味)多数派だし、いわゆる「文化人」や「知識人」がそ
ちら側につくことも多いので、抗議行動に対する批判は強くない。日常生活
ならせいぜい、デモや看板などに冷めた目線を送る程度のものだろう。
ここ10日間ほど話題になってる、日テレのテレビドラマ『明日、ママがいな
い』の場合、関係者の一部が真正面から抗議・中止要請してるし、ドラマの
制作にもいくつか分かりやすい問題点がある。実際、各種のデータを見ると、
賛成と反対はほぼ互角だから、これまた抗議行動に対する批判はそれほど
強くはないわけだ。
☆ ☆ ☆
これに対してフォアグラ弁当問題の場合、かなり様子が異なってる。コンビ
ニ大手のファミマ(=ファミリーマート)が1月28日から発売する予定だった、
「プレミアム黒毛和牛入り ハンバーグ弁当~フォアグラパテ添え」が、販売
中止になったことが、24日に発表された。ところが、抗議行動で勝利した側
の方が、ネットでは不
利な形勢に見える。
左はウィキメディアで
公開されてる画像で、
作者はLu氏。
ちなみに、直接的な抗議は24日昼までに22件だったらしい(産経HP)。多
数派どころか、十分に多い数とも言えないし、モンスター・クレーマーとか「ノイ
ジー・マイノリティ」(声高な少数派)という表現も一部で見られる。反対の姿勢
を見せてたNPO法人・アニマルライツセンターが直ちに「Victory!」と勝利宣
言したことも、反感を呼んだと思われる(アメーバニュース)。ちなみにVictory!
という言葉は今現在、公式サイトには見当たらない。
ファミマの公式発表「商品発売の見合わせに関するお知らせ」を見て、私が
気になったのは、「諸外国におけるフォアグラに対する見解の違い」という
箇所。そこで、英語版ウィキペディアなどでチェックすると、どうもかなり激し
い論争が続いてるらしくて、日本とは事情が違うようだ。もちろん、ファミマ
は日本のコンビニで、私も日本人だが、まずは世界の状況を見てみよう。
☆ ☆ ☆
世界の様子については、徹底的な動物愛護団体であるアニマルライツセン
ターも詳しく載せてる。その点は評価に値するが、この非営利団体(NPO法
人)の説明は残念ながら一方的。それに対して、英語版ウィキペディアは流
石に世界の百科事典ということで、中立性に配慮してあった。仏語版と比べ
ても、英語版の方が詳しい。
結論から先にまとめると、社会的にも学問的にも係争中ということになるだ
ろう。フランス中心に、生産量はここ10年くらいで大きく増加してるし、新た
な生産国も登場してるが、欧州などで生産禁止の動きも広まってる。
フォアグラ(foie gras : フワ・グラ)はフランス語で、「脂肪で肥大した(gras)、
肝臓(foie)」という意味。ガチョウや鴨に対する強制摂食(gavage : ガヴァー
ジュ)で脂肪肝を作り、それを珍味として味わうわけで、日本ではキャビア、ト
リュフと共に世界三大珍味という言い回しがメジャー。日本版ウィキの冒頭に
もあるが、英語版ウィキや仏語版ウィキだと、そうした扱いはごく僅かだ。
☆ ☆ ☆
フォワグラに対する批判は、強制摂食の残酷さを指摘するのが基本パターン。
鳥の首をつかんで、ノドに管を差し込み、無理やり大量の食事を取らせる作
業が2週間~4週間ほど続く。私も、動画を複数見てみたが、1匹あたり10秒
程度の文字通り「機械的」操作で、見る人によっては、思ったほどの動物虐待
ではないなと感じるかも知れない。工場の流れ作業のようなイメージさえある。
科学的・医学的にはどうか。アニマルライツセンターの説明を読むと、動物の
健康への悪影響が強調されてるが、英語版ウィキの「foie gras controver-
sy」(フォワグラ論争)という項目を読むと、少し様子が違う。
まず、EU(欧州連合)の科学委員会が出したレポート(1998年に採択)に
よると、強制的な食事は鳥の健康を害するので、他の方法で脂肪肝を作る
べき、ということになる。ところが米国獣医学会が2004年と05年に行った
調査では、科学的証拠が少ないし意見もあまり一致しない、という控え目な
結論だった。自分で実地調査して初めて、害の少なさに気付いたメンバーも
いたようだ。
興味深いのは、強制摂食と鳥の関係。生産者側の主張によると、ガチョウや
鴨には異物に対するノドの反射的反応がないから残酷ではない、といったこ
とのようだ。動画を見ると確かに、人間のような激しい拒絶は見られないし、
終わった後もケロッとしてるように見える。あと、大量摂取や脂肪肝は鳥の自
然な「渡り」(migration)の際にも見られるとの事。
世界の実情としては、イタリア、ドイツ、デンマーク、イギリス、フィンランドなど、
欧州の多くの国で「生産」禁止(または法的解釈による違法扱い)。特にデン
マークでは、全てのスーパーマーケットチェーンが「販売」中止(個々の店は
別)。米国・カリフォルニア州でも、強制摂食や、それによって作られたフォア
グラの販売が禁止。
一方、米国・シカゴでは、一旦禁止が決まった後、わずか2年で撤回となって
た。生産でも消費でも世界の7~8割程度を占める本国フランスではやはり、
伝統、文化、経済、様々な観点から容認されてる。古代ローマから2000年
続く歴史を断つのは難しいだろう。
☆ ☆ ☆
最後に、私個人のお話も少し付け加えよう。フォアグラという物は、食べる前
に作り方を聞いてしまったこともあって、自分から選んで食べたことは一度も
無いし、今後も多分、しばらくは無いと思う。
ただ、コース料理などでいつの間にか食べたことはあるだろうし、既に出され
た物を食べないつもりもない。ちなみに私の親は、テレビで鶏を殺すシーンか
何かを見たせいで、しばらく鶏肉を食べれなくなったが、いつの間にか再び食
べるようになってた。
私自身の話に戻すと、少なくとも今現在、他人の行動について意見するつも
りは無い。それは、賛成派、反対派、どちらのサイドに対しても同様。そもそも、
無数の問題の中での優先順位を考えても、フォアグラはかなり下の話だろう。
普通の日本人にとって、身近で切実な話ではない。例のファミマ弁当の計画
でも、フォアグラはハンバーグに少し添えてただけだった(原価率の比較まで
は不明)。
ただ、この問題は、民主主義における直接的な抗議行動の一つと関わるし、
異文化交流、肉食、菜食、ペット、共生などについて再考するキッカケ、入口
にもなる。とりあえず、食事の際には感謝の気持ちを忘れずにいよう。動物
に対しても、植物に対しても。
ふと、子供の頃、ご飯粒を残すと怒られてたのを思い出した。私が田舎から
こっちに出て来て、最初に人に褒められたのは多分、食事を全く残さず美味
しそうに食べる様子だったと思う。声も行動もパワフルだったバイト先のKさん、
相変わらず元気かな。。
それでは、今日はこの辺で。。☆彡
(計 3010文字)
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