嵐・二宮和也が主人公の小説、『Eの874』(by伊坂幸太郎)
(☆追記: その後、3・4・5本目の記事もアップ。
嵐・松潤が主人公の小説、『僕たちは、抱きあったことさえ』(by川上未映子)
嵐・相葉雅紀が主人公の小説、『僕は駿馬』(by山崎ナオコーラ)
嵐・大野智が主人公の小説、『追跡者』(by阿部和重) )
☆ ☆ ☆
7日遅れで書いてみた、ジャニーズの超人気グループ「嵐」の新聞小説の記
事。「嵐・櫻井翔が主人公の小説、『フェニックスのリア王』(by平野啓一郎)。
元日の朝日新聞の広告特集だし、あんましアクセスは期待できないなと思っ
てたら、予想より反応が良かった。そこで、14日遅れの今日(笑)、もう1本
軽く追加してみよう。前回の10分の1くらいはまだアクセス入るだろう。
と言うか、ひょっとしたらこの大型企画、また来年くらいにあるかも知れないか
ら、もうちょっと書いとくのもいいなと思うのだ。今回の企画全体は「まっさらな
始まりの日」という大見出し。そして一番最後は、5人のメンバーによる感想
の中で、櫻井翔はこう語ってる。「主人公たちのこの先をもっと知りたいと感じ
たように、僕たち嵐の物語の続きを、僕自身まだまだ見てみたい」。
広告としても、注目度が高くて良く出来てるし、「この先」があっても不思議じゃ
ないだろう。。
☆ ☆ ☆
今回の記事は、5本の記事の1本目、二宮和也を主人公として伊坂幸太郎が
書いた、『Eの874』という題名の短編小説を扱う。スタートは、「風が吹いたら
桶屋が儲かる」。ホコリが舞って、目の悪い方が増えて、猫の皮を使った三味
線を弾くから猫が減って、ネズミが増えて桶をかじる。だから、桶屋が儲かると
かいう、有名な「論理的」オハナシだ♪
一方、5本目、リーダーの大野智を主人公として阿部和重が書いた『追跡者』
のラストでは、智が中心になって「嵐」という名のチームを作るのだ。5本トータ
ルで見ても、よく出来た構成になってる。多分、朝日新聞社広告局の担当編
集者が5人の人気作家と相談して、上手く調整したんだろう。もちろん、それ
に応じた作家たちの実力は流石だと思う。
『Eの874』とは、大企業の社員・二宮と後輩女子社員が、「嵐」(本物の激し
い風雨)の中で飛び乗る電車(or新幹線)の車両のこと。E番線の874号車
に乗る直前、「いい話」(E874)となる素敵な光景が見えたわけだ。伊坂とい
う作家がダジャレ好きなのかどうか知らないが、同じ朝日系列の雑誌『AERA』
は、ダジャレを前面に出してるのが特徴。担当編集者がカブってるのかも♪
☆ ☆ ☆
物語は、後輩女子社員が折角カワイイ話をして来たのに、二宮が冷たくあし
らう所からスタートする。小説の右横には、そんな感じの斜に構えた二宮の
写真が掲載されてて、インナーのシャツ(?)と手にした本が緑っぽい色に
なってる。 一方、広告1ページ全体の下側3分の1には、二宮を起用し
た日清オイリオの緑色の広告。スタイリストがカラーを合わせたんだろう。
後輩が、「風が吹けば桶屋が儲かる」といった軽妙な話をすると、二宮が「風
が強くなったら桶屋の株を買えばいいんじゃないのかな」と「皮肉めいた相槌
を打った」。これは、ここ1年のアベノミクス(安倍首相の強気の政治姿勢と株
価上昇)を密かに揶揄する(=からかう)発言だろう。ただし、実際に株価は
上昇したし、小説の中でも本当に「桶屋が儲かる」のだ♪
二宮の皮肉に負けずに後輩が、雨が降ったおかげで再会した親子の「いい
話」を続けると、二宮はまた冷たく応答する。それなら、「嵐が来たらどうなっ
ちゃうんだ、いったい」。ここで後輩が軽く反撃。「子供の頃からそんな感じだっ
たんですか」(笑)。二宮に対する評価は、まさに「そんな感じ」らしい。「優秀
だが、冷淡」。
しかし、「子供の頃は違った」。強豪チームとの野球の試合で、自分の一打で
ひとあわ吹かせる場面を想像して興奮するような、熱く夢見るフツーの少年だっ
たのだ。ところが今や、自分が大きな会社に入って、金と力の「物量作戦」で商
談を成立させるような大人になってる(or なってしまってる)。遠回しに、超有
名事務所の超人気グループとなった今の本当の二宮を指してるのかも。。
☆ ☆ ☆
そこで突然、本物の「嵐」がやって来る辺りが、フィクションの真骨頂だ。単なる
雨や風、夕立では、嵐の小説にならない♪ 「生き物じみた雲が、細胞分裂を
繰り返すかのように蠢(うごめ)いていた。すぐに雨脚が強くなり、妖雲と地面の
あいだに、乱暴に線を引いていく」。
嵐に対する文学的表現で、話の急展開が導入された後、「いい話」としての完
結に向かう。起承転結、典型的なストーリーの構成が出来上がってる。
ダッシュしてホーム(E番線)に辿り着くと、後輩がいい話を発見した。嵐のおか
げで、老いた男と中年の男がまさかの再会をはたして、抱き合って泣いてる。ち
なみに2本目の櫻井の小説では、老いた父が中年の末娘と再会する話になっ
てたわけで、偶然の一致ではないかも知れない。4本目の小説、相葉雅紀を
描く『僕は駿馬』(山崎ナオコーラ作)では、孫がおじいちゃんと「再会」する。お
正月に、子供から高齢者まで、家族みんなで楽しめる企画にしてあるわけか。
二宮は男性の再会シーンを目にしても冷淡で、「早く行こう」と後輩に言うが、
ホームのあちこちには、何十組もの抱擁があった。完全にテレビ・バラエティ
の元祖ドッキリ企画みたいなベタなシーンだ♪
☆ ☆ ☆
動揺した二宮は、気持ちを落ち着かせるために、横の広告用ディスプレイを
見る。すると、子供の頃の自分に似た男が映ってて、それは自分の顔が反
射したものだった。単なる反射か、重なり合いかはわざとボカして、幻想的
なイメージを作り上げてある。どちらにせよ、その姿がバットを持った野球少
年へと変化し、「物量作戦」と口にして笑ったから、冷淡な二宮としてもつい、
「笑い方を思い出す」。
ここでの物量作戦とはもちろん、再会カップル数十組の物量作戦のこと♪
いまや物量作戦で冷淡に仕事するようになった大人の二宮に対して、子供
の頃の二宮が、機知に富んだ熱い物量作戦で「ひとあわ吹かせる」わけだ。
最後の一文もヒネリとユーモアがある。「遠くのほうから、どこの株を買えば
いいんでしょうか、と後輩社員の声がした」。遠くのほうとは、子供の頃のこ
と。時間的、生き方的な、遠くのほう。
どこの株を買えばいいか。ジャニーズ事務所は株式会社だけど、上場して
ないから株を買えない。代わりに吉本興業の株っていうのも変な話(笑)。
要するに、子供の頃の熱い自分を大切に保持しておけば、この先ずっと「値
上がり」し続けるということだ。するとおそらく、後輩の女子社員とも仲良くで
きるだろう♪ 普段の私なら、ここで更に軽口を叩く所だが、この記事では止
めとくことにした(笑)。
☆ ☆ ☆
とにかく、非常に技巧的かつファンタジックで、面白い小説だった。二宮自身
の感想は、「僕そのものではないけど、共感できる部分はあった。他人が自
分をどう思っても気にしない、わかる人がわかってくれれば、みたいな感覚は
僕にもあるから。・・・もし自分がそこにいたら、彼と同じように笑うしかないだ
ろうな。『え、ドッキリ?』とか思いそう(笑)」というものだ。
それでは、今日はこの辺で。。☆彡
(計 2965文字)
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