行列の基本変形と1次方程式(2)~逆行列が存在しない場合など
この記事は、3週間ほど前にアップした記事、
の続編である。ある程度の知識があれば、この記事だけでもすぐ理解できる
が、あらかじめ前の記事に軽く目を通しておく方が読みやすいとは思う。
レベル的には前回同様、高校~大学1年を想定。大学1、2年程度の線形代
数(いわゆる幾何)の初歩を、具体的問題と共にやさしく解説してある。解くこ
とを重視して、理論や証明は省略するので、念のため。
基本的には、齋藤正彦『線型代数入門』(東京大学出版会)を参照するが、
同著者、同出版社の『線形代数演習』にも目を通してある。以下では、それ
ぞれ『入門』、『演習』と略記する。
☆ ☆ ☆
ではまず、高校1年レベルの3元連立1次方程式(3本)を見る所から始めよ
う。私が自作した問題だ。係数行列との関係をハッキリさせるため、普通は
省略する係数1、0も、あえて書いてある。
1x+2y+3z = 14 ・・・ ①
4x-4y+1z = -1 ・・・ ②
6x+0y+7z = 27 ・・・ ③
「①×2+②」という操作(加減法)で、yを消去すると、
6x+0y+7z = 27
となり、③と一致してしまう。
つまり、①②③は独立した3つの情報ではないので、前回の記事みたいにた
だ1組の数値が解となる訳ではない。この場合、普通は解が「不定」となり、
不特定多数の解が存在するが、例外的に「不能」となることもある。つまり、
解を求めることが不可能なこともある。元の式3本が矛盾してるということだ。
☆ ☆ ☆
ここで、同じ問題に
行列を使ってみよ
う。まず、3本の与
式を行列で表現する
と、上のようになる。
3行3列の正方行列(係数行列)に左基本変形を行って、単位行列に近づけ
てみよう。
まず、1行1列(左上)の成分1を「かな
め」として、第1列を「掃出す」。つまり、
第1行の-4倍を第2行に加え、第1
行の-6倍を第3行に加えて、第1列
を上から「1 0 0」の形にする。
続いて、第2行を-1/12倍して、2
行2列(真ん中)の成分を1にした後、
それをかなめとして第2列も掃出す。
すると、第3行が(0 0 0)となってし
まうので、単位行列への変形は挫折
する。つまり、係数行列は逆行列を
持たない、すなわち、「正則」でない。
違う言い方をするなら、基本変形で左上側の2行2列の部分だけが単位行
列になったわけで、階数(rank)は2。この事は、元の式3本の内で独立した
式が2本だけだという事を示している。普通は階数3、つまり、式3本が独立
してるし、係数行列も逆行列を持つ(=正則である)のだ。。
☆ ☆ ☆
さて、では結局、答はどうなるのか。まず、高校レベルで解いてみよう。
①×2+②、つまり③は、 6x+0y+7z = 27
∴ x = (-7/6)z+9/2 ・・・ ④
また、①×(-4)+②でxを消去すると、 -12y-11z = -57
∴ y = (-11/12)z+19/4 ・・・ ⑤
形を整えるため、パラメーター(媒介変数)sを用いて、z=12s ・・・ ⑥
とおくと、④⑤⑥より、
(x,y,z) = s(-14,-11,12)+(9/2,19/4,0)
(注. 列ベクトルの代わりに行ベクトルを用いた)
これが一般解の1つの形となる。もちろん、パラメーターの置き方を変えれば、
見た目が違う様々な形の一般解が書けるが、どれも同じ事(同値)である。
上の一般解で、たとえばs=1/4とすると、(x,y,z)=(1,2,3)という個別
の解を求められる。ちなみに「楽屋裏」を明かすと、この簡単な解をまず想定
して、問題を作ったわけだ。。
☆ ☆ ☆
一方、行列で解くとどうなるか。まず、右辺を左辺に移項して0(ゼロ)に揃
え、やや不自然ながら、次のように書く。
1x+2y+3z+14×(-1) = 0
4x-4y+1z +(-1)×(-1) = 0
6x+0y+7z +27×(-1) = 0
よって、行列で書き直すと、次のようになる。
上の左側、3行4列の行列は、拡大係数行列と呼ばれてるから、ほぼ解を表
す4行1列の列ベクトルは、拡大解ベクトルとでも呼ぶべきものだろう。ただし、
『入門』と『演習』にこの呼び名は無い。
ここで、拡大係数行列に対し
て、前に行ったのと同様の左
基本変形を行うと、左
のようになる。
結局、前の④⑤と同じことに
なるから、同じようにパラメー
ターを設定すれば、同じ答を
導けるわけだ。。
1x+0y+(7/6)z+(9/2)×(-1)=0 (④と同じ式)
0x+1y+(11/12)z+(19/4)×(-1)=0 (⑤と同じ式)
0x+0y+0z+0×(-1)=0 (必ず成り立つ無意味な式)
なお、拡大係数行列とか拡大解ベクトルを使わず、普通の係数行列と解ベク
トルを使っても、ほとんど同じように解ける。ただ、等号を挟んで左辺と右辺に
同じ変形を施すので、書きにくいし見にくいのだ。また、そもそも方程式の基本
形は右辺=0となってるし、正方行列ではない行列の変形を学ぶためにも、「拡
大」という操作はいいだろう。。
☆ ☆ ☆
最後に、『入門』p.57の例を、ほんの少し違う形で解いてみよう。
元の式の文字だけ変えた4元連立1次方程式(4本)は次の通り。
0p+3q+3r-2s = -4
1p+1q+2r+3s = 2
1p+2q+3r+2s = 1
1p+3q+4r+2s = -1
よって4行5列の拡大係数
行列は左の通りで、左基
本変形だけを行えば左下
のようになる。
『入門』では、左のような変
形に加えてさらに、「右基
本変形」を1度使い、第3
列と4列を入れ替えてる。
要するに、単位行列に似た標準形を作りたいのだろうが、なぜ「右」基本変形
を使っていいのか、最初は理屈が少し分かりにくいし、最後に答の3番目の
要素と4番目の要素を入れ替えて調整するという操作も間違いのもと。その
点は、齋藤自身も『演習』で注意を促してる。
だから、方程式を解くだけなら、右基本変形などしない方がいい。結局、
左のような行列
の方程式が出来
たのだから、普
通の連立方程式
に戻すと次の通り。
1p+0q+1r+0s-7=0
0p+1q+1r+0s+2=0
0p+0q+0r+1s+1=0
0p+0q+0r+0s+0=0
結局、rをパラメーターαで置き換えると、一般解は次のようになる。もちろん、
これは無数の書き方の内の自然な例の一つである。
(p,q,r,s) = α(-1,-1,1,0)+(7,-2,0,-1)
それでは、今日はこの辺で。。☆彡
(計 2640文字)
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