フィクションの価値を示した日テレ~『明日、ママがいない』第4話
素晴らしい☆ 昨日(5日)の第4話といい、全国児童養護施設協議会に対
する日テレの回答といい、予想を遥かに上回る内容だった♪
これなら、今後はもっと日テレの番組を見ようかなと思うし、水曜22時は
『明日、ママがいない』を最後まで見ようとも思う。実は、予告されてた番組
「改善」の内容によっては、元々見るはずだった『僕がいた時間』に戻るつ
もりだったけど、もうこのままでいい。と言うか、このドラマは絶対に守るべ
きだと思う。テレビに限らず、今後の様々な表現全体への影響を考えても。
遂にスポットCMまで消えてしまった異常事態を見過ごす訳には行かない。
☆ ☆ ☆
ではまず、注目の日テレの回答文書から。5日の夜の時点で、日テレHP
のトップページ中央に堂々と公表してあったので、早速チェック。どうせなら
『明日、ママ』の公式サイトにもリンクを付ければいいのにと思うけど、まあ
細かい注文は別にいい。レイアウト上、たまたまなのかどうかはさておき、
トラブルに関する公式文書をこれだけ目立つ場所で公表してる点に、プラ
イドを感じるのだ。
日テレの回答(執行役員・制作局長、佐野讓顯 )は、超訳するなら、「ご迷惑
をかけた点と、取材不足、配慮不足だった点を謝罪します。また、今後は更
に配慮もします。ただし、その内容は具体的には話せません。番組を最後ま
で御覧いただければ、理解して頂けると思います」・・・といった感じだろう。原
文から重要箇所を引用すると、「具体的かつ詳細な点につきましては、ドラマ
という性質上、ご説明することはご容赦頂きたく存じます」。
日テレの態度は、大企業としての経営やリスク管理を考えると微妙だが、表
現者としては誇り高いものだ。要するに、実質的な改善箇所を提示してない
し、強気の姿勢もあまり変えてない。提供スポンサーがすべてCMを撤収し
て、国会や厚労省まで登場する事態になってることを考えると、この日テレ
の気迫は凄いと思う。
もちろん、今後のドラマの内容をチェックする必要があるけど、第4話がこの
内容なら、これ以降も、大幅な「改善」はもう無いだろう。何しろ、「ポスト」、
「ポスト」と、問題の名前を連呼してたし、論争点の一つになってたフラッシュ
バック(鮮明・突然・一時的な過去の想起)による意識喪失まで登場したのだ
から。しかも、よりによって里親候補の家で倒れたのだ。。
☆ ☆ ☆
では、第4話の内容について。話の本質は、現実と幻想、あるいは現在と過
去の、折り合いの付け方だ。平凡な考えでは、幻想より現実、過去より現在
(さらに未来)が重要とされる所。ところが今回は、幻想の価値を積極的に認
めると共に、思い出すと辛くなる過去でも大切にしよう、という話になってた。
子供だましの幽霊も、死んだ両親への幻想的な思いも、立派な価値を持つ。
物語的なあらすじは、次の通り。──妄想癖が強いボンビ(渡邉このみ)が初
めて里親候補の元に「お試し」で行ったものの、逆に心身の状態が悪化。ポス
ト(芦田愛菜)らが原因を探るために、ボンビの故郷まで一泊旅行。死んだ母
の双子の妹である叔母さん(遠山景織子)を探し出したのを受けて、魔王(三
上博史)が密かに協力を要請。幻想的な幽霊ママを創り上げて勇気づけるこ
とで、ボンビを元気にさせることに成功した──。
まず注目点は、「ポスト」(赤ちゃんポスト出身)とか「ドンキ」(母が鈍器で暴力
:鈴木梨央)、「ボンビ」(家がいま貧乏だから自分が施設に預けられてるだけ
・・・という本人の妄想)といった、一部で問題視されてる名前がどうなってたか。
ドンキは数えてないが、ポストとボンビは何度も連呼されてる。
特にポストは、その気になればカットできる場所でも使われてたから、慈恵病
院は不満だろうが、私としては満足だった。そもそも、ドラマの中でポストという
名前は全く差別的には使われてないし、大活躍する主役であって、天才子役・
芦田の演技も上手い。慈恵病院も、「名前を使う回数を減らしてくれ」とか注文
を付ければ良かったのに、いきなり強気で中止要請したから、逆に何の成果
も上げられない形となってる。
☆ ☆ ☆
一方、魔王=施設長による虐待的な扱いは、ひょっとすると少しカットしてる
のかも。実際、怒鳴りつけたり頭ごなしに命令する姿勢は変わらないけど、
犬とかペット扱いはしてなかった。
ただ、ドラマの最初から指摘しておいたように、そもそも施設長による犬扱い
には実害が少ない。叩かれる訳でもヒモにつながれる訳でもなく、飲食は子
供が勝手にやってるし、料理係のロッカー(三浦翔平)も子ども達の味方だか
らだ。ダイニングキッチンで施設長に怒鳴られても、それが子供に後々まで
響く描き方には全くなってない。ドンキが魔王に委縮する態度は大げさ過ぎ
て、初回の冒頭からずっと、単なるお笑いコントに過ぎないのだ♪
そもそも、魔王が行ってる施設運営がお金目当てとか虐待目当てじゃない
ことは、初回からハッキリ示されてる。人間の煩悩の数と同じく、108人の
子供を施設から巣立たせることが、自分の罪滅ぼしのようなものになって
るのだから。要するに、魔王も不自由な脚で必死に善行を積んでるわけだ。
そういった事を、ドラマで動揺した子供にじっくり説明できた大人がいるのか
どうか、非常に疑わしい。むしろ、慈恵病院、協議会、里親会の抗議を見る
と、すべてが表面的、部分的なものとなってる。「子供にとっては表面や部分
が大きい」と言うのなら、そうではないものがある事を大人が教えればいい。
もちろん、突っ込んだ話が伝わるかどうかは別問題で、「あぁ、そんなに悪い
ものじゃないのかな・・」というポジティブな雰囲気が伝わるだけで十分なのだ。
☆ ☆ ☆
もう少し、魔王について考えてみよう。魔王がポストと対立してるのは全く表
面的な形に過ぎず、実は深い結びつきがあることは、最初から指摘しておい
た。真正面から長々とにらめっこするだけでも、相手と本気で向き合う姿になっ
てる。公式サイトのトップ写真も、魔王とポスト&ドンキが真剣に向き合う姿。
また、第1話の最初の食事シーン。魔王が泣き真似をしろと命じた時、ポスト
は名演技を示して、一発OKになってた。あの時、ポストだけが食事を許され
たのではなく、みんな食事できたわけだ。魔王の嫌そうな舌打ちは、単に悪
ぶってる姿に過ぎない。
あれは見方を変えると、魔王がポストとの熱い仲を誇示したものになってた♪
実際、今回のラストシーンでも、「彼氏」と彼女のラブラブ深夜ドライブみたい
な様子まで映されてた。映像を消して台詞だけ聞けば、フツーのカップルだろ
う。最後のやり取り、「ありがと♪」、「・・・・・・アァンッ?!」、「もういい ♡」なん
てのは、色んな意味で絶妙なラブシーンだった。あれなら妙な抗議も来ない。
弁当屋の女性(鈴木砂羽)が本当に魔王の妻だとしたら、ポストは浮気相手。
と言っても、バーチャル(仮想的)な浮気だから、もちろん実害は無いどころか、
むしろ施設運営が上手く行くわけだ。
☆ ☆ ☆
ちなみに、お笑いの爆笑問題・太田は、魔王が実はいい人という扱いになる
のが見え見えで嫌だと、深夜ラジオ『爆笑問題カーボーイ』(4日25時~)で
批判したらしい(J-CAST)。
この指摘は、2つに分ける必要がある。まず、見え見えなのは初回の冒頭か
らであって、もちろん当サイトでも最初からハッキリ強調してたこと。ドラマ好き
なら誰でもすぐ分かるだろう。
一方、嫌だというのは大田の主観、個人的趣味であって、それは1人の視聴
者の意見だ。自分でも、「俺の主観だけどね、作品としてつまらない」と語った
らしい。念のため再確認すると、このドラマの世帯視聴率は14%程度だから、
個人視聴率は10%程度。したがって、視聴者全体は1000万人超なのだ。
なお、見え見えとか、普通の批判とは逆に「施設ばっかり良く描いてる。こっち
ばっかり善として描いてる」というような批判は、太田が絶賛してたらしい『安
堂ロイド』でもいくらでも言えることだろう。いわゆる「ブーメラン」、自分自身の
立場にも跳ね返って来る批判に過ぎない。それは批判が大まか過ぎるからだ。
ドラマの評価、解釈というのは、もっと具体的で精密なものなのだ。たとえば、
里親候補の一部はもちろんのこと、施設と関係ない蓮(藤本哉太)、弁当屋
の女性もいい人として描かれてる。今回のコンビニ店員も、オツボネ(大後寿
々花)の万引きをあっさり見逃してた。また、ポスト達と対立してる悪役の子
供たちはごく一部であって、他の多くの子ども達は施設の子と普通に過ごし
てるし、学校の先生も悪役にはなってない。前回の「クララ」も、悪い子ではな
く、気の毒な子供で、ポストと仲良くしてた。
ただし、「今回の件は総じていいことだなと俺は思う」という太田の全体的感想
は、3割程度なら賛同する。現代社会の様々な問題が表面化、可視化された
し、多くの人がそれをめぐって考える機会を持てたからだ。
とはいえ、マイナスも大きいと思う。番組製作にも関わってるデーブ・スペクター
は、ごく一部のクレームによって施設がタブー化されるのを心配してた(週刊
ポスト)。トータルで巨視的にとらえると、今回の抗議騒動は施設関連にとって
もテレビにとってもマイナスだろう。少なくとも、数年レベルの期間で考えるなら。。
☆ ☆ ☆
最後に、施設関連ではない、いい人の代表者、ボンビの叔母さんについて。
太田によると、魔王が本当はいい人だという点が視聴者に伝わらなかった
のが騒動の原因だが、それは脚本家(松田沙也)の技術不足のせい、という
ことらしい。ところが今回、魔王がいい人だという点は今まで以上に分かりや
すく描かれてたし、叔母さんの描き方は絶妙だった。
まず最初。どうしてボンビを引き取らなかったのかと、ポストが面と向かって
なじる。アイスドール(木村文乃)がたしなめて、ポストが部屋から出ることで、
ボンビのフラッシュバック失神の原因が分かったわけだ。パパとママとの幸せ
な生活を思い出させてしまったものは、卓上の炊飯器のご飯だった。
一方、「どうして?」と子供のポストが無遠慮に聞いたことによって、叔母さん
がママとそっくり過ぎる双子だという事情が分かり、それが魔王の意外な思い
付き(幽霊映像作成&上映)につながって、ボンビが回復できた。巧みな流れ
が構成されてたのだ。しかも、帰りの駅のホームでアイスドールが魔王に電
話した時点では、魔王は自分も一言いってやるとだけ語ってた。それが、なじ
ることではないのは分かるが、愛情あふれる幽霊芝居とは思い付かない。
つまり、少しも「見え見え」ではないプロセスを経て、魔王の(ある意味、見え見
えの)優しさが描かれてるのだ。もちろん最後、叔母さんの幽霊の映像をみん
なと一緒に見た後、少し鼻をシュンと言わせて、別室の叔母さんと心温まる挨
拶を無言で軽く交わすシーンも見落とせない。あそこで、笑顔など見せない所
もポイントだろう。あくまで大人の静かで真摯な配慮なのだ。
そして、ドラマの大騒動の最中に、幽霊の映像という幻想的な虚構が持つ力
を描くことで応答した制作スタッフ。これもまた、大人の静かな知性だ。たとえ
偽物でも、泣きぼくろの位置とか多少おかしくても、フィクション=虚構には人
を動かすパワーがある。そう、このドラマは伝えてるのだ。些細な欠点ではな
く、総体としての効果が重要になる。
☆ ☆ ☆
それにしても今回は盛り沢山、内容豊かなドラマになってた。蓮の包容力あふ
れる愛情も示されたし、最後の砂浜の『走れメロス』も爆笑♪ ポストに蓮を奪
われたと勘違いして、「泥棒猫」呼ばわりしてたピア美(桜田ひより)が、誤解に
気付いたシーン。
ポスト 「ピア美、好きなんだろ。だったら私は好きにならない。
お前の方が大事だ」
ピア美 「ぶって!」
ポスト 「ハァッ?」
ピア美 「一度でも、よろしくやってると思った私をぶって!」
ポスト 「いいよ、気持ち悪い♪」
もちろんこれは、太宰治『走れメロス』の最後、メロスと親友セリヌンティウス
のやり取りをパロったもので、ドラマの中でも完全にギャグになってた。
そして何より、アイスドールとロッカーの露天風呂シーン♪ 混浴のキレイな
露天風呂が宿に付いてたなんて、どんだけ珍しい偶然なんや!と突っ込ん
ではいけない。アイスドールはどうも、感心しない事でお金を稼いでるようだ
から、実は高価な旅費を払ってまでそうゆう旅館を選んだわけだ。
あのシーン、ずっとポストの子守唄が遠くから聞こえてた所も秀逸。演出の
猪股隆一もいいし、音楽の羽毛田丈史、主題歌『誰か私を』(コトリンゴ)も
いい。音楽の使い方だけでも、このドラマは最初から明白な喜劇なのだ。
というわけで、いい作品は手を差しだして、ポケットに入れるとしよう♪ そこ
に手を重ねてくれる人は必ずいる。タイトルバック映像のように。なお、イカ
焼きの準備も魔王の心遣いだろうし、ロッカーが背中の傷を気にせず着替え
られるのも魔王のそばだと指摘しとこう(冒頭)。
それでは今日はこの辺で。。☆彡
『明日、ママがいない』第5話&日テレ番組審議委員会、軽~い感想
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