嵐・松潤が主人公の小説、『僕たちは、抱きあったことさえ』(by川上未映子)
2月と言えば、バレンタインデー♡ バレンタインと言えば、チョコレート。チョコ
と言えば、月9でチョコ作りに励んでる松潤♪ ってことで、今日は1ヶ月以上
も前の新聞小説で軽く感想を書いとこう。レビューと言えるレベルのものを書
く時間的余裕はないけど、前の2本の記事へのアクセスが毎日、と言うより
毎時間続いてるし、私もずっと残りの小説3本が気になってるのだ。
ちなみに、先行記事2本は次の通り(アップした順)。小説5本の全体的な話
については、これらの記事で既に書いてあるので、ご存知ない方はどうぞ。
元日の朝日新聞の全面広告特集で、8ページ使って一挙掲載されたものだ。
松潤の小説の下は、明治「きのこの山」と「たけのこの里」の広告になってた。
嵐・櫻井翔が主人公の小説、『フェニックスのリア王』(by平野啓一郎)
嵐・二宮和也が主人公の小説、『Eの874』(by伊坂幸太郎)
(☆追記: その後、もう2本アップした。
嵐・相葉雅紀が主人公の小説、『僕は駿馬』(by山崎ナオコーラ)
嵐・大野智が主人公の小説、『追跡者』(by阿部和重) )
☆ ☆ ☆
さて、私は男だし、ファンではないけど、松潤と言えば昔からドラマで顔と名
前を覚えてる。10年・夏の『夏の恋は虹色に輝く』と、11年・冬の『ラッキー
セブン』。嵐の5人のメンバーの中では、一番馴染みのあるタレントなのだ。
特に、瑛太との激しい蹴りの応酬は、格闘技ファンとして楽しめた。
とはいえ、ここで扱う短編小説だと、どちらかと言えば主人公の彼より、作家
の川上未映子の方が馴染みがある。作品は芥川賞の『乳と卵(らん)』しか知
らないけど、受賞後の活躍は目や耳に入ってたし、朝日新聞に月1回連載中
のコラム『おめかしの引力』も、妙な文体とおバカな内容が笑えるのだ♪
たとえば先月(1月30日)のタイトルは、『ヴィトンにひれ伏す』(笑)で、その
まんまのちょっと自虐的な内容。12月の『贈られ上手VS.マッチョ親父』の
冒頭だけ、引用してみよう。
「ダイヤモンドに目が眩んですんでのところで耐えきった、みたいな
話を先月は書き、そしてダイヤモンドに限らず、なぜか欲しいもの
は自分で買わないとすっきりしないというこの心性っていったい
なに、というところからの続きなのだった」。
この、おしゃべり女の軽いトークをそのまま文章にしたような面白い口語体
と、何とも通俗的で身近な内容。これは、『乳と卵』にも見られたもので、彼
女の大きな特徴だろう。
ただ、櫻井の小説を書いた平野もそうだけど、松潤の小説を書いた川上も、
ちょっと書き方を変えてる気がする。一般向けの広告の小説で、おまけにお
正月だからなのか、ごく普通の読みやすい文体になってるのだ。内容はいつ
も通り(?)、ごく身近なものだけど、その扱い方までごくフツーになってる。
だから正直、最初に読んだ時には、アレッて感じで肩透かしをくらったような
感触があった。もちろん、コラム(orエッセイ)や『乳と卵』が女性という「性」を
前面に押し出してるのに対して、この小説は男性が主人公だけど、それにし
てもあまりに普通すぎる気がしたのだ。。
☆ ☆ ☆
しかし、よく読み直してみると、松潤のイメージを上手くとらえてる気がするし、
いかにも小説的・劇的な展開を描いた他の4本とは違う魅力を放ってるとも
言える。
要するに、恋愛&失恋物語であって、あらすじは簡単にまとめられる。美容師
の松潤が3年前、自分目当てに毎月来る客の女の子と食事して、すぐ恋人同
士になる。その後、平凡なすれ違いや衝突が増えて、1年前にお別れ。ところ
が、その後も月末の水曜夜、彼女は予約を入れて来店。彼は当惑しながら、
他人のように髪を切り続けてる・・・というお話だ。
これが松潤のイメージと重なるのは、私がドラマで感じた彼のキャラに近いか
ら。つまり、才能や実力に恵まれて、それなりに人気もあるけど、それほど器
用に生きられるタイプでもなく、その場の状況や運命の中で必死にもがき続
けてるって感じなのだ。私はまだ見てないけど、今期の月9『失恋ショコラティ
エ』も、おそらくそんな物語と役柄だろう。
ただし、小説に対する本人の感想(最後のページに少しだけ掲載)に、主人
公が自分と似てるといった感じの話は入ってなかった。その点は、櫻井や二
宮と少し違ってると思う。ずっと松潤を見続けてるファンの女性の目線だと、
どうだろうか。。
☆ ☆ ☆
では、もう少し細かく小説を見てみよう。まず、題名の『僕たちは、抱きあった
ことさえ』。これは直接的には小説のラスト、最後の段落から来た言葉だ。
「髪を切り終わったあと、いつも少しだけ陶子と目があう。鏡越しに
見つめあう短い時間がある。そのどうしようもない距離に打ちのめ
されながら、僕たちは裸で抱きあったことさえあったのに、と思う」。
この場合、「抱きあったことさえ」あったのに、今は妙によそよそしい関係に
なってしまった・・・という流れとなる。すると、抱きあった過去が、今でも彼
の中にまざまざと残存してることになるだろう。何なら、未練と言ってもいい。
でも、題名には少し違う意味も込められてる。それは、「抱きあったことさえ」
忘れてしまったかのような関係になってしまった。あるいは、「抱きあったこと
さえ」遠い過去のものにしてしまった・・・という意味。この場合は、恋愛の残
存と言うより、残存の消失、消滅を示してることになる。
もちろん、誰もが経験してるように、恋愛が終わった後には、残存と消失の
両方の過程が併存する。ただし、おそらく男性では残存、女性では消失の方
が大きいだろう。その意味でも、男を描く女性作家のこの書き方は、興味深
いのだ。男の主人公では残存の方が大きいけど、女の登場人物(=陶子)
や作家自身においては、消失の方が大きいと思う。。
☆ ☆ ☆
でも、彼女の中で過去が消失してるのなら、どうしてまた美容室の彼のもと
に来るのか。それはむしろ、過去の残存とか未練の証拠じゃないか。。そう
思われるかも知れないが、三重の理由から、私はそう思わない。小説の中
身、男という立場、そして、個人的経験。。
まず、小説の中身。わかりやすいのは、別れる直前を思い出す中盤のこの
文章だ。「僕は最後まで別れたくないと言ったけれど、どうしようもなかった」。
男性読者なら誰しも、思わず苦笑する所だろう♪ 女が一旦、別れを決心
すると、テコでも動かない(死語かも)。もちろん例外もあるだろうけど、男と
してはそう感じてしまうし、よく言われることでもある。
もし、彼女が未練や執着でまた美容室に来てるのなら、それを示すチャンス
はいくらでもあるし、元サヤの可能性もいくらでもあるはず。ところが彼女は、
敬語で必要なことだけ喋り、斬り終わった最後の瞬間以外、目も合わせよう
ともしないのだ。1年もの間。。
決定的なのは、髪を切る、あるいは切ってもらうという行為。最後の段落の
直前の文章も引用してみよう。
「・・・ただ流されるままにこうして彼女の髪にふれて、ただ過ぎて
ゆく時間のぶんだけを指さきにとり、それをはさみの先で切り落
とすことしかできないのだ」。
毎月伸びる、1cm~1.5cm程度の髪の毛は、時間の比喩になってるし、
それを切り落とす行為は、少しずつ確実に過去を捨てて行く、意識的で機械
的な作業だ。これを強要する彼女は、元カレにしてみればかなり苦々しい存
在。「いったいどういうつもりなのかと僕は腹を立てたこともあった」。
ここでありがちな失敗は、まだ俺のことが好きなんだな、と思ってしまうこと
(笑)。大体、確率的に90%は誤解だろう。しめしめ・・とニヤけてると、フツー
は致命的な誤解で、再び痛い目にあうのだ。男にとって、女はホントに恐ろ
しい。女にとっても、かな♪
☆ ☆ ☆
一方、私は個人的に、逆の立場に近いものをちょっとだけ経験したことがあ
る。相手の女のコが私に好意を示してくれてた時、私は平然と、そのコのわ
りと近くに行き続けた。それは、私が好意を伝えたかったからではなく、実用
的な理由があったからなんだけど、そのコからすると、「いったいどういうつ
もりなの」と思っただろう。
実際、間接的にそうゆう質問が来て、私は実用的な理由だけを正直に答え
た。事実、そのコに対して自分を積極的にアピールしたいとか、会いたいと
いった気持ちではない。ただ、それとなく「元気で頑張ってるよ」と存在を示
したかった思いも、無いことはなかった。
・・・なんていう個人的な思い出話を書いてると、自分でハマってしまうし、読
者にはスクロールされるだろうから(笑)、そろそろ終わりにしとこう。実は、
美容師の女の子とのエピソードもあるんだけど、それも差し当たりはパス♪
いずれまた、個人的な別記事(「テンメイ回想録」シリーズとか)で書くかも
知れない。美容室WのEさん、幸せに暮らしてるかな。。
☆ ☆ ☆
ちなみに小説は、恋愛とその後を描くだけでなく、もっと一般的に人生、生き
ることの比喩にもなってる。
「・・・つづけていることの意味を理解しなければと思う。
でも僕には、そうすることができない。
・・・ただ流されるままに・・・」。
ときには、過ぎ去った過去との「どうしようもない距離に打ちのめされながら」、
やがて、すべてが消えてしまうわけだ。「抱きあったことさえ」、そして、生きて
いたことさえ。
もちろん、そうした人間的な感傷も含めて、存在そのものが消えるのだから、
決して単なる悲劇ではないし、喜劇でもない。すべては淡々とした、宇宙の
営みの一部分、ひとかけらなのだ。諸行無常、色即是空。。
☆ ☆ ☆
なお、小説に対する松潤自身の感想は、次の通り。
「他には何も入り込むことができないぐらい完成された繊細な世界。
でも、もしこの作品が映像化されるなら、主人公を演じることは
面白そうだと思った」。
「髪を切る/切られるという関係を、こんなに艶のある言葉で表現
できるなんて驚くしかない。別れたあとに過ぎた時間の分だけ、
その象徴のように伸びていくかつての恋人の髪。それを切る自分。
丁寧につくられた上質な靴のように、ずっと見ていたい、ふれてい
たい世界だと感じた。見れば見るほど細部まで美しくて」。
確かに、主人公も作家も人気者だから、本人主演のドラマ化や映画化といっ
た話が出ても不思議じゃないだろう。って言うか、松潤って靴フェチなわけね♪
あぁ、結局4000字超のレビューになってしまった。眠っ!
それでは、今日はこの辺で。。☆彡
(計 4261文字)
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コメント
テンメイさんの感想、興味深く読みました。
やっぱり日本のものを日本語で読む方が好きです。
背景も含めて頭にも心にも心地よく入ってくる感じがします。
松潤自身の感想もけっこういいですね。
投稿: Corvallis | 2014年2月 5日 (水) 05時40分
> Corvallis さん



こんばんは
意外な記事へのコメント、嬉しいです。
ひょっとして、元の小説を読んでたんですかね。
日本人はやっぱり、日本と日本語が好き。
幼い頃から、心と身体にしみついてます
その意味でも、最近の極端な英語教育重視には
疑問を持ってます。
英語は確かに特別大切な外国語ですが、
それを使うのはあくまで日本人。
そもそも、実用的な英語力なら、
機械翻訳が急速に発達してますしね。
それに対して、小説を味わえるような
高度な日本語力こそ、重視すべきもの。
それは日常会話の繊細なやり取りにも活かせます。
一方、松潤の感想、確かにいいから、読んだ後に
構成作家の名前を探したけど発見できず (^^ゞ
まあ、顔もなかなか賢そうですよね♪
それでは、またのご登場をお待ちしてます
投稿: テンメイ | 2014年2月 6日 (木) 05時50分