嵐・相葉雅紀が主人公の小説、『僕は駿馬』(by山崎ナオコーラ)
ダメだ。コカコーラ中毒の私としては、この小説家の名前を見ただけで、どう
しても笑ってしまう♪ 山崎ナオコーラ(笑)。この女性作家の名前と顔写真
を初めて見たのは、朝日新聞の下段にあった、デビュー作の広告だったと
思う。その名も、『人のセックスを笑うな』。まるで、「人の小説タイトルを笑う
な」と言ってるような、逆説的、矛盾的な題名だ。
もう、このオヤジギャグと言うか、オヤジギャル(死語?♪)的なペンネーム
(本名・山崎直子、当時26歳OL)と作品タイトルだけで、お気に入りに追加っ
て感じだが、今回、文庫本のあとがきを読むと、ベテラン人気作家の高橋
源一郎も同じことを書いてた。
第41回・文藝賞(2004、河出書房新社)の選考委員だった彼は、「本編が
始まる前、タイトルと作者の名前を読んだ時」、すぐに受賞作だと思ったらし
い♪ 彼と田中康夫が強力にプッシュしたおかげで(?)、見事に受賞。デ
ビュー作は売れたそうだし(by高橋)、映画化もされ、その後の作家生活も
それなりに順調のような感じだ。
☆ ☆ ☆
ところで、彼女の筆名、ナオコーラ♪ 個人的に、これはコカコーラなのか、ペ
プシコーラなのかが気になって夜も眠れない訳だが、個人サイトのプロフィー
ルには、「好きなコーラはダイエットコーラ」とだけ書いてた。ネットを探っても、
なかなかそれ以上の情報は出て来ない。
ところが、今年(2014年)の元日に掲載された嵐5人の小説特集を見ると、
彼女が担当した相葉のページ下段に、キリン・メッツコーラの広告があるの
だ♪ ここ数年、大ヒットしてるダイエット・コーラだから、ひょっとすると「ナオ
コーラ」とはメッツなのかも・・・と思って発売年を調べると、2012年になって
る (^^ゞ う~ん、少なくとも、名前の「由来」ではないってことね。
とにかく、妙な名前の彼女が正月に発表した短編小説が、この感想 or レ
ビュー記事の対象だ。既にこれまで、3本の記事をアップしてるから、これが
4本目になる。アップ順に、リンクを付けとこう。ただ、これまでのアクセス状
況を見てると、女性ファンの皆さんはいわゆる「自担」(自分が担当するメン
バー)に興味を集中させてるようだ。嵐に限らず、ジャニーズ・ファンに共通、
あるいはグループ・アイドルのファンに共通の傾向なのかも。。
嵐・櫻井翔が主人公の小説、『フェニックスのリア王』(by平野啓一郎)
嵐・二宮和也が主人公の小説、『Eの874』(by伊坂幸太郎)
嵐・松潤が主人公の小説、『僕たちは、抱きあったことさえ』(by川上未映子)
☆追記: その後、最後の5本目もアップした。
嵐・大野智が主人公の小説、『追跡者』(by阿部和重)
☆ ☆ ☆
さて、私自身は男だし、ファンでもないから、この広告がらみの小説特集を読
むまで、嵐の5人中、2人は区別がついてなかった (^^ゞ 二宮と松潤はドラ
マで見てたし、櫻井はニュース関連で知ってたけど、相葉と大野の名前と顔
がモヤモヤしてたのだ。
では、現在35歳の女性作家にとって、相葉のイメージはどうなのか。まず
際立った特徴は、小説の主人公の名字が「宇田川」(うたがわ)になってる
こと。櫻井・二宮・松潤の小説だと、主人公は「僕」で、横に大きく本人の写
真があるから、「僕」と本人は自然に重なる。大野の小説の主人公は「智」
で、おまけに5人チームのリーダーとされてるから、完全に本人と重なるの
だ。ところが相葉だけ「宇田川」だから、いきなりとまどってしまう。
おまけに、話を読み進めると、この宇田川は馬になるのだ♪ 午(うま)年の
元日の広告特集とはいえ、いきなり馬。と言っても、もちろん悪い意味ではな
く、最後は小説のタイトル通り、『僕は駿馬』という話で落ち着く。相葉=宇田
川駿とは、「本当の速さ」を持った馬なのだ。元々、相葉が「馬になりたい」と
リクエストしたらしい。
ひょっとすると、他の4本の小説と比べて、この小説が本人に最も近いから
こそ、宇田川という別名をわざわざ付けて、相葉との距離感を保ったのかも。。
☆ ☆ ☆
おそらく、今この記事を読んでる人の大半は、元の小説を読んでない方だろう
から、先に全体のあらすじを紹介しとこう。
小型犬ココア(ウチのブログパーツの犬と同名♪)を飼ってる宇田川は、30歳
の男のくせに「自分を可愛いキャラに仕立てようと」してるとか周囲にからかわ
れて、逆に大型の動物と触れ合うことにする。ライオンは無理だけど、馬なら
何とかなる。馬は、死んだおじいちゃんも乗ってたから、大人っぽいイメージが
あるのだ。
そこで、「宇田川は江藤と相談し、馬に乗ることに決めた」(小説の冒頭)。する
と、「その日の夜、気がついたら、宇田川は馬になっていた」(小説中盤の夢)。
馬になった彼は、自分の背中にまたがったおじいちゃんと話をする。外国のよ
うな草原を、目的地もないまま気持ち良く走りながら。
宇田川=馬 「もっと速く走ろうか?」
おじいちゃん 「十分、速いよ。駿の名前は、おじいちゃんが付けたんだ。
駿馬の駿だよ」
宇田川=馬 「実は、名前負けしちゃっているんだ。僕は、仕事が遅く
て、いつも皆の足を引っ張っていて・・・・・・」
おじいちゃん 「駿が皆から愛されていること、おじいちゃんはちゃんと
知っているよ。本当の速さって何か知っているかい?
宇田川=馬 「本当の速さ?」
ここで目が覚めた宇田川は、夢を思い出しながら、通勤電車に乗る。これか
ら乗る馬のことも想像する。ラストは、滑稽なほどシンプルながら、速さ、スピー
ド感のある文だ。「宇田川は、仕事のやる気がどんどん出てきた」。。
☆ ☆ ☆
この小説を読んだ後、河出文庫で『人のセックスを笑うな』と『虫歯と優しさ』
も読んでみた。共通する特徴は、まず非常に読みやすい文章だということ。
語彙(ごい)、文体、文や段落の長さと切り方、読点(、)の打ち方、どれも小
学5年生でもスラスラ読めるようなものになってる。
試しに、国学院大学文学部・日本文学科卒、同大・兼任講師の山崎ナオコー
ラのツイッター(たぶん本物)を見ると、今年の書き初めはこうなってた。下手
ウマ的な、4行の文字だ。
「誰にでも わかる言葉で 誰にも書けない 文章を書きたい」
また、平凡かどうかはともかく、わりとフツーにありそうな日常を淡々と描写し
てる点も同様。その点は、松潤の小説と同様だが、櫻井・二宮・大野の小説
とは違ってる。
興味深いのは、作者の性別だ。フツーっぽい日常を独特の感性で描いてる
のが女性作家2人、山崎と川上。ちょっと違う世界を技巧的に描いてるのが
男性作家3人、平野と伊坂と阿部和重なのだ。私の個人的経験から考えて
も、何とも納得しやすい違いだと思う。
☆ ☆ ☆
ただし山崎の場合、わりとフツーの日常の中に、幻想、あるいは予知夢が混
ざってる。『人のセックス』の場合、不倫してる彼女(アラフォー)の夫(アラフィ
フ)と「僕」が鉢合わせした後、マイペースで暮らしてるどこかの老夫婦の夢を
見るわけだが、そこに「僕」は登場せず、しかも感動的なのだ。その後、彼女
は夫を取り、僕と別れていく。僕も、未練はあるのに、さほど抵抗しないまま。
『虫歯と優しさ』の場合、虫歯を抜いた夜、「私」(可愛く女装したゲイ青年)は
夢を見る。鳥になったフリをしてた蛾が川に落ちてしぼみ、蛾の姿に戻って、
水に溶けた鱗粉(りんぷん)が水にギラギラ光るのだ。この夢の鱗粉は、普
段の「私」が身に付けるピンクのスカートやリップグロスと重なる。そして、彼
または彼女は、恋人(年上の男性)に捨てられる。
ちなみに精神分析的に解釈すると、虫歯を抜いたことは、自らの二重の「去
勢」を表すだろう。自分が男でなくなるという意味での去勢と、他の「男性」が
体内から消えた(or抜け落ちた)という意味での去勢。
同様の性的な比喩=メタファーは、『人のセックス』にもあった。最初にセック
スした後、年上の彼女が少年の靴下を脱がせるのだ。彼女は男性の黒いソッ
クスが好き、あるいは、それを脱がせるのが好きだった。。
☆ ☆ ☆
性的な要素は、川上未映子の場合だと、女性という存在へのこだわりという
形で目立ってる。それに対して山崎ナオコーラの場合、男性のセックスに興
味があるような気がする。男と女のセックス、あるいは、男と男のセックス。
ウィキペディアが朝日新聞を元に書いてる所によると、『人のセックスを笑う
な』というタイトルは、同性愛の本の棚の前で笑ってる人を見た時の思いに
由来してるらしい。
そう言えば、『虫歯』は男性同性愛の話。『人のセックス』でも、主人公の少年
と男友達の間で、爽やかながらも深い結びつきを感じる。そして、『僕は駿馬』
でも、30歳の男性社会人が2人で休日、馬に乗るのだ。宇田川は本気で強
調する。「江藤と一緒に馬に乗ったら楽しいだろうな・・・」。
ひょっとすると山崎は、最近多いらしいその種の趣味を軽く持つ女性で、相葉
のやや女性的ルックスと重ねてるのかも。もちろん、たとえそうだったとしても、
彼女の自由なのだ。「人の性的趣味を笑うな」。まあ、その種の方々は、あの
独特の呼び名からして、自分で自分を笑い飛ばしてる側面もあると思うけど。
私の周辺を見ても、明るい自嘲のようなものが目に付くのだ。。
☆ ☆ ☆
最後に、「本当の速さ」とは何なのか。もちろん、走る速さや、与えられた仕事
を片付ける速さといった、普通のスピード、効率ではないはず。ハッキリ確定
した距離や仕事量を所要時間で割ったものではなく、「自分が望む方向に進
む滑らかさ」のようなものだと思う。
たとえば小説の最後、宇田川はいつもより元気に職場に向かい、もうすぐ馬
に乗るイメージを楽しみ、好きだったおじいちゃんも思い出す。しかも、しばら
く持続しそうな滑らかさ、スムーズさだから、「速い」のだ。自分の生きる道筋
において。
あるいは、『人のセックス』に出て来た夢の老夫婦も、マイペースな老後を楽
しんでるから、のんびりした外見でも「速い」と言っていい。スピードの大きさ
ではなく、進む向き、場所と、程良い歩みが問題。
その速さは、既に宇田川がある程度持ってたものだけど、彼の持つ「本当の
速さ」はまだ十分には発揮されてなかった。その潜在的な速さを呼び起こして
くれたのが、夢に現れた天国のおじいちゃんなのだ。それは半ば、宇田川自
身の無意識の欲望でもあるだろう。
☆ ☆ ☆
なお、相葉自身の感想は次の通り。5人で語り合う中での、2回の発言を引
用したものだ。
「映像でも見たいよね。『僕は駿馬』の主人公は馬になる場面も
あるから、演技は難しいだろうけど(笑)。実は『馬になりたい』
というのは僕からのリクエストで、それを踏まえたうえで、作品
の中でおじいちゃんと再会までさせてもらって、山崎ナオコーラ
さんには本当に感謝です」
「僕は、夢のなかでおじいちゃんが言おうとした『本当の速さ』って
何かをずっと考えてる。人と比べるものじゃない、これからも自分
のペースでやりなさいというメッセージかなと思うんだけど。僕も
おじいちゃんにそう言ってもらえたらうれしいから」
ちなみに、ネットで検索すると、ここ数年の内に、相葉の実の祖父が亡くなっ
たようだ。天国のおじいちゃんも、今頃ニッコリ微笑んでるだろう♪ 広告特集
のスポンサーであるJALや観光庁、に配慮した形で、外国みたいな大草原を
持ち出した辺りを見ても、山崎のセンスとサービス精神は見事だと思う。
自分にとっての「本当の速さ」とは、具体的にどうゆう事なのか。私も改めて
考えつつ、それでは今日はこの辺で。。☆彡
(計 4686文字)
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