3・11東日本大震災から3年~主要データ・情報のまとめ&感想
(☆2015年3月追記: 4周年記事をアップ。
3・11東日本大震災から4年、福島県の放射線・放射能の減少 )
☆ ☆ ☆
あれから、もう3年と言うべきか、まだ3年と言うべきか。。今日も個人的に
は、引越しの片付けに全力を注ぐべきだけど、最近ウチでも震災関連記事
が減ってるから、久々に軽く書いとこう。風化にあらがうという意味でも。。
あらためて、東日本大震災の被害全体を見渡すと、死者が圧倒的に多い
のは宮城県で、ほとんどは津波が死因だ。主な被災地である東北3県につ
いて、死者をまとめると、次のようになる。細か過ぎる数値は頭に入りにくい
し、変化するから、大まかにまとめてある。圧倒的に多いのは宮城だ。
直接的な死者 震災関連死
宮城県 10000人弱 1000人弱
岩手県 5000人弱 500人弱
福島県 1600人強 1600人強
原発と放射能・放射線関連のニュースで、一番話題になってる福島県は、
実は一番死者は少ないし、いまだに放射線被爆による公認の直接的死者
は一人もいないとされてる(未公認や今後の増加は別)。
ただし、福島に目立つのは震災関連死の多さで、これは福島第一原発の
事故による大規模の長期的避難が関わってるのだろう。ちなみに、震災関
連死とは、避難所や避難中における疲労・ストレスとか、病院の治療が不
十分になったことによる既往症の悪化などが死因のものだ。
☆ ☆ ☆
その避難者数については、先日の復興庁の発表によると、次の通りだ。
宮城 90000人弱
福島 85000人強
岩手 35000人弱
全国 270000人弱
注意すべきは、この県名の意味で、これは元々の居住地ではなく、現在の
所在地を指すらしい。福島の場合、県外への避難者が5万人弱なので、も
ともとの福島県民の避難者数は約13万人だろう(85000+50000-α)。
そう思って福島県HPで調べてみると、13万5000人になってた。つまり、α
(県外から福島に避難した人数)はほとんどゼロということか。福島県の北東、
つまり宮城県や岩手県などから避難しやすい場所で、放射線量が高めなこ
とが主な理由だろう。
全国で27万人弱という数字はもちろん巨大で、重い事実だけど、全人口の
約500分の1と考えると、日本全体の状況は十分しっかりしてるとも言える。
つまり、500人が1人を支えればいいわけだ。東日本に絞ると、300人で1
人を支えるような形だろうか。。
☆ ☆ ☆
ところで、津波や地震による直接的被害については、ほとんど論争は起き
ない。誰でも、被害者に対して気の毒に思うし、基本的には自然災害で、し
かも歴史的に時々あったことだから、激しい非難も目立たない。
ところが、原発と放射線・放射能の場合は、半ば(?)人為的な事故だし、
日本では初めて、世界的にもチェルノブイリしか前例がない。おまけに、身
体への影響が生じるまでに数年かかるし、その影響関係が分かり辛いか
ら、エネルギー問題、脱原発、反核も含めて論争になる。
どんな立場を取るにせよ、基本的なデータや理論というものが一応あるわけ
で、それ自体を批判するにせよ、まずは知っておく必要がある。たとえば朝日
新聞は、脱原発のメディアだが、基本的な事実報道については十分信頼でき
るし、かなり中立的だと思う。そこで、3周年特集として連日の全面記事を続け
てるシリーズ、「東日本大震災3年」を見てみよう。時間の関係で、4回分に絞
ることにする。
☆ ☆ ☆
まずは第3回、原発について(3月5日・朝刊)。大見出しは、「事故原因 なぞ
のまま」。この見出しはもちろん、「原因さえ謎のままなのに再稼働などあり得
ない」といった感じの脱原発的主張につながりやすいものだ。
謎といっても、地震発生直後の4日間に1号機~4号機で何が起きたか、時系
列に沿ってかなり詳しくまとめてある。そこから先の究明には、まだ数年~数
十年の時間がかかるし、なぜ起きたか、どうすれば防げたか、その辺りで論争
もあるらしい。直接的原因は津波か、地震そのものか。あるいは、津波の到達
時刻は何時何分か、冷却装置の操作や注水などは適切だったか、等々。
ただ、よく分からないから避けるという方針は、現実の社会ではほとんど見ら
れないことだ。例えば地球温暖化についても、いまだによく分からない訳で、
多くの科学者が大まかに一致して、人間による二酸化炭素(CO2)を減らそう
としてるわけだ。あるいは医療の世界でも、検診や治療の有効性、安全性に
ついてはハッキリしないことが多いけど、分かってる範囲のことをなるべく理
解した上で選択するのが実情。
そもそも究明すべき事は、3・11の原発事故の原因以外にもいくらでもある
わけで、限られたパワー(人、物、金、時間)の配分を考えると、適当な落とし
所を見つけるしかない。科学的に、と言うより、社会的・人間的に。
☆ ☆ ☆
続いて第4回、電力について(3月6日・同)。大見出しは中立的で、「問われ
る日本の電源」。ただし、左サイドに3人並べた専門家は、一番上が再稼働
反対の反原発派、中央が緩やかな脱原発派、一番下が原発維持派であっ
て、朝日の主張が表れた順番になってる。
この3年、電力が足りたか不足したかというと、一応足りたわけで、先日の
都知事選でも小泉がその点を強調してた。ただ、電力会社(特に原発の割
合が高い関電)に言わせれば、ギリギリの「綱渡り」で危ないということだろ
うし、産業界に言わせれば節電と海外進出で何とかしてる(だけ)ということ
だろう。
ちなみに、ここ1年での電力需給を見ると、北海道と東北を除けば、最大の
使用率は95%以上。かなり際どいのは確かで、大規模な停電が起きるリス
クは考慮する必要がある。「今まで起きてない」というような反論は、大震災
前の原発でも言えることに過ぎない。「50年近くも大事故はない」状態だっ
たわけだ。だからこそ、絶対安全という(単なる)神話も成立した。
☆ ☆ ☆
想定外のトラブルは、原発に限らず存在する。気になるのは、以前は3割を
占めてた原発の穴埋めをしてる火力発電。今現在、9割に達してるが、しば
らく使ってなかった発電所(計280万kw)を稼働させてるし、定期点検の先
のばしも行ってるとのこと。もし原発なら、騒ぎになるはずだ。二酸化炭素の
排出量は3億トンから4億トンへと増加、国内の森林の光合成を帳消しにす
る計算で、温室効果ガスの削減目標も下げることになった。
火力発電の燃料に使うLNG(液化天然ガス)の輸入額は、数兆円規模で増
加。電気料金は家庭向けで8%前後、企業向けで14%前後、値上げされて、
さらに値上げされる可能性もある。これだけでは燃料費の高騰を補えず、電
力会社が債務超過に陥る可能性も指摘されてるので、何か対策が必要なの
は確かだ。電力会社のコスト低減、原発の再稼働、更なる大幅な節電など。
自然エネルギー(当面は太陽光)の場合、買取の高さは電気料金に上乗せ
されるから、増やせばいいという話でもない。発電設備の長期的な耐久性、
安全性の検証もこれからのはずだ。控え目に見ても、まだ数年は論争や
模索が続くだろう。日本に限らず。。
☆ ☆ ☆
さらに、第6回は被爆について(3月8日・朝刊)。大見出しは、「子の甲状腺
募る不安」。こうなると、メインの記者の名前が分かってしまう♪ お馴染み
の、大岩ゆりだ。
データから見て、この大見出しの付け方はどうなのか、やや微妙だが、差し
当たりあくまで心理的「不安」が募るだけだから、ある意味、中立的で正確
な表現になってる。リスクが高まるとか、患者増加といった話ではないのだ。
そのデータ。福島県内の、事故当時18歳以下だった子ども全員、計37万人
の甲状腺検査がまもなく終了するらしい(一巡目)。二巡目は数年後に行う。
甲状腺とは、ヨウ素からホルモンを作るノドの器官で、事故直後の1ヶ月くら
いの間に、放射性ヨウ素(I 131、半減期わずか8日)の影響を受ける。
昨年末、27万人のデータで見ると、悪性の疑いが75人(男28人、女47人)
で、ほぼ全員が手術することになるらしい。ただ、ほとんどは進行が遅くて致
死率が低いタイプで、普通のガンのイメージとは違うし、全国の他の地域と
比べても、ハッキリした差は見られない。例えば弘前市や甲府市の検査結果
は、福島県よりも少し悪いように見えるほど。
チェルノブイリのデータを見ると、86年の事故当時、児童や胎児だった10
万人中、大まかに見て年間20人前後がガンになってる。今までのトータル
の死者は十数人(朝日の数字)。さて、このデータをどう見るか。
ちなみに、一般の日本人は10万人中、年間10人ほどが甲状腺ガンになる
とのこと。子供の場合の比較が分からないけど、要するに10万人中、年間
で数人が余計にガンになり、1人くらいが余計に死ぬという計算になる。他
の病気や事故と比べて、私には特別多いとも思えないが、感じ方が分かれ
る所かも知れない。もちろん、もし他のデータを取るのなら、話は別になる。
☆ ☆ ☆
時間が無くなったので、最後は簡単に。第7回、線量について(3月9日・同)。
大見出しは、「自然減衰効果で半減」。放射線量も放射能(=放射性物質)
量も、日常生活と関わる部分ではかなり減ってる(汚染水は別)。朝日の記
事では、食べ物の中の放射能も含めて、キレイにグラフで減少を示してた。
福島産の農産物の価格もかなり回復して来たようだ。
モニタリングポストなどで測定する各地点の空間線量に関しては、除染や風・
雨水などによる減少もあるけど、全体的に言えるのは、物理的半減期による
減少。これを自然減衰と呼んでる。
セシウム137と134が元々は半々だったとして、137は半減期30年だから
ほとんど減ってない。一方、134は半減期2年だから、3年間で(1/2)の
(3/2)乗になってる。つまり、
1÷(2の3/2乗)=1÷√(2の3乗)
=1÷2√2
=√2÷4
≒1.41÷4
≒0.35
だから、セシウム137と134のトータルでは、
0.5+(0.5×0.35)=0.675
つまり、約68%だから、32%の減少になる。朝日の記事では、原子力規制
庁が自然減衰を34%としてると書いてるから、実際はセシウム134の方が
もともと多めだったのかも知れない。
☆ ☆ ☆
いずれにせよ、風や雨の効果も含めて、47%の減少。つまり、半減してる
という話だ。ただ、既にセシウム134はかなり減ってるから、今後の自然減
衰は目立たなくなる。いまでも福島県民の間では、年間1mSv(シーベルト)
基準の達成を求める声が強いそうだけど、3mSv前後で妥協する方が現実
的かも知れない。
その程度の場所は世界のあちこちにあるし、ハッキリした害も示されてない。
ICRP(国際放射線防護委員会)が1990年の勧告(Pub.60)から示し続
けてるデータによると、100mSvの緩やかな被爆で、1000人の内の5人
が余計に致死性ガンになる。2007年勧告(Pub.103)でもほぼ同様。
LNT(直線しきい値なし)仮説に従って、低線量でも比例すると考えると、3m
Svなら10万人の内の15人。この程度のリスクは他にいくらでもあるし、実
際に日本人の医療被爆の平均も3.9mSvあるのだ。
1mSvにこだわることで故郷への帰還が何年も遅れるのなら、どちらがいい
のか、住民の間でしっかり話し合うべきだろう。特に高齢者が多い場合は、
数mSvの外部被曝によるマイナスは更に少なくなるし、何年も待ち続ける余
裕も無い。
あと、数mSvにこだわると、風評被害も残りやすいというマイナスを考える
べきだと思う。相馬市の女子中学生へのアンケートだと、結婚で不利益な扱
いを受ける不安を持ってる生徒が4割いたとのこと。リスクの強調は、風評
の強化にもつながり、メリットの喪失も招く。トータルでの落ち着いた考察が
広まることを期待しよう。
☆ ☆ ☆
いずれにせよ、今後も被災地のことを忘れるわけにはいかないし、新たな
巨大災害に備える必要もある。その辺り、また別記事を書きたいと思う。な
お、ガレキ処理の進捗率は、宮城98%、岩手96%、福島56%。少なくと
も福島以外では、思ったより順調のようだ。関東、特に千葉県などの放射
性ゴミの処理についても、今後の進捗を望みたい所。
それでは、今日はこの辺で。。☆彡
cf.被曝する年間放射線量すべての計算方法(自然・医療、外部・内部、屋外・屋内)
朝日の甲状腺被曝87ミリシーベルト報道の意味~実効線量と等価線量
WHO(世界保健機関)による被曝線量の推計(全国、年代・経路別)
文科省が10都県で確認、ストロンチウム(Sr)90の実効線量係数など
外部・内部・甲状腺、福島県の放射線被曝について~3・11から2年
日本人の自然放射線と医療被ばく線量(『新版 生活環境放射線』2011)
汚染水のトリチウム(三重水素)、実効線量係数と年間の内部被曝線量
(その他、多数の記事あり)
(計 5345文字)
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