置換・互換による行列式の定義~初心者向け
今日は時間も余裕も無いけど、記事ローテーション的に数学で書きたいの
で、行列の記事・第3弾としよう。行列式(determinant)の定義だ。
行列は、高校の新課程(新学習指導要領)で外されたので、この春から3年
になる生徒は高校では習わなくなる。ただ、今までは、少なくとも理系の生徒
は高校で習ってたわけで、2次正方行列の行列式の公式ad-bcは、教科書
で強調されてる基本事項だった。私の記憶だと、その式は、逆行列を計算で
求めた時の係数の分母として登場したと思う。下は英語版ウィキペディア、
「invertible matrix」(可逆行列、つまり正則行列)の項目より。
他に、一部の人は、3次正方行列の行列式も高校で習ってるはず。ただし、
高校数学と大学レベルの数学とでは、行列式の定義が(外見的に)違うの
だ。もちろん、2次と3次についての結果は同じだけど、新たな定義式はn次
正方行列を一般に扱えるものになってる。
その定義式の説明は、私の手元にある齋藤正彦『線型代数入門』(東京大
学)だとあまり親切ではないので、2次と3次の場合について、具体的に書き
くだしてみよう。ただし、定義に「置換」と呼ばれる変換を使うので、まずはそ
こから始めることになる。置換の内、特に「互換」と呼ばれるものが重要だ。
☆ ☆ ☆
置換とは、1対1変換のこと。異なるn文字の置換なら、n文字の並べ替えの
操作だ。高校の用語を使うなら、n文字の順列を作るのと同じで、英語だと
置換も順列もpermutation。その総数は、n!=n(n-1)・・・2・1だ。
置換の書き方は色々あるようだけど、前掲書のように上下2行で書くのが
分かりやすいだろう。例えば、
{ 1,2,3 }を順に { 2,3,1 }と並
べ替える置換なら、左のように書く。
上から下へ、数字を変換するわけだ。
置換2つを積(掛け算)の形に並べると、新たな置換が合成される。この点は、
高校の合成関数とか合成写像の話と同様だ。
置換の内、2文字だけを入れ替える単純なものを「互換」と呼ぶ。すべての置
換は、幾つかの互換の積として表される。上の置換なら、例えば下のように2
つの互換の積となる。右辺は右側の互換から順に作用するので、例えば3な
ら、まず2へと変換され、次に2が1へとの変換される。結局、3から1への変
換になる。右辺が3→2、2→1の合成だから、左辺の3→1と同じになるわけ
だ。ちなみに赤い矢印は、互換で入れ替えた2文字を指し示したもの。
一方、この置換は、次のように4つの互換の積としても表せる。
再び、3の変換で右辺をチェックすると、右の互換から順に、3→1、1→2、
2→3、3→1の合成だから、左辺の3→1と同じなのだ。
☆ ☆ ☆
さて、上で同じ置換を互換の積として表した時、2つの積と4つの積になって
る。実は一般に、置換を互換の積として表す時、互換の個数が偶数になるか
奇数になるかは一通りに決定している。上の置換の場合なら、必ず偶数にな
るのだ。証明はやや面倒なので省略するが、3次までなら、素朴な証明でも
難しくない。
置換σ(シグマ)が偶数個の互換の積になる時、符号「sgn σ」を+1とし、
奇数個なら、符号sgn σを-1と決める。上の置換なら、偶数個の互換の
積だから、符号は+1だ。ちなみにsgnとは、signature(標識)の略。
☆ ☆ ☆
ここまで準備して、ようやく置換による行列式の定義を理解できる。前掲書、
日本版ウィキペディア、英語版ウィキ、いずれも次の定義が重視されてる。
n次正方行列Aの第 i 行、第 j 列の成分をa ij と表す時、行列式|A|は、
ここで、σはn文字の置換、Snはその全体集合。要するに、「n文字の置換σ
のすべて(n!通り)について、Σの右辺を足し算した総和」。これがAの行列
式なのだ。英語版ウィキによると、先駆者の名前を取って、ライプニッツ公式
とか、ラプラス公式と呼ばれるらしい。
最初は何のことか、ピンと来ない式だから、具体的に書き下してみよう。各
項ごとに2つ並んで付いてる添字の右側、σ(1)、σ(2)などを、単なる自
然数に直した方が分かりやすい。そのために、全ての置換σを具体的に書
き並べる。
まず、2次正方行列Aの場合。σは2!=2通りで、各要素は次の表の通りだ。
互換の積が「0コ」というのがしっくり来ないなら、ある適当な互換を2コ並べ
てもよい(2回入れ替えれば元に戻る)。上の表の下段の和を取って、行列
式は次のようになる。
確かに、いわゆる「ad-bc」、「左上×右下-右上×左下」の形になってる。
☆ ☆ ☆
続いて、3次正方行列Aの場合。σは3!=3・2・1=6通りで、各要素は次
の表の通りだ。
赤い波線部、互換の積が2コとなってる箇所は、自分で互換を作ってみれば
すぐに分かるはず。もちろん、4コや6コにも出来る。要するに偶数個なのだ。
上の表の下段の和を取る時、普通の書き方にしたがって、プラスの項を前
に、マイナスの項を後ろに集めると、行列Aの行列式は次のようになる。
+、-の符号と共に、式を覚える時には、特に3次の場合、下のような「たす
き掛けの規則」を使うと便利。ただし、4次以上では使えない。
☆ ☆ ☆
4次以上については省略する。4次なら、4!=24通りの置換についての和
Σを計算。もちろん、実際に具体的な行列式を計算する場合は、こんな複雑
な定義式や置換を使わず、定理に即した計算テクニックを利用するのが普通
だ。要するに、以前、1次方程式を解いた時に使ったような変形を用いる。そ
れについては、また次回に書くことにしよう。
では、今夜はこの辺で。。☆彡
行列の基本変形と1次方程式(2)~逆行列が存在しない場合など
置換・互換と14-15パスルの不可能性~3パズル、8パズルからの証明
(計 2388文字)
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